月を仰ぎて夜を渡る


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「闇よ」

 龍の紋様の長剣を半ばまで相手の胸に突き通し、レイは言葉を紡ぎ出した。感情を伴わない、月の光のような声。

「降り来たりて此の者を包め」

 心臓の位置を貫かれても倒れることのない相手は、自ら深く剣に刺さり、少しでもレイに近付いて来る。レイは、剣を放り出すわけにもいかず、それでも少しばかり後ずさった。

「永きの鎖、尽きぬ夢よ」

 相手から目を完全には逸らさずに左右を見るが、二人の同行者たちはそれぞれに忙しいらしく、助けてくれそうもない。節くれ立った指は、ぎりぎりとレイの手首を握る。痛みに、剣を取り落としそうになるところを、意地と気力で持ちこたえる。

「ッ、永久の時の前に、跪け!」

 叫ぶようにして言い切るが、起こるはずのことが起きず、レイは、男の胴を思い切り蹴りつけて、なおかつ剣を斜めにして切り通した。

 指の痕の残る手首が痛々しいが、レイは眉をひそめただけで、不機嫌そうに左前方の人物を睨みつけた。

「無理。無駄」

「無駄ってお前」

 呆れたような声の主は、鉈を持つ女の足を払い上げたところだった。

「女性にゃ、あんまり手荒なことはしたくないんだけどな」

「今君がやってることは何だ」

「あたし、女じゃないみたい」

 容赦なく、男の両足をほとんど切り落としながらも、レイの言い様は淡々としている。一方の、思わず口を挟んだ男の声は苦々しい。

 レイは、左足で近くに置いていた樽を蹴飛ばした。中の液体が派手にぶちまけられ、濃い匂いが広がる。

「シラス、どいて」

 点火装置(ライター)で着火し、液体――油に、無造作に火をつけた。赤く、炎が育つ。

 それに包まれ、男だったものと女だったものは、激しくもだえていた。


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