街には、珍しく雪がちらついていた。
葉山直樹は、それを見て今しがた帰っていった少女のことを思い浮かべた。マフラーとコートを着込んでいたから風邪をひく心配はないだろうが、少し心配だった。
説得して依頼はやめさせたが、本当に良かったのだろうか。かといって、調査にかかる費用のことを一切考えておらず、払う当てもない依頼を受けるわけにも行かない。
「葉山、ぼっとしてるならこの前の報告書、書いとけよ」
「あー・・。わかってますって」
「さっきの子、どうした?」
「ちゃんと帰しましたよ」
「そうか、ならいい。お前のことだから、同情でもして引き受けるかと思ったぜ」
「しないっすよ、いくら俺でも」
同じビル内の「月夜の猫屋」という店が引っ越したのを知ったのは、ついさっきのことだ。知ったというよりも、知らされたというべきか。
慌てたように書け込んできた少女にどこに移ったのかと訊かれ、次いでどこに移ったか調べてもらえませんかと言われ、初めて知ったのだ。このところ調査にかかりきりで、全く気付かなかった。
行ったこともない店だが、あの歌声がもう聞こえないと思うと、少し淋しかった。
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