「厭なこと言わせてごめん。でもありがとう」
「気にするな。ここでのことは俺の担当だ。――あいつにも、頼まれてたしな」
「道理で、なかなか戻ってこなかったわけだ」
一種の自殺だと、彰は思う。始末を他の人にさせるのは無責任だと言ったが、ロクダイのことを責める気にはなれなかった。いつ、自分もそうなるか判らない。身勝手だな、とも思う。
黄桜は、ズボンのポケットから二通の白い封筒を取り出した。住んでいる小屋には、これと同じものがもう一通、残されている。何事もなく終ったら必ず焼き捨てておくれ、と、念を押して頼まれていた。その表情を思い出す。
彰とセイギ、それぞれに表書きされた封筒を渡すと、黄桜は二人の髪を掻き回した。
「もうすぐ、杉の宴会だからな。竹葉が色々と企画を練っていた。ちゃんと来いよ。トゥーヤンにおいしいものでも作ってもらうから」
休んだら許さないぞ、俺だって休みたいんだからな。
軽口を叩いて去っていく黄桜を見送っても、セイギは立ち尽くしていた。見慣れた、それなのに懐かしい文字が書かれた封筒が、その手には握られている。
ロクダイは、どんな気持ちでこれを書いたのだろう。黄桜は、どんな気持ちでこれを預かったのだろう。彰は、どんな気持ちでこれを読むのか。そして、自分は。
「・・・るい」
「え?」
「ずるい・・・。なんで。俺は死んでるのに、生きたかったのに、あの子は生きてるんだよ・・。ロクダイはいなくなったのに、あの子は戻るんだよ・・・俺は、ここにいるのに・・・っ」
堪えていた分だけ、言葉にならない。
悔しい。辛い、酷い。妬ましい。ずるい。 それは、ゆかりにだけ向けられたものではなかった。
背中を軽く叩かれた。手の部分だけ、熱を感じる。
「泣いていいよ。よく頑張ったね」
優しい声に、視界がぼやけるのをどうしようもなかった。
彰はセイギから眼を逸らした。泣きはしない。泣けやしない。
こういう時、思い知らされる。自分は長い時を――少なくとも「人」としては長い時を過ごしてきたのだと。親しくなることを恐れはしないが、酷く辛い。それでも、泣かなくなったのはいつからだっただろう。
ずるい、と彰は思う。生きている、ただそれだけのことがどんなに恵まれているか、どんなに危うい状態であるかを考えもしない。同じ生活をしていても、自分たちとは違う。自分たちは、見ているだけしか出来ない。
それでも。もう少しだけ、ここでがんばってみようと思う。
満開の桜が、綺麗だった。
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