三章

 桜が咲き乱れている。

 染井吉野、彼岸桜、八重桜、枝垂桜、大島桜・・・・。

 一度に咲くとは思えない様々な桜が、全て満開に咲き乱れている。見渡す限り桜が咲き、風に花弁が舞い散る。だが、どの木も満開だった。

 二人は、その光景に目を見張った。

 他の二人が、それを微笑して見ている。

「お弁当持って来れば良かったかな」

「作るの誰だと思ってるんだよ」

「もちろん、セイギ。良いじゃない、趣味と実益。便利だね―」

「遅いな」

 故意にか否か、彰の言葉を無視して、木々の向こうを眺めやった。どこまでも続く桜の木しか見えないが、その方向に進んでいけば、そのうち小屋が発見できる。

「お茶でも飲んでるんじゃない? トゥーヤン、料理上手だし」

 セイギと同じ方向を見て、彰が言う。そこは、ロクダイが歩いて行った方角だ。

 「月夜の猫屋」にいた面々は、彰の言う「代理道」にきていた。

 「お別れ」を言いに行った真理と、あの後も幾つかの質問をしていたゆかり。この二人と制服のままのセイギは店内からそのまま来たが、道路でスケボーでもしていそうな服装に着替えた彰と着流し姿のロクダイは、それぞれ手に蒼い棒を持っていた。

 セイギの身長ほどもある細い棒は、色が違えば孫悟空の持つ如意棒にも見える。この棒に関して、二人は「用心」との言葉しか聞いていない。

「茶なんか飲むか? こんなときに」

「わかんないよ。あ。来た来た。噂をすれば影が差すって、本当だね」

 こちらに歩いてくるロクダイに、元気に手を振る。

 ロクダイは、この空間の「管理人」に会いに行っていたのだ。通るのに許可は要らないが、言っておいた方が、何かあった時に便利なのだ。

「遅い。何してたんだよ」

「ああ・・・茶を、馳走になっておった」

 「ほらね」と言いたげに、彰がセイギを見る。セイギは、呆れたように溜息をついた。

「そんなの、後でいくらでも飲めるだろ。人を待たせるなよ」

「ああ、すまんかった。さて、行こうか」

「おーい、行くよ―っ、ゆかり、真理―っ」

 桜に見惚れていた二人が、はっとして彰を見る。セイギとロクダイの隣で彰が手招きをすると、ゆかりは頬を上気させて、真理は決まり悪げに駆け寄ってきた。

 彰の「それじゃ」という声をきっかけに、5人は歩き出した。

 咲き乱れる桜の木々の中を歩くのは、どこか現実場慣れしていて夢の中のピクニックを思わせる。ゆかりも真理も、つい今の状況を忘れそうになっていた。

「綺麗ですね―・・・」

「でしょ。年に一回開かれる花見が楽しみなんだよね」

「花見って・・・」

 真理が、呆れたように首を振る。その心情も解らないではないが、人の生死の場所では、あまりそういったことをしてほしくないと思う。

「他にも、竹ばっかりのところとかバラばっかりのところとかがあるんだよ。それぞれの場所で、年に一回はイベントがあるし。

「た、楽しそうですね」

 少しばかり、ゆかりの笑顔が引きつっている。それを見て、セイギは苦笑した。自分も、初めてそう聞いた時はのけぞったものだ。まさか死んでまで、年中行事をやるとは思いもしなかった。

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