真理が、躊躇いながら口を開く。
「・・一つ、訊いていい?」
「駄目だ」
驚いてセイギを見る。セイギは、さっきまでの醜態は忘れたかのような、真面目なかおをしていた。
「――って言ったらどうする?」
冗談だとでも言うように、笑って、手を広げて見せる。
真理は迷った。意図が掴めない。ただの冗談なのか、それとも何か警告でもしているのか。いい加減、質問に疲れただけかもしれない。だが、これからする質問は、多分彼らを傷付けるだろう。
息を吸う。
「あなたたちって何者なの?」
「人間か、って?」
口の端を上げて、笑む。真理には、それが自嘲のように見えた。
「まあ、一応は。前世は虫だった、って記憶も無いしな」
「前は、百パーセント人間だったんだしね。今は、正確には人間じゃないかもしれないけどさ。で、他は?」
笑顔で、彰が言う。真理は、笑顔も一種の無表情だということを実感した。
今度は、真理も首を振った。
「それじゃあ、代理道に行くよ。ところで、最後に、誰か会いたい人はいる?」
ゆかりが不思議そうに、真理は怪訝そうに彰を見た。
「おまけみたいなものだよ。怪談とかであるでしょ。親しい人がお別れに来るっていうやつ」
やはりあっさりと言い放った。
ゆかりは、怪奇特集の真っ只中にいることを喜び、次いで、落胆した。別れを告げたい相手など、いない。家族には申し訳ないと思うが、それだけだ。恨みのために会いたいと思う人すら、いなかった。
「あたし着替えてくるよ。セイギどうする?」
「ああ、俺はこのままでいい」
そう言って、セイギはエプロンを外して、座っていた椅子にかけた。彰が、からかうような声を出す。
「外しちゃうの? このままってことはエプロンもしてなきゃ」
セイギが睨みつけると、そのまま部屋を出て行った。最後まで手を振って、扉を閉める。知らなければ、ぎりぎりまで振られている手が、怪奇現象のようにも見える。
セイギは、椅子に座ってパイを口に運んだ。まだ食べていなかったのだ。
真理は、それをぼんやりと見ていた。会いたい人。自分はもう死んでしまっているけど、せめて一目だけでも、会っていきたい人。
突然死んでしまって、未練が無いわけではない。家族や友達と、もっと一緒にいたかった。繰り返しの毎日だと思っていたが、そうでなかった事に気付いた今は、痛切に思う。だが、それ以上に。
「会いに行きたい人が、いるの。・・いい?」
「ああ」
黙って座っていたロクダイが、立ち上がる。ゆかりは、真理を絶望したような目で見ていた。だが、気付く者はいない。
「わしが案内しよう。行こうか」
頷いて、二人は部屋を出て行った。
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