二章

 真理が、躊躇いながら口を開く。

「・・一つ、訊いていい?」

「駄目だ」

 驚いてセイギを見る。セイギは、さっきまでの醜態は忘れたかのような、真面目なかおをしていた。

「――って言ったらどうする?」

 冗談だとでも言うように、笑って、手を広げて見せる。

 真理は迷った。意図が掴めない。ただの冗談なのか、それとも何か警告でもしているのか。いい加減、質問に疲れただけかもしれない。だが、これからする質問は、多分彼らを傷付けるだろう。

 息を吸う。

「あなたたちって何者なの?」

「人間か、って?」

 口の端を上げて、笑む。真理には、それが自嘲のように見えた。

「まあ、一応は。前世は虫だった、って記憶も無いしな」

「前は、百パーセント人間だったんだしね。今は、正確には人間じゃないかもしれないけどさ。で、他は?」

 笑顔で、彰が言う。真理は、笑顔も一種の無表情だということを実感した。

 今度は、真理も首を振った。

「それじゃあ、代理道に行くよ。ところで、最後に、誰か会いたい人はいる?」

 ゆかりが不思議そうに、真理は怪訝そうに彰を見た。

「おまけみたいなものだよ。怪談とかであるでしょ。親しい人がお別れに来るっていうやつ」

 やはりあっさりと言い放った。

 ゆかりは、怪奇特集の真っ只中にいることを喜び、次いで、落胆した。別れを告げたい相手など、いない。家族には申し訳ないと思うが、それだけだ。恨みのために会いたいと思う人すら、いなかった。

「あたし着替えてくるよ。セイギどうする?」

「ああ、俺はこのままでいい」

 そう言って、セイギはエプロンを外して、座っていた椅子にかけた。彰が、からかうような声を出す。

「外しちゃうの? このままってことはエプロンもしてなきゃ」

 セイギが睨みつけると、そのまま部屋を出て行った。最後まで手を振って、扉を閉める。知らなければ、ぎりぎりまで振られている手が、怪奇現象のようにも見える。

 セイギは、椅子に座ってパイを口に運んだ。まだ食べていなかったのだ。

 真理は、それをぼんやりと見ていた。会いたい人。自分はもう死んでしまっているけど、せめて一目だけでも、会っていきたい人。

 突然死んでしまって、未練が無いわけではない。家族や友達と、もっと一緒にいたかった。繰り返しの毎日だと思っていたが、そうでなかった事に気付いた今は、痛切に思う。だが、それ以上に。

「会いに行きたい人が、いるの。・・いい?」

「ああ」

 黙って座っていたロクダイが、立ち上がる。ゆかりは、真理を絶望したような目で見ていた。だが、気付く者はいない。

「わしが案内しよう。行こうか」

 頷いて、二人は部屋を出て行った。  

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