二章

 鳩は、良くぞ落とさなかった、と言いたくなるような厚い白封筒をくわえたまま、セイギの頭にとまった。器用に、袋はロクダイの前に落とす。

「とりや。何だっていっつもいっつも、俺の頭にとまるんだ、痛いだろうが! 蒸し焼きにして食うぞ!   っっ!」  

 嘴で頭をつつかれ、声無き声を上げるセイギ。彰は、それを見てわざとらしく溜息をついて見せた。

「同僚にそんなこと言うからだよ。ほら、とりやさん、こっち来なよ」

 彰の台詞に鳩は首を振り、一声鳴いてから飛び立った。セイギが、反動に声を上げる。だが鳩は、気にせずに入ってきた扉から帰っていった。

「またね―、とりやさん!」

 一連の様子を、真理とゆかりは呆然と見ていた。扉は閉まっていたはずだが、どうやって入ってきたのか。鳩の体当たりぐらいで開くものなのだろうか。二人の頭を、そんな疑問が駆け回る。

 そして、二人の視線は、無意識のうちにロクダイの手元に移っていた。そこには、さっきの鳩が運んできた封筒の中身が、白紙の裏面をゆかりたちに向けて広げられている。 

 二人の視線に、彰が気付く。

「さっきのは、とりやさん。これは死者リストっていって、今日の時点で迷子になったり道無き道を行ってる人たちの名前とかが書いてあるんだ。たまに、まだ生きてるのに死んだつもりになってる人がいるから、最終的にはこれを見て判断するんだよ」

 そう言っている間に、一通り目を通したらしいロクダイが、紙を封筒にしまう。

 セイギは、まだ唸っている。

「最終的に、って・・・?」

「え?」

「さっき、最終的にって言いましたよね。それは、ある程度はあの紙を見なくても判るということですか?」

「ああ、――うん」

 彰は、セイギを見た。痛さに暴れていたセイギは、それを受けて、ようやく動きを止めた。だが、まだ頭をさすっている。よほど痛かったのだろう。

「俺が判るんだよ。時々、良く判らない人がいるけど、大体は。生まれつきだけど、死んでからはっきり判るようになった。彰やロクダイは判らない」

「それに、このリストは飽くまで目安でしかないんじゃよ。載ってなくても死ぬことも、その逆もあるからのう」

「役割が、ちょっと違うからね。――他に、何か訊きたいことはある?」

 これも、触れてはいけない話題だったのかもしれない。そう思いながら、ゆかりは首を振った。

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