「ごめんお待たせ」
セレンを召喚した街の外れでは、ファウスとカイとセレンとが、思い思いの状態で待っていた。ファウスは素振りをしていて、セレンに話しかけらているカイが、いささかうんざりとしているようだった。
そんな三人に、抱えてきた包みを示して見せる。
「夜食持たせてくれたんだ。食べる?」
ファウスが歓声を上げ、カイは無言で手を伸ばす。セレンだけは、呆れたようなかおで首を振った。
「帰らせてもらっていい?」
「うん。えーと…首筋? 胸?」
エネルギーを渡すのにはどこからとればいいのかと首を傾げると、微笑して、シュムを抱きしめた。豊かな胸に、しばし呼吸が止まる。力も持っていかれ、結構辛い。
「はい、確かに。ありがと」
「い、いや、こっちこそ、助かったよ。そのうちもし閑や余裕があったら、遊んでね」
「…思い出した、目的もなく扉開いてるって噂。あんたなのね?」
「あー、うん多分」
そういえば誰かがそんなことを言っていた気がする。
セレンはまた笑って、もう一度シュムを抱きしめた。今度は、力を持って行かれることはなく、ただのあいさつだ。
「そうね、機会があったら。楽しかったわ、シュム」
「うん。またね、セレン」
手を振るうちに、契約が終了したために自動的に開いた魔法陣の中に、セレンの姿が消えて行く。
「シュム、俺もそろそろ帰る」
「はいはい」
こちらは、思い浮かべるだけのいつもの魔法陣。カイにも笑顔で手を振り、その姿が消えると、シュムはばたりと倒れ込んだ。
顔をぶつけずに済んだのは、ファウスが余裕を持って受け止めてくれたおかげだ。
「お疲れさん」
「ありがとーございます」
師の顔で、弱々しいだろうシュムに応え、笑んでくれる。ファウスは嘘をつくのが下手で、だからいつだって笑顔が、最上の誉め言葉に匹敵するほどに嬉しかった。
「半分くらいはもう食っちまったけど、食べて元気出せ」
「そこまで単純なことじゃないんだけど」
「そうか? 食って寝たら大体のことは何とかなるだろ」
野生の獣のような大雑把な方針に、頑張らなくても笑いがこぼれる。
草の生えた地面に直接座り込んで、シュムも、メイド頭がわざわざ用意してくれたサンドウィッチに手を伸ばす。考えてみれば、残り物ではあるだろうが、そうは食べられない豪華料理だ。
水筒の中身はミルクで、酒を期待していたのだろうファウスが、少しだけ眉を寄せた。
「師範、ありがとうございます」
「あ? なんだ、改まって」
「改まってる割に食べながらで申し訳ないけど。…様子、見に来てくれたんでしょ?」
「…まあ、ついでに、な」
照れているのか、ファウスはシュムとは反対の方向を見ている。
「大口叩いて出て行ったのに、結局、助けてもらっちゃった」
「バカ。あんなとんでもないの、今のお前程度で全部一人でやられたら、俺やラスや、ギルドでたむろしてる奴らの立場がないだろ。充分すぎるほど、どれだけ自慢してもし足りない弟子だよ、お前は」
がしがしと頭を撫でられる。動作は荒いが、その優しさを、シュムはよく知っている。弟子と呼んでもらえることが嬉しかった。
「俺も、これ食ったら行くな」
「え」
「そんなカオするなって。また会えるだろ。ラスは出不精だから、そこそこマメに訪ねてやってくれよ」
「――はい」
「だからそんなカオするなって。なあシュム、次会うときまでに、面白い話いっぱい仕入れといてくれよ。今までは俺が話すばっかだったけど、今度からはお前の話も聞けるんだろ?」
あちこちを旅して、まるで冒険劇のように語ってくれたファウス。シュムの修行中も、ずっとあの小屋に留まっていたわけではない。シュムやラティスを連れて行くこともあったが、一人でふらりと旅立って、色々なものを引っさげて帰ってくることも度々だった。
シュムは、言葉にはできず、ただ肯き返した。あの時だって、多少の心配はあっても、帰ってくることを疑わなかった。全く同じではなくても、きっと、同じだ。
「俺たちには妻も子どももいないけど、お前が子どもみたいなもんだ。いつだって、あそこに帰って来ていいんだぞ。ちょっと疲れたとか、ただ顔見にだとか、理由なんてそんなのでいいんだからな」
晴れ渡った夜空に、ファウスの穏やかな声が溶け込んだ。
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||