「姉さん、朝ご飯置いてるわよ」
「んーありがとー」
耳に快い声に、眠りの淵から引っ張り出される。ぼんやりと声のした方を見ると、既に身支度を整えたアンジーが笑顔でシュムを見ている。
日常になりつつある光景だ。
「いってらっしゃい」
「はーい、行ってきます」
爽やかに出勤していく妹を見送って、シュムはのんびりと起床する。
アンジーの家に転がり込むことを決めてから、数日が経っていた。レオナルドからは前金しかもらえなかったとはいえ、割り込んできたジェイムスはきっちりと報酬をくれたので、それを元手に部屋を借りることも、別の出張る仕事を探すこともできたが、こうやって落ち着いている。
ファウスのおかげというところも、あるかも知れない。
帰れる「家」を示されたことで、足場がはっきりしたのだろう。支えてくれて、劣等感を刺激したアンジーに対しても、怯えることなく距離が取れる。
「今日はどうするかなー」
用意されている朝食を平らげ、今までとそう変わりない身支度で外に出る。
この数日の間にも、所属しているギルドで話を聞いたり、アンジーの働く店でジェイムスからその後の顛末を聞いたりもしている。仕事も、しばらくは近辺のものを中心に受けるとは言ってある。
剣士ギルドにするか、と足を向ける。
「おはよー」
「…はよう、ございます」
大男のヨハンが、いくらか悔しげに、しかし微妙に怯えながらあいさつを返す。それらが表情や素振りから読み取れるのだから、なんとも器用だ。
「あ、おはようございます、ロックウェルさん。朝からいるなんて珍しい」
「お前さんに客でな」
「…あたし?」
王子はもう顔あわせてるけどなあ、と首を傾げながらも案内された小部屋には、年相応には見えるしかめっ面が待っていた。
「ああ、元雇い主」
「…元気そうだな」
「はあまあ、体調崩す理由もないですし。そちらも、顔色ましになってますね」
最後に見た夜の明かりの下ではなく明るい日差しの中で見るからか、随分と明るい顔に見える。しかめっ面ではあるが、はじめに会ったときの見下した感じも薄い。
ついには、シュムを見て、わずかではあるが笑みさえこぼした。
「改めて、礼を言わせて貰う。世話になった」
「いやあ、あんまり役に立ってなかったと思うけど。リチャードもあなたも、余程のことがなければあたしがいなくても何とかなりましたよ」
「…ありがとう」
「まあ、恩に着てくれるなら。次も何かあればご贔屓に」
にこりと、シュムは見本になりそうな笑みを浮かべた。
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