「わー。早い早い」
むくりと、毛布に包まっていた体が起き上がった。視線の先は、森の闇。先程まで見えた男の後姿は、今となっては全く見えない。
「起きてたのか」
「あれだけ殺す気満々な人が傍にいて、寝られるわけないじゃない。まあ、カイがどうにかしてくれるとは思ったけど」
「気付いてたなら、追い払えよ」
「えー? だってああいうの、下手に追い払った方が面倒だし。かといってばっさり一刀両断、もちょっと気が引けるし」
そんなことを言っても、頭まで毛布に包まった格好では冗談にしか聞こえない。だからこそ、あの男も油断しきっていたのだろう。
もっとも、シュム相手に十分な立ち回りがこなせるようなものであれば、はじめから手を出そうとはしなかっただろうが。
「でもさ、女の人売り払ったって、どうして? 勘?」
「あいつの後ろに…聞こえないのか?」
「…カイってさ、実は意外な特技持ってたんだね。今まで全然そんなこと言わなかったのに。あれかな、キールのお母さんに会って、何か開花した?」
「さあな」
暢気なシュムの言いように苦笑して、カイは、少し離れたところに落ちている小袋を拾い上げた。ずしりと重い。
「おい、シュム」
投げ渡すと、器用にも毛布に包まったまま、袋を受け止める。そうして、呆れ顔になった。
「随分持ってたんだね。ま、ありがたく頂戴しとこうか」
「…鬼だな」
「命狙われたんだよ? 慰謝料慰謝料」
悪人から金を奪うのは悪人だろうか、と考えながら、夜は更けていった。
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