「早く戻らないかなあ」
「あらあなた、今度は何を企んでいるの?」
自らお茶を淹れていた――普通、高貴な身分にある者はこういったことをしないものだが――アンジーは、ジェイムスの呟きに、たしなめるような表情をつくった。時々この王様は、いやに子供っぽい言動をする。
今も、仕掛けたいたずらの結果を心待ちにするかのようだ。
ジェイムスは、にかりと笑った。
「アン。君は、俺がこの国を潰したとしてもほしいものがあると言ったら、軽蔑するかな?」
唐突な問いに、妻は夫をまじまじと見つめ、少し考えた。
「そうね。あなたがみんなに引きずり出されて串刺しにされたら、悲しんであげる」
「ありがとう。愛してるよ、アン」
「でも、あなたが殺されるなら、きっと私も、その前か後に殺されているのよね。子供たちも」
アンジーは、お茶のカップをジェイムスの前に置き、自分の分のカップを、両手で抱え込んだ。
湯気に立ち上るのは、上等の葉のいい香り。カップも茶葉もお湯さえも、全て、この国に暮らす民の生活から掠め取ったものだ。彼らの生活を守る代わりに、アンジーたちは生かしてもらっている。だからジェイムスの発言は、天に唾するようなものだ。
だが、冗談ではないのだろう。
「そう。問題は、この国がなくなれば、僕のほしいものも、おそらくは全て消えてしまうということなんだ。困ったね」
「あなたらしいわ」
そう言って、短いお茶の時間をすごすと、アンジーは王の執務室を後にした。そう長く仕事の邪魔をしてはいけないし、アンジーはアンジーで、王妃としての仕事もある。
扉の前で、アンジーはジェイムスを振り返った。それを知っていたかのような瞳を見つめる。
「ねえ。その欲しいものの中には、私もいるのかしら?」
「決まっているだろう?」
「そう。それじゃあ、そのうちに聞かせてね。あなたのほしいもののこと」
「ああ、約束するよ」
部屋を出る妻を見送り、ジェイムスは、今度は聞こえないだろう呟きをこぼした。
「多分、そうは待たせないよ」
既に、準備は整えられている。あとは、エバンスが結果を持ち帰ってくるだけだ。さて、どう動くだろう。
王は一人、執務室で笑みをこぼした。
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||