「うわあ、嫌味なくらいに完璧な封印」

 十を幾つか回ったくらいにしか見えない少女は、半ば呆れたような声を漏らした。

 少女がいるのは、今や荒れた、質素な一軒家だった。ちなみに、この村の住人たちは、小屋に入った少女を、小屋ごと遠巻きに見守っている。何かあれば、すぐにも逃げ出せる構えだ。

 少女は、ためらいも無く、地下室に張り巡らされた見えない壁を叩いた。何かがある感触だけがして、音もしないが、ある程度以上は下に下ろせない。その境は、埃が積もっていることで見て取れた。

 そこには、前年の秋頃に、この村で起こった惨劇の原因が眠っている。

「封印に防御が組み合わされてるのか。相変わらず、術の変形が見事」 

 誰に届くでもない賞賛を呟きながら、少女は、さてどうするかなと、軽く口にした。

 少女の持つ剣と技量であれば、封印ごと切ることも可能だ。しかし、成年男性が丸々入り込めるほどの深さを貫くだけの長さは、生憎と手持ちの剣にはない。

 そうかといって、封印だけ解いてしまうと、今は冬眠状態になっているだろうものが目覚めて大暴れ、ということもありうる。そうなってしまえば、少女の手には余る。

「うーん、手助け頼むか」

 非常事態ヒジョウジタイ、と呟いて、少女は、在り得ない魔法陣を描き出した。蒼い燐光に、風が起こり、束ねただけの長い髪を揺らす。そうして、オレンジの髪の色をした長身の男が姿を現した。

 少女は、にこりと笑い、手を振りかぶった。

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