きらびやかで、美しい城の大広間。それが見劣りして映るのは、何も、出席者や城主のせいではなく、先日、ロナルド(仮)が、幻術とはいえ王族たちが出席するものを目にしてしまったからだろう。

 その上、ロナルド(仮)たちのいるところが、下層の者、近隣の村人などがいるところだからだろう。

 パーティーというものは、身分によって場所が決まっているらしい。奥に近くなるにつれ、主賓、つまりは身分の高い者の場となる。

「・・・嬢ちゃん。踊るなら、そこのちびっこに頼んでくれ」

「ケリーとも踊るわ。でも、あなたとも踊りたいの」

「勘弁してくれ。足踏むぞ」

「ただ回ってればいいのよ。行きましょう」

「おいおい・・・」

 酒を飲んで頬を上気させたエミリアに腕を絡ませられ、踊りの輪の中に連れ込まれてしまう。壁側で、ごちそう片手に手を振るケリーが小憎らしい。

 諦めて、溜息をこぼして、見様見真似で回ってみる。人外とばれないために瞳と髪の色を変え、ついでに髪を伸ばして束ねているのだが、それがうっとうしかった。

「なあ、嬢ちゃん。なんでこんなことをしてる?」

「こんなことって?」

 大きな瞳が見つめ返す。

 緑のドレスに引き立てられ、まだ幾分幼さはあるものの、近い将来に美人になるだろうと予測できる。どんな理由で避けているのかは知らないが、見る目がないなと、周りでぎこちなく踊る人々をおもった。

「寿命減らしてまで出るようなものじゃないだろ」

「そうかもしれない。でも、出ないのも負けてるみたいで厭なの。最後くらい、かっこいい人つれて、見せびらかして行きたいじゃない?」

「最後?」

「ええ。明日には、村を出るわ。兄さんや両親のお墓を置いていくのは心残りだけど、ここにいたって、墓石の下で嘆かせるだけ」

「いい女になる」

 何気なくこぼれた言葉に目を見開き、エミリアは、にっこりと笑った。

「私、人よりもあなたたちとの方が相性がいいかも知れないわね」

「あのなあ。今回は運が良かっただけなんだぞ」

「判ってる。安心して。私、兄さんが学んでいた人のところに行って、弟子入りさせてもらうつもり。無茶は、あなたたちで最初で最後」

 それならいいけどと、肩をすくめる。

 そこから更に一曲踊り、エミリアをケリーに押し付けると、意外にリードの上手いケリーと楽しそうなエミリアを視界の端に留めたまま、酒杯を手に取った。ケリーのように活力にすることはできないが、飲食は好きだ。

「おい、お前」

「ああ?」

 横柄に声をかけられ、相応の態度で答える。友人であれば、むしろ笑顔で応じたか、無視を決め込んで相手を煽っただろう。

 見ると、数人で連れ立った男たちだった。大体、二十代くらいだろう。

 一瞬怯んだようだったが、おそらくは虚勢を張って、中心と思しき一人がロナルド(仮)を睨みつける。

「旅人か」

「それが何か関係あるのか?」

「忠告してやろうってんだ。魔女に関わるとろくなことにならねえぞ」

「お前らのせいでか?」

 何気なく返した言葉だったのだが、その通りだったのか虚を突かれたのか、言葉に詰まっている。あるいは、咄嗟に理解が追いつかなかったのだろうか。

 やがて、凡庸な悪態を捨て台詞にして、離れて行った。くだらない、と思ったが、彼らを気に留めて於くことにした。ただの動力集めであり、エミリアには何の義理もないが、悪い少女でないと判るだけに、くだらない事態に巻き込まれるのは気の毒だ。特に労力を割かずに済むことなら、手助けしてもいいという気になる。

 それは、今は別行動を取っている友人に、みすみすそんな事態を見逃したと知れたら、怒りはしないだろうが、哀しげなかおでもされてしまいそうだから、という思いがあるのも確かだった。

「少し休んだらどうだ。あのちびは?」

 酒の入ったグラスを差し出すと素直に受け取り、小首を傾げる。

「ケリーのこと? あっちで女の子を口説いてるわよ」

 そいつはまあと、口の中で呟く。呑気というか図太い。

 エミリアは、一口グラスを傾けると、いたずらっぽく微笑んだ。全くもって、あの男どもは見る目がない。

「あなたはいいの?」

「興味がない」

「好きな人、ああ、人じゃないのかな。そんな相手がいるの?」

「・・・・・・そういうわけでもない」

「間が怪しいわね」

 くすくすと、楽しそうに笑う。

 ふと、先程の男たちが目に入った。こちら、エミリアをちらちらと見ている。悪意がひらめいたように見えた。

「嬢ちゃん」

「何?」

「今回は、本当に例外中の例外だからな。それは、判ってるな」

「ええ・・・?」

「じゃあ、手を貸す。戻ったら、明日と言わずにすぐ荷をまとめろ。夜明けくらいまではついててやるから、獣の心配はしなくてもいい」

「ええ?」

 驚いたエミリアに視線で示すと、納得して、半ば呆れたように肯いた。そうして、にこりと微笑む。

「もう一曲踊るくらい、いいわよね?」

「ああ」

 苦笑で応え、きらびやかなヒトの輪の中に入っていった。


 夜明け前、小さな村の外れで火事が起こったが、幸いにも、死者はなかった。

 - 一覧 - 
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送