四章

 史明 [ シメイ ] 治工 [ チコウ ] と出会ってから数カ月が経っても、潦史 [ ラオシ ] もヒラクも健在だった。適当に各地で妖を殺したり封じたり追い払ったりして過ごしていた。

 そして何故か、史明も一緒にいた。

 面白そうだから一緒に行く、と言い、実際についてきてしまったのだ。宿内での治工や仲間との別れは、なかなかに…怖かった。

『何言ってんですか、俺らはどうなるんです!』

『治工、お前がまとめりゃいいだろ』

『無理です! 俺にできるはずがないでしょう!』

『じゃあ、遊舜 [ ユウシュン ] でも雷竜 [ ライリュウ ] でも。なり手がなきゃ、解散でもしろ』

『厭だよ、オレ』

『私も、お断わりです』

『俺だって、納得できない』

『あのなあ…。普通喜ぶだろう、 [ かしら ] になれるんだから。それに、治工。忘れたのか? お前は、元は真っ当で平穏な暮らししてただろ。足洗ういい機会じゃねえか』

『だけど、あんたは…』

梨華 [ リカ ] を殺したのは俺だ。…憎まれはしても、慕われる覚えはねえ』

 きっぱりと言い切った史明に、治工は堪えきれずに涙を流した。つられてか、ほとんどの者が泣いていたようだった。

 三十も過ぎた男を筆頭に、男たちに泣いて見送られる旅立ち。…何が怖いって。できることなら、 [] 巻きにでもして史明を置いて行きたかったが、それで決着のつくものでもなさそうだと判る自分が、潦史は、少し…いや、かなり恨めしい。

 とにかく三人は、適当に各地を渡り歩いてきた。途中、幾度か刺客に遭遇もしたが、対人であれば史明も十分に戦力になり、それでなくても完全な足手まといではなかった。少なくとも、人生経験は潦史よりもヒラクよりも豊富だ。

 おかげで、潦史はそれなりに楽をできるようになっていた。人界に降りてすぐにヒラクに出会い、続いて史明に出会ったのは、ついていたのかもしれない。

 二人が姿を消したのは、そんな風に思い始めていた、冬の終わり頃だった。潦史が人界に降りて、半年くらいが経った頃のことだ。

 昼近くになって目覚めたときの不快感や、今までにない重い眠りから、一服盛られたのだろうと判った。天界の住人――例えば学識 [ ガクシキ ] などは、潦史が呼ばない限り、手出しは禁じられている。結花 [ ユイカ ] は、天界からの指示がなければ動けない。それでなければ、こんな不覚は取らなかっただろうか。

 買った食材は他の日にも口にしており、そのときいたのは人気のない山中。気付かれずに部外者が何かを入れたと考えるよりも、史明かヒラクが入れたと考えた方があり得る。荷が、潦史の分だけ残されていることから、物取りなどの仕業とも考えにくい。貴重な物のほとんどは、潦史の物だった。

 そして、ヒラクか史明が入れたとすると、ヒラクよりも調理を担当していた史明の方が、より簡単に行えただろう。他人の入れた物を無警戒に食べていたのは迂闊だったな、と短く舌打ちする。

 そんな自分に、軽い嫌悪感を覚えもした。推測は推測であって、事実は判らない。

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