旅の終わりは誰も知らない

「とりあえず・・・話はわかったけど。どこをどう見て、俺なんかを雇おうって気になったんだ?」 手入れどころか、梳いてすらいないぼさぼさの長い髪(前髪含む)に、その下から見えるフレームだけの眼鏡、一昔か二昔前に主流だった袖を遠さずに胸の前で留めるだけのマント。やけにふてぶてしい態度に、手放そうとしない得体の知れない赤い本。

 自己申告だけで、これだけ怪しい。もしショートなら、会ったばかりのこんな奴を雇おうなどと思いはしない。絶対に。

 しかしショートを取り囲んだ男たちは、ひどく真面目にショートを見据えるのだった。コワモテ四人に囲まれていることになる。見ようによっては、恐喝だ。

「ですから! 時間がないんです!」

「最後の街まであと少し。奴らが襲ってくるとしたら、今しかないんです」

 宝石の輸送中に、護衛が食中毒でダウン。この辺りを荒らす強盗団に狙われている彼らは、頭を抱え、ほとんど諦めていたのだという。

 そこに転がり込んできたのが、「読書家兼護衛業」と名乗ったショートだ、と。

「・・・まず、車掌に知らせとけよ。そもそも、一般車に乗ってんじゃね―っての」

「は?」

「いや、なんでも」

 ぼそりと呟いたショートの声は聞こえず、訊いても素っ気無く否定される。そんな状況に、男たちは首を傾げ合ったようだった。しかしショートは、まったく意に介さない。

「つまりまとめると、俺しかいないから選択の余地はなかったと、そういうことでだな?」

「あ・・・いや、そういうわけでも・・・」

「ん? 違ったか? それなら他当たってくれよ、俺じゃなくて」

「い、いえ、いやその・・・っ」

「まあ、引き受けてもいいけど?」

 ショートの言葉にしどろもどろとしていた男たちが、喜色に染めた顔を上げた。どうでもいいことだが、ここまで外見(コワモテ)と中身(感情的)が違うと、不気味というよりも笑える。どうにかショートは、苦笑で止めることに成功した。

 そして、話はさっさと細かい契約内容へと移行していく。宝石を守る、ということを中心に決め終わると、男たちは、ショートに正装一式を押しつけた。

「・・・何?」

「その格好だと、失礼ですが、怪しいですから。いちいち呼びとめられたりして行動に支障をきたすと、厄介でしょう?」

「いや、だからって着替える必要は。大体なんで持ってんだ・・・わっ、待て、わかった、わかったから! 服くらい、一人で着るって!」

 抵抗する素振りを見せたショートに、一斉にかかった男四人。ちなみに、全てコワモテ。あっという間に身包みはがされ、先ほど出してきた服を着せられ、ぼさぼさの髪も櫛を通して、ひとつに束ねた上で何故かきっちりと三つ編みにされる。

「・・・・・・器用だな、あんたら・・・」

 怒る気も失せたショートは、そう言ってがっくりと肩を落とした。その姿は見違えるほどで、先程とは違った意味で人目を惹きそうだった。 ちなみに、眼鏡と本も没収された。「待てっ、それは相棒の・・・」というショートの声は、あえなく無視される。代わりに髭面の男が、にっこりと微笑むのだった。

「仕事の間は、カバンに入れておけばいいだけのことですよ」

 脅迫だ、と呟くショートだった。


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