旅の終わりは誰も知らない

 地鳴りのような音と、勢いよく上がる煙。

 はっとして、ショートは顔を上げた。目の前を、少なくとも見栄えはいかつい汽車がゆっくりと、よぎって行く。体の重い、巨大な芋虫にも見えた。

「あ。・・・ああっ! うわ、待て、乗る、乗るって!」

 言ったところで止まるわけもないのだが、思わず叫びながら、それまで椅子代わりにしていた四角い大きなカバンを一気に持ち上げて、今や最後尾となった汽車のデッキに投げ込む。

「お、おい、誰か・・・ぅわっ?!」

「どけ!」

 ショートの投げたカバンの音に驚いたのか、様子を見ようとドアを開けた男が、跳躍してデッキの柵を掴むところだったショートの姿に、慌てて身体を戻した。

 柵を掴み、どうにかデッキへと身体を移したショートは、大きく息を吐いて、柵に背を預けた。

 切りそびれたように長い髪が、ぐちゃぐちゃになった上で更に、風に掻き回されている。

「あ・・・っぶなかった・・・っ・・・! なんだって、こんなメに・・・」

「・・・おい、大丈夫か?」

「あ、うん? まあそれなりに。とりあえず、これも無事みたいだし・・・あんたは?」

 おそるおそる、といった態で顔を出すいかつい中年の男にはじめて視線を転じると、滅茶苦茶の風体で紅い装丁の本を抱えたショートは、不思議そうに訊いたのだった。   


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