「にーさん!」
「あれ、お前」
「エヴァ」
「シュムさん?!」
こんなところで、一挙に二組の再会を果たすと、誰が想像しただろう。少なくともシュムは、全く予想していなかった。
戻ってきたロバートに案内されたのは、邸の横に建てられた、離れのようなところだった。塔と呼ぶには高さがなく、中は、ぎっしりと書の詰められた一階と二階の半分、残りの半分に作られた居住空間(スペース)だった。
一階の床そのものが高めに作られ、明り取りの窓が小さいことから見ても、元は完全に書庫だったのではないだろうか。しかし、通りがかりについ見入った書の多くは、破損の跡を丁寧に修繕してあった。どうも、大事に扱われていなかった時期があるようだ。
シュムは、ここに追いやられた人物が直していったのだろうかと思った。
そして、その人物は開口一番、カイを見て「にーさん」と叫んだきり絶句した。むしろ、シュムが黙ってほしかったのは、その連れの方だった。
「あなたたちは、ここで何をして…いえ! それよりも、居場所も告げずに放浪するなんて、しかも城を壊したまま逃げ出すなんて!」
「え、えー…」
「いいえ、この際説教は後にしましょう。必ず、一緒に戻ってもらいます。いいですね」
「えー…エヴァは、どうしてここに?」
がっしりと、逃がさないというように肩をつかまれ、少し痛い。エバンスが、線の細い見かけ通りに力のほうはさほどなくてよかったと、密かに胸を撫で下ろす。いや、今現在痛いのだが。
笑顔なのだが、目が恨みがましく睨みつけていて、普通に睨まれるよりもずっと恐い。気のせいか、治療を施した足まで、再び痛み出した気がする。
「僕は、あなたがここにいる理由の方が知りたいですね」
「純然たる人助けだってば! やましいところなんて何一つないんだから!」
「そういう言い方をするということは、塔を壊した件に、引け目くらいは感じているようですね?」
「いや、えっとそれは、ほら、あの時はそれくらいしか思い浮かばなくて?」
「へぇ、あなたが。あの状況では、誰かに直接危害が及んでいたわけでもないのに、ですか」
笑顔が恐い。
書簡を届ける際に、物質移転の魔法陣を使用したから、やがて城に連絡が行くだろう、ということは予想していた。役所に据えつけられた魔方陣は、緊急時以外は宮廷魔導士とシュムにしか開かれていないため、使用者はすぐに突き止められるのだ。
だが、それにしては早い。つまりは、違う用件でここにきていたということで、あまりに間が悪かった。
カイが助けてくれないものかと見たが、エバンスを伴ってきた青年と、驚いたように顔を見合わせたきり、黙り込んでいる。助けて、と密かに念を送っていると、青年の方が先に気付いてくれた。
シュムを見て、首を傾げる。ついと、エバンスに視線を転じた。
「リーさんの知り合い?」
そこでエバンスが、我に返ったように「恐い」笑顔を打ち消した。青年に向く。
「はい、知人です。すみません、まさかこんなところで会うとは思っていなかったものですから。失礼を致しました」
「いや、それはいいんだけど。奇遇だなあ、この人たちには、世話になったんだ。家人が助けてもらって。ええと…」
どうしよう、と迷っているのが、ありありと判る。
一応、主導権がこの青年にあると知って、シュムは、即座に口を開いた。
「リーと話があるんじゃないですか?」
「え? あ、うん、そうだけど…君たちに、お礼もまだだし」
「お礼なんていいですよ。よくあることですから。ああでもあたしたち、まだしばらくはこの辺りにいますから、気が向いたら声でもかけてください」
素早く、そのままだろう、と言いたくなるエバンスの偽名を間違えることなく口にして、カイと顔見知りらしい様子から、接点を切ることなく、距離を置くようにしておく。エバンスも後でやってくる可能性が高いが、それはそれだ。今は、頭に血が上っていそうな分、相手にしたくない。
行こう、とカイの服を掴む。
ああ、と、まだ少し戸惑っているような返事があった。それも、後回しにしておこう。
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