夢の中にいた。

　夢の中と判るのに、真っ暗だった。夜の闇の中で、月光はもちろん星光すらない。ただ闇が、そこには横たわっていた。

　不意に、足音がした。

　一つではなく、いくつも。揃っているわけではなくてんでばらばらに、足音は近付き、通り過ぎ、去っていく。

　不思議と怖さはなく、そして唐突に、司は悟った。足音の主たちを。それらは全て、かつて御守りの使い手となったものたちだった。

　自分の指先すら見えない闇の中で、司は、過去の人々の間に立ち尽くしていた。

　――諒を、お願いしますね。

「え？」

　青年めいた声がして、かすかに、手に触れた感触があった。

　――あいつは、あれで淋しがりだから。よろしくお願いします。　

「待って！」

　咄嗟に叫んでいた。

　だが声は、闇に飲み込まれたきり反響も返事も届かない。

　誰が声をかけたのか。諒が蘇らせようとした青年が思い浮かび、違うかもしれないとも思った。何度も補佐を勤めたのだから、そのうちの誰かでもおかしくはない。

　だが、誰にしても。

「勝手だなあ」

　ぽつりと呟いて、なんとなく司は苦笑した。

　死んでまで一方的に頼み事をしていくなんて、なんて身勝手。そして、声をかけなかった他の者らにしても、既に去ったはずなのに、くっきりと存在を残している。

　何だ、みんな勝手なんだ。

　ふっとそう思って、妙に可笑しくなった。