機械や計具が並ぶ、研究所のようなイメージ。出てくる人々は、白衣を羽織っているか軍人のよう。 |
男、煙草を取り出して火をつけようとする。入ってきた女、それに気付く。 |
|
|
女 |
何やってるんですか! |
男 |
一服。 |
女 |
火気厳禁! わかってるでしょう?! |
男 |
判ってるからこそ、一服でもしなきゃやってらんないんでしょーが。返してよ。 |
女 |
終わるまで、預からせてもらいます! |
男 |
あっ。・・・判りましたよ、真面目にお仕事しまぁす。それでいいんだろ。 |
女 |
(呟き)これで科学庁一の実力者なんて信じられない。こんな不真面目なのが。 |
男 |
お嬢さんお嬢さん。 |
女 |
なっ、何ですか?! |
男 |
まじめになんて考えない方がいいぜ? 罪のない生け贄を捧げて戦争に勝つなんざ、まともな神経じゃ堪えらんねーよ。戦争する奴らはね、皆、どっか狂ってんの。 |
女 |
・・・部長もですか。 |
男 |
ああ、当然。 |
女 |
・・・。 |
軍人 |
ガズナ部長。 |
男 |
お、準備できたか。だとよ。やるぞ。 |
女 |
・・・はい。 |
男 |
じゃ、下がってろ(退出指示)。 |
軍人 |
は。 |
男 |
ああ、せいぜい、上手くいくよう祈っといて? |
軍人 |
・・・はい。 |
女 |
(軍人が出て行ってから)この方法を発見したのは、あなただと伺いました。 |
男 |
そうだけど? はい、第一ブロック、エタノール注入。 |
女 |
投入準備完了。・・・後悔していらっしゃるのですか? |
男 |
生き神計画、提唱したの俺だぜ? |
女 |
だから・・・。 |
男 |
いい奴だな、お前は。 |
女 |
は? |
男 |
ホシ女史、後は一人でできる。三区に、他の研究員と一緒に避難してろ。 |
女 |
な――? |
男 |
部長命令だ。いいな? |
女 |
(間)わかりました。(行きかけて、ポケットに入れた煙草を思い出す)お返しします。 |
男 |
ああ・・・いい。実はもう一箱、持ってるから。 |
女 |
計画の成功を、お祈りしています。・・・失礼します。 |
男 |
(出て行ってから)はは。祈りなんて、役に立つかよ。心配しなくても、成功は確実だ。だけど果たして、それを直に見られる奴が、どれだけいるかな。・・・ったく、家族にゃや知られたくねー仕事だ。 |
|
|
男、実行キーを押す。甲高い電子音が響き渡る。暗転。 |
スポットライト、あるいはほんのりと明るい光。 |
|
|
エイカ |
そうして、この国は戦争に勝って、滅びた。 |
イザヤ |
世界規模での、大爆発。それに伴って引き起こされた、大災害。 |
エイカ |
そうして。私たちは、滅びた世界を見守る、神に祀り上げられた。 |
|
|
暗転。 |
|
|
アイリ |
セイ、本当にこの辺なのか? 誰もいないぞ。 |
セイ |
占いではこの辺りがでましたから、ここでいいはずです。 |
アイリ |
占いなんて当てになるのか? |
セイ |
知りませんよ。占わせたのはアイリ様でしょう。 |
アイリ |
それはそうだが・・・ |
セイ |
隠れて! 誰か来ます。 |
|
|
セイ、アイリを地面に押し付ける。(障害物を作っておくか、あると仮定する) |
ケイ、セツ、コウの三人、駆けて来る。追っ手を気にして、周囲をうかがいながら。(アイリは伏せたまま) |
|
|
ケイ |
親分! 逃げきれたみたいっすね。 |
コウ |
バカ、誰が親分だ。 |
セツ |
じゃあ、お頭ですか。 |
コウ |
バカ。 |
ケイ |
やーい、怒られてやんのー。 |
セツ |
お前だって怒られてたじゃないか。 |
ケイ |
俺はいいんだ。 |
セツ |
なんでだよ。 |
ケイ |
獅子は我が子を谷に落とすって言うだろ。ね、親分。 |
コウ |
(殴る)親分でもお頭でもないって言ってるだろ。 |
セツ |
じゃあなんて呼べばいいんですか。 |
コウ |
いいかい。泣く子も黙る白刃のコウ様とお呼び! |
ケイ |
・・・言ってて恥ずかしくないっすか。 |
コウ |
うるさい! |
セツ |
で、でも、少し長すぎですよ。 |
ケイ |
そうそう。いいっすか、例えば、お役人に追っかけられてるとき。『待ちやがれ、てめーら。逃げられやしねーぞ』俺らは必死で逃げます。と、うってつけの逃げ道発見! |
セツ |
『こっちです、泣く子も黙る白刃のコウ様!』 |
ケイ |
なーんて言ってる間に、その逃げ道通過しちまいますよ。 |
コウ |
う。 |
ケイ |
ここは短く、『コウ』ってことで。 |
コウ |
バカ。名前が知られたら、後々面倒なことになるだろうが。 |
ケイ |
コウなんて名前、一山いくらで売られてますって。 |
コウ |
なんだと。この名前はな、うちの親父が立派な子になるようにって、三日三晩悩みに悩んで考えたんだ。それを・・! |
ケイ |
く、くるし・・・(首を絞められている) |
セツ |
きっと深い考えのある人だったんですね、お父さんは。 |
コウ |
いや。典型的な小役人だった。おかげで一家食ってくのがやっとでな。 |
セツ |
だから盗賊になったんですか。腹いっぱい食べてやる、と。 |
コウ |
いや。家出したら、行き先がなくてな。 |
セツ |
家出の理由は? 無理やり結婚させられそうになったとか? |
コウ |
親父とおかずの量でもめて。確かに、親父のほうが多かったんだ。それを、『こっちのほうが少ない、よこせ』とか言いやがって。 |
セツ |
・・・・・・。 |
ケイ |
なあセツ、俺たち転職考えたほうがよくないか。 |
セツ |
うん。なんかそんな気がしてきた。 |
ケイ |
あ、でもお前、あの人に借金があるのか。 |
セツ |
ケイ。俺たち、親友だよな? |
ケイ |
決まってるだろ、何言ってんだ。 |
セツ |
じゃあ、どこまでもいっしょだよな? |
ケイ |
それとこれとは別。 |
セツ |
何で。一緒に、借金返済のために働こう。 |
ケイ |
嫌だ。俺は、自由と金を求めて旅に出るんだっ。 |
コウ |
へえ。何だって? |
ケイ |
・・・・おやびん・・・。 |
コウ |
(殴る、殴る、蹴る) |
セツ |
あ、姐さん。 |
コウ |
姉さん・・・? |
セツ |
家出してから帰ってないんですか? |
コウ |
・・・・。 |
セツ |
姐さん? |
ケイ |
親分? |
コウ |
(殴る)そろそろ、今までの宝石を売りに行くか。 |
|
|
袋から何か色々と取り出してくる。アイリ、顔を上げ、じっとそれを見ている。と、 |
|
|
アイリ |
星の石!(押さえているセイを跳ね除け、それを手に取る)あったぁ・・・。 |
ケイ |
何だ? |
セツ |
子供? |
コウ |
星の石・・・これが? 放しな!(取り上げる) |
アイリ |
何をする! |
コウ |
それはこっちの台詞だ。いきなり出てきて態度のでかいがきだね。・・・まあいい。今回は見逃してやるから、さっさとどこかに行きな。 |
アイリ |
見のがすだと? そもそもそれは、 |
セイ |
アイリ様っ!(引っ張っていく)無闇に素性をばらさない。約束したでしょう。 |
アイリ |
そんな約束、したか? |
セイ |
しました。 |
アイリ |
覚えてないな、そんなの。 |
セイ |
アイリ様。約束を守らないなら、僕にも考えがありますよ。 |
セツ |
なんかだか、俺たち無視されてないか? |
ケイ |
Out of gantyu って感じだな。 |
コウ |
どうでもいいからっとっとと行きな。聞いてんのかい、 |
アイリ |
黙っていろ。 |
セイ |
黙っていてください。 |
ケイ |
親・・・姐さん、今のうちにいっちまいましょう。 |
セツ |
そうですよ。こんなわけのわからないがきにいちいち目くじら立てなくても・・・ |
コウ |
ぼうずっ、あたしを無視するな! |
|
|
コウ、刀か何かで斬りかかる。アイリ、それを避け(セイが避けさせ)、コウを見る。 |
|
|
アイリ |
ぼうずだって・・・・・・? 誰がぼうずだ。誰が! |
コウ |
何だ、女だったのか。気づかなかったよ。 |
アイリ |
セイ。このおばさん、殺してもいいか? |
コウ |
なっ。 |
セイ |
駄目です。 |
アイリ |
生きていてもせいぜい害になるだけなんだから、いいじゃないか。どうせ捕まえても、私への侮辱罪で死刑だ。 |
セイ |
駄目です。そんなことをしたら、セレア様が倒れられますよ。 |
アイリ |
セレアが倒れてるのはいつものことだ。 |
セイ |
原因は誰ですか。 |
アイリ |
うるさい。いいか? これは命令だ。 |
セイ |
命令、ですか。 |
アイリ |
そうだ。手を貸せとは言わないから、黙って見ていろ。 |
セイ |
・・・わかりました。一応、僕はあなたの家臣ですからね。どんなにひどい命令でも、とりあえずは従います。 |
アイリ |
・・・よろしい(少し後悔)。 |
セイ |
では、幼馴染として言わせてもらいます。 |
アイリ |
そうきたか。 |
セイ |
いいですか、アイリ様・・・ |
コウ |
いいかげんにしないか、坊や。人と話をするときは最後まできちんと聞くもんだよ。 |
ケイ |
人のこと偉そうに言える人だっけか? |
コウ |
(殴る) |
セツ |
馬鹿・・・。 |
アイリ |
漫才がしたいなら他でやってくれ。 |
コウ・ケイ |
誰が! |
アイリ |
どうでもいいから黙っていろ。さっきからうるさいぞ、お前たち。 |
コウ |
何だって? ・・・あんたさっき、あたしを殺すって言ったね。いいさ、やれるもんならやってみな。どうせできっこないだろうけどね。 |
セイ |
アイリ様?(わかってますね?) |
アイリ |
・・・五分だけ時間をやる。それで取り戻せたら、大人しくしてる。 |
セイ |
ありがとうございます。(盗賊に向かって)時間を決められてしまいましたから、手短にいきますね。 |
セツ |
俺たちもなめられたな。 |
ケイ |
まったくだ。こんながきに、五分だと? |
コウ |
いくよ、お前たち。 |
|
|
アイリ、(三人が話している間に)セイに目配せされ頷き、セイの背後(?)に隠れ、盗賊たちに見えないように耳を塞ぐ。セイが鈴を鳴らす と、盗賊達固まる。もう一度鳴らすと、体制はそのままで首の脱力(眠る)。セイ、鈴をしまうと星の石を手に取る。 |
|
|
アイリ |
やったのか? |
セイ |
眠ってもらっただけです。三人とも、術にかかりやすい体質だったみたいですね。 |
アイリ |
なんだ。だが、起きたらきっと、体中が痛いな。 気の毒に。 |
セイ |
心にもないことを言わないでください。まったく、あなたについていると寿命が縮みますよ。 |
アイリ |
大丈夫大丈夫、きっとセイの寿命は、人の十倍くらいはあるからな。 |
セイ |
・・・それって人間じゃないですよ。 |
アイリ |
さー、次行くぞー! |
セイ |
え? アイリ様っ? |
|
|
セイがアイリを追いかけ、二人退場(?)。及び暗転(なしでもいけるか?)。次、照明出来たらセピアっぽく(回想だから)。 |
|
|
セイ |
アイリ様ー?(探していて) |
アイリ |
ねえねえセイ、きれいだよ。こんなの隠しとくなんて、ずるいよね。 |
セイ |
アイリ様、怒られますよ。また勝手にこんなところに入って。 |
アイリ |
良いじゃないか、これくらい。父様たちは私とは遊んでくれないんだから。 |
セイ |
今はお忙しいだけですよ。今年はとりわけ豊作だそうですから。 |
アイリ |
それならそれで、外に遊びに行かせてくれたっていいのに。城の中にいろ、でも会いには来るななんてひどいよ。 |
セイ |
アイリ様・・・。 |
アイリ |
わかってるんだ。私には兄弟がいないから、余計に閉じ込めようとしていることくらい。それに、わたしにはセイやシン兄様がいるだけましなんだって。母様なんて、歳の近い人とは社交界に出るまで会えなかったらしいから。 |
シン |
見つけた。お前らなあ、かくれんぼのやり方わかってんのか? 二人が同じところに隠れてたらすぐ見つかるだろうが。何持ってんだ? |
アイリ |
綺麗でしょ。さっきそこで見つけたんだ。 |
シン |
あー? 見覚えあるな。確か、お袋が持ってたような・・・ |
セイ |
セレア様が? |
シン |
思い出した、星の石だ。そうそう、城に寄付したんだ。 |
セイ |
星の石? |
シン |
ああ。願い事が叶うって言われてる星のカケラだ。へー、こんなとこにあったんだな。 |
アイリ |
何でも叶うの? 私、大きなケーキが食べたい! |
セイ |
・・・何も起こりませんね。 |
アイリ |
シン兄様の嘘つき。 |
シン |
これだけじゃ駄目なんだよ。カケラを全部集めないと、ただの綺麗な石なんだと。 |
セレア |
シン。どこにいるの。 |
シン |
ここだよ。すぐ行く。悪いな、かくれんぼは終わりだ。(行き掛けて)見つからないようにしろよ。特にお袋にばれたら、大目玉食らうからな。あの人が怒ると、エイカ神より恐いからなあ。 |
アイリ |
エイカ神? 怒るとすっごくこわい神さまの? |
シン |
ああ、それそれ。 |
セイ |
そんなこと言ってると、怒られますよ。 |
セレア |
シン! |
シン |
行くって。じゃあな。 |
セイ |
僕たちも出ましょう、アイリ様。 |
アイリ |
ねえ。 |
セイ |
なんですか? |
アイリ |
本当だと思う? |
セイ |
星の石ですか。 |
アイリ |
そう。集めたら、本当に願い事が叶うのかな。 |
セイ |
そうだったらいいですね。 |
アイリ |
セイは。信じてない? |
セイ |
わかりません。アイリ様はどうですか? |
アイリ |
わからない。そうだ、いつか探しにいこう。本当かどうか確かめるために。それで、本当なら大きなケーキを食べるんだ。 |
セイ |
その時は僕も誘ってくださいね。 |
アイリ |
当たり前だ。 |
|
|
照明変わる(スポット?)。 |
|
|
アイリ |
セイは・・・あのことも忘れてしまったのかな。 |
|
|
現実。 |
|
|
セイ |
ア、アイリ様、走りすぎです・・・。 |
アイリ |
何だ、もう疲れたのか。体力が足りないな、セイ。 |
セイ |
どれだけ走ったと思ってるんですか。疲れないほうが不思議ですよ。 |
アイリ |
それなら私はどうなるんだ。 |
セイ |
きっと普通ではないんですね。 |
アイリ |
そういうことを言うか。 |
セイ |
悪いとは言ってません。 |
アイリ |
む・・・・。 |
セイ |
さあ、帰りましょう。みんな心配してますよ。宝物庫の宝と一緒に王女までいなくなるなんて、大問題ですよ。 |
アイリ |
帰らない。 |
セイ |
何を言ってるんですか。 |
アイリ |
そのうち帰るけど、まだ帰らない。 |
セイ |
星の石を取り戻すだけの約束です。これだけでも大騒ぎなのは判っているでしょう。 |
アイリ |
そうだな。今頃、私の葬式でも出ているかもしれない。自分の葬式では葬式饅頭は食べられないのが残念だな。 |
セイ |
それこそ一大事です。呑気なことを言っている場合ではありませんよ。 |
アイリ |
気にしない気にしない。細かいことを気にしていると、はげるぞ。 |
セイ |
まったく細かくありませんよ。 |
アイリ |
そうか? |
イザヤ |
お花いりませんかー? きれいでしょう? 丹精込めて作ったんだよ。どう、彼女にひとつ。 |
セイ |
え? い、いや、僕はそういうのではなくて・・・・。 |
イザヤ |
なんだ、違うの? ま、いいじゃない。贈り物は嬉しいものだよね? |
アイリ |
そうだな。 |
イザヤ |
君だったら、これとか似合いそう。あ、こっちもいいかな。ねえどう思う、彼氏。 |
セイ |
だから、違います。 |
イザヤ |
そう? あ、名前は? |
セイ |
セイです。 |
イザヤ |
ふうん、セイ君か。ねえ、買ってってよ。安くするよ。 |
セイ |
・・・いりますか? |
アイリ |
いる。 |
イザヤ |
やった、買ってくれるんだね。どれにする? |
アイリ |
これ。 |
セイ |
いくらですか。 |
イザヤ |
500。 ありがとうございましたっ。ところで、こんなところで何してるの? 何もないでしょ、ここ。 |
アイリ |
お前こそ、どうして何もないところで花を売っているんだ? |
イザヤ |
ここで売ってるわけじゃないよ。今から売りにいくの。いつもはもっと早く出るんだけど、今日は寝坊しちゃったんだよねー。今朝の夢がさあ、ゴジラ対メカゴジラでね、スクリーンの線なんてなくて、目の前でやってるんだよ? あー、カッコよかったあ、ゴジラ! |
アイリ |
・・・何者だ、それは? |
イザヤ |
やだなー、世紀の大ヒーローだよ。まあ、初めはそうでもなかったんだけどね。気付くとヒーローにされてたって言うか。 |
セイ |
・・・? |
イザヤ |
わからないか。まあ、わからないよねえ。いいよいいよ、気にしないで。 |
アイリ |
自分で言い出した癖に。 |
セイ |
遅れているなら、早く行った方がいいんじゃないですか? |
イザヤ |
あ、説明の途中だったね。 |
アイリ |
何か説明していたか? |
イザヤ |
あのねえ、これは大切な収入源なんだよ。くだらない理由で休むわけないじゃない。今日僕が遅れたのは、君達がくるって知ってたからだよ。 |
セイ |
どういう意味ですか。 |
イザヤ |
そんな怖い顔しなくていいよ。友人に、物凄く夢の当たる奴がいてね。あ、信じてないね? |
アイリ |
半々、というところかな。 |
イザヤ |
正直だね。いいことだよ。それじゃあ、信用度五十を百にしてみせようか。今朝、君たちの夢を見たらしいよ。ここには、星の石を探しに来たんでしょう。当たり? |
セイ |
違います。 |
アイリ |
いや、当たりだ。 |
セイ |
アイリ様。 |
アイリ |
すごいな、本当なんだ。 |
イザヤ |
そうだよ。信用度百になったでしょう? |
アイリ |
九十九。 |
イザヤ |
あれ、どうして? |
アイリ |
念のためにな。私はどんなことも完全には信じないようにしているんだ。もしものときのために。 |
イザヤ |
賢明だね。セイ君はどうかな。 |
セイ |
アイリ様、本気ですか。 |
アイリ |
私は本気でないことの方が少ないぞ。 |
セイ |
本気で、星の石を探すおつもりですか? 幾つ、どこにあるのかも判らないのに? |
アイリ |
安心しろ、石の数も場所も、ほとんどわかっているんだから。 |
セイ |
ほとんどということは、判ってないところもあるんですね? |
アイリ |
そういうことになるかな。 |
セイ |
アイリ様。 |
アイリ |
・・・セイは、反対なのか。 |
セイ |
当たり前です。旅なんてろくにしたことがないんですよ。ここまでのたった二日でさえ大変だったのに、体を壊してしまいます! |
アイリ |
私の体が丈夫なのは、セイが一番良く知ってるだろう。むしろ、セイのほうが心配だな。私よりも病弱だったんだからな。 |
セイ |
昔とは違います。それに、あなたは・・・(イザヤを意識して)心配している人が、たくさんいるんですよ。 |
アイリ |
だって、約束しただろう。一緒に行くって。 |
セイ |
何も今でなくてもいいでしょう。盗賊が入った混乱に乗じて、夜逃げみたいな真似をしなくても。 |
アイリ |
だったら何時? 今だって自由に城の外に出られることなんて滅多にない。戻ったら、きっともっと窮屈になる。もう二度と、こんなチャンスはないかも知れない。 |
セイ |
何回も城を抜け出して、セレア様を倒れさせているのは誰ですか。 |
アイリ |
セイの馬鹿、石頭っ!(走り去る) |
セイ |
アイリ様・・・! |
イザヤ |
(セイの腕を掴んで)まったく、二人とも人の話を最後まで聞こうとしないんだから。 |
セイ |
放してください。アイリ様を追いかけないと。 |
イザヤ |
大丈夫、あの子は少し行った所で君を待ってるよ。一人で無茶をやるような子じゃないって。 |
セイ/TD>
| それは、アイリ様を知らないから言えるんです。城をダイナマイトでふき飛ばしかけたこともあるんです。 |
イザヤ |
そのとき、君はどうしてた? あの子と一緒にいたんじゃない? |
セイ |
それが何か。 |
イザヤ |
わからない? まあ、近くにいたらわかんないものだよね。岡目八目って言うし。 |
セイ |
何が言いたいんですか。 |
イザヤ |
だから、あの子が無茶をやれるのは、君がいるからだよ。さっきどんなことも完全には信じないって言ってたけど、君に関しては別だと思うよ。 |
セイ |
・・・・。 |
イザヤ |
本当はちゃんと言うつもりだったんだけど、まあいいや。星の石を探すなら、最後はパリオットの町に行くんだね。 |
セイ |
・・・パリオット、ですか? |
イザヤ |
そう。載ってない地図もあるくらい、小さな町。どうせあてはないんだろうから、素直に聞き入れなよ。ほら、行かないと。大事なんでしょうお姫様が。 |
セイ |
・・・・・。 |
イザヤ |
心配をかけたくないなら、手紙か何かでお城に知らせたら? 少しぐらいは安心できるんじゃない? |
セイ |
・・・そうですね。そうしてみます。(行き掛けて)どうして、城だとわかるんですか。初めからアイリ様のことも知っていたんですか。 |
イザヤ |
まあね。あ、って言ってもお城の関係者とかじゃないよ。 |
セイ |
夢で、見た人に聞いたんですか。 |
イザヤ |
そう。信じてくれるんだ? |
セイ |
そういうわけではありません。 |
イザヤ |
まあ、いいけどね。 |
セイ |
手紙の事を、気付かせてくれた礼は言っておきます。ありがとうございました。(走りさる) |
イザヤ |
ふう。仲がいいねー。あれ、またお客さん? |
|
|
盗賊たち、走り込んでくる。結構しんどそう。イザヤにはまだ気付いていない。 |
|
|
コウ |
ええい、あいつらはどこに行ったんだ! |
ケイ |
親・・・姐さん、見つかりっこないっすよー。 |
セツ |
そうですよ。もうかなり走りましたよ。俺たちだって、走り詰めで・・・。 |
ケイ |
追い抜いたんじゃないすか。 |
コウ |
いや、あいつは術を使った。きっとどこかに隠れてるんだ。休んでる暇があったら探しな! |
ケイ |
その、根拠のない自信はどこから沸いてくるんだか。 |
コウ |
何か言ったか! |
ケイ |
いえ、めっそうもない。 |
セツ |
探すって、どこをですか。ここは何もありませんよ。 |
イザヤ |
僕がいるよ。 |
コウ |
誰だお前は! |
イザヤ |
かわいい花売りに決まってるじゃないか。サーカスでもやってるように見える? |
コウ |
いつからそこにいた。 |
イザヤ |
後から来て、それはないんじゃない? あんた達がくる前からここにいたよ。 |
コウ |
そうか。悪かったな。ここに(二人の特徴)、がきが二人こなかったか。 |
イザヤ |
きたよ。 |
ケイ |
ほら、いませんって。行き・・・来た? |
イザヤ |
うん。(コウの言った二人の特徴を繰り返す)でしょう? ついさっきまでいたよ。 |
コウ |
それだ。どっちに行った。 |
イザヤ |
どうしよっかなー。 |
コウ |
早く教えろ。 |
エイカ |
そうだなあ。 |
コウ |
おい!(三人、構える) |
イザヤ |
短気って損するよ。誰も、教えないなんて言ってないじゃない。 |
セツ |
だったらさっさと言え。 |
イザヤ |
これ、買ってくれる?(花篭を出す) |
コウ |
いくらだ。 |
イザヤ |
50000。 |
ケイ |
高くないか。 |
セツ |
高いな。 |
ケイ |
それだけあれば握り飯が百は買える。 |
セツ |
握り飯に換算してどうするんだよ。 |
イザヤ |
これ一篭全部で50000。あ、篭は返してね。 |
ケイ |
けち。 |
イザヤ |
じゃあ、いいよ。教えない。 |
コウ |
わかった。買おう。 |
セツ |
ええ、本気ですか。 |
コウ |
ほら、50000。これでいいだろう。二人はどっちに行ったんだ。 |
イザヤ |
その前に。どうしてあの子達を追ってるの? |
ケイ |
どうでもいいだろう、そんなこと。 |
イザヤ |
言わなきゃ教えない、って言ったら? |
コウ |
調子に乗るんじゃないよ。自分の立場がわかってんのかい? |
ケイ |
その顔に傷をつけるくらい、わけもないんだぞ。 |
セツ |
金がもらえるだけありがたいと思えよ。 |
イザヤ |
わかったよ。それじゃあ、最後。星の石が関係してる? |
コウ |
お前も星の石を知ってるのか。 |
イザヤ |
あっちに行ったよ。 |
セツ |
あっちだな? |
ケイ |
行きましょう、親分。・・・あ、しまった。 |
コウ |
あ、ああ。 |
イザヤ |
(三人を見送ってから)何でも願い事をかなえてくれる星の石、ね。いつの時代も変わらないねえ。 |
|
|
イザヤ退場。逆から、アイリが歩いて入ってくる。間をおいて、セイが駆け込んでくる。 |
|
|
セイ |
アイリ様! |
アイリ |
・・・何だ。帰らないからな。 |
セイ |
約束してください。無闇に素性をばらさない、人を挑発しないと。それと、旅の状況はセレア様に手紙でお知らせします。追いつかれないようにしますから、手紙を送るのは許してください。 |
アイリ |
いいのか! |
セイ |
約束を守ってくださるなら。 |
アイリ |
守る。多分。 |
セイ |
多分? |
アイリ |
ああ。忘れていたら言ってくれ。一緒に、行くんだろう? |
セイ |
誰が筆不精のアイリ様の変わりに手紙を書くんですか。 |
アイリ |
よし、決まりだな。(去っていく) |
|
|
暗転。 |
舞台、暗い照明(いわゆる『特捜警察』みたいな)。リン、中央にいて台詞を言っている。シン、その周りで銃を構え、伏せ・・・一人、『警察官』みたいな世界に浸っている。 |
|
|
リン |
盗族が押し入った日から行方不明だった王女から手紙が届きだしはじめた。その手紙を手掛かりに追いかけても、いつも出発した後。だが、我々は諦めるわけにはいかない。一刻も早く、王女を保護しなければならない。どうやら、王女は星の石を探しているらしい。では、王女の先手を打つことは可能だろうか。いや、可能でなくてもやらねばならない! そのために、我々は・・・やめいっ! さっきから何をやってるんだ、お前は! |
シン |
なんだよ、いいだろ、俺、単独の特殊任務なんて初めてなんだから。いくら下っ端だからって、毎日行進練習ってのはないよなー。 |
リン |
たわけ! 我々は、王女捜索の重大な使命を受けているのだぞ。 |
シン |
あの二人のことだ。そのうち、土産引っさげて帰ってくるって。 |
リン |
シン・ガズナ! そのうちでは困るということがわかっているな? |
シン |
わからんな。 |
リン |
お前がただの同僚なら、殴っているところだ! ああ、こんな奴がいずれ大臣の職を次ぐかと思うと・・・。 |
シン |
へえ、いつの間に、大臣職を血筋で継ぐようになったんだったかな。殴りたかったら殴ればいいだろ。この先はともかく、今は、ただの兵隊だ。ほら。 |
リン |
と・・・とにかくだ、王女にもしものことがあってからでは遅いのだ。王女には、たった一人、付き人の子供しかついていないんだぞ。 |
シン |
付き人っていうか、ありゃ側近って言ってもいいと思うぜ。大体、王女自体がただの付き人だなんて思ってねーだろ。 |
リン |
この際王女がどう思っているかなんてどうでもいいんだ。とにかく、ただの子供一人で王女を守りきれるわけがない。 |
シン |
へえ。立派に術が使えて、武芸にも優れてる。近衛隊にだって、あんなやつはそういないぜ。それのどこがただの子供だって? |
リン |
それだが・・・王女が大袈裟に言っているだけだろう? |
シン |
信じられないなら、今度手合わせをしてもらったらいい。丁度、他の奴らに知らせるいい機会になるだろう。 |
リン |
・・・本当のところ、どうなんだ。 |
シン |
だから、言った通りだって。十年近くあいつらの御守りをさせられてきた俺が言うんだ、間違いない。 |
リン |
・・・。 |
シン |
さあて、行くか。 |
リン |
ど、どこにだ? |
シン |
探さないのか、王女様たちをさ。 |
|
|
暗転。この間、捜索過程を暗示するようなパントマイムでも入れると面白いと思うけど・・・。 |
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アイリ |
意外に少なかったな。これで全部か。 |
セイ |
あとは、このパリオットで終わりですね。 |
アイリ |
ああ。しかし、星の石のことはあまり知られていないらしいな。あんなに簡単に譲ってくれるなんて。 |
セイ |
ただの宝石にしては、価値はあまりなさそうですしね。それよりもいいですか、これが終わったら帰るんですよ。例え何も起きなかったとしても。 |
アイリ |
わかっている。何度も繰り返さなくてもいいだろう。私はそんなに信用がないのか? |
セイ |
・・・・・。 |
アイリ |
この沈黙は何だ。 |
セイ |
わかりきったことを訊くから、答える気もうせていました。 |
アイリ |
セイ・・・。 |
セイ |
それにしても、パリオットのどこでしょうか。 |
アイリ |
どこだろうな。調べても判らなかったし・・・花売りも、細かいことは言わなかったんだろう? |
セイ |
そのはずです。 |
アイリ |
はず? |
セイ |
何しろ、気がせいていましたから・・・。 |
アイリ |
仕方ないな。誰か捕まえて聞いてみるか? |
イザヤ |
その必要はないよ。 |
アイリ |
花売り! |
イザヤ |
うーん、その呼び方はちょっと。花売りなんて、ただの職業じゃないか。 |
アイリ |
他に呼びようがないだろう。 |
イザヤ |
どうして。 |
アイリ |
名前を知らない。 |
イザヤ |
そっか、名前言ってなかったのか。それじゃあ仕方ないな。でも、せめて『かわいい花売りさん』くらい呼んでくれてもいいんじゃない? |
セイ |
僕達に用ですか? |
イザヤ |
うわー、無視されると哀しいんだけど。 |
セイ |
用がないなら失礼します。 |
イザヤ |
ああ、そうそう。すっかり横道にそれちゃった。君達、星の石は全部集められたんでしょう? |
アイリ |
それも、夢で見たのか? |
イザヤ |
まあね。今回は、それの使い方を教えに来たんだよ。集めただけじゃ、ただの石。願いを叶えてもらう為にそれを集めたんでしょう? だったら、そのままじゃ駄目だよ。 |
アイリ |
お前は、その使い方を知っているのか。 |
イザヤ |
当然。 |
セイ |
(アイリとじっと見詰め合ってから)どうすればいいんですか? |
コウ |
それはあたしも興味があるね。 |
|
|
盗賊たち、出てきてアイリを捕らえる。 |
|
|
アイリ |
放せ、何をする! |
セイ |
アイリ様! |
ケイ |
静かにしろ。 |
セツ |
動くんじゃない。動いたら・・・わかってるな? |
イザヤ |
やっと、ご到着? |
コウ |
あんた何者だい? |
イザヤ |
かわいい花売りだよ。 |
コウ |
それだけじゃないだろう。何故、星の石の事を知っている。 |
イザヤ |
そんなにマイナーな話になってるんだ、星の石って。・・・この分だと、そのうち忘れられそうだね。 |
コウ |
何をぶつぶつ言っている。答えろ。何故だ。 |
イザヤ |
それはねえ。僕の名前がイザヤだからよ。 |
|
|
セイ、鈴を二度鳴らす。ケイとセツ、アイリは崩れ落ち、眠る。 |
|
|
セイ |
効かない・・・? |
コウ |
またあの妙な術か。お前、あいつらに何をした。 |
セイ |
眠ってもらっただけです。それよりも・・・・・・何故あなた達には効かないんですか。 |
イザヤ |
せっかくここまで来てくれたんだから、それなりの待遇を取らなくちゃね。 |
セイ |
・・・貴方は何者ですか。 |
イザヤ |
だから、言ったでしょう。僕はイザヤなんだよ。わからない? |
コウ |
あの、気まぐれな神? お前が? |
イザヤ |
ずいぶんな言い草だね。まあ、否定はしないけど。 |
セイ |
妻のエイカ神とともに天地を創り、後に人を誘惑し、地に封じられたエイカ神を解き放つ術を求め、各地さまよい歩いている、人々の守護神。その性情は気まぐれ、時によって賞罰が大きく異なる。旅人の守り神でもある。それが貴方だと言うんですか? |
イザヤ |
まあ、そうも言われるね。 |
セイ |
・・・信じられません。 |
イザヤ |
へえ、どうして? |
セイ |
神なんているわけがありません。 |
イザヤ |
そんなこと言われても、いるものはいるんだし。 |
セイ |
神がいるならどうして、どうして・・・助けてくれなかったんですか。 |
コウ |
坊や、馬鹿言ってんじゃないよ。信じないなんて言って、あんたが一番信じてるんじゃないのかい? |
セイ |
違う。 |
コウ |
そうかい? 神は万能だなんて思うから、そんなことを言うんだろう。信じてたのに、裏切られたから怒ってるんだろう。 |
セイ |
違う・・・ |
コウ |
神様は助けてなんてくれない。ただ気まぐれに、あたしたちにちょっかいを出してくるだけだ。どんなに泣き叫んでも、聞こえてなけりゃ意味がない。まあ、聞こえたからって手を貸してくれるとも限らないけどね。 |
イザヤ |
随分な言いようだね。 |
コウ |
その通りだろう? |
イザヤ |
まあ、極論を言っちゃえばそうかもね。同じ体験をしても、こうも考え方が変わるんだね。それとも、年月の差かな? |
セイ |
あなたも・・・・・・? |
コウ |
そんなことはどうでもいい。星の石の使い方を教えろ。 |
イザヤ |
そうだねえ、 |
シン |
セイ? |
セイ |
シン。どうして・・・ |
シン |
ああ、やっぱりセイだ。こんなところにいたのか。・・・あ? 取り込み中か? 悪い悪い、気にしないで進めてくれ。 |
イザヤ |
タイミングばっちり。僕って、ひょっとして凄い? |
コウ |
おい、続きはどうした。 |
イザヤ |
続き? ねえその前に、星の石ってなんだか判る? |
コウ |
何って、星のカケラだろう。昔に落ちた流星の、その後に残っていたって言う。 |
イザヤ |
へえ、とりあえずちゃんと知ってるんだね。 |
|
|
セイ、アイリのところへいく。 |
|
|
シン |
セイ、お前はあっちにいなくていいのか? 星の石が集まったんだろ。 |
セイ |
僕が叶えてもらっても意味がないよ。これは、アイリ様が言い出したことだから。(鈴を取り出して幾度か鳴らし)アイリ様、起きてください。旅行は終わりました。帰りますよ。アイリ様。 |
イザヤ |
無駄だよ。ここには結界を張ったから、僕が解かない限り三人は起きない。 |
セイ |
それでは、解いてください。 |
イザヤ |
セイ君。前に会ったときからちっとも変わってないね。人の話は最後まで聞きなって言っただろう。僕は君たちに話がある。だから、話が終わるまでは解かない。力ずくで解かせようとしても無駄だよ。君より僕のほうがずっと強いんだから。 |
シン |
はーい、質問。ここには何の結界を張ってるんですかー? |
イザヤ |
関係者以外が入り込まないように、邪魔な人達には眠ってもらってる。 |
シン |
その説明でいくと、俺も関係者だってことになるんだけど。 |
イザヤ |
関係者だよ。 |
シン |
俺はセイと姫様を探しに来ただけだぜ。 |
イザヤ |
でも、あなたがこれを動かすカギなんだよ。 |
コウ |
こいつが? |
イザヤ |
シンって名前、星っていう意味があるんだ。知らなかった? |
シン |
だから? 名前に意味のある奴なんてざらにいる。俺のがたまたまそうなってるだけじゃないのか。 |
イザヤ |
半分は、その通り。名前そのものには意味はない。だけど、名前を付けた側の意識に、意味がある。 |
シン |
・・・ちょっと待て。それってつまり、うちの母親や父親が何か企んでたってことか? |
エイカ |
企んでたって言うと言いすぎだと思うけど。 |
シン |
うわーっ、騙された! 話がうますぎると思ったんだ。親愛なる相棒殿はいきなり眠り込むし、適当に歩いた方向にセイと姫さんがいるし。全部あんたの手の上だったわけか。 |
イザヤ |
そんな大した物じゃないし、全部が全部、僕のやったことじゃないよ。 |
シン |
でも幾らかはあんたがやったことなんだな、イザヤ神。 |
イザヤ |
まあね。よく、言ってないのに気付いたね。聞いてた? |
シン |
いいや。小さい頃からあんたへの礼拝は欠かしたことがなかったからな。こんな未来が待ってると判ってたら、銅像に落書きでもしとくんだった。いや、これからでも遅くはないか。 |
イザヤ |
僕を目の前にしてそんなこと言っていいのかな? |
シン |
いないところで言っても意味がないだろう。 |
イザヤ |
面白いこと言うねえ。 |
シン |
ほめてくれたところで、なんで俺が鍵なのか、教えてくれるとありがたいけど。 |
イザヤ |
あなたのご先祖と、色々あってね。 |
シン |
ふうん? 飼ってた亀でも助けたか? |
イザヤ |
どっちかっていうと、いじめてた方かな。 |
シン |
そりゃまあ、ろくでもない縁だな。で、カギの俺はどうすればいい? |
イザヤ |
石を持って。 |
シン |
それだけか? |
イザヤ |
うん。 |
シン |
それだけのために、わざわざ呼び出すなよな。おいセイ、どうする? |
セイ |
え? |
シン |
俺はあっちの神様よりお前たちに味方するからな。どうするか、お前が選べ。 |
コウ |
余計なことを言うな。 |
セイ |
願い事を叶えるという言い伝えは、本当ですか? |
イザヤ |
物にはよるけど。 |
コウ |
なんだって?! |
セイ |
それは、一人だけのことですか。 |
イザヤ |
人数制限はないよ。だけど、僕の基準では、セイ君とそこのお姉さんだけ。 |
シン |
俺は? |
イザヤ |
あなたは、見てるだけ。 |
シン |
なんだ、残念。 |
コウ |
おい、早くしろ。とりあえず試せばいいだろう。 |
セイ |
僕は・・・・・お願いします。 |
シン |
了解。星の石は? |
コウ |
そこのがきが持ってるんだろ。 |
イザヤ |
・・・あなたは、目を逸らすことはできないよ。 |
|
|
シンが(アイリが持っていた)石を持ったところで暗転(?)。その間にアイリ・シン・セツ・ケイははける。次、白のイメージ。 |
|
|
コウ |
ここはどこだ? 他の奴等は・・? |
セイ |
アイリ様、シン! |
コウ |
お前はいるのか。その様子じゃあ、お前もどうなってるのかわからないみたいだな。 |
セイ |
はい。でも多分・・・ |
声(エイカ) |
願い事は?(以下、願い事を言うまで等間隔で聞こえる) |
コウ |
女の声・・・エイカ神か?! どこにいるんだ!? |
セイ |
どうやらここで、願い事を聞いてくれるようですね。・・・願いを言うまで延々とこの声を聞かされるんでしょうか。 |
コウ |
変な気分だね。願いが叶うから、嬉しいはずなのに。どうして不安になんてなったりするんだろう。・・・あたしが先に、言っていいかい? |
セイ |
どうぞ。ああ、戻れたら、もし僕が戻らなくても怒らないでくださいと、アイリ様に伝えてもらえますか? |
コウ |
それはいいけど、戻らないつもりかい? |
セイ |
もしかしたら、ですよ。 |
声 |
願い事は? |
コウ |
誰が親父をはめたのかが知りたい。 |
声 |
どうして? |
コウ |
十年近く前、親父は反乱を起こそうとしたって疑いをかけられた。あの親父がそんなことできるわけないのにな。それで、みんな殺された。あたしだけがかばわれて、他のみんなは、あたしの目の前で切り殺されたよ。復讐がしたいわけじゃないし、知ったからどうにかなるってわけでもない。でも、知りたいんだ。 |
声 |
それだけでいいの? |
コウ |
ああ。 |
声 |
本当に? |
コウ |
・・・ああ。叶えてくれるか? |
|
|
コウ何かに導かれるように、はける。 |
|
|
声 |
願い事は?(以後、何回か声だけが聞こえる。立ち尽くすセイ) |
セイ |
叶えてもらいたいことはたくさんあります。正直、星の石の事を聞いたときは殺されたお父さん達に会えるかもしれない、とも思いました。強盗に殺された、両親に・・・。でも、そんなことを願うつもりはありません。 |
声 |
どうして? |
セイ |
家族が殺されたことを忘れるつもりはありません。でも、後ろばかり見ている必要もないと思います。それに、僕は・・・あなた達の力をかりたくありません。 だから、あなたが僕に干渉しない、それが僕の願い事です。 |
声 |
それだけでいいの? |
セイ |
はい。 |
声 |
本当に? (間を置いて)本当に? |
セイ |
・・・いつから、言葉を無くしてしまったんですか? |
声 |
本当に? |
セイ |
・・・はい。 |
|
|
セイ、コウとは逆の方向に退場。コウがはけた方からイザヤが出てくる |
|
|
イザヤ |
鋭いなあ、セイ君は。 |
声 |
願い事は? |
イザヤ |
エイカ――いや、恵里華。君が、目覚めてくれることを願うよ。莫大な力を作るために、いじられて心をなくしてしまった君が、目覚めることを。 |
声 |
願い事は? |
イザヤ |
・・・駄目なんだね、やっぱり。何回も、何回も繰り返して。それでも、僕の願い事は叶えられないんだね。ねえ。十六夜って呼んでくれる人は、もう誰もいないよ。――どうせなら、僕の心も一緒に壊れていたら良かったのに。 |
声 |
願い事は? |
イザヤ |
――少しだけ、黙っていてくれないか。 |
声 |
それだけでいいの? |
イザヤ |
ああ。 |
声 |
本当に? |
イザヤ |
本当に。――星の石が忘れられていくなら、もう諦めるべきなのかもしれないね。皮肉だね、神様なんて。助けを求めていたのは、僕たちの方なのに。これで、ゆっくり眠れるね・・・(退場) |
|
|
暗転。暗転中、「願い事は?」という声が聞こえている。 |
セイ、シン、コウが倒れていて、それぞれ心配そうに覗き込んでいる。と、コウが目を開ける。 |
|
|
ケイ |
お頭! |
コウ |
誰がお頭だ、誰が。 |
セツ |
姐さん、よかった。このまま起きなかったらどうしようかと・・・。 |
ケイ |
そう。死体の処理をどうすればと・・・。 |
コウ |
そうかそうか、よっぽど自分の墓が欲しいらしいね。 |
セツ |
あ、そう言えば星の石はどうなったんですか? 俺たち、またあの術にかかってたらしくて、ふうっとなったっきり意識がないんですよ。 |
コウ |
ああ、あれか。・・・とんでもないガセだったよ。 |
ケイ |
やっぱり、そうそう楽な話はないっすね。 |
コウ |
そういうことだ。 |
セツ |
じゃあまた、こつこつと働きますか。 |
ケイ |
そうと決まりゃ、厄介が起こらないうちに、さっさと行きましょうや、親・・・姐さん。 |
コウ |
悪いが、先にいっといてくれ。すぐに追いつくから、いつものところで。 |
ケイ |
ええ、どうしたんすか。 |
コウ |
いいからいきな。 |
セツ・ケイ |
(二人、顔を見合わせてから)はい。お待ちしてます。 |
|
|
コウ、二人がはけるのを見送ってから。 |
|
|
コウ |
二人とも、まだ起きないのかい? |
アイリ |
一体何があったんだ。セイの術で、シンはともかくセイが倒れるはずがない。教えてくれ、何があったんだ。セイはどうなってるんだ。 |
コウ |
本人に直接訊きな。預かってた伝言は、もう必要ないみたいだよ。 |
アイリ |
え? セイ・・・! |
セイ |
アイリ様。ご迷惑をおかけしました。 |
アイリ |
全くだ。星の石だって、私が先に探そうと言ったんだぞ。 |
セイ |
はい。覚えています。大きなケーキを食べるんでしたね。 |
アイリ |
そうだ。それを・・・・ずっとこのままだったらどうしようかと、思ったじゃないか。 |
セイ |
すみません。でも、ちゃんと帰ってきたでしょう? |
アイリ |
ああ。そうだ、願い事は叶ったのか? |
セイ |
多分。 |
アイリ |
多分? また、頼りない答えだな。私はちゃんと叶ったぞ。 |
セイ |
星の石もなしにですか? |
アイリ |
私の願いは、セイと一緒に星の石を探すことだったからな。大きなケーキはそのおまけにすぎない。だから、そっちはどうでもよかったんだ。セイ、城に帰ろう。 |
セイ |
そうですね。 |
アイリ |
早く戻らないとセレアが怒るしな。 |
セイ |
もう遅いと思いますよ。 |
アイリ |
そんなこと言うなら、置いていくぞ。(走ってはける) |
セイ |
アイリ様! |
|
|
セイ、嬉しそうにアイリを見送り、シンに向き直る。 |
|
|
セイ |
いつまで狸寝入りを続けるつもり? |
シン |
うんまあ、いつかはやめるさ。(起きる) |
セイ |
当たり前だよ。 |
シン |
どうして判った? |
セイ |
寝ているはずの人が手を振っていたら、気付くよ。 |
シン |
姫様は気付いてなかったみたいだけどな。て、そうじゃなくて、エイカ神のことだ。 |
セイ |
なんのこと? |
シン |
とぼけるな。俺は、全部見えてたんだよ。 |
セイ |
え。 |
シン |
俺の先祖ってのは、何したんだかな。エイカ神の見えるものを、見てた。多分、世界の全部が見えてた。拷問かと思ったぜ、入ってくるものが多すぎて、頭が追いつかなくて。音が、世界の音が聞こえないのだけが、せめてもの救いだった。 |
セイ |
・・・。 |
シン |
そこに、お前とあの姐さんの声は聞こえた。なんで、判った? エイカ神が、壊れてるって。 |
セイ |
ただ、なんとなく。一時、神について色々と調べていたから。 |
シン |
お前が城に来たばかりの頃か・・・。 |
セイ |
うん。両親が殺されたことで、神さまに文句を言いたくて調べて。伝説のかけらを繋げれば、実際にあっただろうことも見えてきて、封じられたんじゃなくて、閉じこもったって、これは、あそこに行ってみて判った。 |
シン |
成る程な。まあ詳しくは、帰って親父でもとっちめるか。手伝えよ、セイ。 |
セイ |
はいはい。 |
シン |
どうする、それ(星の石)。俺は、もう二度と持ちたくないぞ。どこかに埋めとくか。 |
セイ |
しばらくは・・・僕が持ってるよ。埋めても誰かが見つけてしまうかもしれないから。 |
リン(声 |
シン・ガズナ! どこに行った! |
セイ |
お呼びがかかってるよ。 |
シン |
そっちこそ、そんなにのんびりしてていいのかなあ。 |
アイリ(声) |
セイ。何をしている。 |
シン |
ほら。さて、我が相棒の説教を聴きに戻るか。 |
セイ |
どうせ戻る方向は同じなんだから、一緒に帰らない? |
シン |
久々に幼馴染がそろうわけか。それで任務も果たせるな。よし、連れてこよう。ここでいいな。 |
セイ |
うん。 |
アイリ(声) |
セイ。 |
リン(声) |
シン。 |
セイ |
今行きます。 |
シン |
ここにいるぞー。 |
|
|
二人、逆方向に走っていく。 |
イザヤ、ふらりと現われて。 |
|
|
イザヤ |
元気だねー。・・・さて。僕も、他のところに行くかな。不老不死なんて、冗談じゃないね、まったく。 |
|
|
ふらりと、歩き出す(客席に去るとか)。セイやシンたち、舞台(集合場所)に戻ってくる(閉幕)。 |