「聞いたか？奈央。雪だぞ、今夜は雪だ！」
天気予報を見て父・松前淳47歳（近ごろ薄毛）は私にこう言った。鼻息は荒いわ、唾は飛ばすわ。おまけに食事中ということもあって、飯までとばして。最悪に興奮している

いいとしをして馬鹿ではないだろうか、雪くらいで。

私は娘が無反応なことを気にせず一人はしゃいでいる父をちらっとみた。

私が住んでいる町に、雪はつもったことはない。うっすらと雪化粧することさえない。少なくとも16年は絶対だ。雪が降ることさえ珍しく、塵やほこりみたいに思えて綺麗だと思ったこともない。雪という天気が自分のなかに定義されているかも分からない。

だが父（ちょび髭）はちがうらしい。弟もあきれるほど子どものように目を輝かせ、しきりに雪と連呼している。父の横にいる母といえば、素早く父からチャンネルをうばい、テレビの電源を切るほど冷静だ。
「雪はいいですけどね。テレビをみながらごはん食べないでくださいよ。こんなにごはん粒飛ばして…片すのだれだと思ってるんですか」
言われて父は、不満そうに口を尖らせて黙った。

どうやらあたしは母の血が濃いらしい


それにしても今日は本当に寒い。室内があったかいために窓が発露している。きっと外に出れば息がまっしろにちがいないのだろうけど、そんなことをいうと余計父が喜ぶので私は黙っていた。
それに気付いたのかどうか、父は目を輝かせこちらを見た。
「奈央、明日雪がつもったら一緒に雪だるま作ろうな。もちろん夕も」
…あんた本当は何才だ。仕事はサボる気か。明日は学校じゃ

いいたいことはいろいろあったが、言うだけ無駄な気がして私と弟は黙々と御飯を口にはこんだ。

だいいち積もるほど降らないっての




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そして次の日。

「お〜い、起きろ！」

目覚ましではなく、うるさい声で起こされた私と弟。不機嫌に発信源をみる。

こいつは何がしたいのだ

父47歳はかわいいぼんぼんのついた毛糸の帽子をかぶっていた。
「雪だ！大雪だぞ！窓の外を見てみろ」

さもみたくなさげな緩慢な動作で窓の鉤をあけ外を見た。



………
そこは真っ白だった。一階の半分は埋まっているようだった
ただ真っ白な世界に私と弟は声もでなかった。
ただどこか遠いところで父のうきうきした声が聞こえていた。


この雪なら会社も学校もやすみだぞ、と。


初めて大雪が降った日の私の記憶は白色しか残っていない