虚言帳

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2007.6

2076 年 6 月 1 日 雨が降らねば水無月

 先月頭に、衣替えだーと書いていたが今日ですね。一月も早くにせききって衣替えに走ったらしい、私は(爆)。
 いい加減半そでに切り替えようかと思いつつ、朝晩が少し冷えるので未だ踏み切れません。でも、長袖シャツの腕をまくっていれば同じだと思う…。

 このところの、ひたすらに小説を読む生活。一週間ちょっと前に借りた七冊を、明後日図書館に行くまでには読みきれそうで一安心。
 図書館の新着本で、題名とあらすじで気になるものがあれば片端から予約や取り寄せをして読んでいるのですが(書評やレビューで気になったものがあったら探すのは以前からとして)、それだけに、今までなら手を出さなかったような本も読むわけで。面白いと思えなかった本に連続でぶつかると結構へこむ…。
 なるべく途中で読み止めることはしたくないので頑張るのですが、しかしやはり好き嫌いはあるなーと実感しますねー。文体が合わなかったら、投げる率が上がります。
 ところで、文体やら調子やらは好みなのに題材が駄目だったり、逆に、あらすじや方向は好きなのに文体や登場人物が好きになれなかったりすると、無性に腹立たしいという(苦笑)。

 微妙に話がそれますが、『図書館戦争』のシリーズを読んで、ファンサイトあるだろうなーと探して、いくつかブックマークに入れて。
 ブックマークが増えすぎているのでフォルダを作って整理しているのですが、上記のシリーズのフォルダは「図書館」。
 …お気付きかと思いますが、本の予約や検索、確認をしようと市の図書館のホームページを見ようとして、うっかりそのフォルダをクリックする毎日です(学習しろよ)。

 図書館といえば、この頃は、市の図書館にライトノベルががんがん入ってます。
 やー、それはいいのだけどさー、助かるのだけど、でもなんとなく…うーん。図書館という場に、あの可愛らしい(?)絵がなー…。
 むう。複雑です。

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 その鍵を受け取ったのは、果てしなく晴れた日だった。

 晴天の葬式はあまりに嵌まりすぎで、骨になるのを待つ間に、ぼけっと日向ぼっこをしていた。寝不足と混乱で、芸のない例えだが、頭の中は真っ白だった。
「電話、あなたじゃない?」
「え。あ」
 制服姿の少女が、事実を指摘して去って行った。通りがかりだったのだろう。
 俺は、彼女の後姿を見送りながら、いつの間にか放り込んでいたらしい携帯電話を、喪服の内ポケットから取り出した。着信番号は近所のものだが、登録はされていない。
 無視しようかと考えもせず、通話ボタンを押していた。
「はい」
『鍛冶朝陽さまの携帯電話で間違いないでしょうか?』
「はい」
 はあ、良い声ってのはあるもんだなあ、と、そんなことを思った。これで妙齢の女性の声なら文句ないのに、とも、ちらりと考えた。
 電波の先にいる人物は、そんな的外れどころか的の裏側に回った俺の思惑にも構わず、先を進めた。
『鍛冶真之さまとお約束をしていたのですが、どちらにいらっしゃるか、ご存知ではありませんか?』
「…いや、なんでこの番号知ってんの? あんた誰?」
『失礼致しました。私、熊崎と申します。鍛冶真之さまが私の持つ物件を購入されましたので、本日十三時に最終手続きを行うお約束になっていたのですが』
「物件て何」
 なんだか無駄に空回る頭を抱えて、俺は、火葬所の日当たりのいい廊下で、小さな機械を片手にひたすらに立ち尽くしていた。
 そうして、刻々とカルシウムの塊になっていく親父が、知らないうちに一財産手に入れて、建物付の土地を購入していたことを知った。頑なに携帯電話を拒んだ親父は、何かあった際の連絡先に、勝手に、俺の携帯電話を指定していた。年に一回顔を会わせるかどうかといった奴を指定するな。
「とりあえず―― 一度、会ってもらえませんか?」
『はい、お待ちしております』

 それが、事務所兼住処の鍵を受け取った日。同時に、あの無責任な悪魔に出会った日。


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 ふらーと。当面の生活には経済的な問題のない無気力青年と人間臭いと思いきやそうでもない悪魔とを狂言回しの話を書いたらどんなかなあ、と思ったのでした。
 続きを書くか書かないかは、今進行中の諸事情に、ちょっとだけ関わってきます(何)。

 ついさっき、友人の通う大学(友人は院生なのですが)も、麻疹で休校と知り。
 …こわいです。
 麻疹、予防接種はしているけど、かかってないもの! 予防接種も万全ではないらしいし。成長してからのあのあたりの病気は恐いよ!
 私、水疱瘡しかかかっていないので、それがとてもこわいです。おたふく風邪とか、おそろしい…!  

2007 年 6 月 2 日 ちいさな嘘で世界がふり向くのなら 嘘つきになろう

 この歌が昨日から、頭の中でぐーるぐーる回ってます(苦笑)。冒頭だけ。そして歌を聴いただけなので、歌詞の漢字変換は多分違う(どこを漢字にしてどこを平仮名にするか、が)。
 何だろうなあ、この歌詞を聞いたとき、「ああ」と思ったのですよ。

 今日会社で、「桑○」という苗字の人を、何故か「梨木」と勘違いして語本人に名前を訊く破目に(爆)。
 お、覚えてたんだよ?! 珍しく、ちゃんと顔込みで覚えていたのに! ←眼が悪いのに裸眼でいるものだから人の顔がろくに見えずなかなか人の顔が覚えられない、というか区別がつかない
 一体誰だよ梨木さん…多分、「桑」からの植物つながりだとは思うのですが…連想ゲームか。

 さっき図書館の本の予約取り置き到着分を確認したら、九冊に。…増えたな。  

2007 年 6 月 3 日 小雨降る

 昼前に図書館に行ったら、小雨に降られました。昼ごろ、しとしとと降っていたからそれよりはよかったですが。

 図書館、本が十冊届いていて、何度か話したことのある人(たぶんパート)と、多いですねーと笑い合ったりしていました。
 や、何か、笑うしかない。
 厭なわけじゃなく、むしろこれだけ読みたい本があるんだーとわくわくするのですが、でも、笑うしかない。何なのだろうなあ、あれ。
 とりあえず今日、友人から借りていた「文学少女」シリーズ四作目の『穢名の天使』と『刀語』の一巻と三巻(二巻だけ大分前に届いて読んだ)と、『シフト』の二巻とは読破。これから、『まんまこと』にとりかかります。
 明日も休みだし、がんがん読んでいこう。

 今日、柄にもなくというか厭むしろ好きですが、甘い話を書いていたら、突如として、私って少女漫画で育ったなあ、と実感しました。
 根底が。
 いやしかし甘いといったところで、私の場合たかが知れていますがねー。
 えーとこの話は、サイトには…上げる、かな…いつになるか判らないけど。まず本編書かないとね!(爆)←本編その後の話ばかり書いている
 だけどその話、三部構成でして、一部と二部が男側女側の視点で、三部は第三者にしたら、三部では感情がほぼ台詞頼みになり、わーこいつらの感情の動きわからなそーと思ったものです。いやそこを何とかしないと。

2007 年 6 月 4 日 うらやましい

 図書館に読んだ本を返しに行ったら、中学生がカウンターの中に座っていました。
 そうか、トライやるウィーク。←しかし凄いセンス
 中学生の、仕事体験学習。何かもう、高校生くらいで一週間限定のバイトとかさせてやれよって思うのですが(受け入れる側としては、お荷物でしかないですがね。私が中学生なら嬉々としていったと思う)。
 あーっ、いいなっ、図書館の仕事! 大学で実習行っとけば良かった!(有料なので申し込まなかった)

 「プロポーズ大作戦」を見ていて。なんだか、ちょっと泣きそうに…(苦笑)。
 ああもう、なんだよ、この青臭さ。
 もちろん恋愛が中心なのだけど、それよりも、「戻れない時間」というのが沁みます。うーん、青春に縁がなかっただけに(ないというか縁を叩き切っていていったというか)。
 切ないなー…。

2007 年 6 月 5 日  事件です

 昨日電話があって知ったのだけど、会社で、ちょっとした問題が持ち上がっていたようです。
 派遣会社の人の採用を決めていたのですが、何故か派遣会社に、不採用通知が行っていたというのです。私が不採用者への履歴書の返送を行っていたから、一応確認、ということで電話がかかってきたのですが…聞いてみたら、手書きでFAXが送られてきたのだとか。
 送り返すとしたら個人にだし不採用のお断りは活字だし。
 あからさまに違うから、本当に確認ということだったのだけど、いや吃驚。しかも、採用担当の部長宛に、官製はがき裏表にびっしり手書きで書かれた文章が、封筒に入って速達で送られてきたのだとか。
 はがきもFAXも、悪筆で物凄く読みにくい上にはがきの方は判読不可能のような部分さえありましたが、とにかくFAXはうちの会社を騙って採用できないと断っていて、はがきの方は娘を云々で、誹謗中傷というか脅迫というか。「警告」という単語もありましたそういえば。
 ちなみにはがきは、今日も来ていました。今度は封書ではなくはがき単品。(作っている製品に)毒を入れるぞ、責任問題になる、と書かれていたようです。
 派遣会社の人が、派遣予定だった人(そんなことがあったからとりあえずお断りした)の家に行って話を聞くと、親戚と揉めているからそこじゃないか、うちにもそんな手紙が来た、ということだったらしいのですが。一体どうなのか。
 そんなこともあるんですねー。

 ところで今日、このところ絶やすことなく購入しているカップアイスを食べていると、唐突に母に言われました。
 母:「あんたそれ、500(kcal)くらいあるんちゃうん」
 私:「ん? んー(カップを見て)、306(kcal)やって」
 母:「ケーキ一個分くらいあるやん」
 私:「うんまあ、それくらいはあるやろうなあ」
 母:「そんなの毎日食べとったらあかんで。カップ溜まって大変なんやから
 …母さん!(笑)
 食べ過ぎって言われるのか、珍しいなあ、と思っていたら違いました。いや食べた後のカップが溜まって、捨てるまでに間があって邪魔なの判るけど。カロリーを気にしない娘のせいで、変化球の説得は成功しませんでした。
 ていうかどうせならその路線で貫こうよ。効果ないけど(爆)。←途中でわかったからこそぶっちゃけたのだろう

2007 年 6 月 7 日 ねーむーいー

 この頃どうにも、九時前後に眠気が襲ってきます。うう、眠い・・・でも寝ると中途半端に起きてお風呂になる・・・という。
 とりあえず、休日にも遅くて八時には起きる生活にしたいのですが、どうにも九時くらいまでは寝倒してしまうー・・・。その癖夜は遅い。というか、夜が遅いから早く起きられないのか。
 
 先日書いた「事件」にはまだ続きがありまして、昨日も封書が来ていたのですが、それにはカッターナイフの刃が二枚、入っていたのだとか。
 ちなみに、差出人のところに書かれている住所と名前の人が出したのではない、らしいです。本当のところ知らないけど(爆)。
 それにしても、カッターナイフ・・・定番はかみそりでは?

 ところで、裏で暗躍中(違)というのに、どうにもどうにも、停滞中。
 今日会社でふと、怪談話めいた話が思い浮かんで、あー授業や講義受けてるなら即書くのにーと恨めしく思ったりしました(苦笑)。
 いやまあ、そっちはどうでもいいのです。書き散らさないならまあそれなりに安定しているだろうし。
 友人たちに連絡とって、とかいう方向に向かわない。ううむ。まずいなあ。

2007 年 6 月 8 日 ふかふか・かりかり

 今日、砂糖が古くなるからと、母がスポンジケーキを焼きました。
 わー、久々ー。そして焼き立てがあったかくってサクサクしておいしい。クリームとか果物とか、飾りつけいらないです。
 冷ましてからはしっとりおいしいのだけど、やはり焼きたてがいいですねー。

 とろとろと家にこもっていた一日でした。
 図書館行こうと思っていたのだけど、天気が怪しかったからこもっていたら、午前中に通り雨と雷があったくらいで、後は何とか雨は降っていませんでした。あれ、日曜のが雨模様?

 ところで、夕方に一〜二時間居眠りしたら、何か妙な夢を見ました。よく覚えてないけど・・・自衛官っぽい女の人視点でした。どこかの半島。
 明日は休日で明後日は総員出勤、という日の夕方か昼で、マウンテンバイクで出かけようとしたところに知り合いが来て、それとは別の仕事の後輩が、きな臭い情報を運んできて、総員出勤の前に阻止しないと大変なことに、という。
 な、何これ?
 妥当に、有川浩からの影響だろうとは思うけど・・・本当、影響受けやすいなあ。

 そういえば猫屋の台本を、「月の都」(台本置き場のサイト)にあげようかなーと思っていたのですが、思いついた傍から忘れて今に至ります(爆)。
 うーん、とてつもなく青臭そうだしなー。そして聞き取りにくい台詞が多そうだなー。
 「大江戸ロケット」というアニメを見ていて、これって舞台でどんな風にやったのかなあ、というのが気になる今日この頃(劇団の台本をアニメに使っている)。しかし、面白い進出もあったものだ。

2007 年 6 月 10 日 奮闘してました(?)

 昨夜、ある好きな個人サイトにいったら、閉鎖宣言が出ていましたー・・・。
 実際の閉鎖はサーバーの契約期限が切れるまでということで、一年ほど間があるのですが・・・それまでに、やっぱりと思い直して再開してくれないかな・・・(未練がましい)。
 とりあえず、今ある分だけでもと、保存にはしって終わった夜でした(苦笑)。目がちかちかした。

 それで我に返って(我が身を眺めて?)、そういやここも更新止まってるよ、と思ったのでした。
 うーんー、でもあれだなあ、短いやつはそうでもないのだけど、長いやつって、書いてから時間が経つと、わざわざ載せるのもどうかと思えてくるな…出来が良いわけでもないだけに(今上げている分も含め全般的に)。
 そんなわけで、ここって何だろうとますます混沌としていくのだけれども、まあ虚言帳を月に何日かだけでも書いてるうちは、このままだろうなあ(サーバーが突然店仕舞いしてその後いいところがさっぱり見つからなかったりしたら話は別だけれども)。
 ブログ、とひと括りでいいのか判らないのだけれど、ああいった・・・日常の日記部分を核にしたところはどうにも性に合わないし。今現在、ほぼその日常部分しか書いてない奴が言うと信憑性がないですが。

 しかしおそらく大学を出たあたりから、微妙に虚脱状態。
 企画立てたり高校の文芸部が一緒だった友人に声かけたりと、やる気を出そうとはしているのだけど、何かなあ。うーん、何なのだろう。
 なにかをつくることに対する気持ちを線グラフにして例えるなら、+−ゼロのところを横這いといった感じでしょうか。わからないけども。

 何かどよどよしてますが、まあよくあることで。多分、今読んでいる『オタク論!』の影響もあるのだろうなあ。何かよく判らないところで癪に障るのですよ、これ。

2007 年 6 月 11 日 むしろやってみたい

 今日、門を塗り直したので裏回って帰ってね、と言われました。門と言うか・・・鉄扉? 違う、鉄格子??
 大分人が帰ってからのことだったのだけど、このところ、日中にはその日の仕事だけで手一杯で片付かないものが溜まったきていたので、少し長く居残りしました。
 そしてとうとう、製造部の課長と二人だけになってしまい、裏門(?)、開いてますよねーと言いつつ帰り支度をしていたら、冗談で、いや閉まってるわ、と言われ。
「ええっ、そんな、どうやって帰ったら!」←冗談とわかりつつ普段行かない場所なので少し不安
「もう、会社泊まりー」
「それなら、歩いて帰りますよ。塀乗り越えて」←徒歩でも二十〜三十分ほど
 当然ながら無事帰れましたが、大して高くないあの金網程度、簡単によじ登れるだろうなあ。もしかしたら、自転車だって持ち上げられるかもしれません(笑)。

 えー、今日から日記連載開始・・・多分。
 続くかどうかわからない、と言うかここ自体毎日書いてもいないのですが、できる限りやっていこうということで。そうしていかないと、長い話は途中で止まると気付いた(遅)。
 とりあえず、何日かは今まで書いた分をだーっと転記。ここは、大分前にやはり虚言長に載せた覚えがありますが。
 多分、辻褄が合っていないところなぞ出てくると思うのですが、できたら突っ込んでやってください〜。←結構自分では気付かない

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 夢を見た。
 そこでは、リウはまだ幼い少女だった。今も、大人と言い切るには若いが、その半分くらい。七歳や八歳、そんな年齢のときだったはずだ。
 八歳。繭にこもる、年齢だ。

「やっぱりここにいた」
 幼い少女は、そう言って、一人たそがれていた少年の隣に、当然のように腰を下ろす。
 しばらく、二人は並んで座っていた。
 知らない人間とであれば、気まずくなっただろう、長い沈黙。しかし少女――リウは、ただ淡々と、そこに座り、少年と同じように、岬の下の海を眺めていた。落ちても何とか泳いで帰れるかな、と、そんなことを考える。
「…どうして」
「うん?」
「…ここに、くるの」
 根負けして自分から話し出した少年を、海を眺めるのと同じように、大好きなものを見る目で見つめる。
「ばかだなあ、ロンは」
「…」
「ロンが落ちこんでるのに、ほうっておけるはずないじゃない」
 言ってから、首を捻る。
「落ちこんでるのとはちがうのかな。また、ファイたちに石投げられたんだって?」
「…リウは、いいよね」
「え?」
「どうしてぼくは…生き残ったんだろう」
 リウは憤然と、立ち上がった。ガラス玉のような水色の瞳で見上げる少年を、きつく睨み付ける。泣きたくもないのに、涙が滲んでいた。
「どうして、そんなこと言うの!? ボクは、ロンに会えてよかった! ロンが生きててくれてうれしい!」
「…そんなことを言ってくれるのは、リウだけだよ」
「だからなに? それなら、ボクが何人分でも言うよ。何回だって、どれだけだって言ってやる」
 しかし少年は、儚げに、微笑を返すだけだった。
 緑の島と、青い海と、笑う少年と。大好きな、大好きだった、リウの世界。

 繋ぎ止めて。何を言ってもいいから、少年を繋ぎ止めて、せめてもう少し話をさせてと、叫びそうになるのは目が覚めてからのことだ。目覚めてから、ああと、声を押し殺す。
 懐かしい、夢を見た。

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 そうそう、話置場、少し配置を変えました。
 ついでに「夜明けの晩」は、今主人公を女の子で書き直しているのですが、そちらに差し替えるので一旦下げて。・・・そのままお蔵入りという説も、あるにはあります(爆)。

2007 年 6 月 12 日 不思議

 どうしてあんなにやることが溜まっているのか。先月は私、やることなくって、ほとんど定時で帰ってました、よ? あれ?
 先月から続いて、とか、今月になって始まったこと、ではなく、毎月こなしていることなのですが。うーん?

 昨夜寝入る頃に、無性にマシュマロが食べたくなって、朝から買いに行こう買いに行こうと呪文の如く(頭の中でだけ)唱え、帰りに買ってきました。
 でも正直、百グラムもいらないと思う(爆)。小袋でよかったのだけど、見当たらなかった。←探し物下手
 小学生くらいの頃に、キャンプ料理(?)の紹介で、マシュマロを火であぶるというのがありまして、試してみたらおいしくて、しばらくそればかり食べていた覚えがあります。竹串にさしてガスコンロの火(笑)であぶる。

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「…むう」
 目を覚ましたリウは、いつの間にか頭からかぶっていた布を跳ね上げて、上体を起こした。束ねることさえ面倒で短くした髪は逆に寝癖が激しくなり、もう一度、伸ばそうかとも思う。
 女みたいに髪を伸ばすなんて厭だって、思ってたのに。
 内容はほとんど覚えていないのに、懐かしい夢を見たという思いと少年の面影を思い出し、幼い日の考えを重ねて、苦笑をこぼす。男の子になりたかった自分。違う、男よりも劣ると思われるのが、口惜しかったのだ。今では、それを逆手に取ったりもする。
「あーうー」
 とにかく起きなきゃだ。
 朝ご飯を食べたらすぐ出発だな、と胸の内で確認して、頬を軽く叩いて眠気を払い落とす。そうして身軽に跳ね起きると、昨夜のうちに用意してもらっていた、身支度用の水で顔を洗い、見なくても寝癖で荒れていると判る髪は、自分じゃ見えない、と嘯き、撫で付けるに留める。
 そうして、用心のために抱きかかえて寝ていた荷物を寝台から引っ張り出すと、軽い足取りで階下へと下った。この店は、よくある造りで一階が食堂と主らの生活の場、二階が宿となっている。 
「れ?」
 そろそろ日も昇ろうかという時刻で、普通なら早朝の出立を決め込む旅人が数人はいるだろうのに、いたのは、春だというのに厳重に布を纏った人物が一人だけ。見回しても、店員さえいない。
「ちょっと、あたしの朝ごはんはー?」
 呆れて呟く。しかし返事があるはずもなく、リウは、たった一人の元へと足を運んだ。
「おはよーございます」
 にこりと、無邪気に笑ったつもりだが、布の人物からは何の反応(リアクション)もない。むう、と呟き、覗きこんで無理やり目を合わせると、思い切り不機嫌そうに睨みつけられた。
 しかし、リウは怯むでもなく姿勢を戻すと、じっと布の人物の全体像を見て、布で体格は判らないものの、不自然に厚みがあることに気付き、首を傾げた。
「もしかして、羽、出しっ放しだったりする? 両羽とか」
「あああっ、お客さんごめんなさい、ちょっと出てたわ!」
 素っ頓狂に半ば叫びながらやってくる気の良さそうなおばさんに、リウは、返事をもらうことなく引っ張られてしまった。意外にというかでっぷりとした見かけ通りにというか、力が強い。
「朝食食べるかしら、食べるわね! すぐに作るからそこに掛けててちょうだいね!」
 冷や汗を流しながらの笑顔に負けて、大人しく、カウンターに座る。布の人物は部屋の隅のテーブルに座っているため、小声で話せば内容が聞こえない程度には、離れている。
 スープをよそってパンを出す女を見ると、怯えているのが丸判りだった。先ほどの観察で予想はついたものの、背中が「聞いてくれ」と言わんばかりなので、そっと声を掛ける。
「あの人、何?」
 女性は、スープをパンをリウの前に置くと、本人はおそらく控えめに思っているだろう程に身を乗り出し、囁くような声を出した。
「二枚羽だよ、近付くんじゃないよ」
「見たの?」
「見なくたって、あの格好見りゃ判るさ。でもね。昨日、水を持っていったら、見ちゃったんだよ」
「うん?」
「おっきな黒と白の羽を! ここでもう二十年以上宿を開いてるけど、二枚羽の客なんて初めてだよ。そりゃもう、驚いたのなんのって。思ってた以上に不気味だよ」
「ふうん」
 適当に相槌を打ちながら、とりあえず朝食を平らげる。スープもパンも温かく、思っていたよりもおいしかった。昨夜は遅くにたどり着いたため、ここで食事を取るのはこれが初めてだ。
「護衛もなしってことは、強いんだろうね」
「ああ…昨日、酔った客が絡んでね。高く放り投げてたよ。おかげで、今日は出足が遅いんだ」
 怯えて、出て行くのを待っているのだろう。それで誰もいないのかと、納得する。
 両羽――白と黒で一対の羽を持つ者は、一般的には無能力者とされている。だが、中には常人よりもはるかに強い能力を備えたものもおり、畏怖される傾向にあった。
 白い羽は、治癒と防御の能力。
 黒い羽は、攻撃と破壊の能力。
 強い両羽は、その両方を、桁外れの能力値で持つ者が多い。そして両羽は、羽が出しっ放しの者がほとんどだ。それが一層、差別化している。
「あんたは、昨日遅かったから知らないんだろうけどねえ…。一人かい?」
「うん」
「あんたみたいな小さい子が、たった一人で大丈夫なのかい?」
 善意から心配してくれているのは判るのだが、十六という年齢の割りに成長に乏しいのは、リウの悩みどころだ。答える笑顔の下で、ちぇっと呟く。
「だいじょうぶ大丈夫。えーと、とりあえずごちそうさま」
 そうにこやかに告げて、ちらりと後方に視線をやる。
「ところであの人、男? 女?」
「男だったよ」
「そう。ありがと」
 笑顔で立ち上がったリウを、女は小首を傾げて見上げた。それに、くるりと背を向ける。布の男は、リウよりも早くに食べ始めていただろうのに、ようやく食べ終えようかというところだった。
「ねえおにーさん、相談があるんだけど」
 顔を上げて、はっきりとにらみつけられるが、笑顔は微塵も揺るがない。ただ、見上げた瞳が水色だったことに、夢の名残を思い出して心の一部が揺らぐ。
 しかしそれは、水面下でのこと。リウは、にこにこと笑って男の前に立った。
「相談って言うか、取り引きかな。あたし、この先の森に行くんだけど、急ぎの用事がなかったら、護衛をしてもらえないかな。あそこ、能力使えないのに色々出るでしょ?」
「…断る」
「急いでるの?」
「…断る」
「条件、聞いてからでも遅くないと思うけど」
「高いぞ」
 報酬がかな、と気付き、いよいよ笑顔を深める。笑顔というのは便利で、実に色々なものを隠してくれる。例えば、打算や緊張を。
「両羽の人って、大体、羽の出し入れの仕方がわからないだけなんだよね。走るのと変わらないんだけど、それが判らない。でも、ほとんどの人は走り方がわからないなんて言われても、当然のようにできる走り方を、教えることはできない。せいぜい、走って見せるくらいしかね」
「…何が言いたい」    
「走り方、教えようか?」
 男が、疑いながらも、ほんのわずかではあるが、心を動かしたことが判った。
 本人もそれと悟られたことに気付いたらしく、忌々しげに舌打ちをした。ひぃと、かすれるような悲鳴を、後方で女が上げたのが判った。
「じゃあちょっ――」
 リウは、止める間も与えずに男が頭からかぶっていた布を下ろした。ところがそこで、動きが止まってしまった。ただひたすらに、男の顔を凝視する。
「何をする!」
「……名前。名前、ねえ、名前は?! あなた、名前なんていうの!?」
「は?」
 リウの勢いに押されてか、意外にもほとんど同年代の男は、不意打ちの声を漏らした。
「あたしは、リー・リウ。あなたの名前は!?」
「う、ウー・ラウイー…」
「フェイ・ロンアルじゃ…ない、の…?」
「違う」
 苛立たしげに、手を払いのけられる。声も、わざと低くしているのか、押し殺したものに戻っていた。
 リウは、がっくりと肩を落とした。
「そう…だよ、ね…」
 夢のせいだ。
 夢に、あの少年を見たから、思わずそうではないかと思ってしまったのだ。同じ色の瞳に、よく似た、あの少年が育って、苦労を重ねたらこうなるかと思うような顔に、飛びついてしまった。
 少年は、おそらくは生きていないだろうのに。
 リウの村と共に、葬られてしまっただろうのに。
 リウの故郷は、田舎の海に面した小さな村だった。都会の喧騒とは縁がなく、時々やってくる商人や芸人、出稼ぎから帰ってくる男たちの話が、何よりも楽しみだった。落ち着いたのどかな場所に、羽を――正確には、それに伴う能力を、身につけるために繭にこもるのに、選んでやってくる者も、ごくまれにだがあった。そんな平凡な村。
 しかしそこは、リウが八歳のとき、一月こもっていた繭から出てみると、焦土と化していた。
 煙さえ疾うに消え去った、荒れた土地。リウの愛した緑はどこにもなく、広々とした海には、殺伐とした兵隊しかいなかった。反逆者が逃げ込み、匿った村人も同罪と、全てが焼き払われたと噂に聞いたのは、随分と後になってのことだった。
 リウは、頑強な繭にこもっていたために、そして何よりも、人の来ない判りにくい場所にあったために、見逃されたのだ。
 残っていた兵隊の目をかい潜り、泥水を啜るようにして生き延び、様々なものを学び、身につけ、今ここにいる。村で過ごしたのと同じくらいの時間は、既に経った。それなのに、こんなにも幼馴染を求めていたと知って、リウは、ひどく動揺していた。
 全て、夢を見たせいだということに、しておこう。
 そう思い、泣きたくなるような気持ちもすべて仕舞い込んで、固く目を閉じる。
 笑顔を浮かべた。
「はは。ごめんごめん。知ってる人に似てたから」
 ひきつりながらも笑顔を浮かべるが、男は、胡乱そうに見遣り、ふいと横を抜けようとする。リウは咄嗟に、身にまとう布をつかんで引き止めた。
「…離せ」
「まだ話が途中」
「話なんて」
 今度は躊躇せずに、男の額に手を触れた。額同士を触れ合わせた方がやりやすいのだが、立ち上がられてしまうと、少しかがんでもらわなければ無理がある。ここは、頑張るしかなかった。
 触れた手に、感覚を集中させる。目を閉じて、自分が羽を仕舞うときと同じように、波紋の収まっていく水面を思い浮かべる。
 男が声を呑んだのは、背の羽が、体の中に折りたたまれていくことが判ったからだろう。目を開けると、予想に違わず、男のまとう布は大量の空間を含み、だぶついていた。
 にこりと、茫然とした顔に笑いかける。押し込んだ感情は、ちゃんと収まってくれているようで、こうするといよいよ幼馴染に似た顔にも、心の片隅がざわめくに留まった。
「今のは、あたしと共鳴させただけ。練習すれば、自分でできるようになるよ?」
 嘘だろうと、瞳だけで語る。ちらりと視線をやると、カウンターの内側にいる女も、同じように、驚愕に凍り付いていた。
「あたしも、はじめは仕舞い方が判らなかったから。だから、こういったこともできるようになったんだよね。どう? これが報酬じゃあ、不満かな」
 そう訊きながらも、リウは、自分の成功をほぼ確信していた。今まで、両羽相手にこの取り引きで成立しなかったためしは、なかった。

2007 年 6 月 13 日 睡魔には連敗です

 休みの日で、最寄図書館も休館日。本館まで行こうかなーと思いつつ、家に居座ってしまいました。

 『浅草色付少年団』という小説を読んでいたのだけど、楽しかったー。
 大正の浅草で、たくましく生活する少年らの話を、老人が語る話。何て言うか、この時代を過ごした人って艶があるイメージが。
 最後にも書かれていましたが、多分続くはず。とても期待(笑)。

 そして夕方急に、友人から電話が。急遽明日、夕飯を食べに行くことに。
 丁度電話がかかってきたときは眠っていて、しかも、携帯電話でなく家の電話にかかってきて驚きました(笑)。母に「○○さんから」と渡され、え、その苗字の友達は一人だけど何故家の方に、と思って出ると、携帯電話にかけようとして間違えたとのこと。あー驚いた。
 疲れたー、仕事やめたい、でも辞められへんー、と言っていたから、明日は多分、お互いに愚痴のパレードでしょう(苦笑)。
 まあそんなのもいいか。

 ついでだから、映画に誘ってみようかなあ。確か今夏、「ハリー・ポッター」をやるはず。このところ、観たい映画を一切観に行ってません・・・面倒だなーと思ううちに終わる・・・誰かと約束していれば確実に行くからね!(爆)
 …って、今公式サイトで確認したら、上映予定間に姫路が一軒もなくて焦った・・・姫路の映画館検索したらちゃんと公開予定入っているのに、何故。
 あ、映画、『ライラの冒険』やるのかー。あれ、原作読んでそこそこ好きだけど・・・最後がちょっと、え、と思ったなあ。三部作目の(題名忘れた)。
 「西遊記」の映画版、どうしようかちょっと迷ってます。うーん、大学時代ならきっと、一緒に行こう、とむしろ向こうから言ってくれた友人がいるのだけど、今実家だしなあ。DVDでも借りるかなあ。どうしよう。
 「河童のクゥと夏休み」もちょっと気になるけどどうだろう。

 今ほしいCD。
 アニメの、「ロミオ×ジュリエット」のOPの曲、の、外語版。OP主題歌自体も好きなのだけど、この間、本編で外語版(もちろん歌手は同じ)が流れていて、いいなーと思ったもので。
 あれは、日本語版のカップリングで収録されているのか、実は一番が日本語で二番が外語とか(爆)。調べれば判るのだろうけど、そこまで「ほしい!」というわけでもなく(どうなんだよ)。サントラが発売されたら、どっちも収録されているのかなあ。いやそこまでは多分買わないけど。
 というか、レンタルショップ行けば?という話でもあるのだけど、何かそれは面倒で。

 しかし私、今の仕事があまり勉強を必要とするものではないから、仕事場を離れたら丸きり私事に傾けていい、ということもあるのですが・・・暇人?
 こちらから色々と誘いかけることもあるし、誘われても、他に予定がなければ大体乗るし。
 来月あたり、友人たちのところに泊まりで行こうかと話していたら、仕事は大丈夫なのかと心配されました(笑)。有給全く使ってないから、多分何とかなるさ〜ならなくってもするさ〜。
 でも、SEやってるのに時々遊びに誘ってくる友人のが凄いと思うよ・・・二人で図書館に行くと、大体彼女は、プログラム関係の棚で本をめくっています(苦笑)。
 それにしても、数少ない友人の中で何故か、SE率高い気がするなあ。不思議不思議。そういう世代?

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 二人は、連れ立って森に入っていった。
 能力を一切使うことのできないこの森は、野盗がよく出ることでも知られる。武器や体術を使うしかない分、能力で劣り腕力のある者には住みやすいのだろう。
 狙われやすい両羽ならば体術にも優れているのではないかというリウの予測は当たり、森に入ってすぐに、ばらばらとやってきた野盗は、ウー・ラウイーが一人で片付けてしまった。
「やー、スゴイすごい。立派リッパ」
 ぱちぱちと手を叩くと、纏っていた布を外したウーに、忌々しげに睨み付けられた。軽く、肩をすくめて返す。
「褒めてるのに、怒らないでよ」
「それが褒める態度か」
「はは。とりあえず、そろそろお昼にしようか?」
 入り口に張っていた者の仲間か別物かはわからないのだが、第二波をこれまたあっさりと拳でのしたウーに、そう呼びかける。律儀に言葉を返してくれるこの男は、思った以上にお人よしのいい奴ではないかと、密かに思う。
 宿で別料金を払って用意してもらった昼食は、固焼きのパンに野菜や肉を挟んだ簡素なものだった。それと、酒を一瓶もらってきている。
 さすがに、何人かがバラバラに倒れているところで食べる気にはなれず、少し進んだ日当たりのいい場所に座り込む。それを見て、ウーも、渋々と包みを開く。
「うん、やっぱりあの人、料理上手だね。ああでも、こんなおいしいの食べると、この先の野宿がちょっと厭になるよねえ」
「…どのくらい行くつもりだ」
 リウとは違い、ただ詰め込むように咀嚼するウーを呆れたように見て、小首を傾げる。
「ここの真ん中って話だから、少なくとも一泊、下手したら三日くらいは野宿かな。ちゃんと、食料は持ってるよ。だから君は、最短で二日くらいは一緒にいてくれないとね」
 能力が使えない森の中では、羽の出し入れもできない。羽は、物質よりは、能力に付随する幻影のようなものなのだ。もっとも、質感はあるのだが。つまり、森を出てからでなければ、その習得もできない。
 ウーは、舌打ちを返した。
「態度悪いー。あたし、師匠になるわけだし? もうちょっとくらい、敬えとは言わないけど、打ち解けてもよくない?」
「断る」
「即答だし」
 そう言いながらも、リウは笑顔だ。
 大概のことは楽しめる自信のあるリウだが、とりあえずこの数時間、本当に楽しんでいる自分に気付き、囁く声もあった。この男は、ロンではないのにと。身代わりを求めるのは、ロンにもウーにも失礼で、卑怯なことだと。
 ロンは、もっとずっと優しかったよ。
 笑顔の下で、自分にそう返す。だから、この人が違うと知っている、と。
「冷たいなー、ウーは。こけても、手も貸してくれないし」
「俺が引き受けたのは、襲ってくるものの排除だけだ」
「またそんな。あれ、その定義でいくと、例えばがけから落ちたら、見捨てられる?」
「そういうことになるな」
「そんなことしたら、羽の仕舞い方学べないよ?」
「…」
 勝った、と拳を持ち上げると、睨まれた。
 今は茶化しているが、両羽にとって、羽が仕舞えないことは、死活問題にもつながる。
 白と黒で一対の羽は、気味が悪いというのが一般的な感想だが、きれいだと取る向きもある。そして、それが高じると、標本にされてしまったりもする。悪趣味な好事家の動きだ。そうでなくても、一部の能力ある両羽にやられた憂さを、他の自分よりも弱い両羽に当り散らす輩も多い。
 目立つ羽を出し続けているということは、それらを引き寄せるということでもある。弱ければ死に、強くとも、嬉しい事態のはずがない。
「それにしても、両羽に羽の仕舞い方が判らない人が多いのは、どうしてかな」
「…お前も、そうなのか」
 独り言のはずだったのだが、思いがけず反応があり、リウは思わず目を瞠った。
「答えたくなければいい」
「あ。いや、そういうわけじゃないよ」
 一応興味は持っているのだと判り、意外に思っただけだ。食べかすを膝から払い落とすと、一度、目を閉じた。
「あたしは、白羽だよ。黒羽か、能力のある両羽が良かったんだけどね」
「…両羽になりたい奴がいるか」
「ここにいる。もっとも、能力が使えるっていうのが前提だけど。あたしは、守りに徹するなんて真っ平だから。両羽は両方使えるから、それは羨ましいと思ってた」
 おそらくは反論を、言いかけるウーを見つめると、口が閉じられた。
「君に説くのは愚かな話だけどね、攻撃力も持たずに、一人で生きていくのは難しい。だから余計に、そんな能力がほしかった。まあ、治癒能力は大いに役立つんだけどね。疎んでるわけじゃない」
「…それなら、何故」
「羽が仕舞えなかったかって? これは予測だけど、多分、ショックで吹き飛んだんだよね。息の仕方が判らなくなるときって、ない? それと同じ」
 自然と、口の端が笑うように歪む。水色の瞳が、こちらを見ていた。
「羽化して出てみたら、故郷がなくなってたんだよね。丸ごと、さっぱり。焼け野原。骨だけが、一箇所に積み上げられてた」
「…宿で言っていた名は、家族か…?」
「ロンのこと? うん、家族って呼んでもいいかな。両親を殺されて、さまよってるところをお父さんが見つけてきて、ほとんど一緒に住んでた。いじめられっこで、小さいことでくよくよ悩んでて、弟分だった。大好きだった。間違えて、ごめんね」
 何かを言うように開かれたウーの口は閉ざされてしまい、強く唇を噛み締める。
 そんな反応に、もしかして慰めてくれようとしたのかなと思い、思わず笑みがこぼれた。やはり、お人よしでいい人だ。
「まあとにかく、これまでにも何人かに教えてきたし、腕は信用してくれていいよ」
「…他にも?」
「うん。いやあ、資本タダだしね。時間がかかっても、あたしは問題ないし。儲けさせてもらってます」
「悪徳」
「失礼な。真っ当な取引でしょ」
 警戒し、半ば呆れる視線に、胸を張って答える。
 人よりも苦労の多い両羽は、取引の方が快く応じてくれる。もっとも、それで助かっているのも本当だが。どちらかといえばその日暮らしのリウに、資産と呼べるようなものはほとんどない。
「じゃあ、行きますか」
 ウーも食べ終えていることを見て取り、立ち上がる。
 それから日が暮れるまで、人や動物を適当に払いのけながら、野宿に良さそうな場所を探して歩いた。時折、磁石で方向を確かめる。北に真っ直ぐに進めばいいのだから、確認は簡単だ。
 枯れ枝を集めた薪に火をつけると、チーズやパンをあぶりながら、ぼんやりとする。
「噂には聞いてたけどさ…ほんっと、多いよね、盗賊」
「食料も豊富だしな」
「それならそれで、自活で我慢しといてほしいよ。ああもう、次来たら、こっちからふんだくってやろうかな」
「…鬼だな」
「うるさい」
 大半をウーに任せているとはいえ、襲撃のあるたびに足を止めなくてはならず、これだけかかれば、明日中に到達というのはいささか厳しい。
 期限があるわけではないし森も好きだが、鬱陶しい。野生動物だけならまだしも、徒党を組んだ盗賊の群れは要らない。
 だから、茂みが音を立てたとき、リウは本気で殺気立っていた。
「いい加減に懲り…!」
「見つけたっ、俺の女神ー!」
「うわあぁあああぁっ!!」
 リウやウーとおそらくは同年代の、まだ若い男だ。ウーとは対照的なくらいに短く刈り上げられた濃茶の髪も、灰色の瞳も、人懐っこさがある。それなのにリウは、鳥肌を立て、ウーを壁にしてその背に少しでも隠れようとする。
 茂みから姿を現した青年は、しかし一向に気にした様子はなく、無邪気と言えそうな様子で、焚き火とウーを挟んで笑顔を振りまく。
「恥ずかしがるなよ、女神」
「ねえウーあれ何とかしてお願い」
「…害はなさそうだが」
「あたしの心に思いっきりあるから!」
 そう言っている間に、青年は回りこみ、ウーの存在を無視して近付いた。
「女神」
「イヤッ!」
 目の前にある顔に、リウは、目をつぶってウーの背中にしがみつき、男性限定の急所を蹴り上げた。大打撃(クリティカルヒット)。
「……知り合いか?」
「知ってるけど知り合いたくなかったし断じて友達じゃないから!」
 悶絶した男の頚動脈を押さえて意識を飛ばし、それを見下ろして、ウーがリウを見遣る。毛を逆立てた猫のようなリウが落ち着くまで、今しばらくの時間を要した。その間、さすがに火に近すぎるとウーが男を押しやったが、目覚める気配はない。
 落ち着くと、とりあえずは焦げかけていたチーズやパンを片付け、荷物の中から軽くて丈夫な素材のカップを二つ取り出し、今朝宿で買った酒を注ぎ、一つをウーに渡した。
「…何者だ」
「ホワン・チェンフー。少し前に、盗みに入った家のどら息子」
「盗みまでやるのか?」
「珍しくないでしょ。それに一応、そのときは騙し取られた家宝を取り返しに行ったんだし」
 驚いた顔に、ちびちびと酒を舐めながら、あっけらかんと返す。
 ウーは、じっと倒れ賦した青年を見た。
「…恨まれて、というわけではなさそうだが」
「いっそ、恨んでくれた方が気が楽だった」
 げっそりと、言い返す。
 盗みに入ったときに、たまたま、夜遊びから帰った青年に出くわし、咄嗟に殴りつけたら、そのまま足を滑らせて階段から落ちたのだ。額を割って血を流す青年を置いておけず、仕方なく治癒を施したところ、途中で青年は目を覚ましてしまった。
 それだけならまだしも。
「どう思う? 目を覚ました途端、手を取って『女神』だよ?! 鳥肌立つって言うかもう本当、どれだけ、出血多量で死のうが放っておけばよかったって思ったか! 自分殴って怪我させた奴にほれるってどうよ? もうあんなの、誰かに熨しつけてあげたいよッ!」
 リウの語る心境は、既に怪談だ。
 しつこい上に財力と体力と根性があるものだから、どこに行っても見つけ出し、追いかけてくる。ここしばらく顔を合わせることがなく、ようやく、まいたか飽きて諦めたものと思っていたら。続行だった。
「…立ち入ったことを言うが、悪い話じゃないんじゃないか?」
「な・に・か・言った?」
 にっこりと、嫌がらせに笑顔を見せるが、少し身を引いただけで、それ以上怯む様子もない。
「そう変な顔でもないだろうし、財力もあるんだろう」
 確かに、どちらかといえばもてるだろう容姿で、家は金持ちだ。結婚を考えなくても、ある程度付き合って金をふんだくれば、今よりもいい生活ができるのは明白だ。
 しかし、きっぱりと首を振る。
「悪魔に魂は売っても、これと付き合うのは厭」
 二の句が告げず、動きを止めてしまったウーを恨みがましく睨みつけて、さらに続ける。
「あたしを無視してここまでの執念傾けられるのは正直気持ち悪い。大体何、女神って。絶対厭!」
「……そうか」
 何故か、先ほどよりも身を引いたウーに肯きを返して、頭を抱える。
「ああーっ、捨てて行きたいけど、こんなところで野垂れ死にされたら夢見が悪すぎるし!」
 感情が昂ったせいで、涙がこぼれる。邪魔だなとぬぐっていると、視界の片隅に、反応が読み取りにくいが、どうやらうろたえているらしいウーの姿があった。
 半ば呆れて、可笑しくなる。
「悲しいわけじゃないよ。涙、出やすいだけで」
「…そういう、わけじゃ…」
「何が?」
 笑って訊くと、気まずいのか照れたのか、ふいと顔を背ける。
 ああ。やっぱり似てる。
「おい!」
「え?」
 ぎょっとした顔で見つめられ、首を傾げる。そうすると、頬から雫が垂れ、また泣いているのが判った。それも、さっきよりも、ずっと激しく。
「え。なん――」
「大丈夫か?」
 ウーに心配そうに覗き込まれて、納得した。こんなにも、似ているから。あの幼馴染の、不器用な優しさに。だから、悲しくなってしまった。
 リウは、膝を抱え、少しだけ静かに泣いた。
「…ごめん。吃驚したでしょ、涙が出やすくってさー」
 泣き終えると、そう言って顔を上げた。どれだけ似ていても、優しくていい人でも、あの少年でなければ、この先も旅を続けるつもりなら、あからさまな弱味を見せることはできない。悲しい思い出も、平気なふりをしていなければ、何が足元を掬うか判らない。
 だからリウは、なるべく笑顔でいるようにしている。そうすれば、色々なものが隠せるから。
「とりあえずあれは、目が覚めたら説得して帰してみる。…無理だろうけど。だから、見張りはあたしが先にやるね。枝だけ、もうちょっと拾っておいてくれる?」
「…ああ。わかった」
「よろしく」
 早速立ち上がったウーを見送ると、リウは、溜息をこぼした。
「もう。調子狂うなあ、一人で来ればよかった」
 ウーとの会話を心から楽しみ、ロンのことを思い出して揺さぶられる。それでは、長く一緒にいるだけ辛くなる。自分も騙せたら楽なのになあと、声には出さずに呟いた。
 

2007 年 6 月 14 日 おいしいパンを作るには時間をかけたガス抜きも必要です。

 予定通りに、友人と夕飯を食べてきました。雨の中自転車で三十分かけて(笑)。
 ぐだぐだとご飯を食べつつケーキを食べつつドリンクバーで和みつつ。えーっと、二、三時間いました。ドリンクバーがあると居座りますね!(なんとなく長時間いてもいいような気がする)
 そもそもが小食だったのだけど本当に食べなくなった、という友人の、ケーキが食べたいというリクエストによって、オムライスとスパゲッティを半分こしつつドリンクバーとケーキ二品のセットを頼み。
 甘いものがほしくなる、と、友人は、紅茶やコーヒーにスティックシュガー(3g)を各三本ずつ入れ。ケーキが甘い、と唸りつつサラに飲み物には砂糖9g。・・・だ、大丈夫か・・・?
 とにかく、それぞれの職場の愚痴を語ってきました。環境も実際にやっている仕事も違うのだけど、事務業というだけに被る部分も多く、それぞれに相槌を打ちながら。
 あー、楽しかった。

 ところで今日、その友人との約束があったため、早く帰ろうと思っていたら。
 定時前後になって発覚した、出荷しなければならない荷物の未出荷!(没) 出かけていた次長を呼び戻し、持って行って貰いました・・・。
 私は、ちゃんと送り状出してましたよ? そして出荷の荷をまとめていた彼は、昨日、同じ出荷先に出す商品を出していたはずですよ? ・・・それなのに、ちゃんと出荷の申し送りをしていなかったと責められるのは私なのか?!と思いつつ、次長には謝り倒しましたとも・・・(いやそこまで謝ってないけど。なんか乾いた笑いとか出てたし←笑い事じゃない)。
 荷物は、送り状をつけられて、一時保管用の冷蔵庫の中に鎮座していました。載せて行ってもらうはずのトラックに積む荷とともには並べられず。そーりゃ気付かんわー誰も。せめて送り状が単体でどこかにあれば、事務所の人間なり運送会社の運転手さんなりが気付いただろうけど(発見したのは冷蔵庫の中身を確認に入った人)。
 ふふふふふー、どたばたして時間取られましたよー。そして次長ごめんなさい毎度ー(爆)。←こんなところで言っても

 その後、麦茶のやかんを二時間火にかけたままだったことを思い出して止めに行くと、半分近くが蒸発していました(かなりの量が入るやかん)。
 とりあえず、蒸発した分の水を足してきたけど・・・果たしてどんな味になっているやら。明日、味見してみよう(苦笑)。

 今日は午前中、製造で働いている人が気分が悪いと救急車で運ばれ、調べてみたら心筋梗塞だった、ということもありました。
 早い発見(倒れたといったわけではなく)だったから、多分大事はないのだろうけど。
 これで会社に乗り込んできた救急車見るの、二度目。約一年でそれって多いのか? ・・・少なくはなさそう。

2007 年 6 月 15 日 予想外

 夕飯後、先日冷蔵庫の仲でうずもれているのを発見した、蜜豆の缶詰を開けました。
 両親と私の分ということで三等分して、ついでに、やはり埋没していたマンゴーの缶詰も開けて。バニラアイスクリームなんぞものせてみました。
 で、父はまだ夕飯を食べていたのですが、マンゴーに惹かれたらしく、「どんな味や」とひとかじり。
「……奈良漬と混ざった」

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「拘束は、解かないから」
 意識の戻った青年に、リウは淡淡と声をかけた。ウーは眠っている――ように見えるが、実のところはどうだろう。浅い眠りは旅慣れた者の必須体得事項で、リウは一応声をひそめているが、聞こえていておかしくはない。
「一体どういうつもり? ホワン・チェンフー」
 焚き火に新しい薪を放り込み、ちらりと青年を見遣った。
 用心のために両手を背で縛った青年は、仰向けの体勢を頑張って引き起こし、自力で座り込んだ。巨大な芋虫のようにも見える。
「女神」
「先言っとくけど、次にそう呼んだら焚き火にくべる」
「……じゃあ、なんて呼べばいい?」
「名前くらい知らないの?」
「知らない」
 きっぱりと断言した青年に、リウは呆れて言葉を失った。
 名前を知っているはずというのは、何もリウの名が知れているからではなく、あれだけ鬱陶しく付きまとったくせに、それを調べることもしなかったのか、あるいは思いつかなかったのか、という呆れだ。
 ホワン家の財力を使えばそのくらいのことはすんなりと調べ上げられただろう。そうでなくても、少し聞き込めば簡単に判ったはずだ。定住の地はないが、リウは、名を隠してもいない。むしろ、仕事の売り込みのためにばら撒いているほどだ。
 リウは、深々と息を吐いた。
「リー・リウ。呼ぶなら、リーでもリウでも」
「リウ。かわいい名だな。音がきれいで、優しい」
「…恥ずかしい台詞を……」
 いっそ感心して、呟きを口にする。本人には自覚がないらしく、無邪気にリウを見つめる。
 リウは、気の抜けた自分を叱咤して、ぎろりと睨みつけた。
「で。何が目的で、付回すわけ?」
 きょとんと。青年は目を丸めた。
「結婚してくれって、俺、言わなかったか?」
「……………本気?」
「冗談でそんなこと言わないぞ。なんだよ、本気にしてなかったのかよ」
 馬鹿っぽいとは思っていた。
 馬鹿かもしれないと思っていた。
 だが、客観的に見て、リウ自身に女としての魅力はほぼ皆無で後ろ盾もない以上、何かしらの目論見があるものと思っていた。事の大小はあれど、裏面があるものと。勝手な思い込みと言われればそれまでだが。
 リウは、思い切り脱力した。
 そうして、顔を上げる。
「まともに話を聞かなかったあたしも、悪かった。だけどその執念、ちょっと異常だよ」
「そうか?」
 不服そうというよりも不思議そうな反応に、リウは、溜息をついた。だれか、こいつに常識を教えてやる奴はいなかったのだろうか。金持ちの三男坊ともなれば、そちらの方面の教育係がいても、不思議ではないはずなのだが。
 なんだかなあ、と、呟きをこぼす。
「じゃあ、改めて返事をするよ。断る」
「何でーッ!?」
 森いっぱいに響き渡りそうな絶叫に、思わず頭を殴る。ウーを見ると、それでも目を覚ますつもりはないらしく、浅く規則正しい寝息が聞こえた。
 リウは、火に薪を足した。
「あたし、あなたに恋愛感情なんてないし。まだまだ行きたい所があるから、一所に留まるなんて真っ平。どこをどう取ったって、こっちの利益に繋がることなんてないよ。大人しく諦めて?」
「そんな――」
「大体、どこをどう気に入られたのか、さっぱりわからないしねー。正直なとこ、気持ち悪い」
 にっこりと、笑顔で告げる。打撃を受けて、撃沈してくれれば好都合だ。
 だが、今にも泣きそうだった顔は、ぽかんと、口を開けた。予想外の反応に、おかしなことは言ってないのにと、逆にリウが首を傾げる。
 風がそよぎ、髪を揺らしていった。
 それを真っ向から受け止めながら、青年は、考えるようなかおをした。
「あれは――俺だからじゃ、なかった、んだよ、な」
「はい?」
「いや。ごめん。迷惑、かけた。朝になったら、俺、帰るよ」
「…そう?」 
 止める理由も見つからず、むしろ幸いと、リウは、急に変わった反応には無視を決め込んだ。

2007 年 6 月 16 日 一体何者ですか

 刃物は怖い、といったら、あんたの方が怖い、と言われました。何者だ私は。←もちろん冗談。…冗談?

 このところ、なんだか仕事のはかどりが遅いなーと思っていたら、あれ、もしかして仕事量増えてた?
 数日前に出荷が始まったところが、ちょっと手間がかかるのです。
 それのせい? うーん、いやでもそれは数日前からだし。手際悪くなった? うん?

 昨夜、翻訳サイト(?)で遊んでいました。
 短文を英訳 → 英訳分を和訳
 私の頼りない英語力ですら、「え、これその単語にするの? つかそれ動詞? え?」という文になるのですが、それを和訳するともう凄い。な、なんじゃそらっ、と、元の文を知っているからこそどうにかわかる・・・いや、知っててもわからない文章に(笑)。
 そうなるのは、まあプログラムの融通の利かなさというのもありますが、主語が書かれていないというのも大きいのだろうなあ。何せ、私の書いた文章でしたからね! 何気なく、今書いている話を試したら、とてつもなく楽しいことになって、思わずここに全文掲載しようかなんて思っちゃいましたよ(笑)。

 あと一月ほどで、「台風の目」が終わります。うわっ、続き書いてないー。
 最後までいって、どうやら「始まりの終わり」と言うか「第一部・完」という感じに。うーん、どうしてだ?
 とりあえず、終わったらサイトに転載予定。何も変わりませんがね(爆)。

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 森の中にしては派手な色で、その家は塗りたくられていた。いや、もしかすると、街中でも派手かも知れない。
「わー」
「うわー、すっげー」
 並んで歓声を上げるリウとチェンフーの少し後方で、ウーはむしろ、呆れているようだった。
 確かに、こんな盗賊くらいしか来そうにない森の中で、立派すぎて派手すぎる建物だろう。しかし、下品ではないところが凄い。リウはそう思って、ほとんど感心していた。
 結局、森に入ってから二泊して、三日目の今日は今にも日が暮れそうだ。あと少し遅ければ、この見事な色合いも、夜の闇でほとんど判らなかったことだろう。
 しかしこれでも、妨害の数を思えば、早く着いたほうだろう。それも、役立たずがおまけについているのに、だ。
 チェンフーは、あれきり縁が切れたはずだったのだが――何故か、同行している。何がどうなってこんな事態になったのか、よく覚えていない。だが、「女神」と呼ぶことはなく、無理に迫られるでもないのだから、まあいいかと放置している。どうせ、一時のことだ。
「…いつまで見てるつもりだ」
「ああ。そうだね」
「ウー、リウに偉そうに指図するな」
「君も立派に偉そうだと思うけどね」
 些細なことで食って掛かるチェンフーを放置して、扉に歩み寄る。ちゃんと、ノッカーまでついていた。何故か兎だったが。
 ノッカーを鳴らすと、少しして扉が開かれた。いきなり開けるなんて無用心だなと思いつつ一歩引くと、重厚な音を立てて開いた扉の向こうには、可愛らしい夫人が立っていた。
「えー…あの、ワン・シュイさんはいらっしゃいますか?」
「主人に御用ですか? あなたは?」
「ワン・クーさんから頼まれて、お届けものに来ました。えっと、あの?」
「はい?」
 にっこりと首を傾げる夫人は、少なくともリウの倍ほどは生きているだろうが、可愛らしい、という形容がぴったりと当てはまる。これで、戸を叩いたのが盗賊だったらどうするつもりだろうと思う。
「…無用心、じゃ、ないですか?」
「あらあら、ご心配ありがとうございます。でも大丈夫、この屋敷に武器の類は持って入れませんし、私と主人は能力が使えますから」
「はぁ」
 意見を求めたくて、ちらりと後方を見やると、先に仕掛けただろうチェンフーが、ウーに首を絞められ、今にも音を上げるところだった。話にならない。
「ですから、入っていただくには、武器を預けて頂く必要があるの。いいかしら」
「あたしは構いませんけど…少し、待ってもらえますか? 後ろの二人と話してきます」
「ええ」
 馬鹿二人、と言いたかったところをこらえて、可愛らしい笑顔に背を向ける。
 チェエンフーはぐったりと座り込み、ウーは何事もなかったかのように平然と立っている。この二日で、兄弟のように仲良くなったなあ、というのがリウの感想だ。
「聞いてた?」
「ああ」
「え、何?」
「…武器を預けなければ入れないそうだ」
「えーっ」
 チェンフーは不満そうな声を上げるが、実際のところ、全くとは言わないが、さほど支障はない。ウーとリウは素手でも戦えるし、チェンフーは、能力に頼りきりだったらしく、リウとウーの元に無傷でたどり着けたのが不思議なくらいに、武器を持っても使えない。
 ただ、夫人の言葉が本当ならば、こちらだけ能力が使えないという状況は不利だが、戸口で済ませるのはいささか危なっかしい。
「悪いけど、二人はここで待っててくれる?」
「わかった」
「リウぅ」
 情けない声を上げるチェンフーをウーに押し付けて、戸口へと戻る。ウーは判ってくれたようだから、何かあれば、助けに来てくれるだろう。
「あの二人は、外で待ってます」
「そう。では、ここに武器をどうぞ。ちゃんと、出るときにはお返ししますよ」
 肯いて、まずは上着の下に仕込んであるナイフ数本を引き抜き、ブーツの中のナイフ、カバンの中に入れていた雑多な小道具も、夫人の差し出した箱に開ける。
 このくらいかなと足を踏み入れようとしたら、扉は開いているのに、何故か進めなかった。
「え」
「あら。まだ他にもお持ちかしら。ごめんなさいね、武器を持っていると、入れないようになっているの」
 申し訳なさそうに言われるが、愕然とする。後方を見ると、ウーも驚いた顔をしていたが、肯き、歩み寄る。
「やはり、俺も入っていいか」
「ええ、どうぞ。お客様は、多いほうが楽しいわ。こんなところで、この仕掛けでしょう? 作ったケーキも、滅多に食べてくれる人がいなくて」
 含みはなさそうに見える。リウは肩をすくめ、袖口から切れ味のある銀線を、ブーツの裏の針と鍵開け用のナイフも一応、外してみた。その間に、チェンフーは大振りの剣を預けただけで屋敷内に入り、ウーはリウに負けず劣らずの隠し武器を、外しにかかっている。
「あれ?」
 まだ入れない、と呟き、カバンを漁る。釣り針と爪切りも、疑いながら預け、他にあったかなと首を傾げたところで、ネックレスに銀線を仕込み、腕輪にも仕込みを仕掛けていたことを思い出す。普段使わずにいたため、うっかりと忘れていた。これでは、いざというときにも使えないだろうにと、自分で呆れた。
「ええ?」
 それなのに、まだ入れない。ウーも既に武器は外し、屋敷内に入っている。一人残されたリウは、もう一度あちこちを探ったが、どうにも心当たりがない。カバンの中も、後は、薬や食料、地図に手鏡、折りたたんだ棒に巻尺、方位磁石、あとは預かった卵形の容器と、無害なものしかない。
 服も、触って確かめたが、他には仕込んでいない。
「えー?」
「カバンごと預けたらどうだ」
「あ、それもそうか。はい」
 ウーの言葉にうなずき、預かり物の容器だけ出してカバンを渡す。が、それでも入れない。
「…ちょっと待って?」
 カバンを返してもらい、卵形の容器を代わりに箱に入れ、足を踏み出す。ようやく、抵抗なく入れた。
「…これ、届けるように頼まれたんですけど」
「あらまあ」
 じっと四人で、鶏のものよりはふた周りほど大きなそれを見つめる。滑らかな光沢を放つ容器は銀色で、割れ目さえ見つからない。
「まあ、主人に会えば判りますよ」
「はあ」
 それでいいのだろうかと思わないわけではないが、住人がいいと言うのだから、大人しく夫人の後に従った。
 屋敷の中は、外観ほどに色彩にあふれてはいないが、立派であることには変わりなく、チェンフーは堂々としているが、リウは、いささか慣れない。
「あなた、お客様よ。お兄様からお届けものみたい」
「兄さんから?」
 招き入れられた部屋は、雑然としていた。書き散らかされた皮紙に本、蓋を開けられた懐中時計に、よくわからない鉄くず。何かの実験室か、整備室かのようだった。
 その中央で、小さなものを持った五十ほどの男が、睨むようにしてリウらを迎えた。
「あなた、お客様にその態度は何です」
「何って…何もしちゃいないだろう」
「あなたは、お顔が怖いんですから、もっと笑うとかしてください」
「そんなことを言ったってなあ」
 男は、困ったように眉を寄せた。夫人のみもふたもない言い様とその反応に、つい笑ってしまう。
「どうぞ、座ってくださいな。ガラクタは、適当にのけて頂戴」
「ガラクタ…」
 夫人の言葉に、男がうなだれる。しかし、革張りのソファーは確かにそうとしか呼びようのないものに占められており、迷ったリウやウーが視線を交わしていると、夫人が、片腕に箱を抱えたまま、さっさとそれらを払いのけてしまった。
「どうぞ」
「あ…ありがとうございます…?」
「今、お茶を入れてきますね。夕飯、食べるでしょう? 中途半端な時間だから、お茶請けは出しませんよ」
「え。あ。あの…」
 にこやかに言って、さっさと出て行ってしまう。どうにも、調子が狂う。
「とにかく、座りなさい。あれには下手に逆らわん方がいい」
 そう言って、男は、ソファーの向かいの椅子に腰を落とした。リウは、肩をすくめて座り、隣に当然のようにチェンフーが並んだ。まだ一人分ぐらいは空いていたが、ウーは、戸口の壁にもたれるようにして立つ。
 男は、鋭い視線で、先ほどの夫人が置いていった、武器を入れた箱を見つめた。そうして何故か、溜息をつく。
「君たちみたいな年齢で、これだけの武器を持ち歩かなければならないというのも、殺伐とした話だな」
「場所が場所ですから」
「ああ…そうだな」
 チェンフーの剣とリウが存在を忘れていたもの以外は使い込まれた武器を一瞥し、何か言いそうではあったが、男は、その先は続けなかった。
「それで、兄から届け物というのは、本当かな」
「少なくとも、あたしはそう聞きました。ワン・クーさんからワン・シュイさんにと。半金は頂いてますし、確認されるなら、契約書もどうぞ」
「ああ、いいよ。筆跡くらい、どうにでも誤魔化せる」
「つまり、他の人が依頼したということですか?」
「いや、きっと兄だろう」
 掴みどころがないなと思いながらも、出しかけていた契約書を、それでもとりあえずは広げる。
 男は、さして興味がある風ではなかったが、見て、軽く頷いた。
「それで、何を持って来てくれたのかな?」
「それが…箱に入ってる、卵型のやつです」
 これ、と指差す。男がそれに頷き、更に続けようとしたところで、お茶が運ばれてきた。
 重さのある武器を預けたときから判っていたことではあるが、夫人は、結構力持ちだった。四人分のティーセットを、なんと片手で運んできた。
 一瞬、呆気に取られる。
「少し癖のあるお茶なのだけど、平気かしら? 駄目だったら言ってね、他にも色々あるの。ただ、全部癖があるのだけど」   
 どうぞ、と渡されたお茶からは、確かに独特のにおいがした。ハーブを煮詰めたような刺激のあるにおいだ。
「あっ、凄い、クレセントだ!」
「クレセント?」
「あら、そういう名前なの? 頂き物で、何も知らないのよ」
「珍しい茶葉だよ。オレも、これで二回目だ」
 嬉しそうに、チェンフーがカップに口をつける。
 こいつに警戒心ってものはないのか、と呆れながら、丁度いい毒見だと思うことにした。リウも、何も本気で毒の心配をしているわけではない。だがそれにしても、無防備だ。育ちの違いだろうか。
 チェンフーは、おいしいと言って、にこにこと笑った。
「…いただきます」
「夕飯ができたら、呼ぶわね。どうぞゆっくりしてらして」
 三人ともがお茶を飲み、不満がなさそうなのを確認するかのようなタイミングで、夫人は部屋を後にした。途端に、ウーがカップを下ろす。
「…まずいなら、無理に飲まなくていいよ」
 ワン・シュイは、何故かしみじみと言った。無言で、ウーは肯いた。夫人の退室を待ったのは、気を遣ったらしい。
 リウ自身は、独特のにおいは好きにはなれないが、ほのかに甘みのある味は、嫌いではない。
「さて、この卵が届け物といったかな」
「はい。渡せば判る、と、言われました」
「ところで君は、どこで兄に会った?」
「キリシスの繁華街です。仲介所に入るところで呼び止められました」
 ワン・シュイが何を疑っているのかが判らないまま、リウは正直に事実を述べた。容姿も聞かれるかと、目の前のワン・シュイとはあまり似ていなかった、頭の薄くなったやせぎすの男を思い浮かべた。
 だが予想に反し、そうか、と言われただけだ。
「半金は受け取っているといったね。残りの報酬は、どうやって受け取ることになっているのかな。私が払うとでも言われているのかな?」
「いえ。返事をもらって来るように、と」
 だから、卵の中には手紙でも入っているのかと思っていた。
「ふむ」
 そう呟いたきり、黙り込んでしまう。
 問題のある仕事だったのか。確かに胡散臭かったよねえと、リウは、心の中で呟いた。何しろ、仲介所の前で声をかけられての依頼だ。中には、仲介料が惜しくて直接人を捕まえて頼もうとするものもいないわけではないが、リウに声がかかるのはまれだ。
 どう見ても「子供」の範疇の年齢で、しかも女だ。仲介所でも、今までの仕事履歴を見せてもなかなか信用してもらえないことが多い。
 ただ、お金と、依頼人の必死さに釣られた。これでは、騙されても迂闊だったとしか言いようがない。
「そのとき兄は、一人だったかね? 周りを見回すような素振りは?」
「一人で、警戒しているというよりも、怯えているようでした」
「それなら、運んできてくれた君たちには申し訳ないが、これは開けない方が良さそうだな」
「え?」
 ワン・シュイは淋しげに微笑んだ。
「兄は臆病でね。逃げている最中なら、あるいはそうでなくても、秘密の仕事をたのむなら、おどおどとしていたことだろう。怯えていたというなら、脅されていた可能性の方が高い」
 だから、この中身はろくなものじゃない。
 穏やかに断言すると、ワン・シュイはお茶を口に含み、実は好きではなかったのか、かすかに顔をしかめてカップを下ろした。
「私が残りの半金を払う、と言えればいいのだがね、残念ながらあまり蓄えもない。申し訳ないが、残りの報酬は諦めてもらえないかな」
 どうしようかと、リウは心のうちで腕を組んだ。ウーにもチェンフーにも関係のないことだから、一人で考えるしかない。
 ここで肯けば、話はそこまでだ。今のところ特別金に困っているわけでもないから、振り回されたという一点を措けば、問題はない。仲介業者を通してもいないから、評価が下がることもないだろう。ウーに羽のしまい方を教えるというおまけがついたが、これは負担にはならないし、ここまで来たのも、適当に放浪したいという願いを叶えるのには一役買っている。
 だから実のところ、ワン・シュイの言い分を聞き入れるのには、何ら障害はない。
 だが単純に、あるいは純粋に、卵の中身には興味がある。武器と判断される何が、その殻の中に潜んでいるだろう。
 それなら、と、リウはワン・シュイを見つめた。
「この卵を、開けるつもりはないんですか?」
「ああ。危険物と判断されたものだ。下手をすれば、私が触れた途端に毒針でも飛び出しかねない。自業自得ながら、心当たりも多いからね」
 一体何をやらかしたんだこの人はと、リウは首を傾げた。この数年のことなら、そこそこ事情に通じているつもりだが、羽化前――村にいた以前のことであれば、さっぱりだ。全くとは言わないが、今現在を追うことに躍起になり、どうしても情報と知識は乏しい。
「じゃあ、今回の仕事は諦めます。代わりに、この卵、もらえませんか?」
「…何故?」
「興味があるのと、そこそこの値がつくものだったら儲けものだから。もし中身があなたに関係のあるものだったら、ちゃんとお渡しします」
「危険だよ」
「まあ、それはそれで。もし良ければ、今夜にでも、どこか貸してもらって開けたいんですけど。そうしたら、中身をあなたも見られるし」
「…君は、この中身を何と思っているんだ」
 疑っていると思われているのだろうか、と思う。まあ、そう思われても仕方がない。そして、リウを信じるだけの理由も義理もない。
 あっさりと、リウは肩をすくめた。
「何らかの武器、でしょうね」
 どこか呆けたようなワン・シュイに、言葉を継ぐ。
「この邸の仕組みがどうなってるのか知りませんけど、それほどに自信満々に言うのなら、そうなんでしょうね。だから、この中が危険物だというのはほぼ確定だと思います。だけどまあ、中身は何だっていいんです。ただ、隠されていると気になるでしょう?」
「わかった。明日の朝、中庭に案内しよう」 
「中庭、ですか?」
「私の能力は、開けた場所の方が使いやすいんだよ。それと、明るい光の下」
 この人は、白羽と黒羽のどちらだろう、と、リウは考えをめぐらせた。いつもであれば出会った瞬間に考えることだが、今回は調子を狂わされていた。あの夫人も、この男も、さて、どんな能力の持ち主だろう。
 リウは、にこりと笑みを上乗せした。
「お願いします」

2007 年 6 月 17 日 ハイボールって知ってます?

 そういう名を冠した缶チューハイが出ていて、それを見て「あー懐かしい」といったら、父にぎょっとされました(爆)。
 昭和二十年代後半に生まれたという、焼酎ハイボールの略称、らしいのですがね。
 や、私だって直接は知らないですよ? この間読んだ対談で、出てただけなんだ。ハイボールとかバクダンとか。

 今日は、『ツバサ』と『クロス・ゲーム』の新刊買うんだー、と本屋に行ったら『ツバサ』しかなく、結局三軒本屋を回りました。
 …が。
 夜になって気付きましたが、あれって発売日明日じゃね? どうも私、サンデーとマガジンごっちゃにしていた気が。
 そうそう、『妖怪のお医者さん』という漫画も気になっているのですが、さてどうしたものか。長くなりそうなのだよねえ・・・一話立ち読みした感じ、ちょっと微妙だしなあ…うーんー、でも気になる。

 そういえば今日、「平成教育委員会予備校」の問題、ほぼ正解で驚きました。珍しいこともあるもんだ。
 そしてああいう番組を見ていると、学生時代の試験を思い出しますねー。
 試験自体は嫌いじゃなかったけど、その前の「勉強しなきゃ」な空気が大嫌いでした。あ、でも試験好きと言っても、英語はさっぱりだし数学は公式が覚えられなかったしで、やはり比較的好きな教化限定になったのですがねー。
 数学は暗記力は必要ない、と言いますが、それぞれの公式をゼロから編み出せない程度の頭脳の持ち主としては公式はやはり丸暗記で、でも記号だの数字だのだけで、算数までならまだしも数学になってくると到底覚えられませんでしたよ・・・問題集やるの自体はそこそこ楽しかったけど。あ、でも上級はやはり厳しかったから投げてましたけどね(爆)。

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 夫人の料理は、おいしかった。
 温かな具沢山の野菜と魚のスープと、固焼きパン、なめらかな木の実のジャム、肉の塩焼き。他には、中庭の菜園で取れるという葉菜のサラダ、手作りの氷菓子。量もたっぷりとあり、育ち盛りの三人が飛び入りで参加したとはいえ、いささか多すぎるほどだった。
「いいか」
 部屋の扉が叩かれ、リウは、振り返ることもなくどうぞと応えた。ウーの声だ。
 食事が済むと三人は、屋敷の客間に通された。部屋数はあるのだがあまり掃除をしていないからと、ウーとチェンフーが同室で、リウは一人だ。三人一緒の方がいいと言ってみたのだが、夫人に、真面目な顔でたしなめられてしまった。
 良家の娘であれば、お付の女がいないところで異性と会うだけでも厳禁だ。そこそこの生活をしている者でも、女の一人旅、あるいは夫や兄弟でもない異性との旅など、論外に違いない。
「チェンフーは?」
「寝た」
「そう」
 そこでようやく、リウは振り返った。閉めた窓を背に、首を傾げる。リウの髪は湿っているが、ウーにその様子はない。風呂も提供してもらえたのだが、入らなかったようだ。
 ウーは、しかめっ面を崩さない。
「どうするつもりだ」
「とりあえず、朝を待って卵を開けてもらおうと思ってるけど?」
「鵜呑みにするのか」
「さあ? 卵が開けば、はっきりするんじゃないかな。ところでご飯、おいしかったね。量もあったし。あたし、魚好きだから嬉しかったな。肉も上等だったし」
「…ああ」
「予想外だったんだろうね?」
 言葉の代わりに、肩をすくめられた。
 部屋に入り扉は閉めたものの、そこから動かないウーを、リウは苦笑して眺めやった。
「椅子もあるんだから、適当に座ったらいいのに。義理堅いというか頭が固いというか」
「誘ってると誤解されても、不思議じゃない」
「あははは」
 呆れたような声に、笑ってしまう。確かに、常識で考えればその通りだ。その上、力ずくで来られれば、逆らい続けることは難しいだろう。
 だがリウは、全く無防備に笑い続ける。苦々しげな忠告がやたらに印象通りで、逆に可笑しい。
「本気で誘ったところで――何?」
 あまりにも深刻な視線が自分を素通りし、リウは、驚いてその先を見た。
 振り返り、表情が消える。一瞬、確かに呼吸が止まった。――森が、燃えている。
 屋敷からは遠く、森のほんの入り口のところだ。距離があるためにマッチの先に灯ったかのように思える、赤い、炎が見える。ずっと離れているのに、生木を焼く臭いまでが、届いて来そうだった。空でも飛べればともかく、走れば、人の妨害がなくても、一日はかかるだろう。増して、夜。
 駆けて行くのは無謀と知って、リウは、表情のないまま窓枠を掴んだ。さして力を込めることもなく身体を持ち上げ、そのまま、二階から飛び降りた。
「おい!」
 ぎょっとしたウーの声が聞こえたが、無視を決め込む。
「――出て来て。話を聞きたいだけだから。夜だし、屋敷の中の人を起こしたくはないでしょう?」
「…何を考えている」
「君まで飛び降りること、なかったのに」
 月影に目を凝らし、リウは木々の人影を見据えた。二人とも、声は抑えているが、十分に聞き取れる。リウは、小声を張った。
「南の方で、木が燃えてる。火をつけた人物に、心当たりはない? あなたたちは、連絡を取り合っているんでしょう?」
 森にいるのは、ただの夜盗ではない。てんでばらばらかもしれないが、ある程度の連絡はとっているだろうと、リウは確信していた。そして彼らは、ワン・シュイらともつながりがあるだろうと。根拠は薄くても、自信だけはあった。
 しばらく待ったが返事はなく、窺うような視線だけが突き刺さる。
 リウは溜息を落として肩をすくめると、敵意もこもったそれらに背を向けて、跳び下りる際に張っていたロープを掴み、階上の窓へと駆け上がった。続いて、ウーも戻る。
「無茶をする」
「今は、君がある程度なら守ってくれるからね。いつもはもうちょっと慎重だよ」
「…いい性格をしているよな」
「ありがとう」
 勿論褒め言葉ではないのだが、嫌味も乗せて、笑顔で告げる。
 リウは、肩越しに遠い炎を見遣り、すぐに目を逸らした。春先の、湿気のある時期だ。油を撒いたとしても、よほどのことでない限り、大きく燃え広がることはないだろう。
 何も言わずに部屋を出たが、ウーは、何も言わずに後に続いた。
 直接話をきいた方が、早い。そう思って夫妻の寝室を訪ねようとしたのだが、ふわりと、眠気が襲ってきた。急激なそれに、しまった、と呟こうとして、ろくに口も動かないことに気づく。ウーはと、振り返ろうとして体勢を崩し、おそらくはウー目掛けて、倒れこんだ。
 近くで、扉の開く音がした。
「ごめんなさいね」
 柔らかい声が、そう謝った。

2007 年 6 月 18 日 梅雨模様

 この時期、着ていく服に困る。といっても結局、いつも通りなのですが。
 雨のときは、短いズボンにサンダルが一番楽なのですがねー。会社にそれで行ったら、別に靴を用意しないとだしぬれた足を付加ないとなので面倒。
 ・・・しかし、豪雨に遭遇して(通り雨だった)ズボンというか下半身ずぶぬれで上さえ濡れたときにはさすがに、家から着替えを持ってきてもらった・・・制服に着替えても無理だった。

 今日、休日を決めることになりまして、友人宅に遊びに行くかもしれない(なんだか無理そうだけど)から、二連休取ろうー、ついでに有給とって十日休もう(月に休日九日が規定)、と思っていたら。
 何かしらないけど、そんなことは到底無理でした(爆)。
 な、なんで私、一週間連勤確定なのーッ? 私の前に、先に二人休日を入れて、私で課長、と決めていっているのですが、そんな事態に(別にこの時点では確定ではない)。
 ふふふふふ、そして課長は、今月の休み予定八日という。・・・いやあの、ほんと、事務、あと一人くらい雇って・・・休めない。何だか私、有給、使えずに消えていく予感がするよ・・・。それでも三人で回していた時期があるというのだから恐ろしい。
 そして気付けば、三連休とっていました。友人宅に行くかどうかはともかく、とりあえずどこか旅立とう。少なくとも一泊できるな。

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 鈍い痛みと、重い頭。リウはゆっくりと、意識を取り戻していった。
 身動きしようとして、両手足が拘束されていることに気付く。動かせないが食い込むような痛みはなく、布でも当ててあるのかと訝る。口元は、声が出せないように布で覆われていた。
「気付いたの?」
 立っていたのは、ワン・シュイの妻だった。灯火に照らされた顔が、青ざめているように見える。狭い部屋は雑然としており、物置のようだ。
 リウの視線を受け、夫人は目を逸らした。小さく、俯く。やはり彼女は、若々しく、というよりも幼く見えた。
「ごめんなさい。…傷つけるつもりはないの。どうか、朝になったらそのまま、出て行ってもらえないかしら。あなたが持ってきたもののことも、ここのことも、全て忘れて。――お願い」
 こちらの身体の自由を奪い、夫人の方が優勢に立っているはずだというのに、明らかな懇願だった。色々と訊きたいことはあるのだが、布に塞がれて言葉にはならない。
 夫人から視線を移すと、すぐ隣に、リウと同じ状態のウーがいた。縛られた手足を見ると、やはり傷付かないように当て布がされている。こちらはまだ、意識が戻らないようだ。
 リウの視線に気付いたのか、夫人は、儚く微笑んだ。
「一番に目を覚ますのは、その子だと思っていたわ。あまり食べなかったもの。ねえ、どうしてあなたは、そんなにも早く目が覚めたの? 本当は、森の外に運ぶまで、誰も気付かないはずだったのに」
 布を外してくれと、自由の効かない身体で訴えてみる。予定外の事態に戸惑っているのか、曖昧な今の様子では、埒が明かない。
 夫人は、困ったように首を傾げ、考えるように人差し指を唇に当てた。
「騒がない?」
 こくりと、頷く。
「それならいいわ。私、にぎやかなのはいいけど、うるさくなると駄目なの。色々と、思い出しちゃって。そうそう、警告しておくわね。もしも大声を出すようなら、こんな布じゃなくて、声自体を封じてしまうから。わかった?」
 ここは、大人しく頷いておく。そもそも、大声を出す必要も感じない。
 夫人は、慣れた手つきで布の結び目を解いた。
「痛いところはない? 私、強く縛りすぎてないかしら」
「大丈夫。快適とは言い難いけど、平気だから。それよりも、何故こんなことをするのかは、教えてもらえない?」
「…私は、あの人と一緒にいたいだけなのに」
 リウの言葉に応えたというよりも、まるで独り言のようだった。何故わかってはくれないのだろう、邪魔をするのか、赦されないことなのか。そんな問いかけが聞こえるようで、リウは、懸命に記憶を探った。
 五十前後の男と、三十前後の女。そのどちらか、あるいは両方で、何かあっただろうか。幅の広すぎる条件だとは、十分にわかっている。
「あなたたちは、何に追われてるの?」
「ごめんなさい、それは話せないわ」
「どうせ、あたしたちが大人しく言うことを聞かなかったときのために、対策は取ってあるんでしょう? 誰にも話さないって約束するし、それが信じられないなら、その策を取ればいい。こんな状態になって、理由も判らない方が厭だな」
「…駄目よ」
 一瞬の躊躇いの後に、夫人は首を振った。ゆっくりと、哀しげに。
 リウは、そんな反応に盛大な溜息をついた。
「あなたたちが何から逃げようとしてるのか知らないけど、多分、あたしたちをどうにかして終わるものじゃないよ」
「知ってるわ」
「森に火がつけられたことは?」
 夫人が、息を呑む。
「問題はあたしたちだけじゃないみたいだけど、全部に対応できるの? 役に立つかどうか判らないけど、味方を増やすことくらい、試してみたら?」
「…それで裏切られるのは、厭なの」
「あなたたちの味方をできるかはわからないけど、あたしは、少なくとも火をつけた奴の側にはつかない。絶対に」
 故郷の焼け野原は、今もまだ、脳裏に焼きついている。そんなものをつくり出そうとする輩を、だから、リウは赦さない。森の炎を見たときに、ざあと血が引くのを感じていた。
 何かを感じたのか、夫人は迷っているようだった。
「あたしの故郷は、燃やされたの。今も、本当の理由は知らない。理由も判らないまま、あたしの家族たちは、殺された。だから、たくさんの生き物や人が住んでいるここに、火をつけて始末しようなんて考える奴の味方なんて、殺されたってしたくないんだ」
「リウ!」
「へ?」
 唐突に、扉が開けられた。その斜め横にいた夫人が、呆然と、飛び込んできたチェンフーを見ていた。リウも、唖然として青年を見つめた。
 チェンフーは、リウとウーを見て夫人に視線を移すと、躊躇なく、その腕を、容易く捻り上げた。そうしてから蝋燭に照らされた室内を見回し、リウとウーを縛った余りか、落ちていたロープで拘束し、逃げられないようにテーブルの足に括りつけた。
「大丈夫か?」
 跪くように体勢を落とし、リウに目線を合わせる。驚いたまま、リウは首を縦に振った。
「ごめん、寝てた」
 率直な言葉に思わず噴き出しかけたが、深刻な響きに堪える。チェンフーは、一心にロープを解こうとしている。ナイフでもあれば簡単なのだが、取り上げられたまま、どこに保管されているのかも判らない。
「どうしてかしら。ちゃんと入れたのに」
 ぽつりと、夫人が呟いた。不思議そうに、呆然と。
 リウも、チェンフーはてっきり、薬で眠らされているものと思っていた。ウーから寝ていると聞いたときは、ちらりと掠めた程度の考えだが、一度意識を失ってからは、確信していた。それなのに、違ったらしい。自分のように毒消しでも飲んでいたのかと、首を傾げる。リウの場合、種類が違ったからか、完全には打ち消してくれなかったようだが。
 チェンフーは、手を止めることも、顔を上げることもなかった。
「金に物を言わせた成り上がりだから、うち。暗殺対策で、小さい頃から、集められる限りの薬や毒には、耐性をつけられてる」
 疎むような声を、リウは、意外に思った。てっきりチェンフーは、お気楽な身の上の能天気な青年と、思い込んでいた。しかし、居眠りも本当だとすると、やはりどこか能天気だが。
「なあ、おばさん。なんでこんなことしたんだよ? ここに来た奴片っ端から始末したって、きりないだろ? あんたたちは、大々的じゃないとはいえ、宰相直々の指名手配を受けてるんだから」
「――え」
「あなた――あいつの刺客なの?!」
 夫人の顔が、みるみる表情を失う。
 その背から、闇の中にも白っぽく映る羽が、ふうわりと生えた。開かれた口からは、謡うように言葉が紡がれた。
「旅人よ 旅人よ この地は汝の故郷に非ず 安息の地に非ず 立ち入ることも許されぬ 旅人よ 旅人よ 汝 この地に生きるを――」
「やめなさい」
 新しい声に、女は、声を止めた。その顔に表情が戻り、泣き出しそうな子供のように、戸口を振り仰いだ。
「だって、先生――」
「落ち着きなさい。羽も仕舞って。ホワン君、これを使いなさい」
 そう言って、かがんだワン・シュイは小刀を滑らせた。自身も、妻の戒めを断ち切っている。
 チェンフーは素直にナイフを取り、リウを傷つけないように注意しながら、縄を切っていった。リウは、下手に動いて邪魔しないよう気をつけながら、そっと首を捻った。
「チェンフー、二人を知ってるの?」
「ん? ああ、一応。顔は知らなかったから、偽名だったら知らないけど。王府の研究施設にいた学者と、被験体、って言ったらあれだけど。ワン・シュイは、王府が引き取ってた孤児たちを唆し、研究施設を破壊した。その上、国家転覆を目論んでた証拠が挙がって、反逆罪。孤児のうちの一人が大々的に協力したってんで、二人揃って大犯罪者。但し、秘密裏に。なんだったかな、国の威信をかけて捕まえるべく、他者の介入を防ぐため、だったかな。物凄い理屈だよな」
 面白くもなさそうに並べ立てる口調は、それらの「事実」を、一切信じていないと知れた。その間、リウはワン・シュイの様子も窺っていたが、聞こえていないこともないだろうに、気にした様子もなく、妻をなだめている。とりあえず、背の羽は仕舞われたようだ。
 リウを解放すると、チェンフーはウーの縄を切りにかかった。ウーはぐったりと力を抜き、一向に目を覚ます気配がない。
「詳しい話、聞かせてもらえない? さっき、奥さん――で、いいのかな。その人には断られたんだけど」
「…ああ。君には、話すべきだろう。シーラン、お茶を入れてくれないかな。蜂蜜をたっぷり入れて」
「――ええ」
 一度はワン・シュイに抱きついて、シーランは、そう返事をした。

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 多分明日で、貯金分は終わり。明後日から、ぐっと分量が減ります(笑)。
 そこまでで大体三分の二くらいのはずなので・・・早く終わりたい・・・(いつだよこれ書き始めたの)。

2007 年 6 月 19 日  なんだかなあ

 5S委員会というものがあるのですが…勝手に委員に任命されているのですが…何かが引っかかるなー何だろうと思っていたのですが、今日気付きました。
 私塾っぽいんだ。←体験したことありませんが
 先生って呼ばれる人がいて、その人の考え方に感銘を受けたり箔をつけたかったりまあ諸々の理由で集い、勉学する…というイメージのそれ。
 一人、他の二つの委員全てにも出ていて常にレジュメを作成してくる人がいましてねー。それまでどんな職についていたのか私は知りませんが、バイトだけど社内改正を筆頭でやっていましてねー。
 まあその人が師なわけです。
 もっともなことを言っているし、実際今勤めているところは、改善点が和限りなくあることくらい私にさえわかります(具体的にここ、とは言えませんが)。
 問題は、何故だか私がその人をあまり好きになれないことですかねー。うーん、どうしてだろ。

 そんな委員会で帰るのが遅くなりましたが、本屋に寄って漫画三冊購入して来ました。
 『クロスゲーム』を父が楽しみにしているから、延ばせなかったというのもあります(苦笑)。迷っていた『妖怪のお医者さん』はかなり微妙だった…次の巻からどうしよう…。
 そう言えば、この頃備忘録代わりにミクシィの「おすすめレビュー」で読み終えた本を片端からつけていっているのですが(その時点で既に「お薦め」じゃない)、その『妖怪のお医者さん』を『もっけ』に通じるものがある、というような感じのことを書いている人がいて…なるほど、読むものって人それぞれに受け方が違うのなー、と改めて実感しました。
 そういう意味で、個人レビューを読むのは面白いです。←どんな楽しみ方

 ところで今日、ドラマの「セクシーボイス・アンド・ロボ」が最終回でした。
 えー、まあ内容は・・・措いといて(爆)。
 ざんざか、最終回が押し寄せますね。今期は結構好きなのが多かったです。
 「プロポーズ大作戦」と「ライアーゲーム」、「私たちの教科書」は、見ていると手が止まる(普段、何かしながらテレビを見ることが多い。本読んでたり)。
 「セクシーボイス・アンド・ロボ」と「生徒諸君!」はかなり惰性ですが…。
 しかし上の三つは、それぞれ違ったところでの「面白い」でした。方向違ってこれだけ見ごたえのあるのがあったのは、めぐまれてたなー今期。

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 私は、王府で働いていた。軍の研究施設だ。どうすれば効率よく訓練をできるか、から始まって、強い人間はどうすれば作れるのか、という研究が主になっていた。
 私は、羽化に目をつけた。
 羽化後の能力を自在に決められれば、強力な武器になる。そう演説して研究費を勝ち取ると、羽化のメカニズムを徹底的に調べ、そうして――実験したいと申請した。
 はじめは救護院などの孤児を引き取り、やがて、ある程度の実績が確認されると、上層部は、大規模な「狩り」をしようと考えた。できることなら民草すべてを掌握したかっただろうけれど、まだ時期尚早と、とりあえず――手頃な村を、対象にすることにした。
 ――彼らは、いや、私たちは、羽化する前の子供たちを捕らえ、目撃者となった大人たちを殺し、火をつけた。

 リウは、シーランの淹れたお茶のカップを抱えたまま、呆然と目の前の男を見ていた。
「私が事の酷さに気付いたのは、シーランに出会って――いや、再会してからのことだ。そうして、私は逃げ出した。シーランの能力を借りて、ここに砦を築き、一緒に逃げた子らも、幾人かは力を貸してくれた」
 ゆっくりと語り、ワン・シュイは、リウをじっと見つめた。目を逸らしたいだろうなと、リウは、自分のものでないような思考の端で考えた。
 敵かも知れない男の話す真相かもしれない話は、リウの頭を一度は素通りしながら、しつこく、空洞に反響するかのようだった。
「さっき、話が聞こえた。君は…あの村の生き残りだね」
「それが――何か」
 自分のものでないような声が、押し出された。喉は干乾びていると思っていたが、思い過ごしだったのかと、リウは妙なところで笑いそうになった。可笑しくもないのに。
「私は――」
「謝罪の言葉なら、受けません。あたしはそれを受ける立場にはないし、あなただって」
 逃げたのだと、リウは知っている。
 焼き放たれた村を見て、そこから生き延びて、リウは、逃げ出した。事の真相を探ろうともせず、敵をとろうとも考えはしなかった。許したのでも諦めたのでもなく、ただ、恐かった。圧倒的な死と力が、恐ろしかった。
 だから、逃げた。
 謝罪を受けたところで、それを受け止めるだけのものは自分にはないと、リウは知っている。
「あなたが謝るべき相手は、あたしじゃない。あたしはその人たちが、どこにいるのかも知らない」
 リウは一度、目を閉じた。閉じてから、随分と乾いていたことに気付く。目を見開き続けていたのだろうか。落ち着け、と、心のうちで呟く。自分を見失うのは、もう御免だ。
「あなたたちを追いかけているのは王府で、居場所を突き止められたってことですね。でもこの森では、羽が使えない。だから森ごと燃やそうと、あるいはその意志があると脅しを掛けてきた。そんなところですか?」
 居場所自体ははじめから掴んでいたが手を出せなかったのか、ワン・シュイの兄を脅したことで、露見したのか。
 考えていれば、立ち止まらなければ、思い悩まずに済む。ただの逃避と判りながら、リウはそれに縋った。ワン・シュイの痛ましげな瞳の色は、見なかったことにする。
「ということは、この森、囲まれてますね。逃げるのは難しいか」
「でも目を逸らせば、そのうちに逃げることはできるんじゃないか?」
「ああ――うん。あたしたちだけなら、それか、逆にこっちが森を燃やしてしまえば、逃げられるね」
 口を挟んだチェンフーに向いて、独白めいた言葉を吐く。しかし、森を焼くのは論外、リウが自分だけを逃すのは、最後の手段だ。
 チェンフーに、笑いかける。
「嘘の依頼で捨て駒に使われたんだよ。あたしが甘かったんだけどね。虚仮にされて、まさか尻尾巻いて逃げ出すの? 君は好きにしたらいい。逃げるなら協力する」
 命はもう、一度惜しんだ。常日頃の生活でも大切にしている。
 チェンフーは、驚いたように目を瞬かせ、束の間ぼうっとしていたかと思うと、にやりと笑った。
「乗った。どうする?」
「とりあえず、ウーを起こしてくれる? ところで奥さん、ワン・シュイさんでもいいけど。何故あなたたちだけこの場所でも羽が使えるの?」
 シーランが躊躇い、ワン・シュイがそれを眼でなだめる。寄り添い合うように立つ二人は、ありふれた仲のいい夫婦にしか見えない。
「シーランの能力は、禁呪だ」
「ああ、なるほど。それでこの森のあなたたちへの干渉を禁じたんですね?」
「――その通りだよ」
 禁呪は、名の通りに禁止するものだ。
 例えば、歌うことを禁じれば、いくらそう努力しても歌えなくなる。先ほども、シーランは、生きることを禁じようとしたのだろう。つまりは、殺そうとしたのだ。そんな風に、婉曲にも使える。
 シュムと同じ白羽に属するが、珍しい能力だ。
 研究の成果ですか、と心にだけ思い浮かべて、シュムは思案する。
「逃げる策は、ありますか?」
「いや」
 返事があまりにも潔くて、いっそ感心してしまう。そして、悲壮を通り過ぎて悟りの境地にいそうなかおに、笑顔を向ける。
「じゃあ、今から立てよう。あなたたちの能力を詳しく教えて。それと、シーラン。あたしたちの能力も、使えるようにしてくれない?」
「それは困る」
 静かな声がした。
 いつの間にか、ワン・シュイの背後にウーが立っていた。武器こそ持っていないが、首にかけられた腕は、容易くその首を折るだろう。シーランが悲鳴を上げかけて、ウーに睨みつけられて呑み込む。起こすようたのんだチェンフーを見ると、意識を失っているのだろう、床に倒れていた。
 リウは、気付かずにいた自分に、歯噛みする。
 誰もを敵と、思っているはずだった。隙を見せれば、酷い目に遭うと知っているはずだった。信用していなければ、気付けたはずだ。だがシュムは、本当に自身の身の安全の一端を任せるほどに、信頼してしまっていた。疑いを、放棄していた。
「選択肢は二つしかない。死ぬか、軍に戻るか」
「君は、年齢からすると――あの村の子供かな」
「知らない。羽化前の記憶は、全て失った」
「ああ…その症状も多かったな。逆に好都合と、喜ばれたがね。私は、あそこに戻るつもりはないよ。……シーラン、すまない」
 ワン・シュイが悟りきったかおをして、シーランが泣いている。ウーの顔は、ワン・シュイに隠れて見えない。
 ただ、二人の会話が、シュムの中で反響した。
 アノムラノコドモ。ウカマエノキオクハスベテウシナッタ。
 同い年くらいで、水色の瞳をして、あの少年の面影を残す。本当に――では、本当に。思い違いではなくて、彼は、幼馴染なのだろうか。
 涙が、こぼれた。
「他の子らには、手を出さないでもらえないか」
「それは、俺の領分じゃない」
「…そうか」
 生きていた、という思いと、あの幼馴染が森を焼き払う側にいるということが、どうしても信じられなかった。信じたくなかった。
 一度、目を閉じる。深く、息を吸う。
「ウー」
 この人は、あたしの知ってるロンアルじゃない。そして、あたしが知ってるウー・ラウは極わずか。でも。
 ゆっくりと、胸の内でつぶやいた。
 相変わらず顔が見えないが、一瞬、息を呑む気配があった。
「リー。ホワンと一緒に行け。二人なら、逃げられるだろう」
「厭」
「…リー」
 にっこりと、笑みを浮かべる。笑顔は便利だ。
「ウー、まだ契約は切れてないよ。君はあたしの護衛役。そこの二人を脅すのは、お門違い」
「リー。俺は軍属だ」
「そうみたいだね。ねえ、こっちに来ない?」
「……馬鹿を言うな」
「あ、少し迷った」
 笑顔を崩さずリウは、ウーに近付いた。ワン・シュイの身体に遮られることなく、ウーを真っ向から見据える。そのかおは、今にも泣き出しそうだった。
「だって話の流れからして、希望して軍に入ったわけじゃないんでしょう? それなら、何が悪いの? そんなかおをするくらいなら、辞めればいい」
 無断離脱は、最悪、死刑と聞く。それでもリウは、笑顔で言った。一層、ウーの顔が歪む。
「やめなさい」
 静かに、声が割り入った。頚を押さえられたワン・シュイは、ゆっくりとリウを見つめた。
「君たちは、彼の言った通りに逃げなさい。軍は、甘くない」
「だから何?」
 悟りではなく諦めに、リウは笑いかけた。
「脱走者を許さない? そうだね、現にあなたたちは、追い詰められている。だけど、そのままとも限らないでしょう? それとさ。あなた、自分は殺されて当然だって思ってない? でも、死にたいなら一人でひっそりいってくれない? シーランや森にいるあなたたちの協力者を巻き込むのは、迷惑だよ」
「…ひとつ、教えておこう。彼らは、胸に呪詛の種を埋め込まれる。命令に逆らえば、種は急激に成長して、宿主の心臓を食い破る」
「それじゃあ、森にいる人たちは?」
「シーランが、時間をかけて種を殺した。随分とかかったよ。数日で片付くものではない」
 ふうん、と、リウは、笑みを消した。えげつないことするなあ、と呟く。
「でも、無理ではないんだね。それは、実際にある種? 形のないものじゃなくて?」
「種に、呪詛を溜め込んだものだ。君は、種を出そうと思っているかもしれないが、無理だ。先に、心臓が止まる」
「シーラン、あたしの能力が使えるようにして」
「…え?」
「早く」
 気圧されてか、逡巡した視線がワン・シュイのところで一度止まり、しかし、逸らされた。最愛だろう人に名を呼ばれても、俯いている。背に、羽が広がった。
 その唇から、歌めいた文言がこぼれる。
「子供らよ 子供らよ 汝らの身を縛る鎖はなく 縛めは放たれる 子供らよ 子供らよ 汝らの身を縛めるを禁ず」
 変わった感じはないが、意識を集中すると、背に純白の羽が広がるのを感じる。シーランの薄い紫のかかった白羽と違い、リウのものは混じりのない白だ。
 リウは、その腕がワン・シュイの頚にかけられていることに構わず、ウーに更に近付いた。先ほどから、彼は黙り込んだままだ。
「死なせない。信じてくれる?」
「俺は…お前の、家族じゃない」
 ロンアルをそう言ったんだったかな、と、リウは一人胸の内で呟いた。決して血の繋がらない、親友で身内。リウは、少年の顔を思い出そうとした。何故か、笑顔ではなく泣き顔が浮かんだ。
 笑顔を消す。
「ウー・ラウ。あたしは、君の名を呼んだんだ。君に訊いてる」
「ッ」
 厭な音がした。
 ウーの腕が半ばワン・シュイにかかったまま、力を失う。ウーの胸からは血が流れ、音の正体は、ウーの胸が内側から穿たれたからと知った。
 立ち尽くすワン・シュイを押し退け、リウは、倒れて痙攣するウーに触れた。
「眠れ 深く 冥地の底に」
 息がしやすいように、体勢を整える。
 そしてリウは、目を閉じ、血の噴き出る胸にあてた手に、そこから伝わる鼓動と種の脈動に意識を凝らした。傷には再生を、種には老化を、それぞれに促す。
 能力を使う際の文言は、集中しやすくするためのものであって、人によっては必須ではない。リウの場合逆に、口にしない方がやりやすい。それでも普通は、治癒する相手に状態を伝えるためにも、言葉にすることが多い。
 今口を閉ざしたのは、先に拍動を落とすためにウーを眠らせ知らせる必要がないためと、必死さ故だった。
 心臓に空いた穴の周辺に、限界まで振り絞った修復と再生を促し、成長しようとする種には、それ以上の再生を促し、成長に追いつかないままに、壊死させる。
 心臓の穴が塞がったのを感じると、リウは、いまだ塞がっていない胸の穴に口をつけ、溜まっている血と育つことなく死んだ植物の死骸とを、吸い出すことに専念した。傍らの床が、吐き捨てた血で赤黒く染まる。
「戻れ 常に」
 短く言い終えて、はあと、リウは床に腰をおろした。疲れた。
「リウ」
「ありがと」
 差し出された一杯の水に、疑問を挟む余裕もなく、顔を軽くぬぐい、口を漱ぐ。
 そうして人心地ついてからようやく、差し出してくれた人物に意識が向いた。床に伸びていたはずのチェンフーだった。ワン・シュイとシーランは、目を瞠って立ち尽くしている。
「チェンフー。大丈夫?」
「…俺より、お前らだろ。何、何でこんなことなってんだよ?」
「どうして?」
 面倒になってワン・シュイに丸投げすると、男は、束の間逡巡したような間を置いてから口を開いた。
「軍に逆らわないよう、彼の胸には、種が埋められていた。逆らおうとすれば、即座に肉を食い破り、死に至らしめるように」
「え? 軍? ラウが?」
 いや、まあそれはいいや。
 ばっさりと言い切って、チェンフーは一人、なるほどと口にした。
「種が生えてきて、それをリウが助けたんだな。うん、わかった」
 だがそれで収まらなかったのが、ワン・シュイだ。信じられないものを見る目つきで、リウを見遣る。
 リウはそれに気付いたが、疲れに、首を傾げて見せるのも面倒だった。何、と押し出したのは、かなり素っ気無い一言だった。
「君は…今、何をした?」
「種の成長早めて、身体の回復力上げた」
「それが…そんなことを同時に、あの短い時間でやってのけたというのか?!」
「それが何?」
 ああ疲れた、こんな状況でなかったら、即刻眠るのに。ああそう、状況だ。
 自分のぼやきに現状を思い出して、リウは、更に何か言おうとしているワン・シュイを睨みつけた。
「あたしのは、見ての通り。戦いには向かない。接近すれば、老化でも早められるかもしれないけど、そんなことするくらいなら直接に斬るなり刺すなりした方がまし。肉弾戦なら、いくらかは覚えがあるよ。あなたたちの能力は? チェンフー、君の能力は?」
「――風を起こせる。そよ風から、金剛石を切るくらいまで。一人ぐらいなら、長い時間でなければ、宙にも浮かせられる」
「ありがとう」
 己の能力を語るのは、下手をすれば死活問題に直結する。それでも手の内を見せてくれたチェンフーに、礼を言うと、照れたような笑みが返された。
 火を見てから、どのくらいの時間が経ったのか判らない。
「私は、結界だ。もっとも、強度があまりなくてね。例えば剣を受けようと思えば、このぐらいの範囲しか覆えない。あの卵の容器も、どうにか覆えるくらいの箱しか作れないよ」
「私も…私を中心に、この家が収まる程度の範囲内でしか、有効ではないわ」
 それでは、能力を使う場合、別行動はできない。
 そこで唐突に、ひらめくものがあった。
「そうだ、卵」
 怪訝そうな一同を見渡して、にこりと微笑む。
「あの卵、おかしくない? 軍が仕掛けたなら、成否を見届ける前に仕掛けてくるのはおかしいし、呪詛が山ほど詰まっているとして、やりようによっては武器にも使える。お兄さんが自発的に送ろうとしたものなら、危険を犯してでも託そうとした何かがあるってことだし、あけてみない手はないんじゃないかな。まあ、悠長なことは言ってられないかもしれないけど、火が上がってすぐに仕掛けてこないなら、長期戦で追い込む作戦かもしれないし」
 そのあたりは、情報が少なくてなんとも言えない。だがリウは、その不安を表にすることはなかった。

2007 年 6 月 20 日 会話術

 鍛えられるものなら鍛えたいなあ、というもののひとつにこれがあります。
 どうにも私は滑舌がよくないから、相手に聞き取りにくいらしく、発声そもそももどうにかしたいのですが、中身だ。
 機転の利く頭脳がほしい、というのはもちろんですが、せめて、順序立って説明できる能力がほしい。切実に。…後者、仕事柄かなり必要で。いや仕事柄って言うか生きていて必要でない人ってかなり少ないと思うのだけどね。

 えーまあそれは措いといて、先日、『レインツリーの国』という小説を読んでいました。
 …夜寝る前に、五分そこそこの時間を潰そうと読み始めたら止まらず結局一時間ほど寝る時間がずれ込んだという。な、長い話ならまだしも自制が利くのだけど、なまじ読むのにそこまで時間がかからないと判る話だっただけに…(速読とまでいかなくても読むのが早い人ならきっと一時間とかからないと思う)。やられた。
 いやそれで。
 主人公の片割れが関西出身ということで、何気なくその会話(?)の中に「関西人は話に落ちがある」というのがありまして。
 まあ実際あるのだろうけど、あまり実感がないし私自身は落ちを踏まえて話さない事も多いから、その台詞を聞く度にちょっと肩身が狭い(苦笑)。あくまで傾向の話だというのは、判るのですがねー。
 関係ないけど、面白い四コマ漫画を読んでいると、結構きっちり一コマ一コマが「起承転結」になっていると判って感心しますね。凄い。

 全く以って関係のない話ですが、時々私、無自覚に恥ずかしい台詞を書き散らしていますね!
 嘘みたいな話だけれども、読み返して気付くのですよね!←つまり書いている時点では全く気付いていない
 さすがにこの頃では、自覚しながら書いているところもありますが。そしてそれは大体、書いていて気恥ずかしくって仕方がないという…(苦笑)。でも、のけぞって「うああぁあーっ?!」と思うのは、無自覚な方なのですよねーどんな構造になってんだ私の頭。
 あ、でも何度か読み返していても気付かず指摘されて、というのもあるなあ。結構、私の脳内基準は「甘い」水位が高いのかもしれない。

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 中庭には結局、五人ともが揃って出ていた。
 ウーは明らかに休ませておくべき体調で、まだ意識も戻っていないのだが、一人で残しておけばもしもの際に危険にさらされ、かといって誰かが残るには、ワン・シュイとシーランは信用しきれず、チェンフーは風の防壁を張ってもらうために外せない。そうなればリウが残ればいいのだが、言い出した当人がいないというのも、無責任な話であり、実際問題、ワン・シュイに次いで武器薬効に詳しいリウが欠けるのは避けたかった。
 かくして、傷は塞がっていると弁解しつつ、意識を手放したままのウーも運ばれることになった。
「チェンフー、頑張ってねー」
「あったりまえだろ」
 自分で言っておきながら、なんだか緊張感薄いなあと、リウは苦笑した。
 卵形の容器は、開くのと同時にワン・シュイの結界と、チェンフーの風に包まれることになる。はじめはワン・シュイが開くはずだったのだが、開く際に邪魔にならない程度に体に合わせて結界を張るのに、本人がするよりも他の者がやったほうがやりやすいと知って、こうなった。

2007 年 6 月 21 日 発覚

 カラオケボックスでの歌を見られるところがあったので、ぼーっと聞き流していたのですが。
 …友人に歌が上手い子が多くて、でも皆こんなものなんだろうなあ凄いなあ、と思っていたのですが。実際上手だったんだ、あの子らが。
 そう気付いて、ほっとしたような得をした(だってその上手いのが聞けるのだから)ような。いや、比較対照になるときには損してるのかも知れないけど。

 さてところで昨夜、どうしてだったかつらつらと考えていたことがありました。
 皮肉と嫌味と暴言の違いって何だ。あ、毒舌も。
 前々から、疑問ではあったのですよ。「皮肉」と表現されているのだけど、どうしても私には暴言にしか思えない、というものがありまして。というか最近は、多くなってる。
 芸人は措いて、小説で、ただ「皮肉」って書けばいいと思うなよ、「毒舌」ってそれただの暴言野郎じゃなくて? というのが多くって。
 で、考えてみて。
 品の有無かなあ、というのが少し。
 皮肉には、小気味のよさがあります(全部がではないかもしれないけど)。度量によっては流せるし鈍ければ気付かない。隠喩じみているから、面と向かって言い返すと認めているようになって、逆に、面子にかけて反論できない、という場合もあります。
 対して暴言は、ただ気に喰わないところや違うところをあげつらうような。面と向かって言われて、反論しないのは度量が広いのじゃなくって怒るべきときに怒れない人のような。
 嫌味は、悪意を以って欠点を投げかける、という感じかなあ。
 うーん、やっぱりよくわからない。
 皮肉は、正当性があるのだろう、と思えるのですよねー。一理あるというやつ。ちょっと違うか。
 だからそれに対するなら、暴言は、不当。そこまで言うと言い過ぎなのだけど、「言いすぎ」というのが正にそれかもしれない。度を越えている。
 毒舌は、あえて遠慮を切った感じかなあ。特定の誰かや何かに対して辛辣に当たろうとしてではなくて、あえて厳しい面をそのまま見せるような。行き過ぎると、ただの考えなしですがねー。そのあたりの境は、結局性格なのかなあ。
 まあ全てあくまで、私の中の曖昧境界線。
 だけど、「毒舌だから」と言って悪口や陰口を振り撒いたり、「皮肉」と言って相手を貶める発言をするのは、ちょっと待てよ、と思うのですよね。
 「毒舌キャラ」が芸風の人が、ただの「暴言者」にしか見えなくて困る。
 ちなみに今までで、私が出会った毒舌の人は、大学で少し教わった言語学の先生です。好きでした。いやーばんばん皮肉出る。そして気付け後列、言われてるのはあんたらだ…! と、何度思ったか。皮肉って、通じない人には通じないですよ本当、冗談みたいに。

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 手を伸ばす。
 卵の形をした容器は、実は、判りにくいつなぎ目がある。それを見つけるためには、そこの、これも判りにくいボタンを押せばいい。
 つるつるとした材質の卵は、片方の手のひらに、ぎりぎり収まる程度。案外安定はいい。
「わ」
 押したボタン自体の音はしなかったのだが、横にぐるりと入った裂け目が、勝手に上部を持ち上げたのに驚いた。軸が太りすぎたきのこのようだ。
 リウは、その卵きのこを即座に、地面に置いて距離を取った。視線を逸らさず見つめていると、竜巻めいた囲みが発生する。

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 わー、全然進まない〜。と、とりあえず、ウーを起こさないと…!(笑)

2007 年 6 月 22 日 わくわくする

 夜に、友人たちとチャットをしていました。
 文芸誌(って言うのかなこれ)作りたい、というか何かを「作る」作業がしたい、と思い余って持ちかけたら乗ってくれました。高校の文芸部仲間たちです。わーい。
 内輪だけのものですが、楽しいなあ、やはり。
 ふふふふふ、それぞれに好きなものを作る人たちなので、読めるのも楽しいです。なんでサイト持ってるのが私だけなんだよー。持ってたら絶対入り浸るのに。

 そういえば昨夜(?)、眠っていたら母が急に、「(寒いから)布団いるやろ」と、冬用(?)羽毛布団を持ってきてくれました。
 半分寝惚けていたから、何時だったのかはさっぱり判らないのですがね。夢かと思ったけど、目が覚めたら夏蒲団を押しやって羽毛布団被ってたから、現実らしいです(笑)。

 ところで、「ライアーゲーム」を観ています。
 最終回は三時間スペシャル!ということで、どれだけたっぷり見せてくれるかと思ったら…総集編込みですか…。
 や、いいですけど。裏幕、という感じで今までになかったところも入れているようだし。でも何かこう、勢いを削がれた感はどうしようもなく。これはこれでいいけどさー、うーん。
 しかしどう終わるんだろう。ハッピーエンドには間違いない、と思うのだけども。

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その内側には、目には見えないが、ワン・シュイの結界が形作られているはずだ。
 しばらく様子を見ても、何かが飛び出す気配も、あふれるような様子もない。
「チェンフー、いいよ。お願いします」
 チェンフーとワン・シュイ、二人に頷いて見せ、リウは、風が収まるのを待って再び卵を手にした。その手には、先ほどまであったのと同じ、ワン・シュイのつくった結界が張り付いている。
 卵きのこの上部をひねり開け、おそらくはシーランだろう、息を呑む音が聞こえたのを無視して、リウはあっさりと蓋を外した。
 中には、指先ほどの色とりどりの卵が詰まっていた。ああ、と声を漏らし、リウは振り返った。
「もういいですよ。これ、知ってます。今のところは、害はないです」
 ぱくん、と間の抜けた音を立てて蓋を閉めると、卵きのこは、元の卵に戻った。
「何…なんだ」
「能力をつめたものだよ。あなたも、聞いたことはあるんじゃないですか?」
「…同僚が、研究していた…」
「あなたがいない間に、実用化されたんだね。あたしも、実物を目にするのはまだ二回目だけど。握りつぶすか能力の持ち主が発動させようとしなければ、何も起こらない」
 卵の色は、それぞれの能力の持ち主の、羽の色に対応しているらしい。
 基本的に、白羽は白が基色、黒羽は黒が基色となる。白羽よりも黒羽の方が色の見分けは難しいが、それぞれに、微量の混色はある。完全な純白、漆黒の羽の持ち主の方が珍しい。
 だからその色で、いくらか能力の推測はできるが、確実ではない。かといって、能力の持ち主が遠隔で発動させるためには、ある程度近くにいる必要がある。
 助けとするにも脅威とするにも、あまりにも中途半端だ。
「これ、報酬代わりにもらっていいですか?」
「あ、ああ…構わないが…」
「ありがとうございます」
 にこりと微笑んで、リウは、卵をひと撫でした。何か仕掛けのしてある可能性が高い。早いうちに、ワン・シュイから離れて確認しようと決める。
 リウは、布を敷いてその上に横たわったウーに歩み寄った。血の気は引いているが、呼吸は落ち着いている。
「シーラン。料理、作ってもらえない? 大分血を流しているから、即効性はないとしても、造血を働きかけるようなものを。ついでに、森にいる人たち、みんな集めて夜食でも食べません? 折角の料理も、あたしたちが来たせいで食べ損ねさせてしまったようだし」
「…先生」
「ああ。わかった、そうしよう」
「まあ、一箇所に集まったところを狙い打ち、なんてことになったら笑えませんけどね」

2007 年 6 月 23 日  うかれた人

 「プロポーズ大作戦」。
 うわーっ、そう来たんだ! というのが正直なところ。最後の最後で色々と引っかかるものはあるけれども、ああでもこれ大好きだもう。DVDは…買わないだろうけどでもほしい、と思ってしまうくらいには好き。
 最後の曖昧さが良し、ということで。
 しかし最後、あの歌の前で終わって終われないこともなくって、この後続く、後がある、と思いつつ、実ははらはらしていました(笑)。
 タクシー、ぐるっと回って元の場所に戻ってくるのかと思った(何で)。
 ああでも多田さん、いい人すぎてなんだかもう…! いないよこんな人ー!

 「ライアーゲーム」。
 数日前の話ですが(笑)。まあ無難。漫画(原作)の方は、完結しているのかどうだったか…どう終わったのかな。気になるけど、集めるのはしんどそう…。
 あまりに芝居染みた緊迫感が好きだったのですが、直と秋山の関係が、なんだか微笑ましいというか可愛らしくて好きでした。…いやだから私少女漫画で育ってるからさ…っ。
 多分あの二人の関係は、『心霊探偵八雲』の主人公たちの関係が好きだったら、きっと気になるはず。『ライアー』の方が素直で、秋山が可愛らしくって私は好きですけど。

 本の話。
 会社で昼休み、ほけーっと『秘録陸軍中の学校』を読んでいたら、本好きやなー、と声をかけられて少し喋りました。
 どちらかといえば実用書や新書系統を読んでいる人のようだけれど、司馬遼太郎の話をしたり、やっぱり本の話ができると楽しいなあ、とほのぼのしました。あまりゆっくり喋れなかったけどね!
 しかし私…司馬遼太郎、読みたいなあと思いつつ実際に手を出したのは『燃えよ剣』と『新撰組血風録』のみ。…何が目的かが判りすぎて恥ずかしいですね! 今日話して本当に恥ずかしかったよ!(爆)

 遊びの話。
 先日急にカラオケ行きたい、というメールが友人から届き…急遽、来月頭に行くことに。今、何人かに頑張ってメール飛ばしてます…が、断りばかり返って来るのな(苦笑)。
 みんな忙しいなー。さみしい。というか私がちょっと問題ある気もするけど…どうせすぐにしんどいから行けない、と言い出すのだろうから、今のうちに! 誰も結婚もしていない今のうちに、遊んどきます。
 そして別の友人からは、ご飯食べに行こう、とのお誘いが。わー、地元っていいなー。

 家族の話。
 今のうちに家族旅行に行っとこう、母の日も父の日も何もしてないし、と、姉から発案がありました。考えてみれば、行ったことないしねー家族旅行。
 しかしいいけど…普通それ、結婚前に言わないか? と思いつつ。
 でも、父が休みが取れるかよく判らないという。宿の予約の入れようがない…! しかも私は、海の日前後を逃すと日程が厳しいという(連休取りにくいのだもの今の職場)。
 ど、どうなるんかなー!? 無理なら無理でせめて一週間くらい前には判ってもらわないと、私、来月半ばにうっかり(?)三連休取ったから、とにかく泊まりで(なくてもいいけど一日遊び倒す勢いで)どこか出かけたいのだよね!

 えーと、日記連載は今日は休みで。読みかけの本の続きが気になるんだ…!(爆)

2007 年 6 月 24 日  一人暮らしもしていないのに独り言が癖になるのはどうなんだ

 いや…本当、多いのですよ。
 しかも、大学卒業してから増えた気がする・・・え、ストレス?(どんな)

 今日は、昨日うっかりきりのいいところまでー、と二時近くまで小説を読んでいたせいで、眠すぎて気持ち悪くなりました(滅)。
 そんなだから早く帰りたかったっていうのに、「お食事会」なんて代物が催されて、食堂(事務所と扉で遮ることなく繋がったところにある)で人々が騒いでまして・・・。一緒にお菓子食べたりしてればよかったのだろうけど、多人数は苦手で、初めの挨拶と乾杯だけ(半ば強制的に)参加して、後は仕事してましたー。
 やーもう、ああいうの苦手なのだよなあ。年齢層が高いせいもあって、老人会の集まりのようになったりも・・・対個人はいいのだけど(むしろ年上の人の方が喋りやすい)、たくさんの人はどうにもまだ苦手だ。
 協調性のなさが浮き彫りになります。いやはや。←なおす気もなさそうだ

 姉の部屋を、書庫にさせろというのは断られましたが(家出てるのだからいいじゃないかー)、本棚に少し本を置かせてと言ったらいいと言われたので、よっし『コナン』移すぞー、五十冊分あく、と思っていたら。
 下手をしたら年単位に久し振りで入った姉の部屋は、「汚い部屋」じゃなくて「廃屋になる気配」がしていました。
 …。……。
 あの、歩いただけの足の裏が黒くなる部屋なんて、しっかり人が生活している家の中ではちょっとおかしいと思うよ…?(ここで言っても)

 ちょっと気になっているDVD(というかアニメ)が。
 『救急救命士ナノセイバー』。あるテレビ番組の一企画で作られていたアニメとドラマの合体作なのですが、結構好きだった覚えが。
 また見てみたいのだけど、当時(多分小学生か中学生)の私の目から見ても、とてつもなくぎこちなかったドラマ部分。同じ番組のやはり一企画でドラマもやっていたけど、そこと比べてもどう見ても素人だったドラマ部分。
 それを思うとなあ。しかも、全部集めると、安くても三万程度はします。…やー、それなら「相棒」のDVD-BOXのサードにするよー(セカンドまで買ってまだ見てないから買ってない)。

2007 年 6 月 29 日 あれ?

 随分とここ書いてなかったんだなあ…と、今気付きました(爆)。
 
 がっと、話を書く時間がほしいのだけど、このところPC画面睨みすぎで目がやばい…。
 このところ、PCを使うときには度の軽い眼鏡をかけているのですが、そうすると集中して見つめるから…多分、まばたきの回数減っていると思うのだよね…ドライアイ…(恐)。
 かといって、途中までPCで打ち込んでいるものを紙に書くと、その前部分までを印字しないとどうにもやりにくいので…ちょいと厳しい。
 むーう。
 友人たちと計画している同人誌(?)で、敷衍遊戯の続きを書こうと思っているのですが、それも紙に書いていこうか…(打ち込むときに結局画面を睨みながらにはなるのですが)。

 それにしても、敷衍遊戯、途中ちらほら外伝や番外編を書いたとはいえ…本編に限っては、もう五、六年は書いてないですねー。
 書くために今までの分を読み返すのかと思うと…あらすじを詳細に覚えているだけになんとも…よ、夜に読もう…!(そこはかとなくハイな時間帯)
 そう言えば、「地球と地球儀の距離」との付き合いも、大体そのくらいです。正確には、もうちょっと短い。
 受験対策の補修を受けているときに、ふいっと浮かんできて書き留めた言葉でした。それから数ヵ月後に、部活の(学校非公認)サイトから個人サイトに移すのに、その言葉を持ってきたという。
 …考えてみれば私、筆名に始まり題名や登場人物、ほとんど「なんとなく」決めたものばかりだなー。由来とか理由とか思い入れとかは?!

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「しばらくは、来ないと…思う」
「ウー!」
 意識の戻ったウーに声を上げたのは、チェンフーだった。リウは、驚いて声も出ない。
 何をそこまで驚いているのかと、リウは自分で自分に思った。予想していたよりも早いが、眠りを解いた以上、目覚めるのは当たり前のことだ。
 動揺しているリウには誰も気付かず、緊張の色を見せるワン・シュイやシーランを置いて、チェンフーが駆け寄った。
「俺が、聞かされた計画が、変更されて、なければ…俺が、戻るまで、囲んだまま、の、ッ」
 ウーがかすれた声で咳き込み、そのことでリウは、弾かれたように我に返った。
「シーラン、料理お願い。ワン・シュイさん、水もらえる? チェンフー、ウーを家の中に運んで」
 

2007 年 6 月 30 日 空白から青褪めに

 地味〜にでかい失敗をしでかし…ふふふふふー何だかもう厭になりました(没)。
 どうにかしてもらえたようですが…損害は出ているのだろうなあ…つかその「どうにか」って、単に隠しただけでなく? どうなのだろう…。

 今日は、それや他にも色々とあって、一人てんやわんやしていました。
 上記の分は自業自得だし運送会社からかかってきた電話もむしろありがたいことなのだけど、入荷するはずの資材が入っていなかったのはねー。向こうの心情も判るけど、私は振り回されただけという。腹立ちの持って行きようのない!
 おかげで、請求書発行までには至りませんでした。うう、出して帰ろうと思ったのにー!(明日休みだから。そして明日を休日にしなければ八連勤とかなりそうだった)
 それどころか、明日分の伝票発行だけで二時間弱の残業でしたよー…お金は入るけどさー。

 「台風の目」が、ぎりぎり来月まで持ち越すか今月で終わるか、くらいです。終わったら一気にこっちに上げよう。
 次の分も粗方書けているのだけど…退く人は退きそうな内容です…いや、内容って言うか。まあなんだか、「台風の目」は結構そういう要素が多い(自己比)からまあいいかとかも。

 ついさっき、ゆかた祭りでの「徒歩暴走族」の映像を見たのですが。
 …えーと、これ、笑うところ? 笑っていいの? 「徒歩暴走族」という、何か気の抜ける名前(つけた人誰、何てかっこよさのない名だ! 目論見通りなら凄い)も勿論なのですが、彼らのうちの一人が言っていた「バリバリー」って…何?(大笑)
 情けないなー、と思うのですがね。やっている人はどう思っているのか。
 ところであれ、姫路以外から来ている人がほとんどというのは本当なのかな。だとすると、勝手に人の地元のイメージを下げるなと言いたい…。



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