虚言帳

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2007.10

2076 年 10 月 1 日 訪ねるならば出雲まで?

 というわけで(?)、神無月ですね。
 えっ、今年残り二ヶ月?と気付いて青ざめたのはついさっきのことです。うー、働き出すと時節の区切りが乏しいから(盆休みも正月休みもない職場だから尚更)、一年が早いよ…(没)。

 今日ふっと、新撰組と安倍晴明ってどうやって知ったのだったかなー、と思い。思い出してみました。
 えーと、私の中で正統派になっている小説がそれぞれあって、司馬遼太郎の『燃えよ剣』と夢枕獏の『陰陽師』となのですが、どちらも、それらが主題に置かれているのを読んだのはこの二種がほぼ始めだったような…。
 で、それらをどこから知り得たかです、問題は。
 『燃えよ剣』を読んだのが多分、中三のときで…新撰組モノだよ、というのは、誰から聞いたのかなんてわかりませんがなんとなく知っていて。はて、何故関心を持ったのか。…『るろうに剣心』から? うーん、存在自体はなんとなく知っていたけど、興味を持ったのはこれ、か…?
 結論なんて出ません、ええ、私の中の記憶しか手がかりがありませんから(爆)。
 『陰陽師』は、「陰陽師」という存在自体は、CLAMPの『東京BABYRON』で知っていて…色々と読み漁っていた(でも情報源が少なくて本を思うように探せなかった)、これも中三くらいのとき(何をしてたんだ受験生)。そういや「陰陽師」って何じゃい、と思って、図書館の検索パソコンで調べて発見したような。この頃は、「陰陽師」で引っかかってくる本なんて、十数冊くらいでしたよー。今やもう…。
 新撰組はともかく、陰陽師。妖怪関係もだけど、私が色々と探し始める前後からブームがやってきて、とっても集めやすい状態に。気後れしそうになるくらいに恵まれてますねー。そういや、二十年かもうちょっと前まで、日本でファンタジーは受け入れられにくいと思われていた時代があったとか。うわ、今がその頃じゃなくてよかった。
 中国物も今(というかきっかけは『封神演義』?)盛んで、(日本で比較的)無名な小役人が主役の小説なんてものまで出ていたりして、ほくほくしています。中華風ファンタジーも多いですね(特にライトノベル)。これで、民話ブームが来れば!と思ったり(苦笑)。
 小学生に上がるちょっと前から読んでいたのが、『○○県の民話』というシリーズだったもので、昔話や民話や、まあ、伝説も、何か好きです。民俗学は、これも静かに根強く続いてるからいいや…最近、妖怪に喰われている気がして危うい気がしないでもないですが…。

 考えてみれば私、ある程度まではそんなに本読んでなかったなー。
 や、読んでないわけではなくて、比較したら少しは読んでいる方だったかもしれないけど、次から次に、というのではなかったなあ。図書館に行く、となると喜んでついて行ってはいましたが。
 …これは、自力で図書館にいけなかったからあまり冊数が読めなかったというのもあるけど…学校の図書室は常連だったしな…あれ、結構読んでた? でもそのわりに、有名どころをほぼ読んでいないのですが。何故。
 あ、でも「ずっこけ三人組」「ぼくは王様」「わかったさん」「こまったさん」のシリーズと、ホームズの子ども版をある程度、は、小学生のときに熱心に読みました。
 中学上がってからは、(図書館で)児童書だけじゃなく一般向けを彷徨うようになって…学術書を割と読むようになったのが大学は行ってからで、随筆もほろほろ読み始めたのが、働き始めてから…?
 まずい、読書暦を語りだしたら止まらなくなった(笑)。ので、強制終了。

 あー、出雲。太古のイメージのある場所です。多分地元の方は、そんなことなくごく普通に暮らしていらっしゃるのでしょうが…。
 いつか行きたい。と思いつつ、いつまでも行かないかもしれないという…恐ろしい。  

2007 年 10 月 2 日 怪しい暇人

 友人と、ファミレスで昼ご飯してきましたー。
 3〜4時間ほど。平日だから、まあ、昼時でもどうにかこうにか。のかなくってもいいよね、くらいの混み具合で助かりましたよ。
 とりあえず、挿絵をつけてもらいたい文章を押し付けて帰ってきました(笑)。
 そして結論(?)。
「高校時代戻りたいねー」←高校からの友人

 高校時代、かあ。
 部活しに行っていた印象が強いです。放課後(と場合によっては早朝)は演劇部、授業中は六割くらいが文芸部のやつ書いてて。
 まともに、違う、しっかり授業受けてたのは、世界史と生物…くらい、かなあ。
 懐かしいー(笑)。

 ところで今月、高校の友人たちとご飯を食べるので、お店に予約できますかーとメールを送ったら。
 連絡先に書いていた番号を書き間違えていたので、連絡くださいと返信が来て。電話したら、繋がらず。連絡くださいと再度メール。
 何の嫌がらせかと思ったよ!(笑)
 しかしお互い、番号打ち間違えって。何やってんだか(笑)。

 あ。「台風の目」の投票ですが、10/12で終了です。得票なかったら、今回お流れで。  

2007 年 10 月 3 日 うぬぅ

 電話をかけるとどうしても、会社名を名乗りそうになって困ります。いや違うから!と、切実に思った今日…。
 友人宛はそうでもないのですがねー。予約を入れたお店にかけたときに。

 今日、いよいよ本当に会社のPC総入れ替えでした。
 いやもう、使っていたPCやらプリンターの下。埃って言うか黒い何かって言うか。埃が。洗った雑巾から茶色が染み出るのは、煙草の脂ではあるまいな…?
 全ては見届けずに帰宅したのですが、明日行ったらどんな感じだろう。というか明日、ちゃんとまともに伝票発行できるのかなー…なんて。
 新しいものは嬉しいけれど、ちょっと寂しくもあります。

 ところで話は全くもって変わりますが、『二十世紀少年』、最終巻出てたんですね。知らなかった。個人のブログではじめて知った(苦笑)。
 しまった、そうと知ってたら帰りに買ってきたのになー、今日は『ARIA』の発売日だったから尚更。
 うーん、でも、五日に発売の漫画があるから、やはりその日にまとめて買うか…どうでもいいようなことで悩んでいます。

 そう言えば、『ARIA』。先日、読み返したくてたまらないと書いていて…寝る前に読んでいるのですが。
 この漫画読むと、笑っちゃうのだよなー。何か、幸せになる。
 ので、あまり人のいるところでは読めないです考えてみれば。不気味すぎる(爆)。

 『長く冷たい眠り』を今、読んでいるのですが…連作?
 題名と粗筋だけで借りた本だったのですが、この人の著作、一冊読んだことがありました。題、何だったかな…忘れた。
 …違う、調べてみたら二冊だった。『透明な一日』と『運命の鎖』。前者が事故で一日しか記憶を保持できなくなってしまった学者の(?)サスペンスで、後者が精子バンクで同じ父親を持つ子どもたちの話(これも連作)。
 『長く冷たい眠り』は、まだ二編目の途中なのですが…うーん、この人の文章、そつがなさ過ぎてちょっと物足りないのだよね…粗筋で期待して読んで、なんとなく拍子抜けして終わってしまう。
 さてこれはどうなのか。

2007 年 10 月 4 日 えっと…

 きのう ごきぶり を ふんづけました 。

 やー…殺虫剤で弱っていたのか息絶えたかのところに、足を乗っけたようです。
 何か踏んだ、何か踏んだ、しかもなんとなく何か判る、と、遠い明かりに恐る恐る見ると黒い物体のような気がしたので、速やかに父に「ゴキブリかコオロギみたいなの踏んだからどうにかしてー」と告げて、風呂に逃げました。
 暗闇は危険だ…。

 ところで今日は、てんやわんや。
 もう、会社の新しいシステム。使えば使うほど使いにくいのですが(そのうち二、三割が不慣れのせいとしても)、どうしてだよー。システム会社(?)との打ち合わせの不徹底さも顕に。それぞれ違うことやってるのだから、総務総当りで打ち合わせしてほしかったくらいですよ…。
 残業中、なんだかテンションが上がって妙なことを口走ったりしていました。ふふ、失礼なんてもう前提だ(爆)。
 そして私は、明日は休みです。か、課長頑張ってー!

 唐突な話ですが、この間整理をしていて発見したので。
 現在配信中の「台風の目」。今の話が、今週で終わるのですが…それ、書けなくて止まった上に何回か場所を変えて状況似たり寄ったりで書き直しましたよ…。
 駄目だ無駄に長くなる、というので、配信二回分書いて我に返ったりも(苦笑)。
 そう言えばついでに、更新していた本編。十幕の三、は、最後の最後まで載せるかどうか迷って、配信は見送ったやつです。結局最終的に載せたけど〜。
 今後、「台風の目」の方針として、シュムとカイの話、と、エバンスとキール(というか王宮? 国?)の話、と、セレンとの出会いにもなる過去の話、と。さーてどれにしようか…という。
 いっそ、王宮関係は噂程度に混ぜて終わらせる、というのも手で。…時代を下った話も書くので、そこからも含めて推察してもらうとかね…。
 アンケートを取っても微妙そうだし、まあ、適当に悩んでおきましょう。

 聞いた話。
 『チーム・バチスタの栄光』…映画化らしいですね。主人公女性で。えー…?
 連ドラはありかなーとは思っていたけど…主人公はあれは男性でいってもらいたかったなあ。昼行灯というよりは、実力はあるのに日の目を見せてもらえない、という感じになりそうで…うーん。
 まあ多分、よほどのことがないと映画館には行かないでしょう。館で見る方が好きですけどねー、集中できるから。でもがっかりしそうなやつをお金払って観に行くのもなあ。そのうちテレビででも見て、面白かったら、何故足を運ばなかった、と悔しがるのでしょう(苦笑)。

 そう言えば、『冷たく長い眠り』。
 人工冬眠(未来の治療技術に託して病身を留めておこう、という目的の元)をめぐっての、サスペンス。連作と言えば連作だけど…個々の話の繋がりはないから、どちらかと言うと短編集。
 一遍一遍違う趣向で、一つの題材に色々見方があるな、というのは楽しい。…でもやっぱり何か物足りないのですよー。うーん、笑い(ユーモア)がないから? ギャグにはしれというわけでなく、何かこう、日常でもあるじゃないですかー、気が抜けるというかそのときは切羽詰ってたけど思い返すとちょっと可笑しい場面とか。それが折り混ぜられていると好きなのですが。
 最後の一遍が書き下ろしだったから、そこでそれまでの話のつながりが見えたりするのかな、と期待したのですが、バームクーヘンの内側の皮(?)でしかありませんでした、というような感じ。

2007 年 10 月 5 日  にゃー

 お休みで、午前中は用事を済ませに外出しましたが、後はごろごろ。
 うーん、バイクを買うか、マウンテンバイクを買うかで迷う今日この頃。「ちょっと」遠出したいなーなんて。風を浴びてどこかにふらりと出かけたい。(バイクと自転車じゃあ行ける距離が違いますが。高速乗れちゃうよ)

 眠り姫の話を書ききりたいな、と思っていたのですが手付かず。部屋で寝てしまった…。
 ちょろちょろと考えている「お伽噺の幕引き」の続きが、考えてみれば好き合っている男女という、来条初かもしれない設定で。ちょっと戸惑い。
 私基本的に、少年漫画の男女カップルのノリが好きで…お互いきっと好きなんだって知ってるけどそう口にするわけでもなく、態度だけで丸判り。で、後日談で子どもつれてたりするという(笑)。←や、少年漫画は後日談あまりないと思うけど

 そう言えば、「踊る大捜査線」の再放送見てました。
 んー、これもう、十年以上前? 中学生のときだった気がする、本放送。映画が中三のときか高一で。中三かな、告知インタビュー見て受験のときか、観に行けるかなと思った覚えが。行ったけど。
 やっぱり面白い。時流を取り入れている分、「?」というところはあるけどそれはそれで面白いのですよ、別の意味で。それにしても、会話や空気や距離感がもう、大好きで。あ、そうか、この頃からこういったノリの会話好きだったんだ、私。
 実は(?)DVDBOX(完全コンプリート版)(そう言いつつスピンオフは入っていない)を持っているのですが、まだ開けてもない…(爆)。だ、だって何か、もったいなくて!
 考えてみれば、このドラマで「刑事ドラマ」の流れが変わった感がありますね。当時のインタビューやらなにやら読んでいると、実験作、というのか挑戦作、というか、そういったもので、視聴率が取れなかったら途中から、室井さんとすみれさんの恋愛話にしようかという計画があったそうで。そうならなくて良かった(笑)、青島君とすみれさんが好きです。まーだから始めの方は、青島君と雪乃さん、っぽい流れがあったのでしょうね。
 …関係ないけれど、ある大好きな個人サイトのトップが、今月から「踊る大捜査線」になっていまして。何か、にやりとしてしまった(笑)。今日は今日で、久々にいったパトレイバーのファンサイトにも数枚あって。
 それにしてもあのドラマ、今見ると、「あれこれアドリブっぽい…?」というのが多くて吃驚。どのあたりまでが台本でどのあたりまでが現場での変更?(いや別にどちらでもいいのですが楽しいから)

 あ、今日出かけたついでに目をつけていたお店でキッシュを買ってきました。
 キッシュって…えー、「卵とクリームを使って作るフランス、アルザス・ロレーヌ地方の郷土料理。パイ生地の中に、卵、生クリーム、ひき肉や野菜を加えてグリュイエールチーズなどをのせてオーブンで焼き上げる」(by Wikipedia)。
 小説で時々見かけて、どんなのかなーと思っていた数多のうちの一品。ミートパイのお店も見つけたので、いつかそこも行きたい。
 中身部分(?)が、ふかふかでおいしかったです。茶碗蒸しを連想してしまった(笑)。

 今日出かけた用事のうちのひとつに、漫画の購入が(笑)。
 で、『二十世紀少年』『HUNTER×HUNTER』『ARIA』『ペンギン革命』の四冊。どうして駅前の大型店にまで、『OL進化論』がないのか。ちなみに今日、何故か本屋を三軒ハシゴ。
 前二冊、出ていると知りませんでした。特に後者、本屋で発見。あれー、新刊情報は、一通り目を通しているのになー?
 どれも好きなものばかりで、特に後ろ二冊はほのぼの系でくつろぐのですが、『ペンギン革命』に波乱の予感。
 『ARIA』は、収録の最初と最後に、それとケット・シーの話に、そろそろ終わるのかな…と思ったのですがどうなのでしょう。でもアニメ第三段始まるらしいし…(あまり関係ない)。『ARIA』は、幸せになる漫画なのだけど、そして読んでいるのがもっと前なら違ったのだろうけど今だと、高校くらいの頃を思い出して無性に寂しくなってしまう。
 私どうにも、先走りして寂しくなってしまうのだよねー。今も、高校で知り合った友人たちと時々ご飯を食べに行ったりするのだけど、それもいつまで続くかなー、と。県外や、県外じゃなくても遠くに行く子もいるだろうし、結婚して、それが近場でも子どもができたら今のようにはいかないだろうなあ、と。この間友人の一人にそれを言って、そう言いながら十年後もこうしてたりねー、と笑ったりもしましたが。
 私、一人の時間が好きだし平気なのだけど、そして逆に、べったりな友人というのが多分苦手なのだけど、気安い人と一緒にいる時間というのも好きなのですね。今更に実感したや(苦笑)。

 そうそう、『ARIA』の話。
 折りこみちらしに、ブックカバーの通販(全プレなのだけどどちらかと言うと…)が入っていました。デザインが好きで、ぜひ購入しよう、とは思っているのですが…使い倒す恐れがあるから二組づつ買おうかそうしたらこの先ブックカバー買わなくていいやとか悩んでいるのですが…支払方法、郵便小為替。
 民営化で手数料約十倍になってるのですがー?!
 買うけどさ…でも痛いよ手数料…郵便局のサイト見に行ったら、小為替の説明はあったけど手数料の説明はありませんでした。併記しとけよそこは…! 
 うーん、うーん、私、未だに郵便局の民営化で、何が良くなる見込みなのかわからないのですが…。

 さーて、明日行ったら大津旅行、なのですが、荷造りまだしてねー(没)。
 明日の夜に用意しても十分間に合うのですけどね、一泊だし、ホテルに寝巻きやら歯ブラシやらは置いてあるようなので。まあ最悪、財布と切符さえ忘れなければなんとかなるのですがねー。
 一番の問題は…現地合流予定の遠山から、メールの返事が来てないことですが。当日電話したら家、とかいうおちにならないだろうな(今奴は東京付近在住)。もう一人の睦月さんからも返事ないけど…こっちはもしかすると、まだ仕事中?

2007 年 10 月 6 日 えっと?

 どうして旅行(近場ですが)の前にどたばたしてるのかな私…昔(笑)は、準備も用意も前倒しでやるような子どもだったのに。小学校の夏休みの宿題なんて、ほとんど七月中に終わらせていたのに。
 段々、姉と父に似てきたようで…厭と言うより、焦る。だってそれ駄目だろう!←わかってるなら…

 とりあえずまあ、そういうことで(?)。
 滋賀なのでかなり近場なのですが、泊まりで出かけてきます。一緒に行くのが中学からの友人たちなのですが、こうやって、年一回くらい旅行いけたらなーと思いはするけれども、どうだろう。
 …ああぁあ、だから私は、ついつい杞憂じみて先に寂しがってしまうのですよ! 悪いか!(逆ギレ)

 かなりどうでもいいけれど、さいきん、私の心の中のテーマソング(なんじゃいそりゃ)は、「白い祈り」と「Water me」です。

2007 年 10 月 8 日 錯覚ってすばらしい

 数日ぶりの友人と数ヶ月ぶりの友人と滋賀に行ってきました。
 …半年以上直には会っていなかったのに懐かしく思わないのは何故だろう…と思ったり(笑)。でも案外、そんなものですよねー。逆に親戚は懐かしいのだよね。何故か。

 大津祭りの見物が目的でした。
 山車を見て、ちょこっと追いかけて、粽(厄除け)を奪い合い、手ぬぐいを奪い合い(笑)。
 あれだ、山車から巻き落としてくれる手ぬぐいや粽を我先にと奪い合うのは、怖いけど面白いのですよ…! 血が騒ぐというのか(笑)。
 一昨日はそんなで、ほぼ一日大津でのほほんと争った後、宿を取った近江まで移動して、ビジネスホテルでスーパーで買ってきたお菓子やお酒で寛いで。そしていつも通り、早々に寝る一同。…たまの旅行くらい夜更かししろよ、と思いつつ寝るんだ私も…。

 今朝は、朝ご飯を食べた後に部屋でうだうだしていたら、何故か微妙に枕投げが始まったり。何故朝に。
 そうして、一駅隣の安土に。
 レンタサイクルで自転車を借りて、小雨降る中ちょろちょろと走ってきました。後半、降ってなかったし。一面の田んぼのところがあって、そこの一本道を自転車で走るのが、気持ちよかったー。
 それにしても、どうして十月にもなって、ノースリーブの格好で山登ってんだろう私…と思った朝。上着着てると暑かったんですよ…雨降ると蒸し暑かったんだよ…。
 安土城址(これが山登り)で、入れ違いに登って行く一行に、きついですかーと訊かれ、答えて、別れ際。「私ねえ、実は織田家の十八代目…じゃないんですよ」といわれて笑った。いいキャラだ…!
 そう言えば、はじめに行った城郭記念館?でスタンプラリーがありますよーと言われ、どのみち巡るだろう施設を見ていけば判子が溜まりそうだったので、もらっていきました。まんまと(?)判子が溜まり、参加賞ももらってきましたー。
 沙沙貴神社というところにふらりと行ったら、十二支之庭という、十二支の石像の立ち並ぶ一角が。な、何か楽しかった…!

 さーて、来年はどこ行こうかなー。まだ全く行っていない、湖北の方に行ってもいいかな…でもそうすると電車が遠くなるなーまあいいか。
 まあ、少なくとも来年の約束(?)は取り付けてきたので、このまま一年一度計画で続けられるといいと思います(笑)。

 ところで、今回、色々と神頼み(?)で背を押してもらってきたので、ちょっと頑張ろうかと思います。
 うん、考えてみれば私、「頑張る」というのをやれるだけの精一杯をやり抜く、ということだとすると、頑張ったことなさそうですしね。うん。

2007 年 10 月 9 日 香る風

 この頃、ふわふわと金木犀の匂いが漂っていて気持ちいい〜。
 金木犀、好きです。春は桜、夏は向日葵、秋は金木犀。冬は…水仙かな? なんとなく思い描く、季節の花。

 えーと、しなくちゃな仕事が溜まっているのだけど、溜まる一方だという不思議。残業したってあまり減ってくれないのだけどー?
 
 ところで、とりあえず見ていました、「ガンダム00」。
 キャラデザが友人の好きな漫画家さんなのですが…面影はあるけど…言われなきゃ気付かないくらい…(コードギアスもそんなものでしたが)。
 私、ガンダムシリーズ(?)ってまともに見たことがないです。何か苦手というか…うーん、苦手なのだろうなあ。何だろう、世界観?? 『銀河英雄伝説』を敬遠していたのも、いくらか、ガンダムみたいなものかなーと思ったからという部分があるものなあ。あれは、歴史小説でした(その結論もどうよ)。
 今回まともに見て、それでも何か微妙でした…次からどうしよう。

 話は微妙に跳びまして、私、NHKのオリジナルアニメって結構好きです。原作つきもいいけど、オリジナルの方が傾向が顕著で。
 「子ども」「成長」「夢」「希望」「仲間」とか…そんなところですか。多分、もっといっぱいある。
 基本的に突っ込み所は満載なのですが、一番「ええー?」と思ってしまう物でも、紙一重で子供だましでなさそうなところも多分好きなのです。
 今だに、「子どものもの」が好きなのだと実感します(苦笑)。

 今後の予定(?)として、今書きかけの二本を、区切りのいいところで止めて、とりあえず眠り姫の話を終わらせようと思います。あと三分の一もない…と思うんだ…どうかわからないけど。
 書き終えたところで、サイトに載せるのはずっと先になるとは思いますが、二本、長いやつが掲載待ちなので、何一つ問題なさそうな微妙さ…(苦笑)。
 ははははは〜何か楽しい(テンションおかしい)。

 今日更新分は、忘れかけていた暑中見舞い。背景は、今日リンクに新しく加えさせてもらったサイトさんから。
 えーと、他にもう一本、怪談っぽいのがあります。それもそのうち。こっちは短すぎるから、多分切れ端にでも。

2007 年 10 月 10 日 不思議

 先日、不意に思ったことなのですが。
 十月って、秋祭りが多いですよね。実りの時期だから。ありがとう神様一杯取れたよー来年もお願いしますねー!ということでのお祭り。
 でも十月って…神無月ですよね? 出雲はともかく他、神様いないじゃないか?
 うーんー、何なのだろう。主がいないのにお祭りって、考えようによっては嫌がらせじゃないですか(苦笑)。
 それとも、神無月の考え方は、そんなに全国各地に浸透していたものではなかったのかなあ? どこか一部地域とか、一部の階級の人とか。宗派(?)違うとか。←だって秋祭りって固有名詞を持った神様にというよりはアニミズムとかそっちの…神様というか精霊というか、そっちのような気もするし
 何か研究書ないかなとは思わないでもないですが…考えてみれば当たり前ですが…神道やらお祭りやら関係の本は多すぎてよほど運がいいか検索技術が高度でなければ行き当たれそうにないですよ…! 細々と読んでいったら…いつかはたどり着けるかもしれないけどいつだよそれ…。
 ……誰か、知らないかなあ。ヒントだけでもいいから、取っ掛かりがあればなんとか…探せる、か…? どうだろう…。

 「ローマの休日」を観ました。
 何てことのない粗筋ですが…かっわいいなー…主人公二人とか町の人々とか(全部ひっくるめてそう形容するつもりか)。
 花屋さんのプレゼントとか、口説く(?)理容師とか。
 最後、今だったら奥から走ってくるんじゃないかな、と思いながら見てしまいました(苦笑)。でも、あの幕切れだからこそ綺麗、という気もします。
 しかし、可憐、という言葉が似合います。
 ところで私この映画、粗筋しか知らないと思っていたら意外にたくさんの場面を知っていたのですが…しかも、映像を見たのじゃなく、多分、文章で読んでいるのですよね…何で読んだのか。映画館系の対談やエッセイも時々読んでいるから、多分その中のひとつとは思うのだけど。
 名作は伊達じゃないなあ、というのが感想(え)。

 いくら日差しがあっても、風が秋ですねー。空も。
 うーん、気持ちがいい。

2007 年 10 月 11 日 ううーん

 今日、雑談の合間に課長があと四年で退職と気付き、その後どうなるのー、課長には先輩が持ち上がりになるのか他の誰かが来るのか、って、その前に今の事務所の面子が皆いるとも限らないわけで。私もどこに居るんだその頃。
 うー、前っから、未来のことを考えると無性に怖いようなもどかしいようなじたばたとした気持ち(苦笑)になるのだけれど、今日はそれに、呆然、が加わりました。
 その頃三十手前かーどうしてるだろう私。案外、今と変わらないような気がしないでもない(微妙に願望)。

 今朝というか昨夜というか、アニメの「もっけ」が始まりました。
 録画してたのを見ました。
 OPにどきどきして(笑)、でも…何か、イメージと違った。というか、アニメ化はどこかで聞いていたけど「えー?」と思っていたのだけど、うーん。
 悪いとか嫌いとかそういうのではなくって、何だろう、大袈裟になってるような感じが。違和感、が主なところ?

 ところで、『ソラチルサクハナ』、ようやっと読み終えましたー。
 旅先に持参しておきながら一頁も読まず、暇つぶしにと貸した友人が先に読み切ったという一品(笑)。何冊古本屋で見かけたか…しかも百円とか二百円とかでも見かけたんだ…(没)。
 まあ余談は措いて。(全て余談と言われればそれまで)
 呪いの御札と、起こってしまった死と。全篇に亘り、過去との対面、が主題ですかね?
 シリーズものって仕方がないかもしれないけど…これ、かなりなところキャラクター小説ですね…元々、との声もあるだろうけど、うーん。何かなー。
 「フェンネル大陸偽王伝」の一部最終巻では気のせいかと思ったけど…文体、ちょっと読みにくくなってる? 何か躓く。
 …名前すら出てこなかった「先輩」(ってあの人でいいんのですよね?)が登場していれば、話の筋そっちのけでそこばかり追ったのだろうなあと思うと、ある種意図通りなわけで(苦笑)。でも本当、何故か例外なんだあの登場人物だけは私の中で。

 明日は、郵便局と図書館にだけは最低行って、できたらスニーカー買いたいなあ。今の靴を履き潰したら後がない。

2007 年 10 月 12 日 うだうだ

 部屋で布団にくるまってごろごろしていたら、うっかりと眠ってしまいました(爆)。
 ううー、あったかいものにくるまれてうとうとしているのって、物凄く贅沢な時間なのですよね。でも、実際にやると、後で途轍もなく後悔…。

 『少女首吊亭』、珍しく途中放棄してしまいました。
 文体は平気だったし、面白くないこともなかったのだけど、読後感があまりよくなくて。短編集だから、読み切ったら一杯一杯になりそうなのがわかっていたのと。予約者が待っていたから、それならもう譲り渡してしまおうー、と。
 読みきれば、それはそれでよかったのだろうなーとは思うのですが。ヴィクトリアン。せ、精神衛生上、何かやばかったんだ…!(内容がでなく内容と私の精神状態との時機が)

 『闇の守り手』、は、日本作家のものでなくて海外作品。全何巻か知りませんが、とりあえず一巻を借りてみた。
 ファンタジー、という真っ向な感じで(どんな)。巻で区切りがついてないから、次も借りるか…。
 でもなんとなく、西欧の人が書くファンタジーと日本の人が書くファンタジー(西欧モノ)って、調子が違うのですよねー。前者のがリアル、に感じられる。と言っても、私、後者の西欧ファンタジーってあまり読んでいない気もしますが。えーっと…『デルフィニア戦記』と『アルスラーン戦記』と…。
 前者の方が、生活感がにじみ出ているというか。旅途中、不清潔になってしまうのは仕方がなくって、回避するのは結構に大変なことなのだけど、後者は、そこを敢えて無視しているのか気付いていないか、という感があるのですよー。
 まあ、面白ければいいです。

 『少女漫画家が猫を飼う理由(わけ)』。
 さっくり軽く読めて、ほのぼのが好きなところ。警視庁って、勝手にいろんな組織(分室とかも)作られてて面白いなあ(笑)。

 で、今は『読書会』を読んでいます。山田正紀と恩田陸の読書対談。
 対談って、その人たちが楽しげに語らっているのが感じられると、それだけで嬉しくなってしまう。基本、人が自分の好きなものを語っているのを聞くのは好きです。

2007 年 10 月 13 日 意識の彼方

 仕事中、眠くって眠くって仕方のない時間帯があり、そのときに発注の集計をしていたのですが、何度やっても計算が合わない…(多分電卓のうち間違い)。
 そうして、どうにかこうにか合って、集計票を製造部に回して、別の仕事をしていてはたと。足し忘れてるよ…!(汗) 慌てて取り返しに行きました(没)。
 他にも、何か色々間違えてた…でもあれですよ、私の責任じゃなくて新しいシステムのせいだったところも少しだけどある気がするんだ…。

 昨日今日と、「踊る大捜査線」を見てにやけています。
 だってー、やっぱり面白いのだものこれー! わかっていても笑ってしまう。大好きだ!
 …などと言いつつ、DVDBOX、未だ未開封なのですけどね…保管場所が良くないから傷んでそうだよ…。
 あの、ところで、昼に再放送して二週連続一挙四本公開って、何かあるんですか…? 十周年って以外に。風の噂に、映画第三段の話があるとかないとか聞いたのだけど…でもだって、和久さんいないのに…? スピンオフは別にいいのだけどあれは別物だから。そりゃあ、青島君とすみれさん見たいって思いはあるけどでも…。←検索かければいいのに怖くてできない

 ところで、実のところかなり影響を受けやすい私は、今読んでいる『ドラゴンキラーあります』で、やーっぱりアクションものもいいよねー、などと思っていたりします。
 むうぅ、「旅の行方は誰も知らない」を書き直したい願望がむくむくと…でもどうせ途中で止まるのわかってるしな! 大人しく、書きかけを終わらせたほうがいい気がする…のだけど、理屈が通らないのが現実…(爆)。
 それか、同じ書きかけなら「ぼくらは夜の底を歩く」を書くか。
 以上、割とどうでもいい話(苦笑)。  

2007 年 10 月 14 日 ひんやり

 少し冷たい空気にあったかい上着(布団でもいい)、が好きなもので、今の季節、家ではいそいそと上着を着込んでいたりします。あったか。

 今日、友人とカラオケ行ったのですが、帰りが店を出たのが六時を過ぎていてもう暗かったのですが、…自転車の電気切れてたよ…。
 何かおかしいなーと思いつつ、もしかしてついてないのか、と気付いたもののひた走り。途中の、量販店の自転車売り場で直してもらいましたー。
 ヒューズ飛んだだけだった良かった…。
 しっかし、軽く三十分は無灯火で走っていたわけで…危ないなー。スピード出してる分、事故っても文句言えない。

 そう言えば、カラオケに一緒に行った友人と図書館の書架もうろうろとしていたのですが、…図書館の書架って、目的なくうろうろとしていると手元に本が増えますね…(没)。
 大体は、はじめから見当をつけて行くか日本小説の辺りをふらふらするだけだからさして抱え込まないのだけど、うっかりと図書館関係や心理学、超心理学、民俗学といったあたりに踏み込むと…何かしら持っている上に読むのに時間がかかる場合が多いんだこれがー…。
 悪いことではないのだけど、図書館の本が減ったなー今のうちに手持ちと友人に借りたのを読むぞー、と思っていたのに…あららら。

 「電脳コイル」。
 うわー、なんか最終回まであとちょっと、の空気。当初思っていたよりもずっと面白いのですが、どう終わるんだこれ。

 余談(?)。
 「旅の行方は誰も知らない」と「月を仰ぎて夜を渡る」を書き直すつもりでいるので、感想とか意見とか頂けると嬉しいです…どんな些細なことでもいいので。後者はともかく、前者は結構様変わりするからあれですが。
 …最近創作話が多いのは、そういえばここってその目的での設置であって日常書き綴るためじゃなかったんだよねということで(苦笑)。まあ私としては結構どっちでもいいのだけど。全ては自己満足ですとも〜。

2007 年 10 月 15 日 むうぅ

 会社行って、ひたすらに帰りたいと思うのもどうだよ…でも、転職(辞職)を考える周期を、俗に三ヶ月、一年、三年、と言ったりしますが、三年目には真剣に転職考えるけどでも辞表出したり次を探したりが面倒で居座る気がするなあ私…(爆)。

 ところで帰ってきて、ひたすらに漫画読んでたら…昨日友人に、二十冊前後借りてきたのに、読破してしまいましたー。
 早い。
 もっと時間かけて読めよ暇なのに…。←え

 読み終えましたー、『ドラゴンキラーあります』。
 題名が本文中で説明(?)されているのは、本編とは関係ないけど好きです。私はそういうのほぼやれていないのですけどねー(爆)。
 会話が些か露骨ではあるけど、まあ楽しいです。ドラゴンキラーの設定なんて、わりと好物分野で。
 挿絵と、文中描写でイメージした登場人物の姿がちょっとばかり噛み合わないのだけど、まあそれは想像力の問題だからなあ。ちなみに、主人公は合致しているのですがね、何故か。

 そして今は、『女王国の城』を読んでます。
 この本もだけど、『ブラックアンペア〜』も、図書館、新刊入るの遅いからなーとのんびりしていたら、かなり早く入っていて吃驚しました。それだけ人気を見込んでいるのか。『女王国』は、結構早くに予約できたので、今手元にあるわけです。
 予約一杯入ってそうだから、『読書会』を後回しでこちらなのですよー。それでも、多分問題なく期間内には返せるだろうし。
 ちなみに、会社で昼休みに読んでいるのは、『苦情対応力』…だっけ? 
 苦情処理、と言うよりも受け答え一般、回りの対応を見よう見まねで基礎がなっていないもので、多少なりと勉強しようーと思って。読み物としても興味があるので(むしろこっちの理由が大きい)。
 『苦情学』という本が読みたかったのだけど図書館になくて、じゃあ『隣のクレーマー』を借りようとしたら、書評で取り上げられたせいか予約数が多くて…そして、その三冊全ての著者が同じと知ってちょっと吃驚。

2007 年 10 月 16 日 久し振りの雨

 夕立でした。

 今日はたと気付いたのだけど、経験上、「長いなー終わらないなー」と思いながら書いている文章って、実際長い…。
 言いながら、そう感じるだけなんだろうと思っていたのですが、実は。でも…卒論とか「蒼天」とか振り返ると。や、長いって言ってもそんなにじゃないですけど。来条基準で長いだけで。
 あははは。

 そう言えば、はたと気付いたこと、もうひとつ。
 一体どこをどうしてそんな結論に至ったのか忘れましたが、私にとって読書ってお米みたいなものかもしれない。
 それがなくったって生きていけるのだけど(炭水化物で主食になるようなものは他に色々と)、ないとさびしいし物足りない。そして確実着実に、生き長らえさせてくれているという。
 ちなみに、読書は最良の暇つぶし、といったことを私はよく言いますが。人生、生命維持に必要な事柄を除けば全て暇つぶしですよ。ということで。←?

2007 年 10 月 17 日 えーっと

 一週間ほど、ちょっと不在になるかもです(いや日々会社に通うけどね!)。
 少しだけ無茶をしてみますー。と言いつつ、結局無理で放棄する気がしないでもないのですが。宣言しておいたらやるだろうとかいう消極的な…(爆)。
 まあ基本が天邪鬼なもので、そう言った途端に言いたいことが出てきたりするかもしれないので、気が抜けません。←私が

 この頃、気候が気持ちいいですねー。朝晩ちょっと寒いけど、このくらいなら上着を着込めば十分ぬくいし。
 空が高くって、溶け込むような雲が綺麗で、風が気持ちよくって。うーん、いい季節。

2007 年 10 月 22 日 離脱

 もういいやーと、戻って来ました(どうよそれ)。いやでも物理的に無理があったと思うんだそもそも…。←決めたの自分なのに

 週末に、高校時代の友人たちとご飯を食べてきました。
 大したことは話していないのに、無性に楽しいのは何故でしょう。
 とりあえず、一個の焼きおにぎりを五分割しようと悩む友人に大うけしたのが謎です。どうしてあそこまでつぼに嵌ったのか…。
 五分割無理だろ、四分割なら、三分割が簡単だよ、と。えっ、四分割ってどう? 正三角形四個作ってさ、ああ! とか。平成教育委員会やヘキサゴンみたいだ、平成教育委員会の方が数学してるよな、でもこれはどっちかって言うとヘキサゴンだろ、枠外に補助線引いたら分割できますとか。…などなど。
 あらかじめコースを注文していたのだけど、予約した当人(私だ)が品数を勘違いしていて、危うく、これから揚げ物が来るのに揚げ物を頼みかけました。危ない。

 ついでに昨日は、父に車を出してもらって本(主に漫画)をいくらか処分しに行ったら、買取強化キャンペーン中だったらしくて、買い取りカウンターに、えらく本が積みあがってました。はじめて見た、あんなの。

 そう言えば、読み終えました『女王国の城』。
 わー、なんかきらきらしてるー。「青春」ものだなあ。あれひょっとしてこのシリーズの前三冊、もったいない読み方してたかな私、という気がしてなりません(詰め込み式に読んでいた)。でも読み返すのも時間喰うな…(ぼそり)。
 ところでこのシリーズ、全五巻(+短編集)構想なのですね。え、次で終わり? …でもそれいつ出るのー。

 『4時のおやつ』。
 日常の何気ないやり取り。さらっとした本当にありふれたもので、でもなんだか面白くて。
 これ、そのまま台詞になりそうだなーと思いましたよ。ほぼ会話だけだし、アレンジは簡単。ただ、単調すぎてどうやってドラマに見せるのか。落ちもないですから。
 意味のない会話って、実は一番書くのが難しい気がするのですよね。雑談とか。友達と馬鹿話した内容を録音して後で聞いてみると、物凄くくだらないのにその飛躍ぶりに度肝を抜かれたりします(笑)。

 今日は早く寝るぞー!

2007 年 10 月 23 日  ふふふふふ

 読書週間入りましたー!
 次の日曜返却の本が四冊(しかも内三冊が小説じゃない←読むのに時間がかかる)。その次の日曜返却が五冊。しかも、ライトノベル数冊、次の日曜に友人に返す予定で…。
 ふふふふふ、間に一日でも休みがあればまだましだったのだけどなーでも頑張って読破する。一冊は多分延期できるからして(もしかして二冊)、二冊頑張って、ライトノベル読みまくる。
 …結局睡眠不足かよ…。

 先日、世界文化祭劇場の森山直太郎のライブの件で電話が来ました。
 チケット申し込み、勘違いして二回申し込んじゃって、でも入金が一回分だったから確認の電話。実は、一度帰宅前にかかってきていて一時間後くらいに再度。で、しかもその間にPCにメール来てたよ。電話かかってくると思ってのんびりご飯食べてたら。
 しかし、ライブなんて初めてだ。しかもこの日、休めない日だったから仕事終えて駆けて行かねばならんのですが…ちなみに一緒に行く友人は、有給が取れたそうな。ずるい(笑)。私、仕事切り上げて行かないとだから次の日も仕事なのだよなー。むう。
 森山直太郎が好きなのもあるけど、姫路城を背景に、って綺麗だろうなあ。というのが一番強い動機だったりします(苦笑)。

 『読書会』。
 作家二人が延々と本や映画や漫画の話。会話に出てくるやつ、全部読んで(観て)たらもっと楽しかっただろうなあ、と思ってしまいます。それは難しい…。
 ある程度、楽屋落ちというか内輪話な感はありますが、まあ。楽しそうなので、なんとなくこっちも楽しい。
 こういうの読んでると、やっぱり作家には、本を読むのが好きな人がなってほしいなーと思います。いやほら、本全然読まないのに作家になりたい、って人も多いらしいから最近。実際にそんなでなった人がいるのかどうか私は知らないけど。
 余談ながら、『テレキネシス』という往年の映画を絡めた漫画(ある意味映画が主役)があるのですが、その一巻を読んだ父が、作中に出てくる映画ほとんど持ってると自己申告。…私はさっぱり知らん。

 そう言えば、ドラマの「ガリレオ」。
 初回をかなり流し見していたせいで、面白そうだけどうだろうと思っていました。が、昨日まともに観たら、結構面白かったです。とりあえず、OPとEDが好き(そこかよ)。
 今期は、予想外に「モップガール」が面白いです。一応原作を図書館で予約入れたけど、ドラマの方が面白い予感がする。
 あとは、渋々(?)「医龍」と「有閑倶楽部」。「ジョシデカ」は、一回目があまりにもあまりだったので…「医龍」にしとこうかな、と。構成としては「アンフェア」でコメディー要素を盛り込んで、というのを目指しているのだろうけど…なんだろう、空回り。
 「ドリーム・アゲイン」は、ビデオに撮ったまままだ見てないからなんとも言えない〜。出演者は好みの人はいなかった気がするのだけど。

 アニメでは、「レンタルマギカ」がどこかで題名聞いたなー、とりあえず見てみよう、と思っていたらきれいに忘れてた…(笑)。
 「もやしもん」と「しおんの王」が今日からで、どんなもんかなー。
 「おおきく振りかぶって」があそこで終わって仰天しました。うーん、でもまあ、原作から考えるとあそこで止めとかないと無理だわな。
 うーん、「コードギアス」の再放送、どうしよう。前回は途中で撮り逃してやめちゃったのだよなあ。

 この頃、仕事が終わるのが早くて密かに不安だったりします。え、いいのこれ?

2007 年 10 月 24 日  愚痴というか馬鹿話

 新システムで、必要なはずの選択肢がない、と思って焦ってシステムを組んだ会社に電話したら…繋がった瞬間、発見しました(爆)。
 ふふふー、ついでに、他で直してほしいとこあったから頼んだけどー。阿呆丸出し。

 そしてある取引先にメールを送ることになって、口頭でアドレスを教えてもらったのですが。
「**ハイフン、エム、エー、エス、ユー、ティー」
「え? ティー、ですか? ディー?」
「ティー、です」
「…ピー?」
「マスター、になってるんです」
「ああ。はい、マスター、ですね」
 などという会話をして、送ったのだけど送信できず。ハイフンをアンダーバーで打ってて訂正したりマスターのスペル間違えたかなあ、と検索したらやっぱりあっててでもメモを見ると「u」があったから、ああこれ入れるのか、とやっても送れず。
 再度電話して、うーん、とお互い悩み(ハイフンじゃなくて上だったかな、と言われ、上ってあったっけと実は本気で悩んだ)、結局ファックスを送ってもらいました。
 で、アドレスを見たら。うん、送れない筈だ。「masuta」ってマスター違うから(マスタ?)。英語苦手なのに正しく「master」って打ってたよ私。
 もしかして、相手は「マスタ」って言ってたのに勝手に私が引き伸ばして聞いたのかもしれないけど。でも紛らわしいからローマ字で、とか訂正入れるべきだよ!
 …誰だ、このアドレス決めたの。

 何だっけ、昨日何か読んでたな…『「苦情」対応力』?←題名あやふや
 仕事の参考になるかな、と思って借りたのだけど、直の接客(接客業)がメインで参考資料には微妙。まあ、苦情処理という点では同じなので、意味がないなんてことは全くなかったのですけど。でも、事例紹介を呼んでなるほどー、というところで止まってしまった(苦笑)。
 百貨店のお客さま室(だっけ? 苦情対応とか)に勤めてこられた方が著者。まさかお会いする機会はないだろうけど、多分、怒らせたくない人だろうな…。
 読みやすかったです。

 苦情対応と言えば、賞味期限が切れてからどのくらいまで大丈夫ですか、という問い合わせがあったなあ、最近。
 個人的には、少しくらい大丈夫ですよと思うところだけど、勤務先の表示は賞味期限ではなくて消費期限なので、そこの説明をして、食べない方が無難ですね、ということで終わったのですが。
 うーん、あれでよかったのかなあ…でも大丈夫ですと言うのもなあ…。

2007 年 10 月 25 日  時間のある方だけお付き合いください。

 えー、何度かここでも触れた気がする「僕らは夜の底を歩く」。一応きりのいいところまでだけど途中。三分の一くらい?
何度も何度も、実は中学生の頃から設定を変え時代を変え世界を変えて(西欧の近代的な世界で諒が軍属だったなんて設定もあった)、書いてきた話でもあります。もともとの仮題は「夢戦」。
 書きっ放しであまり読み返していないから、不整合点とかぞろぞろあるかと…。もし、感想なり突っ込みなりあればご自由にどうぞー。歓待準備で待機中。

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 ひょうと、風が吹く。
 スカートの裾が大きく翻ったが、その下に見えるのは、黒いスパッツ。
 少女は、考えるように首を傾げ、丈の高い草に埋もれた空き地に、手をかざした。ちなみに足場は、苗字も知らない家の境界と思しきブロック塀。
「炎月、舞え」
 凛とした声は、張り上げるわけでもないのによく響く。
 急に立ち上った炎に、気温差で風が起こる。束ねただけの長い髪と、割合重い生地のはずのセーラーの襟までが風に動く。
 燃え盛る炎の中から不意に、押しつぶされた獣のような声が聞こえた。続いて、人の頭ほどの大きさの何かが飛び上がる。
「キサマっ、何をするっ」
「大人しく出てこないから悪いんだろ。勧告無視した奴には武力行使、ってのは常識じゃない。何、殺すつもりの相手あぶりだすのに手加減すると思った?」
 毛を逆立てた何かは、猫に似た生き物だ。だが不自然にも、明らかに人とは異なる体から、滑らかな日本語が紡ぎ出される。
 少女は、わかんないなーと呟いた。嫌味ではなく、本心だ。
 その右手には、いつの間にか日本刀が握られていた。重いはずの鉄の塊を、少女は腕一本で軽々と支えている。しかし、筋肉質にも見えない。
 そうしてひょいと、足場を蹴る。丸々、燃える空き地を挟んだ対面の、猫の元へと跳んだ。
「罪状以下略っ」
 緊張感のかけらもない宣言で、少女は刀を振り下ろした。猫は逃げようとしたが、その足が、ブロック塀の裏から突き出た手につかまれている。
 あっさりと切断された猫の体は燃え上がる空き地に投げ入れられ、少女は、塀に着地した。
「ごくろーさま」
「もっとねぎらえよテメエ。一人孤独に潜むのがどれだけ辛かったか! 寒いし、馬鹿でかい結界張らされるし!」
「寒いのは一緒。つか、スカートなんざはかされてるせいで余計。大変だと思ってるから、リクエストに答えてわざわざこんな動きにくい格好してあげてるんじゃない。文句言うなら、スカートなんてはかないよ」
「えー、わざわざ調達してきてるのにー」
「それはそっちの勝手」
 すぱっと断言した少女の手からは、日本刀は姿を消していた。
 そうして二人は、燃え盛る空き地を眺めやる。元気だ。ややあって、口を開いたのは少女の方だった。
「あと、よろしく」
「ええぇっ、後始末考えてないのかよ! 水出せ水!」
「水月があればいいんだけどなー。さ、頑張れ諒! 夜明けは近い!」
「わけわかんねーって! 無理! もう無理! 絶対無理! 消防署にお任せするからなっ?!」
「うっわー、それで補佐役なんて言っちゃうんだ。なっさけなー」
 言い合いながら、揃ってそそくさと身を翻す。二人が去った直後に、ようやく異変に気付いた隣近所がざわめき始める。消防車が出動するまでには、もう少し間があった。


 桜の花びらが、舞う。いかにも春爛漫といった光景の中、司は、真新しい制服に身を包んでいた。
 チェックのプリーツ・スカートは、規定の段階でひざ上の丈だ。上着は、ジャケットかベストさえ着用していれば良く、シャツは無地の薄色なら認められているが、司は基準品のシャツを数枚買い込み、中学校では合服だったカッターシャツも、引き続き着用予定。足元は、これも中学から引き続きの白のスニーカー。
「わー、スパッツ丈ぎりぎりー」
 信号待ちで止まった自転車の上で、開店前の電気屋の窓ガラスに映った自分の姿を眺め、呟いた。少し裾を上げてみると、黒いスパッツが見える。
「まあいいか」
 変わった信号に、あっさりと思考を切り替えてペダルを踏む。
 のんびりと自転車をこぐと、春風が心地いい。うっとりと眼を細めると、ちらちらと舞い散る桜が、いよいよ美しい。青空との対比が、なんて綺麗。どれだけ見ても、生まれ育ったこの十数年繰り返し見ても、見飽きない。
 ただ問題なのは、今現在司が、入学式に堂々遅刻中ということくらいだろうか。
 まさか午後一時からの式に遅刻するなどと、司も、我が事ながら考えもしなかった。こういうとき、一人暮らしは困りものだ。お節介な隣人たちは夜行性が多く、そうでない一人は、今頃勤務中のはずだ。
 入学式ぐらい休んでも支障はないと思うが、配布物やこれからについての説明、何より級友との出会いは必要だ。その意味では、卒業式に寝坊した方が損害は少ない。
 そう知りながらこの現状なのだから、司も、我ながら呆れる他ない。
「あー、眠い」
 ぼやくが、寝すぎたせいで眠いのか、寝たのが明け方だったせいなのかが判らない。
 今回の夜更かしの原因は、ネットサーフィンだ。都市伝説にいくつかのキーワードを絡めて見て回るのはいつものことだが、昨夜は、「日本刀を持った美少女」の目撃談を集めたサイトを発見してしまい、その充実したコンテンツを読み漁るうちに夜が明けた。
 ふわぁあ、とあくびついでに頭に手が伸びるのは、癖だ。がしがしと、男の子のように短い髪を掻き回す。
 三年通えばお馴染みになるだろう景色を見流しているうちに、入試と合格発表、事前説明会とで訪れた校門にたどり着く。裏口の方が駐輪場に近かったな、と車輪の向きを変えたところで。
「おーきーたー」
「うわ、驚いた。何やってんの諒、じゃないえっと…?」
「九重」
「あーそうそう、九重先生。どうして根城から出てきてるんですか。遅刻者捕まえるならほら、生活指導の先生とか体育教師とか。まかりまちがっても司書教諭じゃないと思いますけど?」
 そう言って司は、見下ろす濃茶の瞳を見つめた。
 向かい合うのは、無駄に白衣を羽織り、無用の眼鏡をかけた青年。微妙にホストじみた髪は、染めたわけでもないのに茶色い。陽に透かせば、金色にも見える。
 九重諒は、きらりと眼鏡のレンズを光らせた。
「それはだな、誰も式が終わってからの遅刻者を想定してなかったからだ」
「それはそれは。って、それなら見逃してよ。そっちも新人なんだし出張るのって良くないよ?」
「悪目立ちでお前に敵うか。寝惚けて教室の窓から落ちたり避難訓練で一人取り残されたり、どんな目立ち願望だ」
 そんな昔のこと、と言いながら司の眼は泳ぐ。昔と言っても、中学生のときの話でしかない。しかもその二つが氷山の一角とくれば、たしかに、悪目立ちだろう。
 泳がせた視線の先を、制服姿の生徒の姿がよぎった。そういえば、ざわめく空気も伝わってくる。
「あ、式終わったんだ。ホームルームがあるよね? 何組だった?」
「五組」
「ふうん。じゃ、後はよろしく」
「え? あっ!」
 素早く自転車を預けられ、正門前には、白衣の諒だけが残された。
 司は、スカートの裾を翻し、軽やかに駆け去って行く。いつの間に取り出したものか、自転車の前かごに納まっていたはずのかばんを手にしている。
「やられた…」
 がくりと肩を落とした諒は、渋々と自転車を押して行った。後姿に、校門脇に植えられた桜の花びらが落ちる。
 一方の司は、足取りも軽く、生徒の群れに突入した。
 教室に荷物を置いているのか、誰もかばんを持っていない。微妙に浮きながら気にせず、先に職員室に寄るべきか直接教室に行くか、と少し考え、どうせ教室で顔を合わせるからいいかと決め込む。このあたりが悪眼立ちする下地なのだが、司には自覚があるのかないのか。
 一年五組の教室は、三階のほぼ中央にあった。一学年八クラスだから、四組と真ん中を分け合う形になる。
 その教室に踏み入ってから、司は首を傾げた。
 黒板には教室の配置図があり、順に三十二までの番号が振ってある。
 出席番号だろうとの見当はつくのだが、クラス分けの張り出しを見ていない司が、割り振られた番号を知っているはずがない。とりあえず、かばんの置かれていない机は、と探すと、困ったことに二つあった。
「えーと、ちょっといい?」
「何?」
 丁度入って来たクラスメイトをつかまえる。
 シャツの襟元にリボンの小道具をあしらった少女は、司よりも背が低く、不思議そうに見開かれた眼が印象的。リスみたいだなあと、密かに内心で呟いた。ふわふわとした柔らかそうな髪も、その感想に一役買っている。
「沖田司です、はじめまして」
「愛知ルナ、一中出身。よろしく」
「私の出席番号、知らない?」
「はい?」
 きょとんと、大きく眼を開いて小首を傾げ、固まってしまう。司は、そらそうだ、と苦笑しながら、ひらひらと意味もなく手を泳がせた。
「や、ちょっと寝坊してね、さっき来たとこなんだ。五組ってことは判ってるんだけど、出席番号わからなくて。クラス名簿か何か、まだもらってない?」
「寝坊? 今まで寝てたの? すっごいねー」
 可愛らしい笑い声を上げて、こっちこっち、と窓際から二列目の席へと司を誘導する。その列の一番前がルナの席らしく、きちんとまとめ置かれたプリントの中から、一枚を選び抜く。
「十八番。あたしのいっこ置いた後ろだね。机の上にプリントとか全部あるはずだよ」
「ありがと。式とかで、何か聞いといた方がいいことってあった?」
「んー? 特にはないかなあ。多分、ホームルーム出たら大丈夫だよ。でもすごいねー、寝坊って。誰も起こしてくれなかったの?」
「あー、一人暮らしなんだ。目覚まし止めたらアウト。七個も仕掛けてたってのに、全部止まってんの」
「フツーないよ、七個も目覚まし時計」
 ツボにはまったように、楽しげに笑っている。突っ込むのそこなんだ、と思いつつつられて笑った司は、ルナを椅子に座らせて、かばんだけ自分のものらしい机に置くと、立ち話を続けた。
 どこのクラスもまだ教師は来ていないようで、そこかしこで自己紹介や旧知の者らとの雑談が聞こえる。
 教室を見渡した司は、プリントだけ置かれ、かばんの見当たらない机に目を留めた。
「他にも遅刻した子いるみたいだね。それとも休み?」
「ああ、宮凪さん」
 するりと名前を口にして、小首をかしげる。ひと昔かふた昔前のアイドルのようだが、嫌味がないからかやはり小動物じみて見える。
 知り合いなのかと訊く前に、続きが来た。
「休みかもねー。同じ中学だったけど、ほとんど姿見たことなかったもん。いじめられて不登校になってたって噂」
「…剣呑な」
「でも、日数に問題があったのに公立受かってるんだから凄いよね。私立だったら融通利くって言うけど。頭の造り違うのかな、やっぱり」
 さらりさらりと、口にする言葉にはまったく毒がない。内容だけ聞けば陰口のようだが、口調がそれを裏切っている。面白い子に当たったもんだと、司は偶然に感謝した。
「造り違う、て?」
「天才で有名だったの。でも人付き合い悪くて、そのせいで弾かれてたんだよねー。超然としてるとこあったから」
 ルナの話から受ける印象では、いじめの不登校とは繋がらなかった。超然としているなら、少々の嫌がらせなら受け流して、孤高を保っていそうだ。だからルナは噂と断ったのか、嫌がらせが少々ではすまなかったのか。
 ルナの反応が見たくて入れた合いの手だが、話題の当人にも興味がわいてきた。
 更に聞き込もうと意気込んだときに、一瞬、教室が静まり返った。入り口に背を向けていた司が振り返ると、ショートカットとパンツスーツのよく似合う、新社会人といった女性が立っている。担任、佐々木先生、と、ルナが素早く囁く。
「はい、席ついて。配布物山ほどあるし今日のうちに自己紹介とか済ませるからね。合宿の話もするよ」
 ざっくばらんな言い方は、歯切れの良さからか舞台俳優を思わせる。姿勢がいいせいもあるだろう。背筋が伸びているからか、司とあまり変わらない身長だろうのに、迫力がある。
 佐々木の後ろからは、式後に捕まったのか、配布物を持たされた男子生徒が二人ほど。教卓にどさりどさりと置かれたプリント類は、その三十二分の一が手元に来ると考えても、重そうだ。
「とりあえず、先配るね。手伝ってくれる?」
 てきぱきと、運悪く教卓に近い生徒が指名され、最後に司が呼ばれた。離れてるのに、と疑問が顔に出たのか、佐々木はにっこりと笑った。
「沖田、遅刻一ね。三回遅刻したら、一回欠席扱いになるから気をつけなね。早退も一緒。みんなも、もう義務教育じゃないから、授業受けたくないなら受けなくていいよ。代わりに、卒業できないかもしれないけどね」
 きついことを笑顔で言ってのけて、手際よく配布物を振り分けていく。その間に教師は、一旦板書を消し、読みやすい字で「佐々木飛鳥」と書いた。間を置いて、「委員長」「副委員長」。
 配布物が行き渡ったことの確認を取ると、こつこつと黒板を叩いた。
「式の前にも言ったけど、改めて。はじめまして、一年五組の担任をする佐々木飛鳥です。担当教科は生物だからみんなとは来年まで縁がないけど、面白いから、興味や疑問があったら何でも訊いてください。関係ないことでも大歓迎。正式に教師になったのは今年が初めてで、二年間は臨時教諭やってました。趣味はツーリングと食べること。そうそう、バドミントン部の顧問と新聞部の副顧問やってるから、希望者は声かけてね。以上。質問は?」
 いささか気圧されながらも拍手が起こり、いくつか、何歳ですかー、彼氏いますかー、ツーリングってどこ行くんですかー、といったお約束やそうでない質問が上がり、佐々木の自己紹介は終わった。
「これから出席取るから、名前呼ばれたらこんな感じで自己紹介していってね。最低限、名前プラスアルファ。趣味や興味のある部活とか、得意教科や出身中学、近所の見どころとかお勧めのお店とか、何でもいいよ。一個じゃなくてもいいからね。それと」
 そこで区切り、「委員長」「副委員長」と書いた部分を手の甲で叩く。
 慣れたあしらいは、二年間の成果か元々の性格か。教室の生徒たちの間には、好意的な空気が広がっている。
「これ、決めるから。できたらそのことも考えながら、聞いていってね。とりあえず一月、勤めてもらいます。そうそう、宮凪果林さんは骨折で今日は欠席。明日からは来るそうだけど、しばらくは不自由だから今回は外してね」
 出鼻から骨折って、自分よりも運の悪い奴がいた、と、司は、自分は運の問題ではないのに同列に並べた。司の場合は、自業自得と言う。
 宮凪の名前が挙がったときにいくらか反応を見せた者らは、同じ中学だったのだろう。一之瀬中学は東雲高校に近いからか、出身者は結構な人数がいる。
 そうして出席番号順に自己紹介が終わり、委員長副委員長が選出されて配布物を使いながらの学校生活の説明、懇親合宿の話が終わると、お開きとなった。
 プリントを適当にかばんに放り込んでいると、前の席からひょこひょこと、猫毛の頭が近付いてきた。二つに分けてまとめた毛先が、肩の上で跳ねて愛らしい。
「沖田さん、部活見学していく?」
「え、もう受け付けてるの?」
「うん。毎年恒例、先輩たちのお出迎え」
 言われて廊下をのぞいてみると、開放感でにぎやかになっているのかと思っていたそこには、ユニフォーム姿でチラシを撒く一団がいた。廊下には一人一個を割り振られたスチール製のロッカーが並べられているから狭いのに、こうなっては、すれ違うことも難しい。
 これを押しのけて進めってのか、とうっかり呟くと、隣でルナが笑った。笑い上戸なのかも知れない。
「どこかの部の人つかまえて、見学した言っていったら花道作ってくれるよ。それが厭なら、自力なの。どうする?」
「うーん。図書室行きたいから、突っ切ってく。えーと…アイチさん? は?」
「沖田さんって、名前覚えるの苦手?」
「や、字面見たら覚えるんだけど。高校って名札なくて不便」
 顔と名前を一致させるのも苦手だから、小中の名札の有難さが、今になって身に染みる。
 ルナはまた笑って、手持ち式の制かばんを、持ちにくそうに移動させた。合皮製のかばんは、かばんそのものが無駄に重い。勝手に改造できないように、底には鉄板が入っているということだから尚更だ。
 鉄板入りの情報はルナからのもので、よく知ってるなと言ったら、見たら判らないのと返された。司のかばんは、入学説明会で購入してから今日まで、部屋の隅に箱入りで放置されていた。
「ルナでいいよ、まだ覚えやすいでしょ。突っ切るなら、後ろついていっていい?」
「どーぞ。あ、司でいいよ。つか、好きに呼んで」
「うん、ありがとう」
 声が笑っている。肩をすくめた司は、溜息とともに、扉に向かった。
 人を押しのけて歩くのは、こつさえ掴めばなんとかなった。勧誘をしている人たちが狙い目だ。二年三年の先輩方は、あくまで勧誘が目的なのだから、拒否を前面に押し出せば、割合あっさりと退いてくれる。むしろ邪魔なのは、混乱している一年生の方だった。
 それでもどうにか廊下を抜け出して、一般教室棟と特別教室棟とをつなぐ渡り廊下も越えれば、突き当りの角部屋が図書室だ。
 なんとかもぐりこんだ司は、ぐったりとして息を吐いた。図書室の引き戸は開けっ放しだが、ここまで勧誘の波はやってこない。隣では、ルナが今にも膝をつきそうで、とりあえず閲覧室のパイプ椅子に座ろうと促した。
 図書室は、入った突き当たりにカウンターがあり、その手前は左手側が新着図書やお勧め本のコーナー、右手側が文庫コーナーになっていて、閲覧室はカウンターを横切った左手側、新着図書と雑誌の棚の裏だった。長机が二客一組で六組並べてあり、それぞれに六つの椅子が配置されている。
 近くの一脚を引いてまずはルナを座らせ、司自身もその横を引く。入学式の後だけあって、他に生徒の姿はない。閉まっていて不思議のないくらいだ。
「進学校ってもっと、部活には不熱心なイメージあったんだけど」
「そう…?」
 ルナの返事が素っ気無いのは、まだへばっているからだ。精神的に疲れはしたが、身体的には問題のない司は、肩をすくめた。
「まあ、いいことだけど。でもあれはさすがに、やりすぎじゃない? 取り締まれよ、生徒会か教師」
 あはは、と力ない笑い声が返る。笑わせようと思ったわけではないのだが、どこまでも、笑い上戸は健在らしい。
 机に突っ伏すルナを見やって、司は立ち上がった。言葉もなく見つめる眼に、軽く手を振る。
「ちょっと書庫、見てくる。どんなとこか知りたかいから」
「…やすんでるねー」
 じゃあかばんよろしく、ととりあえず言って、席を立った。
 書架は閲覧室とは逆位置にあり、こちらは、文庫棚の裏だ。スチールの棚が並ぶのは安っぽいが、公立高校なら仕方ないか、と、市立図書館とは比べ物にならない狭さの空間に足を踏み入れる。
 背を見せる本はほとんどが古ぼけていて、ところどころ、カバーが破けていたりもする。それでも、中学校よりは揃ってるかな、と司は呟いた。
 とりあえず歴史関係の書棚の前をふらふらとしていたら、反対側には準備室でもあるのか、図鑑や地図といった大判を収めた棚の中にぽかりと、ドアノブがあった。
 不意にそこが開き、白衣を羽織った諒が姿を見せる。その奥を覗き込むとこちらも書棚があり、どうも、納まりきらない本の安置場所のようだ。いっそ壁を潰して書架を広げたらいいのに、とは司の独り言だ。
「遅かったな」
「歓迎があって。それと、今閲覧室に人がいる」
「いつの間に。さっきまで誰もいなかったのに?」
「成り行きで一緒に来た」
 へえ、と一瞬意外そうなかおをして、にやりと笑う。
 その変化が気に喰わず、司は、むっと顔をしかめた。それが諒の思う壺とわかるからこそ、余計に気に喰わない。
「友達百人できるかな、だな」
 いちいち節をつける諒を睨みつけると、大袈裟な動きで肩をすくめて見せた。そうすると、ホストというよりも三枚目を意識した芸人のようだ。
 人付き合いが得意ではないとの自覚はあるが、からかわれると腹が立つ。
 しかしまあ、と、諒は手を広げた。
「人がいるなら手早く済ますか。呼び出しかかったぞ」
「また? なんか最近、間隔縮まってない?」
「さもありなん。このご時世だ」
 ひらりと手を振ると、諒は、司の肩に手を置いた。何、と首を傾げる司に笑いかけ、くるりと背を向けさせる。
「さー、帰った帰った。閉めるぞー」
「え、まだろくに本見てないのに!」
 慌てて首をひねるが、完璧な営業用の笑顔だ。大きな手に押され、司の努力も空しく、押し戻されてしまう。
「明日は実力試験だろ。さっさと帰れー」
 そのまま閲覧室まで押し戻され、大分回復した様子のルナと顔を合わせた。ぽかんと、諒を見上げている。
「はい、君も。またのお越しを。明日も開けてるからねー」
 二人揃って押し出され、廊下に取り残された。ぴしゃりと閉められた扉の上部に嵌っているのは曇りガラスで、中の様子は窺い知れない。
 帰り道、ルナはぽつりと、委員会選出揉めるかもしれないねー、と言った。  


 暗くなるのを待って、司は家を出た。
 司が暮らしているのは一軒家で、防犯対策はろくにしていないが、今のところそれで問題はない。もっとも、入られても、家具くらいしか盗って行く物はないかもしれない。
 三年ほど前に相次いで家族を亡くして以来ほぼ一人暮らしだから、あまり高価なものはない。家だけは古いが、まさかそんなものを盗むわけにもいかないだろう。残念ながら、伝来の家宝といったもにお目にかかったこともない。
「今日明日くらいが見頃、か」
 出掛けにニュースで聞いた言葉を呟き、じゃあ次は八重桜か、と口にする。
 実のところ司は、国を挙げる勢いで騒がれる染井吉野よりも山桜の方が好みなのだが、基本として、桜全般が好きだ。
 散歩はよくするが、桜のおかげもあって、今の時期はただひたすらに楽しい。
 畦道じみた土路にも街灯が立っているが、闇が勝っている感がある。しかし頭上に月が昇り、暗いながらも道を踏み外すほどではなかった。
「今日の子、何て名前?」
「誑かすなよ」
「うわー、俺信用ないなー」
 ふらりと現れて狭い道で肩を並べた諒は、今は眼鏡をかけていない。無造作にシャツを着込んだ格好で、どこか繊細な手を、ひらりと翻した。
 ぼぅと、青白い火が浮かぶ。
 司はそれを見て、眉をひそめた。
「見られたらどうするの。もう誰も、狐火だ、人魂だ、なんて納得してくれないのに」
「この頃、みんな夜が遅いしなあ。窮屈な世の中になったもんだ」
 そう言ってもう一度、手のひらを返す。そこには、安物の懐中電灯が納まっていた。
「で、名前は?」
「本借りたときに判るでしょ。中学のときみたいに、ハーレム作るなよ?」
「俺は何もしてないもーん。勝手に向こうから言い寄ってきたんだもーん」
「…気色悪」
 半ば本気で顔を背ける。見た目以上に年を取ってるはずだろうに、という呟きは、どうにか呑み込んだ。
「酷。なんで司はそう、俺には冷たいんだ。颯とか、甘やかし放題なのに」
「颯は可愛いから。諒は全っ然可愛くない。つか、甘やかしたら甘やかしただけ増長しそうだから厭」
「えー?」
 暢気な会話を交わしながら、たどり着いた先は、今にも潰れそうな古書店だった。
 道楽か年金生活の補助にしかなりそうにない店で、汚れきった「金森堂」という看板だけが、どうにか店らしさを主張している。知らなければ、ただの民家と通り過ぎるだろう。
 開店も閉店も店主の気分次第の店だが、今は、「準備中」の札が表を向いている。準備って何を、というのは、見るたびに沸き起こる司のツッコミだ。掃除でもするのだろうか。
「お邪魔します」
 ひっそりと呟くように言って、静かに開けた入り口から店内に踏み入る。鍵はかかっていない。
 入店の際に諒に先を譲り、その服の裾を掴んだのは、明かりを消した店内では司の眼が利かないからだ。
「どうせならこう、抱きついてくれてもいいんだけど?」
「ヤダ。それなら本棚に頭から突っ込む」
「…なんか今ざっくり来た。うわー心が痛い」
 言いながらも、危なげなく歩を進める諒は、棚からはみ出たものでもあれば、きちんと注意を促してくれる。懐中電灯は姿を消していた。光が必要なのは、司だけだ。
 明かりが漏れたところで、店主が探しものをしていると思われるくらいだろうが、何かの間違いで他人にやってこられては面倒だ。一応、後見人の元に来た、といういいわけは用意してあるが、見つからないにこしたことはない。
 外よりも光のない暗闇を、前を行く諒の背中だけをどうにか見極めてついて行っていると、思い出す記憶がある。
 闇に沈んだ森の中を――そうやって、歩いた。
「司?」
 何、と言うのに間が開いても、茶々はなかった。ただ、やさしく頭を撫でられる。
「行くぞ」
「うん」
 店の突き当たり、居住区に繋がるはずの戸を引き開けると、そこには黒い穴が待ち構えている。普段は板を載せて塞いであるが、外せば、アリスのウサギ穴よろしく真っ逆さまだ。
 袖から手を離し、先に落ちて行った諒を追って飛び込む。もう慣れたもので、そのこと自体に恐れはない。ただいつも、「地球の裏側まで繋がっているのかしら」という、『不思議の国のアリス』の言葉が頭をよぎる。
 地球の中心を通るなら核熱で溶けることは確実だが、ではそれを外して穴を開ければ、真裏には到着できないだろうが、とにかく違う地上へと、たどり着くことはできるのだろうか。しかし地球の重力作用を考えると、どうなのか。
 どうでもいいことを真剣に考えるのは、逃避したいときだ。だが、そう冷静に判断している時点で、実現できていない。目を開けても閉じても変わりない暗闇で、司は、密かに溜息を落とした。
 闇をひたすらに滑り降りると、急に光のある場所に飛び出る。光と言っても青白く、蛍火や水族館の灯りに似ている。飛び出た先の地面は、ふかふかと弾力があるのだが、マットが敷いてあるわけではなく、どうも、苔や茸らしい。
「いらっしゃい、司ちゃん」
「いらっしゃいましたよ。明日実力試験だってのに来ましたよ。労働基準法の導入とか考えてほしいね」
「ジツリョクシケン? ロウドウキジュンホウ?」
 颯は、笑顔のままどこか面白そうに、首を傾げた。少年の整った容貌では、それは、十分に絵になる。
 司が、笑い返す。
「労働基準法は辞書引いて。ちゃんと説明できる自信ないし。あ、言ってるのは未成年の就労だから、とりあえず。実力試験ってのは、学校の試験の一種。どのくらいの学力が身についてるか調べるってお題目で、長期休みの後にやることが多い」
「ふうん。どうして明日それだと、来たくなかったの?」
「気持ちだけでも勉強しないと。多分、やらないけど」
「じゃあいいじゃない」
 まあね、という司の言葉で、とりあえず会話は終わる。その間諒は、司の下で潰れていた。
「…いい加減のいてくれー」
「あ、ごめん。道理でいつもと感触が違った」
「早く気付けよそこ!」
「うん。こんなに座り心地悪いのに」
 がくりと顔を伏せた諒から降りると、司はさっさと、颯と歩き始めた。何事もなくとも月に一度は訪れる場所だから、熟知とまではいかなくても、慣れている。
 慣れているのに、毎回決まって、あのときのことを思い出すのは楽しくないが、どうしようもない。
 少し歩いた先にあるのは、大きな水鏡だった。
 鍾乳洞のような開けた場所の中央に据えられた、小さな泉のような水溜り。淵に五段ほどの石の階段があり、水面を見下ろすには、登る必要があった。
「来たか」
「こんばんは、天圏さん。お早い呼びで」
 笑顔をつくるのは、勿論、ただの嫌味だ。
 司が笑みを向けた先にいるのは、小柄な老人だった。髪やひげに埋もれそうな顔をした老人は、着物を着込んでいる。外見の印象に反して背筋は伸び、垂れた眉の下から覗く眼は、強い力を持っている。ただし、その眼は普段は埋もれてほとんど見えない。
 今は、真っ直ぐに司を見ている。
「司」
「わかってます」
 司よりもよほど、天圏の方が苦々しい思いでいるに違いない。
 司は、金儲けと割り切ることもできる。だが天圏は、それこそ断腸の思いだろう。
 天圏と颯や諒と司では、明らかに立場が異なる。見ようによっては、彼らは被害者側で、司は加害者側。あるいは、彼らが加害者側で、司は被害者側。それはそのまま、人外と人との図式だ。
 司が彼らと出会ったのは、今から四年ほど前になる。そしてそれはほぼそのまま、司の一人暮らしの年数にもなる。
「映してください」
 身軽に階段を登った司は、水鏡の縁ぎりぎりで足を止め、見下ろした。
 頷いた天圏が目を瞑り、その額に、見る見る汗の玉が浮かぶ。横目でそれを見ながら司は、いつも、山伏の祈祷ってこんなのかなと、どこか的外れなことを考えてしまう。むしろ天圏は、調伏されるほうではないのか。
 雑念を頭に浮かべたまま、司は、水面を覗き込む。
 くらりと、わずかに眩暈が掠める。立ちくらみや貧血は度々起こす司だが、この眩暈は質が違う。この水溜りのもたらす作用だ。人によっては、そのまま落ちてしまうだろう。そうすれば、二度と浮かび上がっては来れまい。
 どれだけ深いのか。水底は見えず、ただ、蒼い闇だけが揺らめく。
 その液体が、例えばウツボカズラの溶液のように、溶解能力を持つと言われても驚かない。そうであればこの水面は、どれだけの生き物の成れの果てだろうか。
 不意に、その水面が揺らいだ。揺らぎ、花を咲かせていない桜の木を映し出す。
「これ?」
 それなりの年齢を経ていそうな木は、蕾すらつけていない。それでも桜の木と判るのは、背景に見覚えがあるからだった。
 この近隣で最大の総合病院。市営のそこには、司も、何度も足を運んでいる。中庭のベンチの裏に佇む木下で、花見をしたことさえある。
「今の映像ですか? 花が咲いてないですけど」
 返事はない。大まかにでも状態を把握しているのは天圏くらいなのだが、説明は後だ。喋る余裕はない。
 だからこれは、半ば司の独り言になる。諒も颯も天圏でさえも、司が眼にしている映像は見えていない。
 そして水面はまた、揺らいだ。
「え」
 思わず、声が漏れる。
 蒼い水鏡に映し出されたのは、一面の赤。力任せに噛み千切られたようなばらばらの人の体の下に、絨毯のようにあふれている。ごろりと転がる首が正面を向いて見え、何が起こったのかわからないかのように、不思議そうにこちらを向いている。
 それも揺らいで消え、次いで、百鬼夜行絵巻を見るような、異形の者らの集会が映し出される。
 夜の、森なのか山なのか、とにかく木々が生い茂っている。そこで、気ままにいびつな円を作り、多種多様の者らが集まっている。一様に、その顔は笑みに歪んでいた。
 ふうと異形たちは姿を消し、静謐な水面に戻る。
 司が天圏に視線を移すと、老人は、膝をついて肩で息をしていた。傍らには颯が立ち、介抱している。諒は、二人から少し離れたところで所在なげに立ち、司が見たと気付くと、軽く肩をすくめた。
「あのー、なんか今回、多い気がするんですけど? それともこれ、三つとも全部繋がってるんですか?」
 階段を使わずに飛び降りると、諒が近付いてきていた。気にせず、天圏に歩み寄る。
「何が見えたんだ?」
「咲いてない桜の木と、ばらばら殺人事件現場と、魑魅魍魎の会合」
「なんだそりゃ」
「や、それはこっちが訊きたいんだって」
 何なんですあれ、と、司の声はいささか素っ気無い。
 膝をついたままの天圏の傍らで、颯が、細い首を傾げる。
「とりあえず、お茶でも入れようか?」
「ココアがいいな」
「じゃあ俺は、」
「ドクダミでも煮出そうか」
「…お前、兄をなんだと思ってる」
 過去には、魔除けの意も込められたドクダミ茶。
 諒が泣き真似をしているうちに、三人は、更に奥へと移動している。文句を言いながらも追いついたときには、司を先頭に、障子を引き開けて畳みに上がったところだった。
 地下洞窟の奥に仕切られた小部屋は、和風の造りになっている。
 四畳半の広さに、四月だというのに仕舞われていない炬燵。ちゃっかりと、みかんや饅頭も置かれている。部屋の隅には、小さな書棚やくず入れ、裁縫箱などが、雑多なようで整理されて置かれている。
 そして、やはり障子で区切られた向こう側には、小さないがらも給湯場。ミニ冷蔵庫も鎮座している。
「あー、やっぱり落ち着くなー。家のはもう仕舞っちゃったから、ちょっと寂しいかったんだ」
 早速炬燵にもぐりこみながら、司は、半ば呟いている。喉を鳴らす猫のように、嬉しそうに目を細める。
 天圏と諒もそれぞれにもぐりこみ、一時、沈黙が降りた。
 その間に颯が手早くお茶を用意し、それぞれの前に置いて、司の向かいに腰を下ろして一口飲んだ。
「天圏さん?」
 熱燗の湯気を受けた天圏は、ああ、と、呻き声ともつかない応えを返す。そうして、司に見たものを話すよう促した。
 あの水鏡に映像を映し出すのは天圏の仕事だが、見ることが適うのは、司だけだ。他の者は、例えすぐ横に立っていたとしても、そこに水以外を見出すことはできない。正確には、司ではなく「狩人」のみとなる。
 「狩人」はこの辺りでの通称で、他に、「番人」「マロウド」「キャクジン」「キャクニン」などなど、呼び名は豊富らしい。ただし、どれも内実は似たり寄ったりで、妖を狩る人間を指す。
「桜の下で、命を失う人間が増えておる。映し出されたということは、あの桜が招いておるのかの。殺人事件は、クヌギのに訊け。最後のは――隣町で一人、引退するらしい」
 司の話を聞き終えた天圏は、まずは酒を口に含み、ゆっくりと飲み込んでから解説を口にした。
 水鏡に映るものが、危険度が高いとされている。危険度というのはすなわち、妖の存在が人に知られる程度の高さ。
 狩人の仕事は、人に害を成す妖の退治ではなく、その存在を気取られかねないものを排除することにある。退治のように見えるのは、たまたま、それらが人を害することが多いためだ。
 必ずしも殺す必要はなく、まずは勧告を行う。だが、特に人を害し続けたものは、血に酔うのか毒されるのか、正気を疑うものが多い。
 狩人は、極言すれば、身勝手な汚れ役に過ぎない。自在の形を取る武器を扱える人間と、補佐の妖。その組み合わせが原則で、それとは別に、水鏡を操る妖との組み合わせが、最低限の組織となる。
 人であるだけに、代替わりもすれば、命を落として空白の時期があったりもする。
「引退、ですか? それが一体、何の関係が? 狩人は、個別のものでしょう?」
 困惑や不満ではなく単純な興味と疑問から尋ねた司に、天圏はまた、酒をすすった。
「此度の奴は、病い故に退くらしくての。しかも悪いことに、次代がまだ定まっておらん。その隙を狙ってか、若手が躍起になって、総攻撃を目論んでおるらしくての。泣きついて来おった」
「はあ、それで百鬼夜行。…って、あの、もしかして隣町って…?」
「司ちゃん、学校の行事で泊まりで出かけるんだよね?」
「…やっぱそれですかー」
「え、それ俺行かないんだけど。自腹で行けってか?」
 湯気の立つ、妙に緑色の液体を湯飲みの中で回していた諒が、いささか不満そうに口を挟む。司書教諭の職についている分、身勝手が利かない部分もある。ちなみに、小・中学校では、用務員だったり警備員だったりした。
 こちらは司に合わせたものか、ココアを手にした颯が、しらっと司に笑みを向ける。
「僕が、向こうの補佐役と打ち合わせするから、安心してね」
「お前、それ俺の仕事」
「他との折衝は、天圏さんの仕事でもあるからね」
「ぐ」
 そう言われると、反論もない。つまりは、天圏の代理で颯ということだ。
 実際問題、合宿(親睦合宿ということになっているが、予定図を見ると明らかに勉強合宿のそれ)は平日だから、仮病でも使って休んだとして、万が一教師や生徒に諒の顔を見られればまずいことになる。
 実のところ、司の補佐は諒と颯の二人いるようなものだ。
「さて、もういいかの。年寄りを休ませてはくれんかね」
 日本酒の残りをぐいと飲み干し、天圏が一同を見回す。もっとも、その眼はやはり、埋もれている。
 あ、質問、と、司が挙手した。
「この三つって、優先順位とかあります? いままで、こんな風に一緒に挙がるってありませんでしたよね?」
「さて…ないのではないかな。全て、至急じゃからの」
「あー…はーい。わっかりましたー」
 うわー面倒ー、と表情で言って、司もココアを飲み干した。そうして、ひょいと立ち上がる。ついでに、コタツの上の饅頭を二つ三つポケットに放り込む。
「じゃ、お邪魔しましたー。帰ろ」
 後半は、諒に向けてだ。
 こちらは、揺すり回していた液体はそのままに、暢気な様子で立ち上がる。
 そこまで送って行くね、と言って立ち上がった颯と並び、落ちてきた穴まで引き返す。行きは落ちるだけだから簡単なのだが、帰りは登る。
 穴からのぞく紐を引っ張ると、縄梯子が降りるようになっている。これをせっせと登るのだが、銭湯の煙突くらいは登れそうな筋力がついているのではないかと、司は時々疑う。
「兄様には気をつけて。――またね」
 耳元で囁かれ、え、と振り返った司に、無邪気に見える笑顔が返った。
 仲がいいのか悪いのかわからない兄弟だ、とは思っていたが、思い詰めたような声に驚いた。
 きょうだいか、と、今は離れて暮らす弟を思う。
 容姿はよく似ていたが、中身は違った。ひとつのことを追求することに長けた、凝り性のある弟。今はアメリカに留学中だが、そのまま学者になれれば、最良だろう。
 一生勉強するなんてぞっとしない、と、司ならば思う。知識のつまみ食いは好んでするが、突き詰めてはどうにも向いていない。
 例えば読書でも、弟は、読んでいるものを見れば、大体どういう流れで読んでいるのかが掴める。首を傾げるものが混じっているように思えても、理由を訊けば、この中に参考書で取り上げられてたんだ、といった返事がある。
 司は、目に付いた興味を持ったものなら片端から。ただし、読むだけだ。贋作を扱った研究書を読んでいたかと思えば、笑いに重点を置いたライトノベルを読んでいたりする。
 それでも多分、根っ子のところでは同じで、仲もいいのだと――思う。
「司?」
「――ん? あ、ああ、出たのか」
 気付けば、古書店に顔を出していた。諒は声の通りに、怪訝そうなかおをしているのだろう。
「出たのか、って。成長したなあ、もやしっ子が」
「何それ」
「だってお前、はじめのときなんて、俺が担がなきゃ上がりきれなかったくせに」
 差し出された手を断って、ほとんど腕の力だけで体を持ち上げ、地上に引き上げる。後からあの二人も上がってくるのだろうが、とりあえず、蓋を載せておく。
「そりゃあ、成長もするよ。出動件数増えてるし。ここの昇り降りだって、月一としても四年だよ? 成長しなきゃ嘘でしょ」
 苦笑に逃げる。
 諒は何も言わず、ただ、手を置くように司の頭を撫でた。肘置きかい、と払いのける。
「ところで、ゲンさんに会いに行くけど、諒どうする?」
「はあ? こんな時間に?」
「だって、昼間行っても会えるとは限らないし。夜の方が率高いでしょ。遊ばれるのが厭なら、帰っていいけど?」
 ゲンさんこと、源弦一郎。
 橋の袂の掘っ立て小屋に住み込む彼は、司の前任者でもある。同時に諒の元相棒でもあるのだが、曰く、相性が悪い、のだそうだ。何度か二人の会話を聞いている司からすれば、同属嫌悪のきらいがある。
「あれのところに、お前一人で行かせるわけにはいかないだろ。襲われたらどうするつもりだ」
「あー、ないない。諒に襲われる方がありそう」
「…だから俺はお前の仲でどんな位置付けだ」
「エロ狐?」
「うわー、さらりと言いやがったー」
「ほら行って。見えないんだから」
 落ち込むふりをする諒をつつき、埃っぽい書架を抜け、店外に出る。真っ暗闇にいただけに、満月ではないとはいえ、月明かりがいやに明るく感じられる。
 月光を浴びると、なんとなく司は、夜の生き物になった気分になる。闇に紛れ、日の光を浴びると縮こまって逃げ出すような。まるでそれは、海の底の深海魚のように。闇の底に沈む自分を、実感する。
 そしてそれは、狩人には案外相応しい。
「諒?」
「ん?」
「こたえたくなかったらいいけど、どうして補佐をやろうと思った? かなり、長いって聞いてるけど」
「あー、それ」
 月明かりを遮る建物内を抜ければ先導はあまり必要ではないのだが、司の手は、未だに諒の服の裾を掴んでいる。
 諒が前を行くせいで表情は判らないが、声の調子で、苦笑したのは判った。
「まーなー、長いぜ? 大体の奴は、一人受け持ったら終わるからな。俺は、まー、侍とかのさばってた頃から、休み休みやってますから?」
「長いな」
「だろ」
「つかあんたら寿命いくらだ。不死とか言わないよな?」
「それを言うかお前が」
 ああそうだったざくざく殺してるよ、と、司がぼやく。物騒極まりない台詞だというのに、お互いに冗談でも言い交わしているかのようで、悲壮感が果てしなく薄く、その分空しい。
「ああ、それだけ前からならさ、諒、何かわかる?」
「何が」
「昔は、年に一回あるかないかとか、そのくらいの頻度だったって聞いたけど? 今じゃあ、月に四、五件あるのも珍しくないじゃない」
 水鏡に映し出される、対処すべき対象たち。司が狩人になったこの間だけを振り返っても、増えているような気がする。
「それは、時代の流れも大きいだろうよ」
 妖の存在をどう捉えるか、それにどう対処するか。それは、その時代の常識や武器で変わってくる。
 妖怪が出た、ではあそこには近寄らないようにしよう、あるいは退治しようと出てきても蹴散らせるのなら、存在が知れ渡ってもあまり問題にはならない。一種の縄張り争いだが、それが通用するのなら、それでいい。
 司の言う年に一度あるかないかだった頃は、だから、人に存在が知られることを防ぐためでなく、仲間内でも危険と見做された者への対処が主だった。
 どこか忌々しげにそう説明する諒に、司は首を傾げた。懐かしむならわかるが、厭う理由がわからない。
「何に腹を立ててる?」
「お前は平気なのか? 狩人ってのは、身内殺しが厭で人に責任を押し付けただけだろ」
 振り向いた瞳は、わずかな月明かりを弾き、光っていた。こういうとき、なるほど獣の眼だと、司は妙な納得をする。何しろ普段の諒は、司よりもよほど人間らしい。
 そう思ってつい持ち上がってしまった口の端を、諒はどう捉えたものか。
「押し付けられた側も、ただじゃないさ。お金をもらったり生活を保障してもらったり、中には、ただ生き物を殺めたい、なんてのもあった。自分の大事な人を護るためだったり、集落の指導者としての威厳を示すためだったり。ただの利害の一致なんだから、目くじらを立てることはないんじゃないかな」
「…どうしてそう、言い切れる?」
「え。あれ、諒は知らなかった? ――つか、もしかして、みんな知らない?」
「何だよ?」
「えっと、これ。火月」
 無造作にふった司の右手に、一振りの日本刀が握られる。鞘のないそれは、無機物にもかからず鼓動をしているかのようで、諒は思わず、一歩引いた。その拍子に、裾をつかんでいた司の左手が離れる。
 司はお構いなしに、ゆるく弧を描く峰を、指でなぞった。
「使ってると時々、前の持ち主の感情らしいのがわかるんだけど。ほら、継承式のとき、扱い方とか頭に入るでしょ。あれみたいに」
「いや、あれみたいとか言われても」
「あ、そうか。うーん…プログラムインストールするみたいな? それか、どこかに古い日記帳があって、ぱらっとその一頁が読めるみたいな」
「…聞いたことないぜ、そんなの」
「えー? じゃあ、秘密だったのかな。うっわ、言っちゃったよ」
「秘密って言うより…司、お前が特殊なんじゃないのか?」
 何かを推し量るように見つめられ、司は、冗談気味に両手を上げて見せた。もっとも、刀を持ったままなのだからあまり意味がない。
 しばらくの間、二人はそうやって見合っていた。
 だが不意に諒が目を逸らし、司の手が下りる。そうして、司はまじまじと、闇と月明かりを反射する日本刀を見つめた。
「はい、仮説」
 諒から言葉の反応はなかったが、勝手に続ける。
「火月、つか、御守の記憶を、同調して読み取ったってのはどう?」
「…どう、って言われてもな…」
 妖側も狩人側も、「御守」と呼ぶ変幻自在の武器を、有効活用はしていても由来も原理も知りはしない。伝説めいた起源はいくつもあるのだが、ありすぎて手に負えない始末だ。
 雑談ついでに司が聞いただけでも、太古の妖の成れの果てだとか、気の凝り固まったものだとか、元はありふれた武器だったものが妖の血を浴びすぎて変化しただとか、神々が練成した特殊なものだとか、実はロンギヌスの槍も三種の神器も御守だ、などなど。また、その一つ一つに長い物語が尾ひれもつけてくっついているのだから、一層手に負えない。
 はじめの頃こそ興味本位で調べていた司だが、探求は疾うに放棄した。今となっては、千変万化な物語を楽しむだけだ。
 右手をひと振りし、刀をしまった司は、一人で先に立って歩き始めた。
 月明かりもあれば、歯こぼれしすぎた櫛並みとは言え、水銀灯もある。例え、人工の灯りが逆に闇を際立たせてしまっているとしても、灯りは灯りだ。気をつければ、一人でも転ぶことはない。
 だが、遅れてきた足音は、すぐに司に並んだ。
「だから、諒は補佐になったの?」
「だから、の中身を言え、中身を。なんだってお前はそう、理解しにくく喋るんだ」
「あー、ごめん、わざとじゃないんだけど。こう、自分の中では繋がってるもんだから」
「俺には繋がってないぞ」
「人任せにするのが厭だから、自分も片棒担ごうって思った?」
 言いながら、田圃のあぜに落ちかけて諒に助けられる。危うく、レンゲを踏み潰すところだった。
「そう見えるか?」
「見えなくもないかも知れない」
「どこまで曖昧だよ」
 お互いに笑って、歩き出す。落ちかけたところを咄嗟に掴まれた腕はそのままで、司は安心して、空を見上げた。星空が綺麗だ。
 危ないと注意され、ゆっくりと視線を下ろすと、真っ暗に見える山と、山裾に広がってぽつりぽつりと立つ家々と、今はレンゲ畑と化している田圃が見える。どれも、水銀灯付近はともかく、闇にうずもれている。
 駅近辺であればもう少しにぎわっているが、それでも、この地域は田舎と言えるだろう。司の周囲でも、すぐにでもこの町を出たいと言う者は多い。
 だが司は、残るつもりだ。狩人は、その地域を離れれば、何の力も持たない。旅行程度ならさほど支障はないだろうが、引越しとなれば、後任に譲るほかなかった。司には、そのつもりはない。
 つもりがないというよりも、狩人は恨まれる役目でもあるだけに、下手に非力になると、闇に葬られかねなかった。
 幸い大学は、電車で一時間半ほどかければ通えるところにひとつだけだがある。
 高校を出て就職してもいいのだが、おそらくはそれ以上の金銭を狩人の仕事で得ているのだから、急いで社会に出ることもない。時間を稼げるのなら、長い方がいい。
「あーっ、憂鬱だな、大学受験」
「何だ唐突に」
 諒の呆れたような声に、肩をすくめる。
「先のこと考えてたらさ。高校はどうにか受かったけど、大学はどうかなって。あそこ、何か微妙に人気あるんだよなあ」
「細工してやろうか?」
「遠慮しとく」
 人に紛れて生きる者らのコネや、特異能力などを駆使しての裏工作は便利で、数少ない司書教諭にまで収まってしまった諒という実例を目の当たりにしている分、心は揺らぐ。勉強して何か得たいものがあるわけでもないのだから、甘えてしまっても問題ないと囁く声もある。
 だが、それでは納得がいかない。なんとなく、据わりが悪い。
「一応、精一杯は生きてみるつもりでいるんだよ、これでも。人生なんて死ぬまでの暇つぶしだけど、真剣にやらない暇つぶしなら、やらなくてもいいってことになりかねないし。――でも、無理だったらお願い」
「聞いた声がすると思ったら。やあ司、相変わらずかわいいね」
 目的地に到着していたらしい。月を背に、ねずみ男に似た影が浮かび上がる。声を聞いて登ってきたものか、土手にいる。
「こんばんは。褒めてくれて嬉しいけど、ゲンさん、女の人には皆に言ってそうだから価値ないなあ」
「いやいや、僕は嘘はつかないよ」
 にこにこと笑う源は、体はがりがりに痩せているが、頬がこけているといったことはない。ただの、痩せ体質らしい。もっとも今の食生活は、豊かとは言えないだろう。
 司は、ポケットから饅頭を取り出し、源に手渡した。
「お土産」
「ありがとう。司はやさしいね」
 「は」が強調されている。諒は、源の姿を見つけてからというもの、むっつりと明後日の方を見ている。
 軽口しか言わないところや嫌がらせが好きなところが、よく似ていると司は思うのだが、少なくとも諒からは、同意が得られたことはない。
 不法占拠の掘っ立て小屋に、源は二人を招き入れた。
 源自身もだが、意外なほどに不清潔感はない。こぢんまりと整理整頓された小屋の中は、生活雑貨よりも本であふれていた。どれもぼろぼろなのは、古書店の捨て値コーナーやゴミ捨て場からの収集品だからということもあるだろう。
「それで、何か用かな? 送り狼が見つかった?」
 電池で明かりのつくらんたんのスイッチを入れ、それを真ん中に置き、三人は車座に座った。源一人がどうにか寝れるだけの広さしかないため、かなり狭苦しい。諒の頭には、棚から突き出た図鑑が当たっている。
「ニホンオオカミは全滅したらしいですよ。ヤマイヌだって、もう少ない」
「でもねえ。庇護者がいないと厳しいんだよ、本当」
「庇護者なしで生き延びてきたんだから、この先も大丈夫じゃない?」
「時々怖い事言うねー司は」
 笑いながら、眼が笑っていない。
 しかし実際、狩人の任を降りながらその地に留まり、無事なのは珍しい。もっとも、二年ほど前までは庇護者がいた。
 送り狼、と現在で言うと男の性のような意味合いになってしまうが、元々は、呼び名の通りに送る狼だった。正確には、狼の他に山犬も含まれる。
 日の暮れた山道で、気付くと狼が後方にいる。家にたどり着いて、礼に飯でもやれば大人しく帰る。だがこれは、転べばたちまちに食い殺されるという。つまり、隙を狙って後をつけているのだ。またあるいは、獣や妖の多い山で、死後に遺体をくれてやると約束すれば、守ってくれる。これも送り狼だ。
 源が言うのは後者で、以前は一匹、源についていた。その狼が妖を牽制し、守ってくれていたのだが、病でころりといってしまった。
 以来源に護りはなく、いくら狩人の力を持つ司が度々訪ねるからといって、生き延びているのは稀有な例だった。
「ゲンさん、知り合いがいるんでしょ? 頼めばいいじゃない」
「うーん。あの子にはまだ、やることがあるからね」
「…仇、まだ見つかってないんでしたっけ」
 母犬を殺された山犬。それが、源が最後に関わった件だと聞いている。
 司は、少しばかり重くなった空気を払い退けるように、挙手した。
「話戻します。明後日から学校行事で、夜久に二泊三日で出かけるんで、その間、何かあったら諒によろしく」
「諒は行かないの?」
「うん、居残り。代わりに、颯が行く」
 思いっきり厭そうなかおをした諒を無視して、二人は会話を進める。
「ああ、颯君。諒の弟だったかな? 兄よりよっぽど冷静そうな」
「そうそう。愚兄賢弟ってこういうことかって思うね」
「確かに」
「颯が子どもの格好してるのって、諒が俺より年上に化けるなって言ったからとか」
「うーわー、それは最低だね」
「でしょ。炎ひとつろくに消せない実力しかないのに」
「待て。なんで俺の悪口大会になってんだよお前ら」
 にっこり、と嫌がらせのように笑う二人に、しまった罠だった、と、諒が身を引きかけ、本棚に頭をぶつける。その拍子に本が落ちてきて、埃が舞った。
 更に何か来るか、と身構えた諒の予想に反し、あっさりとした司の声が上がった。
「ま、冗談は置いて。そろそろ帰るね、明日テストだし」
 そう言って、身軽に立ち上がる。源は、やや呆気に取られたようにそれを見上げ、ああ、と、ぽつりと洩らした。
 遠くにあるものを見るように、司を見つめる。表情のこそげ落ちたかおをしていた。
「学生してたんだったね、司は」
「成績は良くないけど」
「よくやるよ。狩人なんてやってて、よく、まともに振舞える」
「見本がいらっしゃいましたから」
 源の感情のない眼を見つめながらの言葉は、皮肉ではない。しかし源は、どちらでも構わないようだった。
 虚ろな眼を、自分の目を閉じることで一旦、視界から追い出す。
 糸の切れた操り人形のようで、諒が源を避けるのはこのためでもある。体が無事でも、心までがそうとは限らないのだ。
「お邪魔しました。また来るよ」
 丁寧に頭を下げ、司と諒は、小屋を後にした。  


 最後の試験終了を告げる鐘が鳴り響き、うめき声とも歓声ともつかない声が、方々で上がる。
 鉛筆を置きなさい、という定番の声がかかり、それぞれの列の最後尾の生徒が答案用紙を回収していく。
「終わったねー」
「…ねー」
 解けない問題がありながら時間が余るのは、精神的に疲れる。ぐったりとした司は、昨日知り合ったばかりのルナの笑顔を、力なく机にへばりついたまま見上げた。
 今日の髪形は古風に編み込みで、髪形をいじるのが面倒でショートカットにしている司からすれば、力一杯の拍手を捧げてもいいと思える作品だ。朝にそんなようなことを言うと、大袈裟だなあ、と、また笑われた。
「お疲れさま。あと一時間だよ、頑張って」
「うー、ホームルームもういいから帰りたいー」
 本日最後の授業は、主に明日からの合宿の説明に費やされる予定のホームルーム。早速こき使われるらしく、委員長と副委員長とに選ばれてしまったクラスメイトは、職員室へと出て行った。
 司の前の席の人物が委員長で、だからルナは、遠慮なくその椅子を借りた。
「ねえ司、本好きだよね?」
 昨日、初日から図書室に足を運んでいるのだから、そのくらいは当然の推測だろう。だがそれがどう繋がるのか予想がつかず、司は、頷きながらも首を傾げた。
「読書クラブってあるの、知ってた?」
「そうなの? 部活動説明会、合宿明けじゃなかった?」
「入学事前説明会で、部活の一覧表もらったでしょう? とにかく、読書クラブがあるんだけどね、週明けに入部試験するらしいんだ」
「へえ、大層な。読書クラブって、ただ本読むだけじゃないの?」
 司には、せいぜいが読んだ本の感想を言い合うくらいしか活動内容の想像がつかないが、そんな部に試験があるとは驚きだ。そんなことをすれば、部員が少なくなって困るのではないのか。それとも、偏屈者揃いなのか。
 そう言うと、半ば呆れ、半ば楽しむような反応が返ってきた。
「ヒントを挙げると、図書委員の競争率が高くなってるってことかな」
「はい?」
 基本的に、図書委員になりたいという生徒は、クラスに一人や二人はいる。本を読むのが好きで、それなら図書室に入り浸ろう、好きな本に関わることをしよう、と思う面々だ。しかし、せいぜいが数人で、競争率が高いと言うほどのものではないはずだ。
 だがそこで答えがわかり、司は溜息を落とした。
「九重効果?」
「あたり。もっとも、顧問ってわけじゃないけどね。でも、活動場所が図書館だし、副顧問みたいな感じらしいよ」
 かわいい笑顔で肯定され、がくりと肩を落とす司。
「どーこがいいかな、あれの」
「司、あの先生のこと、何か知ってるの?」
「知ってるっていうか」
 相棒です、とは口が裂けても言えない。
「小中と縁があったし、遠縁だけど親戚だし」
「あっ、司、三中だよね。用務員さんしてたんだよね、あそこで。そっか。え、でも、親戚?」
「うん。何だったかな、はとこより遠いくらいの関係だったと思うけど。つか、昨日の帰りに見かけただけの人の情報を既に掴んでるのにびっくりなんだけど。情報屋とか目指してる?」
「このくらい、女の子のたしなみだよー」
「いやだ、そんな恐ろしいたしなみ」
 司の呟きに、ルナが楽しげに笑う。少なくとも、今は本当のところを話してくれそうにない。まあ、優秀な趣味というのもありだ、と司は考えることを放棄した。
 ただ、要注意、と心の中に付箋を貼る。下手を打って、狩人の仕事を気取られれば厄介だ。
 諒との縁戚関係(ということにしている)程度なら、同じ小・中学校の生徒なら、知っている者もいる。元々、ある程度は故意に流した情報だ。天圏を後見人としているのと同じ偽装だ。
 そんな内情を知っているはずはないルナは、にこにこと笑う。
「でね、その試験内容、興味ない?」
「…ある」
「だよね! 読書クラブで試験って何、って思うよね! 作者と題名を結ぶとか、感想文とか、そんなところ?」
 いかに本を知っているかが鍵になるのか、それとも語れればいいのか、一体何を基準に採点するのか、どんな問題でそれを計ろうとするのかは、どうでもいいことだが少し興味はわく。
 でも大半は、そんな興味すら持たないだろうと苦笑しながら、司は、楽しげなルナを見た。
「えーっと。一緒に受けてみない、ってお誘い?」
「うん。とりあえず私は受けてみるつもりだけど、興味があるならどうかなと思って」
 勧誘というよりは、情報を教えてくれたらしい。その距離感に、司は好感を抱いた。
 そもそも司はこの十二年と数ヶ月を生きてきて集団行動に向いたためしがないのだが、女子特有の「グループ化」は、天敵とさえ言ってよかった。
 小さな集団に分かれ、その他のグループと敵対はしなくとも、一線を引く。その意味がわからない。その時々に向いた付き合いはあるはずで、適宜対する相手を変えるのが、裏切りと呼ばれるのは何故だ。べったりと、何もかもを共有しようとするかのような関係にもうんざりとする。
 ルナがそのあたりをどう感じているのか、一度訊いてみたいと思った。珍しく友達になりたいと思っているなと、司は、人事のように自分の感情を推し量る。
「来週末だった? うん、何もなかったら受けてみたい。放課後?」
「らしいよ。図書室だと迷惑になるからって、隣の視聴覚室借りるみたい。つまり、それだけ人が多いってことだよね」
 視聴覚教室は、一学年揃っての集会にも使われる、広い教室だ。三十人前後なら普通の空き教室で事足りたはずだから、ルナの言うとおりだろう。
 そんなことを話しているうちに始業の鐘が鳴り、また宮凪の話を聞き損ねたと心中でぼやく。
 昨日欠席だった、元不登校だったという宮凪花林は、佐々木教諭の言った通りに、今日は登校してきている。合宿も参加するらしい。だから当人に直接話しかければいいのだが、先程の休み時間までは試験に切羽詰ってそれどころでなく、今に至っている。
 途中、声をかけたものもいるのだが、大半につれない対応をとり、同じ中学出身か、揶揄するような声は全てばっさりと無視していた。そのため、まだ一日も終わっていない現時点で既に、近寄り難い空気をかもし出している。
 用事もないのに声をかけられない自分の性分を知る司は、おかげで、今のところ全く縁がない。五十音順の席の配置のため、姿を見るのにもわざわざ探さなければならない始末だ。
 ところがひとつ、縁ができた。
「悪いけど、勝手に係割り振ってるからね。確認して、向こうに行ったら仕事してね」
 決められた部屋割りに、それに基づいた係。食事係だのシーツ係だの勉強係だのとついたそれらの中で、司は、宮凪とともに風呂係になっていた。
 仕事内容は、石鹸やシャンプーなどの不足がないようにすることと、決められた時間通りに入浴させること。そんな仕事に二人もいらないだろうと思うが、どの係も似たり寄ったりだから、仕事をさせること自体はさほど重要でないのだろう。一応、名ばかりとはいえ親睦合宿だ。
「さて」
 クラスの女子と明日のための買出しに出かけるというルナに手を振り、放課後の教室で、司は呟いた。
 昨夜、天圏は三件に優先順位はないと言ったが、引継ぎの件は明日以降でないと手が出せない。ただ、颯か天圏に詳細を聞きに行くことはできるのだが、病院の桜を見に行くのと、人に紛れ暮らしている椚太郎に話を聞きに行くのと、どれをすればいいのか。
 諒に相談したいところだが、ルナの話から察するに、今頃、見物人がひしめいていそうだ。しばらく経てば落ち着くのだろうが、間が悪い。
「あ…沖田さん?」
「はい?」
 急に名を呼ばれ、振り向くと、か細い声のよく似合う、生地の厚い制服を着ていても華奢と判る女子生徒が立っていた。胸の位置に校章とともに留められる、学年章のバッジは二つ上、つまり三年生で、先輩だ。
 どちらかと言えば冴えない容貌で、一切手を加えていない制服は、野暮ったく見える。顔を隠すような長い前髪が目にかかり、呼びかけながら、目を逸らしているような感じがするが確証はない。
 やがて彼女は、思い切ったように顔を上げた。背は、少しばかり司の方が高い。
「沖田さんって、『夢戦』の」
「待ったッ!」
 上級生、ということもまだ数人のクラスメイトが残っていたことも頭から吹っ飛び、司は、彼女の口を塞いだ。そのまま、口を手で塞いだまま空いた片手で腕を抱え、逃走する。目指すは、屋上の出入り口手前の踊り場だ。
 鍵がかかっていればこんなところには誰もいないだろうと、一階分の階段を駆け上った。
 変な汗をかいている。
「何、の、用…ですか」
 ようやく手を離して向かい合うと、彼女は、困ったような顔をした。困っているのは司だ。
「その…ごめんなさい、やっぱり内緒だった…?」
「何が、ですか」
「その…沖田さんが、『夢戦』の作者の源彼方さんだっていうこと…」
 ああやっぱりと、司は、喉の奥で唸った。彼女は、申し訳なさそうに顔を伏せている。
 『夢戦』は司が中学二年の夏に出版された小説で、自費出版を主としている出版社で賞をとって日の目を見たものだ。幕末に材を取ったと窺える、どちらかと言えばファンタジー寄りのライトノベル。地味に売れて、驚いたことにこの間、増版がかかったとの連絡ももらった。
 冗談だろうと、その電話口で言った。勿論、否定されたのだが。
「どうして、そんなことを思ったんです?」
「だって…受賞のときに写真が一枚掲載されたきりで、出身地も何も…。ごめんなさい…」
 彼女は、あれを見たのか。
 プロフィールの一切を非公開とし、写真も断りたかったのだが押し切られた。伸ばしていた髪は、その直後にばっさりと切り落とした。そもそもがマイナーな出版社だし、本自体には著者近影もない。本を出したことは誰一人気付かれることなく、諒や颯が時折、就職の話をしたときに作家になればいいのに、と言うことと、編集者が未だに連絡を取ってくることくらいが、変化だと思っていた。
 司は、醒めた思いで彼女を見下ろした。
「何をどう判断されたのかわかりませんが、関わりたくありません。すみません、失礼します」
 反応を待たずに、階段を下りる。数段降りたところで彼女が泣いていると気付いたが、足を止めるつもりはなかった。
 厄介な人がいた。でも三年生なら、そう接点はないはずだ。言いふらされたら、そのときはそのときだ。
 本になった文章を書き始めたのは、丁度、狩人になったあたりからだった。直後はそんな気力もなかったが、全てにある程度の目処が立ち、弟が留学という形で家を離れると、何かよくわからない感情が湧き出て困った。そのはけ口に、気付けば物語りめいたものを書き散らしていた。
 元々本を読むのは好きで、多くを読みこなしていれば、ある程度の文章くらい書けるようにもなる。感情を、直接にではなく婉曲に折りこむことで、なんとか安定した。
 そんな、心理治療用の箱庭めいたものを出版社に送りつけたのは、気の迷いとしか言いようがない。読書好きの例に漏れず、司も、作家には憧れめいたものがある。そこまでの距離はどのくらいだろうと、思ったのだったかもしれない。
 受賞が決まり、本になるのは嬉しかった。だが、出来上がったものを読んで、当時の自分がさらけ出されていることに気付き、恐ろしくなった。読者は、何も気付かないかもしれない。だが、これほどに内面をさらしている自分の文章に嫌気が差し、恥ずかしくなった。
 まだ本を読むことは好きだし、物語めいたものも書き散らしている。しかしそれを、どうにかしようと思うことはなくなった。
「司」
 気付かないうちに自転車を押して学校前の坂を下っていた司は、交差点で呼び止められ、はっと我に返る。たまたま車通りのない信号の向こうで、見知った顔が手を上げていた。
 ぎこちない笑みを浮かべ、信号が変わるのを待って、渡った。
「太郎さん。仕事?」
 黒い細身のスーツに白いシャツという、サラリーマンの見本のような格好をした長身の青年は、見栄えのする顔にいつも通りに無愛想な表情をのせ、首を振った。
「非番だ。水鏡のに連絡をもらったから、お前を待っていた」
「あ、そっか。ごめん、待たせた?」
「いや。それより、どうした。お化けでも見たような顔をしているが」
「まあ、いろいろあって。それよりせっかくだから、喫茶店でも入ろうか。パフェが食べたいな」
「また奢らせるつもりか」
「いいじゃない、独身貴族の高給取り」
「阿呆、刑事は薄給だ」
 言いながらも、既に歩き始めている。目的地があるのかとついていくと、十分ほど歩いたところに、「気球屋」とメルヘンに書かれた看板が上がっていた。入ると扉の上につけられたベルが鳴り、所狭しと吊り下げられた、小さな気球の数々。
 メニューを広げると、コーヒーや紅茶、ミックスジュースにチョコレートパフェといった無難なメニューに続いて当然のように、「気球乗りの冒険」「気球乗りの休日」などなどの謎のメニューが並んでいる。一応下に小さくカッコつきで、(本日のケーキとお好きなドリンクにクリームかアイストッピング)(ホットケーキの果物ソース添えとお好きなドリンク)などの説明書きがある。
 悩んだ末に司は、「北極の気球乗り」という、プリンパフェとアイスコーヒーにアイストッピングの注文をした。ちなみに太郎は、「気球乗りの決戦」という、クラブサンドとホットコーヒーを注文した。
「そのプリンパフェ、アイス山盛りだぞ」
「だから北極か! え、て、よく来るのここ?」
「ネーミングセンスはともかく、量が多いからな。案外、愛好家が多い」
「さよですか…」
 司は未だに、太郎の性格が掴みきれない。あまり人間が好きではないのに、紛れて暮らしているというのも不思議だ。いくら生きにくくはなっていても、まだ、山奥で暮らせないこともないはずだというのに。
「被害者は、室山康昭。二十九歳。家の酒屋で働いていた。殺害時刻は、昨日の十八時ごろだ」
 そんなことを話していいのかと店内を軽く見回すが、ぽつりぽつりと埋まった席に座った人々は、気にする様子もない。そこまで声が届いていないのだろう。太郎は、よく通る声をしている割に、潜めるのも上手い。
「今日あたり、ニュースでもやるだろう。何しろ、全身が細切れだ。そのほとんどが生きているうちにやられたらしいから、残虐だと評判になっている。死因は、大量出血と痛みによるショックだそうだ。発見されたのは、南方の町立公民館。気の早い話だが、秋祭りの相談で寄り合った役人たちが発見した。通報時刻は十七時四十二分。八時集まりだったらしい」
 話すのをやめたかと思えば、両手で持つお盆一杯に、注文した品が運ばれてきた。
 パフェを見た瞬間に司は、ホットコーヒーに生クリームのウィンナーコーヒーにすべきだったかと、軽く後悔する。通常のパフェの一・五倍はありそうな容器には、お約束のコーンフレークと生クリーム、缶詰らしい果物各種に、大量のアイスが投下されている。一番上にはプリンが鎮座し、こちらは生らしい各種果物と生クリームで飾り立てられている。
 ちなみに、どんな区別なのかわからないが、「南極の気球乗り」はケーキパフェ。こちらも、大量のアイスが主役なのだろうか。
「いただきます」
 パフェ用の長いスプーンを持って手を合わせる司に対し、太郎は、既にクラブサンドに手をつけている。こちらも豪快な量で、コンビニの市販品なら、二袋分ぐらいになりそうだ。
 黙々とそれらを平らげてしまった太郎は、ようやく三分の一くらいを攻略した司を前に、ゆっくりとコーヒーをすする。
「悪い、昼飯を食べ損ねてたんだ。遺体の切り口なんだが、獣が齧ったんじゃないかといわれている」
「獣?」
「ああ。それらしい唾液もついていた。イヌ科だろうということだ。だがそれにしては、食っていないのが妙だろう? ――悪い」
 かすかな振動音がして、上着の内ポケットに入れていた携帯電話を引き抜く。無表情に、二つ折り式の携帯電話を開き、通話ボタンを押す。
「はい? ――ああ、判った。すぐに戻る」
 被害者と同い年、ということになっている太郎がため口を聞くのだから、相手はそれ以下の年齢だろうか。そんなことを考えながら、司は、短い通話を終えた太郎をみつめる。
「仕事?」
「ああ。元々、捜査本部が立ったのに、無理に休みをねじ込んできたんだ」
「よく通ったね」
「まあな。ああ、お前のためじゃない。いい加減、洗濯物が溜まってたんだ。暖かくなってきたから、下手をしたら異臭を放ちそうだったしな。それを片付けていたら昼を食べ損ねた」
 先回りの回答に苦笑して、すぐに打ち消す。
「二件目?」
「おそらく。今、向かっているらしい。市立病院の看護師だ」
「――ついて行ったら駄目?」
「俺の関係者を主張するなら諦めろ。素人探偵の入る余地はない」
「推理しようなんて思ってないけど。ま、いいや。行ってらっしゃい」
「ああ。質問ならメールを送れ」
 言い置いて、急ぐ風でもなく伝票を手にレジへ向かう。そう言えば司は、太郎が慌てふためいているところを見たことがない。機会がないだけだろうか。
 それにしても、と、司はアイスをすくった。この調子では、今日中に私立病院の桜を見に行くのは無理だろう。そうなると、引継ぎの話を聞きに行くべきだろう。期せずして、選択肢は絞られた。
 どうにか完食すると、ごちそうさまと言って店を出た。
 金森堂の看板を目にする頃には、アイスで膨れていた腹も、いくらかこなれた。学校でいくらか沈んだ気持ちも、田舎道を駆け抜ける爽快さに大体は吹き飛ばせた。
 夕暮れの空を見上げ、嘆息する。
「いらっしゃい、司ちゃん」
 店の前で声をかけられ、司も笑い返す。小学生くらいにしか見えない、司よりもずっと年上のはずの少年が立っている。
「ちょっと話、いい? 夜久に行って何すればいいのか聞いてないから」
「ああ、それ。早かったら明日、でも多分明後日に、引継ぎをやるから、司ちゃんは前任者と後任者を守ってくれたらそれでいいんだよ?」
 スタンドを立てた自転車の荷台にひょいと飛び乗った颯を眺め、司は、少し憮然とした。
「と、言われても。その、早かったらとかってのも謎だし」
「まだ後継者が決まってないって言ったでしょ? 今、向こうも探してるはずで、僕もこれから行って合流するんだ。それで、明日中に見つかったら問題ないけど、見つからなくても、明後日には解任だけはするんだ。本当に、もう体力が持たないらしくてね。本人がそのまま死んでも構わないって言ってるんだからそうすればいいのに、向こうの補佐が、それは駄目だって言ってて」
 さらりとそんなことを口にするのは、別段、颯が冷たいというわけではない。むしろ、夜久の補佐の反応が珍しい。
「えーと…時間帯、とかは? 一緒?」
「うん、司ちゃんのときと同じ。夜中だね。長引いたら、明け方まで」
「そーか…うー、宿を抜け出さなくちゃいけないのか」
 寝不足になるのは慣れている。問題は、いかにばれずに抜け出すかということだろう。学校旅行の夜更かしは定番だ。
 不意に、夕焼けに染まる颯を見て、司が声を上げた。
「そう言えば。諒に気をつけろって、どうして?」
 逆光で顔がよく見えないが、動いた口元で、颯が笑ったのが判った。
「兄様、探してるんだ。昔、親しくなった人がいたらしくってね、その人も狩人だったんだけど。任の途中で命を落としてしまったらしいんだけど、力が足りなかった自分のせいだって思ってる。その人を、探してるんだ」
「…探すって言ったって、死んだんでしょ?」
「そう。でもきっと、生まれ変わってくるはずだって。どうしてそんなことを考えたのかわからないんだけど、本気で思ってるらしいよ。それで、再会できたら今度は絶対に、何があっても守る、って」
 はあ、としか言えない。信じる信じないは勝手で、あえて感想を言うなら気の毒とでもなるが、それが司に関わってくる理由がわからない。
 困惑顔の司を見て、颯は無邪気に笑った。
「司ちゃん、ちょっと似てるみたいだよ」
「はい?」
「兄様は言わなかったけど、他の知ってる妖たちが言ってた。だから、兄様もそう思ってるんじゃないかな」
「えーと…? でもだからって、気をつけて、になる意味がわからないんだけど?」
「兄様は、あれで執着が強いからね。もし司ちゃんが生まれ変わりだと確信したら、危険がないように、思い余って軟禁しちゃっても不思議じゃないなって思って。それに、そんな目的で補佐をやっているからか結構手抜きもあるんだよ。源さんがやめることになった一件って、司ちゃん、知ってた?」
 颯の声はどこまでも無邪気な子どものものに聞こえて、それが余計に不安を煽った。司は、平静を装うのに苦労しながら、声を押し出す。
 刻一刻と変化する空は、夕焼けの茜色を押しやるように、藍色が広がっていっている。
「動物殺してる連中がいて、それを見てしまったゲンさんの恋人も巻き込まれて、でも、復讐した連れ合いと子どもの山犬はなだめて、一人殺されたけど、連れ合いの方がゲンさんの送り狼になって、片はついた…て、聞いてたけど」
「うん。あのときの死体は凄かったなあ。源さんとしては、山犬と一緒に復讐したかっただろうね。恋人、植物状態で入院したままなんだから」
 それが、源が東雲市を離れない理由。
 知ってはいたが改めて聞かされると、やりきれないものがある。お互い身内には恵まれず、源が狩人として稼いだ金銭全てが、入院費に充てられているという。本当であれば、結婚とその後の生活を支えるはずだったものだ。
「源さん、狩人の条件に、お金と一緒に恋人の身の安全も言ってたんだよ。でも、兄様は彼女を助けることよりも、山犬が次に誰を狙うかを特定する方を優先した。源さんは、兄様が間に合っていたとは思わなくて、ほとんど自分を責めていたけどね」
「――でもそれは、そっちの立場としては間違ってないんじゃない?」
「でも僕らは、約束は守るものだよ。それに僕は、司ちゃんは大好きだしね」
 だから、と颯は続ける。
「兄様を、あまり信用しないで。司ちゃん、そもそも僕らには関わっちゃいけなかったんだよ」
 笑ったのは判ったが、夕闇に紛れ、表情は見られなかった。  


「持とうか」
 松葉杖を使いながら勉強道具を持つのは難しいだろうと、単純にそう考えての言葉だったのだが、睨みつけられてしまった。美人に睨まれると、こわい。なまじ造詣が整っているだけに、鬼気迫るものがあるのだろうか。
 宿泊施設の廊下で立ち止まった二人を、何人もの同級生たちが追い抜いていく。まだ時間に余裕はあるが、これから勉強の時間だ。そのためか急ぐ者はおらず、中には宮凪の顔を見知っていたのか、単に綺麗な容貌や松葉杖に目を留めたものか、注視する者も少なくない。
 学校指定の体操服、つまりは青色のジャージ姿で、司は肩をすくめた。
「何か変なこと、言った?」
「何を聞いてるのか知らないけど、私に構わないで。迷惑よ」
「うーん、聞いたのは、元不登校ってのとめちゃくちゃ頭がいいらしいってのだけだけど? それって、取り巻きになるといいことでもついてくる?」
 疑い深げに睨み付けられ、やれやれと息を吐く。合宿の初日からこれだ。残念ながら司には、親睦合宿で宮凪と親睦を深められる自信がない。
 さてどうしたものかと思っているうちに、視線をそらされ、宮凪が一人で歩き出す。やはり、辞書や春休み中にと出された課題、筆記用具が邪魔そうだ。
 司は、溜息をひとつ落とすと、勉強道具を掻っ攫った。
「ちょっと!」
「また後で〜」
 言って、さっさと歩いて行く。慣れない松葉杖では、追いついてこられないだろう。宮凪の刺すような視線が痛いが、元々司は、人にどう思われているかをあまり気にしない性分だ。宮凪にどう思われようと、宮凪を見ていて気持ち悪さがある方が厭だ。
 勉強室に割り振られた部屋は広いが、きっちりと折り畳み式の机とパイプ椅子が並べられ、狭苦しく感じられる。
 合宿初日は、朝にバスに乗り込んで学校を出発、部屋に荷物を置いて昼食をとった後、教師からの訓戒やら学校生活の心得やらを聞かされた後、何故か校歌の練習をして、休憩を挟み、クラス単位でのホームルームのようなものを行った。ほとんど雑談のようなものだったが、そこで各委員も決めた。ルナの予想通りに図書委員の立候補者が多く、事情を呑み込んでいるらしい佐々木が苦笑していた。
 そして夕食を挟み、今に至る。これから二時間ほど、休憩を挟みながら勉強をするらしい。
「司、こっちこっち」
 先に来ていたらしい少女に手招きされ、とりあえず自分の荷物を置きに、歩み寄る。
「ルナ。宮凪さんの席ってどこか知ってる?」
「どうして?」
「荷物強奪してきたから、置いとかないと」
「無茶するねー。出席番号順だから、えーと、そこじゃない?」
 いくつか後ろの席を指され、判りやすいようにと、和柄の筆箱を目立つように置いて、ルナのひとつ空けた隣の席に座る。委員長は仕事でも頼まれているのか、まだ来ていないようだ。
 ルナはまた、笑っている。
「宮凪さん、手強いと思うよ?」
「いや別に、口説こうとかそういうのとは違って。大きい荷物持ったおばあさんがいて方向同じなら、そこまで持ちましょうかーて言うでしょ」
「やさしいね」
 嫌味ではないのだが引っかかりを感じ、司は、ルナを見た。そこにあるのは可愛らしい笑顔で、何、と逆に訊かれてしまう。首を振るしかなかった。
 ルナと話しているうちに委員長がやってきて、どうやら、宮凪も到着したようだった。教師たちがやってきて、テキストの答え合わせという、半ば自習の勉強が始まった。
 自分の解いた問題を、配られた回答に沿って採点しながら、司の考えは、夜へと移る。
 今日の引継ぎは望み薄ということだが、顔合わせをしておきたいという司の希望で、とりあえず出かけることは決まっている。颯が部屋まで迎えに来て、そのときにまだ同室者が起きているようなら幻術でもかけるということだが、上手くいくのかと考えると胃が痛むような気がしてしまう。
 そんなことを考えながらも時間は過ぎて、順次入浴を済ませると、後は寝るばかりになる。
 元々、修学旅行などでも、盛り上がるクラスメイトたちをよそに早々に寝てしまう司だが、今日明日は今を逃せば眠れないと判っているだけに、一人、おやすみと宣言して目を閉じてしまう。寝る前に見たところでは、宮凪も早寝仲間のようだった。
 ところが、こういうときに限って眠れないから始末に負えない。小声での会話を耳が拾ってしまい、気付けば聞き入っている。これじゃあ盗み聞きだ、と焦っているうちに、会話は不穏な方向へと流れていった。
「あたし、こいつキライ」
 一瞬、誰のことか判らなかったが、会話に参加していないのは宮凪と司だけで、どちらかだろうということは判る。先程から行っている、クラスメイトになった女子たちの品評の一環なのだろう。主に違う部屋になった子らに関してで、話している同室者同士は、とりあえずほめておけ、という空気になっていた。眠っていれば、除外なのだろうか。
 怒ったり腹を立てるのを通り越して、呆れた。
 ここで立ち上がったらどんな顔をするだろうと思っていたら、急に静まり返った。何かと思えば、人の動く気配がある。しばらくして、戸が開く。宮凪が出て行ったのだろうと当たりをつけ、司も、うーんと唸ってみせた。
「…えーと…トイレ…?」
 寝返りを打った流れで目を開け、上半身を起こす。そのまま、目をこすりながら立ち上がって、部屋を出る。その間ずっと、妙な沈黙は続いていた。
「うー、今何時だ…?」
 最小限の明かりだけ残された廊下を歩いて、トイレに向かう。残念ながら、廊下に時計はかかっていない。トイレにも、なかったような気がする。
 覗いても宮凪の姿はなく、自分同様に話を聞いてしまって、ショックを受けたのかと司は首を傾げる。まさか、どこかでひっそりと泣いているのだろうか。それとも、怒りをどこかにぶつけているかもしれない。
 差し当たっては時間を確認したいのだが、そのために食堂に行って見つかったら厄介だ。仕方ない、戻って寝直すか、と部屋に戻りかけた司は、入り口前に子どもの背中を見つけ、小走りで駆けつけた。
「颯。もうそんな時間?」
「司ちゃん。どうして外に? 術、かけなくていいの?」
「いやそれは見つかったら困るから、きっちりかけてください。あ、終わったら、上着取りたいから呼んで」
「わかった」
 素直に頷いて、躊躇なく部屋に入っていく。昨日の会話の内容には一切触れることはなかった。
 まだ眠っていないだろう彼女たちがどんな反応を示すのか、見てみたい気もするが悪趣味に思えて自重した。それに、いくら忘れるとはいえ、いるはずのない人間と一緒にいるところをみられるのは、避けた方がいいだろう。
 廊下でぼうっとしているところを、教師か他の生徒、あるいは先程出て行った宮凪に見られるといささかまずいことになるが、そのときはそのときと開き直り、司は、壁にもたれて目を閉じた。
 四月とは言え、山の中ということもあって夜は冷え込む。自前のジャージのズボンと長袖のTシャツを寝巻き代わりに着ているが、建物内でも少し肌寒い。ジャージの上着を着込めばいくらかましだろう。
「司ちゃん」
「…ん? あー、はい」
 部屋に入って、そろそろと荷物の中からジャージを引っ張り出す。ついでに、宮凪が戻ってきたときの誤魔化しに、枕を布団の中に入れておく。起きないと判っていても、行動を潜めてしまうのは雰囲気だろうか。
 そこで、はたと。
「あ」
「どうしたの?」
「守るって言っても、地元離れたら御守使えないじゃない。ただの一般人じゃないか」
 焦って言うと、吹き出された。子ども特有の笑い声に、誰かが聞きつけたら怪談話ができるだろうと、冷や汗をかきながら少し愉快な気分になった。
 ところが颯は、ひとしきり笑うと、けろりとして司の手を取った。
「いろいろやり方があるんだ、心配しないで。行こうか」
 にこりと笑って、片手で窓を開けたかと思うと、司の手を握ったまま、ひょいと司を横抱きにして飛び降りる。
「―――!」
 ちょっと待て、と叫ぶ間もなかった。軽やかに着地した上にどこをどうしたものか、衝撃らしいものもろくにはなかったが、司の心臓は激しく動いている。颯の手が離れて立たせようとしてくれるが、身動きが取れない。
「司ちゃん?」
「……せめてひとこと、ほしかったんですけど…?」
「あれ。ごめん」
「あれて何あれ、て。その細腕で持ち上げられたのにも吃驚だけど四階から何も言わずに飛び降りるな人を抱えて!」
「ごめんごめん。兄様なら、もっと無茶してるから慣れてると思ってた」
 そうか二人は兄弟だった、と、司は、がっくりと頭を垂れた。思い返せばはじめの頃は、いろいろと無茶をされた。これではもたないと思って講義した結果、今では、辛うじて声くらいはかけてくれる。
 そうか未改善版か…と力なく呟く。
 言いながら司は、よろよろと立ち上がった。汗をかいたせいで、風が一層冷たく感じられる。
「…どっち?」
 こっちだよ、と、弾んだ声で手を引かれる。
 同じ夜だが、馴染んだ地でないと思うと、どこかよそよそしい。その分新鮮さもあるのだが、颯はああ言ったものの火月が出せないのが感覚で判る分だけ、緊張感が勝る。
 夜道を、手を引かれて歩く。諒よりもその手の位置が低いとはいえ、やはりそれは、司にひとつの記憶を思い出させる。押さえてはいるが、妖たちがあちこちに潜み、落ちつきなくざわついているのが感じられるのまで同じだ。
 あの時は、走っていた。祖母の姿をした祖母の仇を追って、森の中を走っていた。草に体が切れても、痛みを感じる余裕もなかった。ただ必死で、恐ろしく、目の眩みそうな怒りがあった。今でも、あのときのことを思い出すと頭に血が上り、指先や足先から血が引いて冷たくなる。
 それが、司が実質的に狩人になった夜のこと。
「司ちゃん?」
「――何?」
 聞き返しながら、目の前に建物があることに気付いた。民家に見えず、周囲を見回すと、鳥居が建っている。
「神社?」
「うん。この辺りの狩人は、代々ここの神社の人なんだ。今日明日は社にいるって」
「代々? 本当は受け継いでいくものなの?」
「いろいろだよ」
 はぐらかされたような気がするが、手を引いて促され、歩き出す。戸を叩くまでもなく内側から開けられ、迎えられた。敷居と鴨居と、木戸の擦れる軽い音がした。
 中で揺らめくのは、和蝋燭に灯った炎だった。
 揺らめく明かりに、線の細い顔が浮かび上がる。和服姿で、律儀に背筋が伸びている。また、手前の闇にうずくまるように、大きな体を無理矢理縮めたような、例えば横溝正史の小説に出てきそうな男が控えていた。彼が、戸を開けたのだろう。
「お入りください」
 口を開いたのは、奥に控える青年だった。声を聞けば、青年と判る。しかし見かけは儚げで、垂らした髪が長いせいもあるのか、女性にも見える。大学生くらいに見えるが、こんな青年がキャンパスにいるのは、何か場違いな気がする。
 勧められるままに、司と颯は、隣り合って青年の対面に腰を下ろした。青年が、ゆっくりと頭を下げる。
「この度は、ご足労ありがとうございます」
「偶然事情が重なっただけなので、気にしないでください。情けは人のためならず、と言いますしね。それよりも、こんな時間に起きてらして、大丈夫なんですか?」
「がたは来ていますが、明日で最後と思えば。ご迷惑をおかけします」
「そう思うのなら、あちらにいる方を紹介していただけますか?」
 司がにこりと微笑んで告げると、青年は驚きに目を見開き、困ったように微笑した。
「よくお判りになりましたね」
「褒め言葉と頂いておきます」
 司ばかりが喋っているが、気付いたのは颯だ。司は、颯の視線が薄闇の屏風にばかり向いているから、何かあるかとかまをかけただけのことだ。
 そうと気付いてはいないだろう青年は、再度頭を下げた。
「申し訳ありません。他意はないのですが、関係のない者なので下がらせていました。そもそも、同席させるべきではありませんでした」
「どなたなんですか?」
「親類の者です。私を心配して、足を運んでくれたようです。――出ておいで」
 忍びやかな足音がして、炎に艶めく長い髪をした少女が姿をみせる。青年ほどの儚さはないが、和風の美人だ。
 司は、息を呑んだ。
 無論それは、彼女が美人だからではなく。
「なんでアンタが?!」
「あーやっぱり名前覚えてないのかー」
「知ってる人?」
「お知り合いですか?」
 四人の、それぞれの思いを込めた視線が交錯する。司は、宮凪に睨まれ、颯に見つめられ、宮凪を見つめる青年を眺め、ため息を落とした。控えている、青年の補佐だろう男だけがただ一人、静かだ。
 宮凪果林。元不登校児で頭がいいとの噂があって、今回の合宿では同室で同じ係で、勉強道具を持とうとしたら拒絶された相手でもある。トイレにいなかったのは、抜け出したからだったようだ。
 えーと、と、司は目を閉じた。
「お名前を窺うつもりも名乗るつもりもありませんでしたけど、こうなったら、隠すのも無意味のような気がしますね。まあどうでもいいんですけど。彼女とはクラスメイトです。偶然に吃驚ですよ」
 やや投げやりに言い放つ。
 互いに名乗らなかったのは、そのことで縁を作ってしまうことを避けたかったためだ。古よりも威力は重視されていないが、名を知り、呼ぶことには、それなりに拘束力がある。
 名前を知られたために人に負けざるをえなかった妖怪や妖精の話は世界各地に点在している。人の例でも、「夜這い」の元は「呼ばい」、つまりは相手の名を呼ぶことだったという説がある。呪術に関しても、対象の正確な名を押さえることが肝要とされる。
 もっともそれらは、人対人、あるいは妖対人においての拘束で、どうも妖同士にはないらしい。
 青年と宮凪が親戚であれば、司の名を知ろうと思えば簡単に判る。それはそれで厄介なことなのだろうが、司としては、数時間前に向けられた敵意よりも強烈な刺々しさの方に危機感を覚える。うっかり、人ごみで背を押されたりしそうだ。視線が物理的な力を持つなら、今ごろ司には穴が開いている。
「とりあえず、今夜はこれで失礼します。明日、また改めて」
「そうですね。ありがとうございます、お気をつけて」
「はい。…一緒に戻る?」
 遠慮がちに宮凪にかけた言葉は、無言の拒絶に阻まれる。だがそれは予想のうちで、司は溜息をつき、わざとどうでも良さそうな口調をつくった。
「ついでだし。一人でここに来たんだろうけど、多分、思ってる以上に物騒だからさ。かといって、お兄さんたちのどちらか、あるいは両方が送るのもやめておいた方がいい。率直に言って、そんな余力はないでしょう? 学校行事で事件を起こさせないためには、妥当な判断だと思うけど?」
 どこまで宮凪が知っていて信じているのかは知らないが、断られたら、後で颯に陰ながら守ってもらうように頼もうか。司が宿に戻るまで宮凪を引き止めるくらいなら、青年の補佐に耳打ちでもしていけば、聞き入れてくれるだろう。
 そんなことを考えながら宮凪を見ていると、その隣から声がかかった。
「お願いしてもよろしいですか?」
「兄さん!」
「そちらは賛成していただけるようですが、どうします?」
 にっこり、と、この笑顔は、当然嫌味だ。丁寧な言葉の上乗せ付き。宮凪の顔が、厭そうに歪むのが見て取れた。それでも美人は見栄えがいいのだから、ちょっとずるい。
「…わかったわよ」
 では、と司が立ち上がり、従って颯も腰を上げる。宮凪も、渋々といった体で足を踏み出した。
 青年と補佐とに頭を下げられ、火の灯る社を後にする。鳥居をくぐった途端に妖たちのざわめきが大きくなり、司は、明日の夜を思って溜息をついた。
 大変なのは、御守放棄の直後だ。
 御守の継承もだが、放棄も体力と気力を使う。心身ともに弱ったところを狙う妖を蹴散らすのだけが司の役目で、その後は何か考えているだろう。司の仕事ではない。だが、その「だけ」が大変なのだ。
 まあいい、考えるだけ無駄だ。そう決め込んで、司は、悪い予想たちを押しやった。
 帰り道もやはり颯に手を引いてもらい、逆の手は宮凪の腕を掴む。
「アンタ…何者なのよ」
「東雲高校一年で狩人やってるけど、それで疑問は解決する?」 
「狩人…守人のことね。でも…女じゃないの」
「えー? そりゃ間違えられることはあるけど、風呂まで一緒に入っといて疑われるとは思わなかったな」
「違っ、だって守人って男しかなれないはずでしょう!?」
「ああ、それ」
 司のあっさりとした声に、拍子抜けしたのか怒っているのか、宮凪は黙り込む。
 司も、その話は聞いたことがある。正確には、しょっちゅう耳にする。狩人の仕事が山の神の領域と被ることが多いからか、山の神が女人を嫌うという言い伝え通りに、歴代の狩人らは男ばかりだ。おそらくは司が初であり、その理由の見当もつかないではないのだが、簡単に話すようなことではない。
 そこで、近い事実を選び出して言葉に換える。
「双子の弟がいてね。もちろん二卵性だけど、見間違えられるほどにそっくりで、そのせいじゃないかともっぱらの噂」
「そんな理由?!」
 あはははと、司の小さな笑い声が応じた。
「世の中案外、くだらない法則と勘違いで成り立ってるものだよ。違う?」
 そんな言い逃れで納得させられるとは思わなかったが、宮凪が黙り込んでしまい、会話はそこで終わった。


「これ、児童虐待とか言わないの…?」
 曇り空の鈍い光の下で、通りに面した特等席にでも飾られていそうなリュック型のかばんを背負ったルナは、前方にまだまだ広がる山道に、呆然と呟いた。
「少なくとも、高校生は児童じゃないな」
 応えた司は、安さと軽さだけがとりえのナップザックを負い、涼しげな様子だ。ルナが、恨みがましい視線を寄越す。
「揚げ足取りはいいよ」
「いやいや、言葉は正確に使わないと。行政区分によると、児童は小学生。高校生なら、生徒か。生徒虐待、は、語呂が悪いなあ」
「どうでもいいけど、頂上まで行かないと昼ごはん食べられないよー?」
 司とルナよりは数歩先に立つ委員長が、特に急かすでもなく声をかける。この短い時間でも、委員長の取り柄と欠点のひとつに、おっとりとした部分が上げられると、司は気付いていた。
 委員長には自らの立候補だったのだが、その理由を尋ねてみたところ、「だって一月だけでしょう? 今なったら、次はならなくていいじゃない?」との返答だった。引き続きお願いします、ということになったらどうするのかと重ねて訊くと、「あらら」と言って終わってしまった。考えていなかったらしい。
 ちなみに、部屋割りは出席番号の奇数と偶数で分けられており、司は、ルナと同室で委員長とは別室だった。つまり、昨夜の会話に、ルナは参加していて委員長は加わっていない。
「男子なんて、もう姿見えないよ」
「あれだけ無茶苦茶にとばしたら、すぐにばてると思うけど。案外、こっちが先に着くかもよ?」
「兎と亀だね」
「もう、班行動なのに。先生に見つかったら怒られるよー?」
 そう言いながら、焦っているようにも怒っているようにも感じられないのは何故だろう。
「そのときは連帯責任で一緒に怒られるから。せっかくだし、緑でも楽しみながらゆっくり行こう」
「緑なんて、東雲にもあふれてるよー」
「本当だよ。わざわざ、ウォークラリーなんて何考えてるのよ先生たちは! 疲れるだけじゃない。いいよね、先生たちは。チェックポイントで座って雑談してればいいんだから」
 意気投合しているようなしていないような委員長とルナに、それ密告しとこうか、と返した司は、軽く睨まれてしまった。
「そんなこと言ってると、先行くからね」
「あたしも」
 歩き出した委員長に、ルナが小走りで並ぶ。前後の方がいいだろうが、道幅は比較的広いからいいかと、司は、二人を追う形で歩を進める。
 前を行く二人が話に夢中なようなので、司は改めて周囲を見回した。
 ウォークラリーの開催地に選ばれた山は、冬場にはスキー場になるらしい。合宿に使われている宿からも近いため、冬場には、スキー客で込み合う。学校は、客の少ない今の時期に安く使用させてもらっているのだろう。
 大幅に人の手の加わったこの山には、既に神はいない。普通、そういった場所には妖も少ない。だが今は、昼間だというのに、あちこちに影が見られる。司を偵察しているのか、それとも、あの青年を襲いに来てあぶれたものが、こんなところにまできているのか。
 神社からは多少距離があるから、そうだとすれば、笑うべきか同情すべきか迷うところだ。夏の甲子園を見に行くために、大阪に宿を取るようなものだろうか。それはそれでいいのかもしれない。
 空を仰ぐと綺麗な青色が広がっているが、天気予報と颯の予想によれば、どうも夜から降ってくるらしい。濡れながら妖たちとやり合うとなれば、明け方には、妙な具合にハイになっているところが想像できて、司はひっそりとげんなりした。明日の予定がほぼ帰るだけなのが、せめてもの救いか。
「わー!」
「気持ちいい!」
 一人黙々と歩いてるうちに、頂上にたどり着いていたらしい。拓けたところで、うっすらと汗をかいたルナと委員長が、きゃあきゃあと騒いでいる。少し奥まったところで、同じ班の男子が手招いている。
 昼食は飯盒炊爨の定番、カレーライスで、一応設定されている開始時間は十二時でそれまでは休憩ということになっているから、まだ正午にはなっていないようだ。それぞれ、好きなように寛いでいる。
 二人を置いて男子たちのところへと歩み寄った司は、熱い視線を向けられ、思わず身を引いた。引いた分を、いかにも運動部に所属していそうな一人が、身を乗り出して埋める。
「なあ、これの名前なんだっけ?」
「はぁ?」
「これだよこれ! 皮むき器じゃなくて、何かあっただろ。誰も覚えてないんだ」
 何事かと思えば。訊いて回ればいいじゃないかと思ったが、周辺の何人かがこちらの様子を窺っていることから察するに、既に訊いた後のようだ。
 そんなことで真剣にならなくてもなあ、阿呆だなあこいつら。愛すべき阿呆だ、と勝手に断定した司は、ジャガイモやにんじんの皮むきのために用意されているそれを、ちらりと見た。
「ピーラー」
「え?」
「スペルは知らないけど、ピール、が、皮を剥くか何かじゃなかった? で、ピーラー。だったと思うけど」
「おおおっ」
 嬉しそうに、悔しそうに、どよめく。
 こんなに無邪気なものだったかな、と、同い年のはずの少年たちを見ていると、呆れたような視線に気付いた。宮凪がこちらを見ている。そうすると、やはりこれは同年代から見ても阿呆らしいのか。改めて見てみると、女子はほとんどが呆れているか苦笑しているかだ。
 なるほど、と思って納得していると、やはり同じ班の一人と目が合った。朝に顔を合わせてはいるものの印象が薄かったが、よく見ると、吊気味の目尻できつい印象を与えそうなのに雰囲気でそれを感じさせないところが、諒や颯を連想させた。
「えと、沖田さん?」
「うん」
「料理できるんだ?」
「料理器具の名前知ってたからって、そうはならないと思うけど? しかも、確証ないし」
「えー、でも俺、何にどう使うかすら予想つかなかったよ」
「飯盒炊爨って、中学とかでもやらなかった?」
「火の番ばっかりやってたから。火の育て方は任せて」
 ピーラーの名前が判明してはしゃぐ残る三人の男子は、物珍しげに食材をつつき始めている。この調子で、到着してから落ちつきなく食材や用具を見ていたのだろうか。
 視線に気付いて、声をかけてきた男子が笑う。
「やっぱさ、普段やらないことって血が騒ぐでしょ」
「司ー、置いてかないでよ。あ、ごめん、話してた?」
「や、愛」
「なんだ、ピラか。じゃあいいや。荷物置かせて」
 どうぞどうぞと、少年は、座っていたベンチを明け渡す。ルナはそこに二人分の荷物を置き、司の方に手を差し出した。荷物、と言われ、ナップザックを下ろす。
「ピラ?」
 ルナと少年が顔を見合わせ、どうぞと、手のひらで差し出されたルナが口を開く。
「平田兵吉、で、ピラ」
「下の名前言うなって」
「逆鱗これね。しつこく言うと怒るから気をつけて。他は、まあ無害だよ」
「同じ中学?」
「腐れ縁」
 二人の声が重なって、思わず笑う。苦虫を潰したような顔で見合う二人が面白い。
 しかし、つつくのはやめておく。
「委員長は?」
「開始まで向こうにいるって」
「中里さん、料理できるかな?」
 女子二人に対して一人だというのに、気後れする様子もない。意外に思ったのが顔に出たのか、姉が三人、とルナが補足する。
「ピラ、何が言いたいのかしら?」
「あっちの三人も俺も、料理をしたことがない。愛は料理ができない」
「ちょっと、あたしは」
「独創的過ぎるフルーツカレー」
「む」
「塩味のみたらし団子」
「う」
「爆発した目玉焼き」
「うう…」
 幼馴染って厄介なんだなと、妙なところで司は感心した。司にはそこまで親しい友人はいなかったが、弟がこんな位置づけかもしれない。
 しかし、詳細を聞いてはみたいが、体験したくはなさそうだ。
「カレーなんて、材料切って煮込んだらできるじゃない。どうせ、ルー使うんだし」
「…そう思って痛い目にあったんだ…」
 ふっ、と遠くを見る平田が、悲劇を演じる役者並に影を背負っている。冗談か誇張だろうとルナを見ると、あてなく視線が泳いでいる。事実か。
「まあ…大丈夫じゃない?」
「その根拠は」
 すかさず平田に合いの手を入れられ、ここでなんとなくと答えたらどんな顔をするだろうと、誘惑に駆られたがやめておく。冗談めかしながら、眼が本気だ。
「一応、自炊してるから」
「神よ!」
「えっ、じゃああのお弁当司が作ったの?!」
 感涙せんばかりの平田は司を拝み、ルナは仰天、とばかりに目を見開く。一昨日の弁当は残り物を詰めただけだったのだから、一層、苦笑が深くなる。
 そうしているうちに定時になり、一班だけたどり着いていないということだが、飯盒炊爨は開始された。教師が二人、たどり着いていない組を探しに道を戻っていく。合流した委員長は、皮むき器を突き出されて「ピーラーがどうかしたの?」と首を傾げ、司のあやふやな知識を保証してくれた。
 飯盒とカレーとに分かれ、司は、委員長と男子二人とせっせと野菜の皮を剥いた。ピーラーは二個しかなかったため、一人はたまねぎを剥き、一人は、肉や剥けたにんじんとジャガイモを切っていく。
 鍋で肉とたまねぎ、ついでににんじんとジャガイモも飯盒組みがおこしてくれた火にかけ、軽く炒めると、水を入れて煮立てる。あとは、ルーを入れて煮込めばいいだけだ。
 一体、この工程のどこで何をやってどんなことになったのか、ルナか平田に訊いてみたい気がするが、果たして素直に話してくれるだろうか。
「福神漬け、取って来るね」
 火の番は男子が占領してしまい、カレーもかき混ぜてくれている。女子三人で使ったものを洗っていると、思い出した委員長が声を上げた。そう言えばそんなものがあると言っていたなと、司もルナもようやくそこで思い出して、送り出した。
 背中を見送ってすぐに、洗剤で手を泡だらけにしたルナが口を開く。
「宮凪さんと、何かあった?」
「は? 昨日ふられたけど、それ以外に?」
 荷物持ったことじゃなくて、と、ルナが笑う。
「違うのかな? 今朝も、ほら、今も。ずっと、司見てるよ」
 わかりやすい人だな、と、司は心の中で溜息をついた。たしかに、ちらちらとこちらを窺っているのが判る。
「参ったなあ、惚れられたとか?」
「あはは。司、かっこいいもんね。あたしなんて、あれだけ歩かされてもう足がくがく。明日、絶対筋肉痛だって思うのに、司、平気そうだし」
「まー田舎育ちですから」
「あたしだってそうなんだけど」
「だって家、山裾にあってさ。遊びに行って来るーって出て、山登ってた。季節がいいと、木の実でお菓子も調達できたし」
「わ、サバイバルだ」
 大袈裟な言葉を、笑って受け流す。
 あの山に入り浸っていなければ、今頃司は、全く違うところで、全く違う言動をしていたことだろう。司はあそこで、諒や源と出会い、狩人の任も受け継ぐことになったのだ。
 諒は今頃どうしているだろう、と、ふと思う。東雲にいれば厭でも日に一度は顔を合わせるが、小・中の修学旅行も経験しており、離れたことがないわけではない。それなのに気になってしまったのは、離れた状態での仕事は、今回が初めてだからだろうか。
 颯の補佐が不安なのではなく、ただ、いつも傍らにいたから、調子が狂う。
「帰りも歩くんだよね?」
「歩かずに帰れるなら、試してみたら?」
「ピラ、何か?」
「できたぞー」
 言いに来たなら言いに来たで素直に言いなさいよ、と、ルナが小言を飛ばす。福神漬けを取りに行っていたはずの委員長は、いつの間にか、食器を並べている。
「ピラってあだ名の由来はね、キンピラが好きでチンピラにあこがれてたからなんだよ」
「あっ、何ばらしてる!」
 仲がいいことで、と呟きながら、司は二人を置いて他の班員のところに移った。
 ひっくり返した飯盒を持ち上げると勢いよく湯気が昇り、思わず声が上がる。底のこげは、炭にまではなっておらず逆に好評で、均等に分けろよ、との声がかかる。
 ご飯もルーも六人で食べるには十分にあったはずなのだが、何故か最後には、男子二人の間でご飯の争奪戦が繰り広げられていた。結局、負けた方がルーだけをすすっている。
 それを眺めてみんなと笑いながら、仕事の後に風呂を借りられるだろうかと、ぼんやりとそんなことを考えていた。


 歪みのない金貨のような月に照らされ、地面には司の影が落ちていた。冷たい風にも柔らかな熱がこもり、春だと思い知らせる。
 ジャージ姿で日本刀を握る。
 あまり絵になるような姿ではないが、見掛けを演出するのは諒だけなので、誰も問題にしない。そもそも青年とその補佐は、社にこもって御守の放棄を行うのだから、そんなことを気にかける余裕などあるはずがない。
 御守の継承者なしでの放棄は、継承者があるよりもずっと負荷がかかる。またそれは、次の継承者にしても同じことで、前任者から直接受け継ぐ方が、格段に負担は少ない。
「代々引き継いでるっていうなら、次も一族の誰かなんでしょ? なんで、いないなんてことになるの?」
「詳しいことは聞いてないけど、まだ幼いとか複数の候補がいて絞り込めてないとか、相応しいものがいないからこの先に期待とか、そんなところじゃないかな。ここは十歳以下の狩人を出したことがないから、年齢かもね」
 襲撃にはまだしばらく間がありそうで、颯と司は鳥居の下で話をしている。
 社周辺には結界が張ってあるが、御守の力を利用したものだけに、放棄が終われば消えてしまう。襲撃はそれからになるだろう。民家からはいくらか離れているが、そちらに余波が行かないようにするのは颯にお任せだ。
 司はただ御守の器として選ばれただけで、何かの術が使えるといったことはない。狩人の中には拝み屋をやっていた者などもいるらしいが、司も、青年もそれとは異なる。ただ青年は、多少は扱える術があるらしいが。 
 ちなみに風呂は、社務所でシャワーを貸してもらえることになった。
「それにしても」
 言って司は、首にかかった紐を引っ張った。Tシャツの下から、指先ほどの大きさの紅の勾玉が引っ張り出される。中で炎が揺れるように、ほのかに輝いている。
「こんな便利なものがあるなら、もっと活用したらいいのに」
 今夜渡されたこれが、土地外でも御守を使える理由らしい。どこでも使えるなら、狩人ネットワークでも組んで、相互に助け合えそうなものだ。 
 だが颯の声は、いくらかぐったりとしている。
「無茶言わないでよ。疲れるんだよ、凄く」
「え、颯が支えてるのこれ?」
「そうだよ。周辺の封鎖と勾玉の維持とで、大変なんだから。土地と実際に使う場所とで、最低二人は媒介者がいるしね。今はまだましだけど、御守を出したら僕、術に専念するからね。なるべく離れないように動いてね」
「了解」
 妖に訊かれればまずい内容だが、鳥居の下は結界圏内だ。一応、内側の声は聞こえない。妖たちの声は届くが、あまりに多すぎて聞き分けられない。
 不意に、手を強く握られた。
「いい? もし御守が使えなくなったら、社務所に駆け込むんだよ。絶対に、どうにかしようとしないで。僕のことも、あの人たちのことも気にしちゃ駄目だよ」
 痛いほどに、見つめられているのが判る。
「わかってる。まだ死ぬわけにはいかないんだ。何か勘違いされてるかもしれないけど、そこまでお人よしじゃない」
「――兄さんを、見殺しにするの?」
 声に振り返ると、暗がりに宮凪が立っていた。ワンピースと髪がはためき、一瞬、幽鬼のように見えた。
 司は驚き、次いで、溜息を落とした。
「死にに来るなんてもの好きな」
「どういうつもり。アンタたちは、兄さんを助けるために来たんじゃないの」
「命がけでの手助けだけじゃあ不満? 命まで確実に落とせって? どこをどう考えたって敵わない相手に向かっていくのは、勇気でも美談でもなくてただの無謀なんだけど? それともあなたは、よく知りもしなくて親しくもない人のために無駄でもいいから命を落とすべきだとでも?」
「…どうして…それじゃあ何のために、守人をやってるのよ…!」
「金が全てじゃないけれど、所詮、この世は金次第。て川柳、知ってる? 正しいよ。悪いけど、正義感でも義務でもない。ただの仕事。報酬をもらうのが前提であって、そのためには生きてないと意味がない」
 黙り込む宮凪に向ける、司の視線は冷たい。もっともそれは、颯の比ではないだろう。
「死にたくなかったら、社務所入っててくれる? 今更送れないから、そこで小さくなってて」
「私だって」
「何ができる?」
 近くはない距離を一度に縮め、司は、宮凪の喉笛を捕らえた。宮凪の拍動が激しくなったのが感じられる。
「ここまで気付かれずに来られたんだから何かしら力はあるんだろうけど、御守を出してもない状態で押さえられるようだと、何もできないと思うけど? 言っとくけど、あなたの兄さんが助けに来てくれるなんて夢は見ないほうがいい」
「っ、これはっ、油断して」
「顔見知りだったから? 暢気だな。妖なんて不定形なのが多い上に、人の姿を写し取れるのも多いのに」
「そろそろ、来るよ」
「だって。死にたいなら、残ってればいい」
 言うだけ言って、司は、鳥居の下に戻った。小声で、颯に声をかけられる。
「やさしいね」
「どこが? 逆にむきになって、居残るんじゃない?」
 しんと、空気が静まり返っている。耳を澄ましても、先程のざわめきは感じられない。多くのものがひしめいている気配はたしかにあるのに、声がしない。逆にそちらの方が、恐ろしい。
 颯を見ると頷いた。
 司は、利き腕をひと振りし、日本刀を取り出した。そのまま、助走もつけずに跳び上がり、石造りの鳥居の上に着地する。
 高い位置の方が風が強く、ジャージの上着がはためくことに気付き、ジッパを上げる。
 周囲を見回すと、神社を中心にした円形に妖たちが見える。綺麗に結界の境界を囲んでいるようだ。少し思案し、司は、一旦鳥居から飛び降り、今度は社の屋根に跳び上がった。空中で地面を見てみると、宮凪が立ち尽くしているのが目に入った。正気かと、舌打ちをする。
 諒がいれば、女の子が怪我でもしたら大変、とでも言って無理矢理に社務所に放り込んだだろうが、颯にその余裕はないだろう。既に、火月も出してしまっているから、術を支えるのに手一杯のはずだ。
 司が自分で動こうかと思っていると、宮凪は何やら符を取り出している。屋根への着地とほぼ同時に、シャボン玉が弾けるような音がして結界が切れたのが判った。宮凪には、とりあえずは自力で頑張ってもらおう。
「火月、舞え」
 押し寄せる妖たちに、結界とほぼ同じ大きさで炎をぶつける。力のないものは、それだけで焼け落ちる。だが、その程度ではやられないものや後ろにいたために炎を免れるものも多い。
 大技は消耗が激しく、間を置いて二度目を放つと、接近戦に切り替えた。
 司目掛けてやってくるものも多く、しばらくは、刀を振るうだけで切り裂けた。刀を使う間、どう動くかといった部分は、御守刀の方に主導権がある。体を明け渡してそれに意識が追随するような感覚で、おそらく司が、ただの日本刀を手にしたところで同じ動きはできないだろう。
 そもそも、重さが違う。御守刀はほとんど重みを感じない。
 重さだけを取れば玩具を振り回すように、刃こぼれひとつない刀がひらめく。まるで舞うようなその動きが、不意に止まった。
「よお」
「何しに来た?」
 正面に、諒が立っている。
 司が動きを止めたのは一瞬で、対面しながら、火月の動くままに体を動かす。視線は、正面から逸らさなかった。
「何って、助けに来てやったんだろ。わざわざ」
「へえ。学校は?」
「きっちり終わってから来たに決まってるだろ。なんだよ、疑ってるのか?」
「ああ。違うとわかってても、少し迷った」
 火月を素早く、正面に向かって振り下ろす。綺麗に二つに割れた「諒」の眼は、驚愕にか見開かれていた。
 真っ二つに裂かれた小型の犬のような生き物、おそらくは狐が屋根に落ちる。
「…もしかして、親戚だったかな。つか、本物だったらどうしよう」
「お前っ、今俺でも切っただろ?!」
 いつの間にかほぼ背あわせに、諒が立っている。口を動かしながら、躊躇なく、向かってくる妖の息の根を止める。
 司はそちらに一瞥を向け、視線を前に戻した。
「何しに来た?」
「助けに来てやったってのに、何か怖い事言ってるし! 大体なんだよその格好、ジャージって! かわいくねー、しかも前閉めんな!」
「開けてたら邪魔じゃない。それより、来てくれたなら先に、下に女の子いるから」
「ああ、そっちの建物に行かせた」
 社務所を指す。言うまでもなかったらしい。
 これが偽者なら見破れないな、と苦笑して、司はひたすらに日本刀を振るっていった。背面に諒がいるため、三方にだけ集中していればいい。
 しばらくして向かって来るものが少なくなると、さて、と、司は息を吐いた。走り回る足場にしていた、社の屋根から飛び降りる。火月は出したままだ。
「生きてますか」
「…おかげさまで、どうにか」
 戸を開ける必要もなく、妖に蹴破られたものか、蝶番が外れ、戸の片方がずり落ちている。中には、儚げな青年がひっそりと座り、補佐だった男が傍らにいる。
「ありがとうございます」
 双方から深々と頭を下げられ、司は肩をすくめた。
「生き延びられて良かったですね、お互い。ここまででよろしいですか?」
「はい。後は、こちらで何とか致します。今後、数で攻められることはありませんでしょうし」
「妹さん、社務所にいますよ」
「従妹です。言い含めたつもりでしたが、無茶をしたようですね。ご迷惑をおかけします」
「お連れして?」
 諒に言うと、即座に動いた。颯は、万が一を考えて術を維持しているようだ。司の火月も出したままだから、鳥居の下で、動けずにいる。
 司は、青年を見た。
「差し支えなければ今後のためにお教え願いたいのですが、これからはどうするおつもりで?」
「真面目に大学に通って、終業次第ここを引き継ぎます。選定も私の仕事になります」
「襲われたら?」
「この地は、少々特殊なんです。素質が見出されればそれぞれに妖との契約を執り行い、守人に選ばれれば、契約した妖がそのまま補佐になります。だから彼は、私が死ぬまで縛られてる。気の毒ですが」
 青年の静かな声に、ごくわずかだが男が身動きしたのが判り、寡黙だと、司は感心した。半ば、呆れる。言いたいことは言うべきだ。
「開放を望むなら、少し手を抜けばよかっただけのことでしょう。お互い、もう少しお話をされた方がよろしいのではないですか? 若輩者が、僭越でしたでしょうか」
「…いえ」
「兄さま!」
 声が上がり、駆け寄ってきた宮凪に場所を譲る。叱責されながらも、無事を知ってか嬉しそうだ。
 司は、諒に礼を言ってから周囲を見回した。そろそろ、火月を仕舞っても大丈夫だろうか。そんなことを考えている最中に、宮凪の肩に伸びる手があった。火月で払いのける。
「…ありがとう」
「どういたしまして」
 戸惑うような宮凪の礼に返してから、司は、諒を軽く睨みつけた。
 青年らに背を向けて鳥居に歩み寄ると、当然のように諒がついてくる。
「わざと見逃しただろ」
「あ、判った?」
「わからいでか」
「だってあの子、怒ってたぜ? 同じクラスなんだから、仲良くしないと」
「何でそれを」
「本借りに来た」
 お節介に、感謝すればいいのか突っぱねればいいのか迷って、だんまりを決め込んでしまう。そうしている間に颯の元にたどり着き、とうとう、無反応で済ませてしまった。
 二人が近付くと、颯は、閉じていた目を開き、司に笑いかけた。
「もう、いいと思う?」
 こくりと、頭が動く。
 司が火月を仕舞うと、術を解く気配がした。そして、力が抜けたように、くらりと小さな体が後方へ倒れる。礼を言う間も労をいたわる余裕もない。 
 慌てて伸ばした司の手よりも早く、細いのにがっしりとした諒の腕が、華奢な背中を受け止めた。
「お疲れ」
「…なるほど。出向いた目的はこっちだったわけだ」
 弟を抱きかかえる諒の眼つきは、柔らかい。
「どうせなら、本人の意識があるときにしっかりとねぎらえばいいのに」
「寝てるから言えるんだろ。こいつは、俺にほめられたって嫌がるだけだ」
 声が寂しそうに聞こえて、司は、返す言葉を呑み込んだ。後方に残した青年たちよりもよほど、話し合いが必要に見えた。だが彼らは、それを拒否し続けてきたのだろう。
 司は、首にかけた紐を手繰った。
「これ、返しといてもらっていい?」
「帰るのか?」
「うん、眠いし。あ、その前にシャワー…悪いけど、何も入ってこないように見張っててくれる? ちょっと、危なそうだからなあ」
 ただでさえ入浴中は無防備になるが、今は火月が出せないのだから尚更だ。
 諒は一瞬、虚を疲れたように眼を見開き、にやりと笑った。
「いいのか?」
「覗くとか? 別に、減るものじゃないし。つか諒は、興味ないでしょ、ふりだけで。――ごめん、さすがにちょっと疲れてる。悪いけど、頼んだから」
 言うつもりがなかったことを口にしてしまい、早口で断って半ば逃げ出すように社務所に駆け込む。張り詰めていた緊張の糸が切れたからか、今更ながらに眠気に襲われ、動いたこと自体と激しく火月を振るったこととで肉体も悲鳴を上げている。
 数時間前に一通り案内された社務所の中を迷いなく歩き、小さな浴室で、いつものように妖の返り血を浴びた服ごと頭から水を被った。着替えも、前もってに脱衣所に用意してある。
「…あー、しまったな…」
 滝に打たれるように水を浴びながら、ぽつりと、司は呟いていた。
 だがそれだけで、眼をつぶり、ある程度血を洗い落とすと、服を脱いで湯に切り替え、浴びる。
 そうして、用意してくれていたタオルをありがたく使わせてもらい、乾いた服を着込み、代わりに、濡れきった服を洗面所で軽く洗い、絞って袋に詰める。
 引き戸を開けると、諒が立っていた。
「わ。…ありがとう。浴びる?」
「いや。戻るだろ。送る」
「弟君は?」
「向こうに寝かせてる。後で引き取りに来るさ。疲れてるなら、負ぶってってやろうか?」
「心惹かれる提案だけど、とりあえず遠慮しとく。大丈夫、宿くらいまでは何とかする」
 お互いに、いつもと変わらない態度をとる。先程の失言はなかったかのように。
「何て言うか」
「ん?」
「狸だな」
「それは天圏だろ」
「そういう意味じゃなくて」
 くだらないことを話しながら司は、今日も生き延びられたんだなと息を吐く。この先、どれだけ刀を振るっていくのか、その後に生きていると安堵の息を吐くのか。その数は、司には予想できなかった。

2007 年 10 月 25 日  のひょ。

 うー、休日までの日数を数えてしまうと遠いよ…(没)。あと二日。

 昨夜、思い立って上部に、書きかけの話を載せています。あれ、結構長い…? まだ三分の一かもっと少ないくらいなのだけどなあ。
 これの試案のうちのひとつが、「話置場」の「虚言帳から」にあったりします。

 『闇の守り手2』。
 これ、表紙に惹かれて借りたのだけど、絵と登場人物が噛み合わないのだよな〜。イラスト単品は好きなのだけど、老人や中年なんかも若々しくって…。
 ああ〜欧米産のファンタジーだなぁ、という感じ(何)。

2007 年 10 月 26 日 睡魔が忍び寄る

 これが学校で授業受けてるんだったら、あるいは人が多くて私くらい気付かれないような状況だったら。多分寝てたね!
 あー。も、ほんっと眠かった。六連勤のせいなのか夜更かしのせいなのか。…どちらにしても、年ですかね…?(肉体年齢何歳とか敢えて知りたくない)

 『空を見上げる古い歌を口ずさむ』…知らなかった、メフィスト賞受賞作だったんだ…。
 わー読みやすい文体だー、子どもの冒険って楽しいな、と読み進んで。うーん、でも「のっぺらぼう」は微妙…。何がとは言えないあたりがもどかしくって気持ち悪いですが。
 これよく、メフィスト賞で出たなあ。と、いうのはいささか偏見ですかね。←賞に対しての

 「もやしもん」と「しおんの王」のアニメを観ました。
 楽しいな、「もやしもん」! 私これ、一巻立ち読みで二巻だけ持っているのですが(笑)。…アニメ終わったら古本屋に大量に出回らないかな…(すみませんそのレベルなんです私の中で)。
 後者は、な、何か絵が…こんな絵じゃなかったよね…? しおん、ここまで電撃文庫の表紙系な顔でしたっけ…? とりあえず、駒のCGが気持ち悪い(私がCG全般に苦手なだけですが)。

 猫屋の整理をしたいです。
 考えているものでは、「猫屋の面々が確実に狂言回しの話」「猫屋面子それぞれの話」「中篇」の三階層に分けたいのだけど、でも二番目と三番目はどちらを上にするべきか…いっそ並列?
 もしくは、サイトには一番目だけ置いておくとかですかね。でもあるんだし置いておきたい気も…うーん。(まあここまで辺境だと、基本、そんなに読まれてない気がするのですが…でも置いておけば誰かいつか読むかもしれないわけだし)
 現時点で、サイト未掲載も数本あるからそれも載せてしまいたいような葬りたいような。

2007 年 10 月 27 日 溜息も落ちる

 無性に寂しくなってたまらなくなるとき、というのがありますが、不意にぽかりと何かが抜けてしまうこともあります。

 今、高校時代に文芸部で同じだった友人たち(同学年)と冊子を作ろうとしています。
 冊子というか、単に、作品を持ち寄る場がほしかっただけなのですが。出発点はそこ。
 かくのは当たり前ながらそれぞれがやるしかないのだけど、冊子という形にするため、細かい寄り合わせも必要になります。で、話し合わないとなのですが、四人中、一人が神戸で一人が千葉なもので、そう簡単には集まれません。
 そこでチャットを利用しているのですが、それすら集まるのにちょっと手間取るという。
 …高校生のとき、休み時間にでも声かけたら気軽に集まれたのとは違うんだなー、ていうか当時は休み時間にそんなこと喋ってたり授業中にいろいろ考えてメモ書き殴ったりとかしてた。
 思えば遠くに来たもんだ…という心境。
 放課後の教室で、黄昏時で電気つけてるのに暗いような教室とか、ホッチキスを無茶な使い方して製本したり、黙々と(でもない)座談会の原稿回し書きしたり。
 そんなことが懐かしく思い出せてしまう時点で、その中にいるわけじゃないんだと思うと、何て言うか…取り返しのつかないことをしてしまったような気になります。ただの錯覚と判っているのですが。

 今日読んだ本に、ファンタジーを必要とするには孤独が必然だ、というようなこと(大意、だけれど実は間違っているかもしれない)が書いてあったのだけど、それなら私がファンタジーが好きな理由がよくわかります。
 まあ満ち足りている人は、まず小説なんて書こうとは思わないだろうけれど。自伝や雑記や論文は別として、物語を求めるのは、多分に逃避だろうから。

 今日読破は、『ファンタジービジネスの仕掛け方』『ギロチンマシン中村奈々子』。

2007 年 10 月 28 日 休日の焦燥

 いつも、休日も目覚まし時計を普段と同じ時刻にセットしています(この頃はまず起きられないのだけど)。
 で、今朝。
 うあー起きないとー、遅刻するよー、と何度か、意識の浮上沈下を繰り返し。休日じゃん、と気付いた瞬間に、目覚ましを止めました(爆)。
 うん…何かごめん…。<目覚まし時計(正確には携帯電話)

 そして今日は、午後から友人が来てくれて、のったりと本を読みながらお茶。本読みながら、合間に雑談。
 …ええ、メインは読書ですとも。
 そして今日、持って来てくれた漫画の中に、本屋で見かけて気になったものの題名はおろか出版社すらろくに見ていなくって探しようのなかったやつが! エスパーか!? ありがとう!
 持って来てくれたうちの二冊が、図書館と別の友人からと、既に借りていたものだったところは申し訳ないです(爆)。

 今日読破は、『狂乱家族日記』の6・7巻と『刀語』の六巻。あ、『神様のメモ帳』の2巻も今日カウントでいいのかな(読みきったの午前三時ごろ)。
 一番、『刀語』が読むのに時間かからなかったなー。値段高いくせに…(そういう問題?)。
 ところで私、図書館やら友人やらに借りている本も読まないとだけど、買っている文芸誌が、季刊なのに既に三冊ほど溜まっています。気まぐれで買った文芸誌も二冊。そして、友人の大学の文芸誌もまだ三分の一くらいしか読んでない…(数冊ある)。
 だっ、誰かっ、「精神と時の部屋」(だっけ?)かタイムマシン紹介してくださいっ!(無理)

2007 年 10 月 29 日 同人活動にまみれています。

 えーと近いうちに告知頁作りますが、高校の部活仲間と作る冊子の購入者を募集します。
 数ほぼきっちりしか作るつもりがないので、事前予約限定となります。詳細はまた告知頁で書きますが、希望者声かけてくださいねー(いやここの普及率の低さは存分に熟知していますがね?)。
 値段不定ですが、基本、実費のみなので、そう高くはならないと思います。直に会える方はそのまま、他は、イーバンクや郵便局あたりの振込みか切手とか、なるべく手数料が少なく済む方法を考えたいです。
 全て書下ろしですよー。お得ですよー(私の以外)。(煽り宣伝してみる)

 そこの関係で、書き終えた長い話を載せるよりも先に、敷衍遊戯の続編がここにあがるような予感がします。
 冊子に載せようと思っていたのだけど、いろいろ考えてみたらまずいのでサイトのみ掲載で。順番が繰り上がる理由は、猫さんに挿絵を描いてもらえるから(笑)。
 本編続きの導入と、外伝の王宮(別名:恋愛)編です。
 まーいつになるかわからないけどー。

 そして、敷衍遊戯を取り止めたため急遽別の話を書こうと…今、資料集めに駆けずり回っております…。
 手持ちだと確実に足りない! ネットでも乏しい、つか、怪しいしマニアックすぎて引っかからないんだよそんなもの!(それ以前に多分ウェブに上がってないものが大半)。
 誰か、唐代の江南の地理に詳しい人連れてきてー! じゃなかったら(私の卒業した)大学図書館持ってきてー!
 ネット検索しながら、八つ当たりのように独り言を呟き(というか叫び)、父に呆れられました…そんなもの調べてどうするん、と言われても答えられない…(爆)。
 しかし、『太平広記』で金華猫がまったく触れられてないのには参った…その頃にはあった伝承(?)だと思うのだけどな…。
 あーでも、資料調べ楽しい! できるなら図書館でしたいけど。ネット検索は本を調べるよりは楽しくないんだこれが…大学図書館行きたい。譲歩して県立図書館? 市立図書館は、中国関係の資料はあまりなかったと思うのだよなあ…。

 とりあえず今回安心したのは、古典だと、素読でも中国語原文の大意は取れることでしょうか。よ、良かった…(心底)。←大学時代中国文学科専攻

2007 年 10 月 30 日 お篭りの日

 図書館に行こうかと数日前まで思っていたのですが、無理そうで諦めました。夕方からなら行けたけどその頃には面倒になってるのですよ…(爆)。

 ところで、告知頁…うわあ作るの面倒になってきちゃった!(爆)
 作りますけどねー。ブログ借りてこようかな面倒だレイアウト考えてタグ打ち込むの…(ファイルの整理が面倒との噂も)。
 あ、ブログいいかもブログ(今思いついた)。
 ……うん、借りてこよう。

 今日篭って何をしていたかというと、昨日書いていた別の話を。
 短いし粗筋自体は全てできていたから簡単だったのです。思ったより時間喰わなかった。
 しかし、楽しいです。わぁやっぱり私、書くのやめることはなさそうだー。
 今回驚いたのは、書きながらどうしてだか泣き出した事で…ええっ、わけわからんっ恥ずかしい奴だな?! 
 …あれですかね、数時間PCに向かってて疲れてたんですかね…。

 『片耳うさぎ』
 父の実家の、大きな旧家に移り住んできた小学六年生の主人公。ある日急に、だだっ広くておっかない家に一人で留守番することに(といっても親戚たちはいるのだけど馴染んでいない)。
 気安い行動派の美少女や、優しい従兄や自分に興味のなさそうな祖父、厳しい伯母。その上、謎の片耳うさぎ。
 わくわくする要素は山盛りです。
 楽しい、これ。読みやすいし視線は優しいけど目を逸らさないし。
 きっちりこれ一冊で終わっているけれど、主人公で別の話も書けそう。続き、書かないのかな。

 『厨房ガール』
 料理専門学校に通う、生徒たちの話。主人公は、元警察官で上がり性、しかも緊張してしまうと近付いた人を投げてしまうという奇癖の持ち主。
 一冊に七話収録で、それぞれに面白いのですが…主人公とそれに突っかかっている人との関係が楽しいな! えっと、定番のあれです。好きなのに反発するというかきっちり恋愛に踏み込む前というか。「パトレイバー」の主人公たちを連想してしまった(笑)。
 これ、最終話でも卒業していないから、もしかして続きあるのかなあ。続くなら読みたい。

 そう言えば今日は、BIGMAMAの「Neverland」と「short films」を聴いていました。
 先日の、衝動買いの一品。「Neverland」をたまたま聴いて、気になって買ってしまいました。バンド(?)の構成にバイオリン入っているのが好き。
 日本の人たちなのですが、総英語歌詞で(歌詞カードには訳文つき)、歌ってしまわないのも実はいいです。←サントラ扱いか
 や、歌詞も面白いのですけどね。「Neverland」のプロモがとっても綺麗だった。

2007 年 10 月 31 日 思ったよりも

 手間取ったようなそうでないような…今回の月末決算。や、まだ終わってませんが。

 昨夜ほてほてと、何度もここで書いていた冊子の詳細(?)をブログに打ち込んでいました。
 でも、物凄く読みにくいですよこれ〜。かなりガッツがないと購入しよう、とは思わないだろうなあ(爆)。
 来月になったら(って明日ですが)ちゃんとリンク繋ぎますが、とりあえず、興味ある方はどうぞ。サンプルとして、一部を載せています。
 …ただこれ、一度に載せたものだから並びがちょっとおかしなことに…どうしようこれ。

 http://tenkyuugi.blog44.fc2.com/

 歯医者に行かねば、親知らずの向きが大変なことになっているのですが。…でも行くの怖いんだよ…。



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