虚言帳

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日記連載過去分
2006.3

2006 年 3 月 1 日 弥生です。

 人名に思えるのは、きっとアニメの「一休さん」の影響(笑)。
 庄屋さんの娘さんの名前ですねー。親に似て腹黒いところのある人だなあと、子供心に思いました。実際の一休さん(一休宗純)は、破戒僧だったらしいですね。

 昨日に続いての父の手伝いがあったのだけど、雨で流れました。路面に書き込む必要があるから、濡れていると仕事のしようがない。
 三日には図面をくれと言われているらしいのだけど、果たして間に合うのか、父。
 図面ってのはあれです。道路舗装の、その舗装面積をCADで描いて面積や長さを書き込んだもの・・・のはず。
 明日、腫れてくれるといいのですが。

 今日、思い立って落書きの束をあさったら、下手をしたら捨てた、と思っていた書きかけの話が出てきました。
 あー、よかったー。
 とりあえず、適当に打ち込んでおこう。今度こそ。

 ついでに、冒頭のみの話も見つけてしまい、うっかりとこれも書きたいななんて抜き出してしまったり。
 ・・・いや私、そこまで処理速度速くないよ。何とか思い直せ自分。

 今日の更新分について。
 「雪と歩く」は、楽天のブログを通して、よそ様のコンペ(?)に出したものですが、まあ。褒め言葉も頂いたので、本来ならあちらに載せるべきなのですがねー・・・(汗)。
 なんとなくです。
 「虚言帳から」の分は、実はここの過去掲載分ではないです。一部の友人に送ったメールを除いて、今まで人目にさらしたことはないですねー。あはは。
 や、中途半端な感じで、尚且つ、内容にちょーっとテレがあることからあそこに。まぁどうでもいいとも言えるのですが。

 あー・・・。いい加減そろそろ、猫屋の冊子作りを始めないと(汗)。

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 皓が羽山成皓になったのは、実は、二年も前のことではない。それまでの十数年間を、皓は、羽山成紅子という名と、完治の見込みのない病と寄り添い、生きてきた。
 羽山成家というのは、幕府の瓦解と共に名乗りを上げ、明治政府の成長と共に栄え、戦後の混乱と共に現状維持を続け、バブル成長と共に展開し、今に至るまで富を確立してきた。商いの神様でも、どこかに潜んでいるのではないだろうかと、紅子だった頃に思ったことがある。
 しかし商いの神は、紅子に、潤沢な金銭はくれようとも、幸福は与えてはくれなかった。
 両親を亡くし、いつ果てるとも知れない体を抱えた紅子を救ってくれたのは、現代技術の粋ではなく、迷信・盲信の類に属するだろう、いわゆる「悪魔」というやつだった。
 死後の己の魂を担保に、紅子は、健康な体と、忠実な話相手を手に入れた。その際、元の体のまま健康にしてもらわなかったのは、なんとか「男が跡継ぎである」という願掛けに似た慣習を通そうとする親戚に対し、有無を言わせないための対策だった。
 今の世の中、やりようによっては女のままでも可能だっただろうが、男の方が断然楽だ。体力勝負に持ち込まれた場合にも、基礎体力の時点で男女には差があるのだから、選べるならば優れている方を、という、単純な選択だ。
 かくして紅子は、皓になった。

 * * *

「響、お茶飲む?」
 既に二人分を用意した紅茶のセットをワゴンに乗せ、皓は、盗聴器や小型カメラを山と積んだ名井響に、指し示して見せた。
 今現在、豪邸と呼んでも差し支えのないこの家に暮らすのは、皓と響だけだ。通いのお手伝いや清掃業者はいるが、夕食時を過ぎれば引き上げる。
 皓――あるいは紅子の、両親が生きていたころは住み込みの者も幾人かおり、親戚が泊りに来ることもあったが、紅子一人になると、まずは祖父の弟の息子という、紅子にとってのはとこ一家が押しかけてきて、家のことを取り仕切った。そのときに、昔なじみの住み込みの者らは、全て免職されてしまった。
 それからは、職務熱心な医師と看護師に囲まれて、紅子は、半ば幽閉の身となった。もっとも、そもそもがよほど調子がよくなければ、一人で歩き回ることもできない身なのだから、幽閉というのも違うが、本人のいないところで後継者の位置の取り合いをしているのを見ていれば、幽閉で間違っていなかっただろうと思う。
 医師たちはよくしてくれたが、それも、後継者が決まるまでのことで、決まって数多くのものが後継者にとって順当に承継されてしまえば、医師らの態度も変わるか、他の者に変えられてしまうだろうと判っていたので、打ち解けるところまではいかなかった。
「いやぁしかし、諦めないものだね。外しても外しても仕掛けてくる」
 応えない響にはかまわず、二人分の紅茶を注ぎ、片方にはクロテッドクリームをたっぷりと浮かべ、もう片方にははちみつを垂らすと、クリームの方を残し、ティーカップを手に取る。
「根競べとでも、思ってるのかな」
「業者の立ち入りを禁じたらどうだ」
 山と積み上げた精密機器を一まとめに厚手の袋に放り込んだ響は、放置されているティーカップを取り、スプンでかき混ぜることもなく、一気に呷ってしまう。
 よく火傷しないなと、ついつい見ていると、真っ黒い瞳が見つめ返した。
 この、少しの茶が混じることもない瞳の色に、気付く者はどれだけいるだろう。普通、圧倒的に黒髪に黒い目の多い日本人でも、瞳は茶がかっている。しかし今までに、響の眼に、見とれる者はあっても、違いを指摘する者はなかった。
「おかわり?」
「・・・業者の立ち入りを禁じたら、どうだ」
「ああ、それ。無駄だろうと思うよ。ガスや電気やの点検の人は来ないと困るから、帰れとも言えない。そうすると、それらの人が頻繁に来るようになるね、きっと。そもそも、この広い家を、一体誰が掃除するんだ?」
 実は人外の響を見やり、肩をすくめる。いたちごっこもいいところだ。
 ちなみに、日々掃いて捨てるほどに発見される器具は、今や顔見知りとなった業者に流している。金の代わりに各種の情報を流してもらい、密かに役に立っているのだが、仕掛けている面々は、果たして知っているのだろうか。
「あ、そうだ。明日来る二人には、鄭重に接してくれないか」
「梅谷小夜子と梅谷真夜子か」
「そう。どうせまた、花嫁候補だけどね。あの二人は、珍しく紅子によくしてくれたから。なるべくなら、問題なく帰ってほしい」
 一月の末になると、私立の高校では、推薦受験が開催されるところもある。遠縁の皓よりも一つ年下の双子姉妹は、梨園学園の入試試験を受けるらしい。皓が現れての、急な対応策だろうが、部屋はホテルを取るが、挨拶だけでもしたいと言われては、無下に断るのも失礼だろう。
 会社などの経営の多くまでを、血縁によって受け継ぐというのは、馬鹿げた話だ。それを是正する機会はあったはずなのだが、紅子の後継者を争う者たちにとっては一括の方が楽だったようで、結局、全てを皓が受け継いでしまった。もっとも、管理しているのは響だが。
 それだけに、馬鹿馬鹿しい跡目争いは、皓の次代を狙う動きも少なくなかった。  
 あてがわれる少女や女性たちは、本人の意思によるものや保護者らの意図によるものと様々だが、皓には、気に入れば顔を潰さない程度に、そうでなければばっさりと、断る対象にすぎない。もっとも、一度や二度の失敗で、諦めてくれるような顔触れではないのだが。
「あーあ。明日は、遊園地に行くつもりだったのにな」
「行けばいいだろう」
 あっさりと返された言葉に、思わず睨みつけてしまう。そんなことをしても怯む相手ではないと、判ってはいるのだが。
「あのねえ。推薦とはいえ、一応、受験を控えてるんだよ? 遊びに連れ出すわけにはいかないだろう」
「一人で行けばいい」
 正確には、一人と言っても響がつく。何が起きるかわからない環境の中では、響は、保護者兼ボディーガードという、万能の人材だ。人ではないが。
「挨拶に来るって知ってるのに、行けるわけがないだろう」
 怒るよりも、呆れる。
 皓と暮らして二年近くが経つというのに、こういったところは、未だに理解に乏しい。むしろ、理解しながら無視しているような気がする。
 よくこれでコーチやら経営のトップやらが務まっている、と思うのだが、考えてみれば、無口で必要以上に口を開かずにいるため、ぼろが出ていないだけかもしれない。
 空になったティーカップを置き、小皿のチョコレートをつまむ。思いついて、顔を上げた。
「生徒会企画、君が選ばれたらどうする?」
 訝しげな視線に、話していなかっただろうかと、首を傾げる。
「バレンタインのために、お菓子作り教室を開いたり、世界のチョコレート・ショーをしたり、キューピッド・サービスをしたり。生徒会が、二月から十四日の当日まで限定で、そんなイベントを企画したんだよ。そのうちの一つに、もらったチョコレートの数による上位三名を選んでステージに上げるっていう、馬鹿馬鹿しくもおめでたいものがあってね。なんでも、選ばれたら好きな人を告白しなくちゃいけないらしいよ。響、君が選ばれたら、ちゃんと上がってやってくれよ」
「何故」
「うーん。意味はほぼ皆無だけど、お祭気分が楽しめる、というところかな。それに水を差すのも悪いだろう?」
「それなら、お前も上がるのか」
 そんな事態は起こりえない、と言いたいところだが、ある友人の予想によれば、上位三人に入りそうなのは、数学教師の田中と美術教師の谷中、生徒会長の二年秋山、書記の三年林、元野球部の三年桂川、野球部エースの二年早川、弓道部一年の水島、それと空手部と弓道部コーチの名井と空手部と弓道部の一年羽山成、ということになるらしい。
 つい、苦笑いになる。
「選ばれたら、仕方ないね。ただ、好きな人なんていないからなあ。棗先生にでも逃げようかな」
 紅子は皓になったが、外がどれだけ変わろうと、話し方を変えようと、中身はあまり変わらない。性同一性障害とは少しばかり違ったこの状態だが、皓はこの先、自分が恋愛をするという事態が想像できないでいる。大体その場合、男女のどちらを好きになるのだろう。
 それに、生殖能力はないと、決められてしまっているというのに。
「棗というと・・・校医の紅林か」
「そう。あの人なら、冗談で返してくれるだろうし。でも、響がやったら本気にされるだろうから、やめた方がいいけど」
 紅林棗は三十手前の女性校医だが、おもねるのでなく話が通じると、生徒からは絶大な支持を受けている。冗談には冗談で応えてくれる棗だが、同年代に見える響に対して、冗談めかしつつも、どうやら本気で流し目を向けているようで、しゃれでは済まなくなる。
 変人奇人ではあるが、こういったところで悪趣味とも思えないあの生徒会長が立案者なのだから、なにか納得のいく裏事情があるのかもしれないが、この案は認めないべきだったかとも、少し思った。下手をすれば、誰かが深く傷付きかねない。
 まあ、ただの一イベントで終わる可能性も十分にあるが。
「それよりも、明日か。響、もし僕の正体がばれたら、どうなる?」
 チョコレートをかじっていた甘いもの好きの悪魔は、整った顔をわずかにしかめた。
「言うつもりか」
「殺された両親や解雇された使用人を除けば、おそらく、一番紅子を知っている人だからね。自信がない」
 本当のことを言ったところで信じはしないだろうが、万が一にも見破られた場合、誤魔化せるかどうかは判らない。いっそ、響の言うように、投げ出して遊びに行ってしまおうかと思ってしまうくらいだ。
「だから期せずして、ということは有り得ると。その場合、僕はどうなる?」
「お前次第だ」
「はい?」
 皓は響を信用も信頼もしているが、言葉が足りないと、度々思わされる。
 不満そうに首を傾げた皓を見て、響は、チョコレートをもうひとかけらかじった。
「言っただろう。お前が最期を望むまで、俺はお前に従う」
「例えば――僕が望めば、知ってしまった二人の記憶を消すことも、存在そのものを消すことも、できるということかな?」
「ああ」
「逆に、そのまま放置しておくことも?」
「できる」
 二人の運命は、当の二人や響ではなく、皓にあるということらしい。
 しかしここで、勘違いをしてはならない。響は、能力の限り忠実に皓に従うが、その結果、響の能力の及ばない事態に至った場合、何もしてはくれないだろう。彼は、皓の魂の終わる瞬間を待ち侘びているのだから。
 魂を担保に願を叶えてもらうという、古典的な契約を結んだのだから、あまりにも当たり前のことではある。むしろこれは、優遇だろう。
 「ファウスト」という戯曲の中で、悪魔メフィストフェレスは、神と取引をして、高潔な魂を持った学者ファウストの魂が堕ちたとき、自分の物にしていいと言われた。そのために、メフィストフェレスは懸命に、ファウストの好き勝手な願いを叶えるべく、奔走することになる。
 果たして自分はそこまでの価値があるのかと、皓は未だに疑問に思う。一度きり、限定された契約の元で、魂を奪われてしまう話も多いというのに。
 とにかく、今の快適さを失わずにいるためには、選択を間違えないことが肝要だ。
「適当におしゃべりでもして、帰ってもらえればいいんだけど」
 溜息を落とす。そう言いながら、不意に立ち上がった響を、眼で追った。そのまま廊下に出てしまった後姿に、これも懲りずに侵入者かと思ったが、しばらくして戻ってきた響から聞かされたのは、予想外の話だった。
「高等部二年の女子が、まだ家に帰ってないらしい」
「まだ、って・・・今日は学校休みだけど?」
「部活に出て、五時には終了したはずが、戻らないとのことだ。警察にも連絡したらしい」
「ということは、校長あたりからの電話?」
 電話の着信音が鳴らないうちに察知した、というのは、今や、驚くことではない。他の者がいるときは鳴ってから取るように言っているが、基本的に、響は電話の音が好きではないらしい。
「ああ。様子を見るらしいが、とりあえず、担任教師と顧問が家に行っているらしい」
 そうして、連絡を受けた校長が、理事長のこちらにも伝えてきたということか。生徒会の一件以来、高等部の校長は、随分とこちらに気を回すようになっている。以前なら、失態と取り、それを隠すために、自分のところで何とかしようとしたのではないだろうか。
 時計を見ると、日付を越えるかどうかというところだ。
「電話は切った?」
「ああ。他に情報があったわけでもないらしかったからな」
「そうか。家出や、巻き込まれてるにしても軽い事故程度ならいいけど」
 高々数時間の行方不明、と軽く見るつもりはないが、心配してどうなるものでもない。
 皓は、紅茶をもう一杯ずつ、それぞれのカップに注いだ。
「その生徒の名前は?」
「森村薫。二年三組、美術部員」
「ああ、美術部は、バレンタイン企画の垂れ幕を描いてたから」
 ただ事実を呟いただけのそれに、返事はない。そもそも期待はしていなかったが、注いだ紅茶にクロテッドクリームがたっぷりと入れられるのを見て、悪魔は糖尿病と縁はないのだろうかと、的外れなことを考えた。
 その心配は、夜中にお茶会をする自分にも向けるべきだろうとは、思うのだが。
「森村先輩、か。無事に見つかるといいね」
 半ば呟きのそれは、だが、少なくとも近日中に叶えられることはなかった。むしろ、それが始まりだったのだと、やがて思い知らされることになる。

2006 年 3 月 2 日 風邪か花粉か

 でもまだ、花粉症の母が症状を見せていないのだから、違うと思いたい。
 花粉症の人を見ていると、あれだけは厭だと思ってしまいますよね・・・いや病気とかも厭だけどさ。

 今日は日の四分の一ほど、外で風に吹かれていました。立っていたのではなく、父の手伝い。
 やーもう、風が冷たくって。日が照っていると日差しは温かいのだけど、それも、曇っていたときの方が多い気がするし。
 エクセルで面積を求めるところまでは私の範囲外(やってやれないことはないけど計算式に何を使うといった説明を受けて私がやるよりも父がやる方が効率的)なので、測量が終わってからしばらく、PCに向かう父の横で、お菓子を食べながら本を読んでいました。鬼か。
 やぁ、面積を求める計算を、昔は電卓でやってたのかと思うと、大変そうですね。途中でどの数打ってたか忘れそう(私だけか?)。

 そうしてほどほどに疲れたのと寝るのが遅かったのに朝に比較的早く起きたせいで、とっても眠いです。
 今日はあったかくして早く寝よう。
 
 ところで話は変わりますが、昨日のこと。
 新聞に挟み込まれていた地方紙に、兵庫県(だったか播磨だったか)の紹介記事で、鵺の像のある神社が紹介されていました。
 その像と神社の写真を中心に、二行か三行に分かれた記事が取り囲む構成。
 母がそれを見つけて、「妖怪やって」と見せてくれたのですが、写真を見るなり。
 私:「あ、ヌエや。違うかな。(記事の一部を読んで)あ、やっぱりそうや」
 父:「鵺?」
 私:「えっと、尻尾が蛇で顔が猿で、胴が虎、やったかな(実際は胴が狸で四肢が虎)。その正体は、トラツグミの鳴き声やった、っていう」
 ついつい、嬉々として話していましたが、母はちょっと、ぽかんとしていました(ちなみに父の反応は「それ(動物の組み合わせについて)はバランス悪いんちゃうか」)。
 話した後で、それだけすぐに出てきた自分に吃驚というか。いや、凄く有名な妖怪(?)なのですけどね? 小説で取り上げられることも多いし。源頼政が退治したことで有名。
 しかし、そんなことに饒舌な娘を持つのも複雑な気がする(苦笑)。

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「やあ、いらっしゃい。試験勉強は大丈夫かな?」
 どうせなら昼食を一緒に、ということで用意されたテーブルを立ち、皓は、二人に歓迎を示すべく、にこやかに笑みを向けた。
「作文と面接の対策なんて、一日でどうなるものではないわ。それは、あなたの方がご存知ではなくて?」
「ま、真夜ちゃん」
 内容に反して穏やかな口調の少女が、梅谷真夜子。それを諌めた方が梅谷小夜子。一卵性双生児の二人は、同じくらいに伸ばした髪を真夜子が二つ結びにし、小夜子がゆるく一つに束ねている。服は、真夜子が水色のワンピースで小夜子が似た型の白いツーピース。
 よく似た二人は、印象の似た、しかし確実に見分けられる格好をすることが多い。
 正装に二歩ほどを空けた格好の皓は、毅然とした真夜子と、戸惑ったような小夜子に、変わらずに笑みを返した。懐かしい二人の様子に、これは、労せず浮かぶ。
「それもそうだね。では、経験者から一言いっておこうか。羽山成ゆかりの者と知れている以上、合格はまず決まっている。酔っ払って試験会場に行ったり、目の前で人を刺したりといったよほどのことをしない限りは問題がないから、緊張の必要はないよ」
 手振りで示され、椅子に腰を落とした二人は、だが、探るように皓を見つめた。
 執事代わりに側に控える響に料理を出すよう合図している間に、真夜子の瞳が、皮肉げにきらめいた。
「あなたが、手を回してくださったということかしら」
「まさか。僕自身の編入のときにも、根回しなんてしなかったのに?」
 約二年前、紅子が死んだ直後に姿を現した皓は、羽山成の資産一式を狙っていた者らにとって、完全に予想外の火種だった。しかし、遺伝子から出生届、出産に立ち会った医師看護婦に到るまで、全て皓が紅子の双生児という保証をし、一部、響の「説得」により、皓は、紅子のものだったすべてを、改めて手に入れた。
 梨園学園中等部への編入は、それらの継承が一段落ついてから、区切りよく三年の四月からとなった。そのとき、理事長であるためか、皓が受けたのは、形式に終始した面接のみだった。編入が確定した上での、帳尻合わせに過ぎない。
 二人の場合も似たようなものだ。皓は指示していないがあるいは、二人の父親あたりが手を回しているかもしれないが、それがなくとも、校長らの判断で、入学は決まっているだろう。
「まあ、僕が言うと嘘くさく聞こえるかもしれないけど、梨園学園はいいところだよ。折角の人生を、楽しむには向いてるんじゃないかな」
 真夜子はふいっと視線をそらしてしまい、そうしている間に、前菜が運び込まれる。いろいろなところを転々としていたお抱え料理人は、菓子類以外の料理はお手の物で、今日はフランス料理らしかった。
 響が、葡萄のジュースをついで回る。
「あの、もし私たちが梨園学園に通うことになったら、ここに住まわせてはもらえませんか?」
「小夜子」
 真夜子の諌めは、まだ早い、という程度のものだろう。
 小夜子は、ごめん、と小さくなったが、怯えているわけではない。この少女の性格からして、厭な用件はさっさと済ませたいと思ったのだろう。
「悪いけれど、他人と一緒に暮らすのは遠慮したい。住まいなら、羽山成の物件を紹介するよ。なんなら、寮もある」
「その人もここに住んでいると聞いたけれど、彼は他人ではないの?」
「身近すぎて、もう家族みたいなものだ」
「あら、そうだったの。愛人だと評判だったのだけど」
 挑戦的な真夜子に、悪いと思いながらも吹き出してしまう。姉妹の袖を引いて諌めようとしていた小夜子が、ぽかんとそんな皓を見つめた。
 皓に常に付き添い、矢面に立つことも多い響が、皓を操っているという勘繰りや、それこそ愛人関係にあるとの噂が立っていておかしくないと思うのだが、実際に聞くと、笑い話にしか思えない。
「だってさ、響。知らなかったよ、いつの間に恋人に?」
「さあ、覚えはありませんね。それよりも、食事を進めていただかないと、紅林が臍を曲げます」
 遍歴の料理人・紅林は、作った料理が無駄になったり、くだらない(と判断される)理由で食べ時を逃すことを、ことのほか嫌う。一度、パソコンゲームに熱中して食事の呼び声を無視していたら、そのまま失踪して、探し出すのに一週間近くかかった。
 それは大変だ、と言って、皓は、至って穏やかに食事を開始した。懲りたのか毒気を抜かれたのか、少女らが反乱を起こすこともなく、昼食の話題は、他愛のない話に終始した。主には、学園生活のことだ。
 幼等部から大学院までを擁する梨園学園は、大学と大学院は敷地が離れているが、それ以外の幼等部から高等部にかけては、一箇所に集まっている。始めは女学校が別にあり、両立のものだったらしいが、比較的早くに共学に統一した。
 現在の機構は、基本的には公立の学校と変わらないが、部活動や生徒会活動が盛んなことで知られている。集団競技よりも個人競技に秀でているのが、特徴と言えば特徴だろう。
 紅子、あるいは皓は学校といえば梨園学園しか知らなかったため、どこもこういったものだと思っていたのだが、持ち上がりでない生徒との会話や他校との交流などの際に、随分と自由な校風なのだと気付かされたのは、比較的最近のことだ。
 生徒会の個性にあふれすぎた面々の話にまで及んだところで、デザートと紅茶が出され、電話が鳴った。
「皓」
「はい。少し、失礼するよ」
 自分宛と判り、呼ばれて行く。少女たちは、この間に、羽山成皓をどう評すのかと、ちらりと思った。
「誰から?」
「生徒会の秋山、と名乗っていた」
「秋山先輩? 家にかけてくるなんて珍しい」
 学校でこそ頻繁に顔を合わせ、お互いに連絡先も知っているが、今まで、電話があったことはない。急ぎだろうかと、少し厭な予感がした。
 ちなみに、響が皓の位置を察知できることもあり、仕事関係は響の携帯電話で事足りため、パソコンのメールは使うが、皓は、昨今では珍しく携帯電話は持っていない。
「もしもし、お電話替わりました。皓です」
『昨日から、うちの生徒が何人か消えてるのを知ってるか』
 前置き抜きの発言の、その内容に、目を瞠る。
「美術部の森村薫さんが、昨夜の時点で帰宅していないことは聞いてます。その他にも?」
『ああ。美術部の部員が、他に一人。それと、写真部と新聞部が一人と、調理部が三人、生徒会からも一人』
「・・・そんなに?」
 秋山の言う通りなら、少なくとも八人が行方知れずということになる。不審さが声に出たのか、秋山からは、いささか不服そうな声が返った。
『嘘は言ってない。今日、VDの打ち合わせに集まったときに判ったんだ。多分、そのうちそっちにも連絡が行くだろうけど、ちょっと異常だ』
VD、つまりはバレンタインの例の企画のことだろう。
「その人たちは、何か共通点でも? 一緒に帰ったとかなら、揃ってどこかに拉致された疑いもありますよね」
『いや、帰り道はばらばららしい。女ばっかりってくらいで、他の共通点で俺が今思い浮かぶのは、せいぜいがVD企画の裏方だってことくらいだ』
 ちらりと、響を見る。電話機の本体を置いた部屋の入り口に立っているが、会話は全て聞こえているだろう。だが、何の反応も見出せなかった。
「警察には、もう連絡しました?」
『今、各部の顧問と田中が保護者を呼んでる。親が気付いてなかったり放浪癖があったり、今までにも無断外泊があったりで、森村のところ以外は、まだ届出をしてないらしい。来るか?』
 場を、生徒会顧問の田中ではなく、顔を潰さないようにしながら秋山が誘導したのだろうと、想像がついた。
 しかし、一般的にはただの生徒の皓が駆けつけるのは、出すぎだ。
 だがそこは、秋山も考えていたらしい。
『一年皆川聡美、香山由実、梨木茜、橋場有子、二年佐奈川瑠香、山並静、平上優奈、この中に友達は?』
「梨木茜、クラスメイトです。すぐに行きます」
『生徒会室だからな』
「はい」
 友人を気遣っての行動になるようにと計ってくれた秋山に感謝して、受話器を置いた。行って何ができるわけでもないのだが、折角知らせてくれたのだから、立ち会いたい。それに、場合によっては、皓に責任のある問題かもしれなかった。
 学園理事長として。また、それとは別に、悪魔と契約をした身は、妙なものを引き寄せるらしい。その余波が、生徒たちにかかったということも、考えられないではない。
「響。制服を出して、車の用意を頼む」
 肯いてすぐに行動に移す響とは別に、皓は、食堂に向かった。途中になってしまったが、二人にはここで帰ってもらうしかない。
 また、この事態なら認めてもらえただろうが、食事が終わり、買ってきたデザートになってからでよかったと、料理人のことを思い、密かに胸を撫で下ろす。 
「真夜子さん、小夜子さん。申し訳ない、急用が入ってしまいました。また後日、時間があれば遊びに来てください」
「急用?」   
「はい。林さん、彼女たちをお送りして」
 食器を下げようと控えていた使用人に頼み、二人を押し出してしまう。最後に、楽しい時間をありがとうと言い、非礼を詫びるのも忘れない。
 学園までは、車で行けば五分ほどだ。皓は、既に響が行っているだろう地下駐車場まで、最短距離を走った。ほんの二年ほど前までは、こんな風に家の中を走れるなど、考えもしなかった。
「出して」
 乗り込むと同時に言って、すぐに、用意しておいてもらった制服に着替える。
 移動中の車内は着替えにくいのだが、あまり時間もないので、できる限り急ぐ。
「あ。響、どうする? 関係ないから、僕だけで行ってようか?」
「・・・好きにしろ」
「うーん。じゃあとりあえず、車に残ってて何かあれば、電話を借りて連絡するよ」
「ああ」
 話している間にも、制服に着替え終える。もっとも、ズボンを履き替えて上着を学ランに替えるだけだから、すぐだ。
「校門の前で止めて。ああ、そうだ。暇があれば、さっきの二人に丁度良さそうな物件の、当たりをつけて於いてもらえるかな」
「わかった」
「すまないね、ありがとう」
「礼の必要はない」
「言いたいんだから、言ってもいいだろう?」
 そういって笑いかけたところで響の表情が変らないのは知っているが、それに付き合って、こちらまで無愛想でいる必要もない。
 余計な震動はなく止まった車とほぼ同時に、後部座席から飛び降り、皓は生徒会室を目指した。 

2006 年 3 月 3 日 お水取りの時期は寒さが戻るらしい

 今日は変な夢を見ました。
 私のベッドは引き出しがついていて、二段の薄いものと、キャスターがついた蓋のある(蓋を閉めたら)ミニ机のようにも使えるものとがあるのです。で。何故かその引き出し部分に、お雛様が収納されていて(2M×1.5M×1Mくらいあるガラスケースに収まっているのに)。
 何私、そんなにお雛様気にかかってたの?(実際に家にあるものと同じだった)
 雛人形なんて、もう何年も出してませんが。というかこの間、雛あられが売られているのを見て「あーそっかひな祭り、終わったんやったっけ?」と思ったりしたのですが。
 ・・・人の深層意識ってわからない。

 手持ちの小説を読みつつ、図書館で本を借りてきました。
 今年から本の整理を四月ではなく三月に変更したようで、しばらくしたら休館日が続くのですよねー。借り溜めしておきました(笑)。
 ドロシー・L・セイヤーズのピーター卿シリーズを読み始めたのだけど、何故か二冊目(長編一作目)が前回も今回もなくて、予約してきました。たまたまなかっただけで、一人が長期延滞してるとかじゃないといいな・・・(そして今回は三作目以降を借りてきた)。
 今日読んだ手持ちは、結構前に買って来たライトノベルだったのだけど、微妙な感じで・・・続き物だけど、自分で続き買うには至らないなー。

 ところでうっかり、日記連載をしているのを忘れていました。ストックない。今からどれだけ書けるのか〜。

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「君、生徒会室はどこだ」
「はい?」
 校庭の端にいた、ドラマの不良警官か探偵のような格好の男を見ていると、視線に気付いたのか振り向き、そう声をかけられた。
 年は、三十半ばといったところだろうか。切り損ねたように伸びた少し長めの髪の下からは、無愛想な両目が覗いている。生活指導の山下先生が見たら床屋に行けと怒鳴りそうだ、と思ってしまって苦笑を噛み殺す。
「校舎の中にありますが、どちら様ですか?」
 にこりと笑うと、厭な顔をした。それがあまりにあからさまで、やはり可笑しくなる。
 男は、不機嫌そうによれよれになった米軍放出品のような上着の内側を探った。取り出した手には、掌からははみ出すくらいの大きさの、黒い手帳のようなものがつかまれていた。
「警察だ。呼ばれたから、来たんだが」
「今の警察手帳って、開いて写真を見せやすいように変えられたんですよね?」
「ちッ」
「今時、ドラマや小説では常識ですよ。へぇ、梨木巡査部長さん」
 見せられた顔写真は、身なりに口うるさい者でもとりあえずは及第点を出すくらいには、髪が短かった。

2006 年 3 月 4 日 体感気温

 さっむかったー!
 いえね。今朝、駅前まで自転車で三十分の道のりを、うっかりと手袋をつけずに走ったら、エライ目に遭いました。て、手が痛かった・・・! 赤かったよ何か。

 会社の事前説明会は、まあ順調に終わりました。
 商品名をある程度覚えておくという課題が出されたのはいいけれど、社の方針とかいらないから・・・なんで入社式でそんなもん唱和せにゃならんのだ・・・まさか毎朝唱和、なんてことしないだろうな、店頭で(研修期間中はやらされそうな気がする)。
 白衣のサイズも見て。白衣、実用向きの袖口がゴムで搾ってあるやつじゃなくてよかったー。あれ、やはり見栄えはいまいちだよね・・・給食当番のやつみたいで。
 高校卒の採用が結構いたから、休憩時間が、ちょっと高校のような空気でした(笑)。四つも下かー。まだ飲酒不可ですよ。若いなぁ。
 そんな四つ下の子と知り合って、メルアドを交換してきました。年齢の違う友達や知人は、ちょっと嬉しい。

 ところで帰り道。
 バスが、なかなかこなくてですね・・・。確実に三十分以上は待った・・・(多分出たすぐ後だったのだろうけど)。
 その店の近辺に勤務している姉曰く、近くの病院でのバスの本数は少なくないらしいので、少し歩けばよかったかな。まあ後の祭りですが。
 研修、どうしよう。雨の日だけバスにして、自転車で頑張ろうかな。待ち時間を考えると、一時間やそこら、自転車をこいでいる方がましな気がする。

 話は変わりますが、友人のサイトの日記を読んでいて、高校のときに餞別で、友人に箸を贈ったなーと思い出しました。
 当時、バイトをしているわけでもなく月々の小遣いは本や服を買えばなくなるような状態で。お金はなく、尚且つ実用的な物って何があるかなーということで選んだのじゃなかったかな(おぼろ)。
 それにしても、箸ってね(笑)。ああでも今贈っても、同じになるような気も(苦笑)。
 あげたのは、中学からの付き合いのあった(そして今もある)友人二人だったのだけど、結構使ってもらえていたようで、やぁ嬉しい。
 あー・・・四年、早かったなー。

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 睨みつけるような眼は、写真の中だけというわけでもないようだ。皓は実際のそれを覗き込んで、首を傾げた。
「梨木巡査部長」
「これ以上文句があるか」
「娘さんか親戚に、茜という名前の人がいませんか? 梨園学園高等部二年三組所属の」
 不機嫌そうに、睨みつけられる。
 そう簡単に返答は得られないか、と一つ嘆息して、皓は無邪気に不思議そうなかおをした。
「普通、事件に身内がからめば捜査から外されるはずですよね? 知られていなかったとしても、名字が同じだと、すぐに露見しそうなものですよね? ねえ。違いますか、梨木巡査部長?」
「・・・邪魔したな」
「待った。僕は何も、あなたが警察機構を無視してここに来たんじゃないかなんて、言うつもりはありませんよ」
「言ってるだろうが」
「あ、付き合いがいいですね」
 一旦は背を向けたのに口にしたツッコミに、思わず笑う。梨木は、渋いかおをした。

2006 年 3 月 5 日  冗長なのは先が決まっていないから

 突然ですが、会話というやつが苦手だったりします。
 意思疎通が困難なほどとは思わない(思いたくない)のですが、どうにも。口下手というやつですか。人と話していて、相手が話し好きか勝手に喋っている人ならいいのだけど、そうでなかったら沈黙します。うあー沈黙気まず!と思いつつ、話題もろくに思い浮かばない。
 いたずら電話の相手と時間単位に長話できる人が羨ましい(え)。
 以前「タイガー&ドラゴン」というドラマをやっていましたが、あれの初回(二時間の単発企画もの)を観たときに、主人公二人を端的に表現した冒頭部の、目にした笑い話を見てきた以上に(?)面白く話せる人とどこが面白いのか判らない上に状況もいまいち掴めない話にしかならない人とを見ていて、あー、後者だ私、と思った後にちょっと落ち込んでみたり。
 よく知らない人と会う機会が増えると、しみじみとそれを実感して厭になりますね。誰かなおしてー(無理)。
 結局、話を聞いているのが向いているのでしょうか。で、言いたいことは文章で(ただの変な奴だよ)。

 なんとなく暴露してみました。だからどうというわけでもなく。

 ところで今日、ある程度まとまってい書いているやつをPCに打ち込んでおこうとしていたら、まだ書いていない設定やら今思いついた設定やらが目白押しで、忘れないうちにどこかに書き留めていたほうがいいのかとちょっと悩んでいます。
 私の場合、下手にそれをすると書ききったような気がしてしまうから。かといって放置していると、そのうち忘れるよなー、やはり。
 今のところ、大体のものは(事細かにではなくても)覚えているのですが、この間ノートの裏に書いてあったものを読んだら、どんな設定かを忘れてしまっているものがあって(冒頭の終わりと言えそうなところまでも書けていなかった)、ちょっとショックだったもので。
 うーんー、どうしたものか。

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 意外な付き合いの良さが茜を髣髴とさせ、親しい身内に違いないと決断を下す。
 しかし、休暇を取ってしまえば警察手帳は持ち歩けないはずで、職務放棄、つまりはサボりかと勝手に判断する。警察への届出を受け、飛んで来たところだろうか。それならば、やる気はあるということだ。
「ええと、刑事さん?」
「何だ」
「生徒会室までご案内します」
 そう告げて歩き出すのだが、ついてくる気配がない。ある程度それを予想していて振り返ると、どうしようもなく不機嫌そうに睨まれていた。
 仕方ないなあという格好(ポーズ)をとり、肩をすくめる。いつまでもここにいれば、目立ちかねない。
 二人がいるのは、正門を入ってすぐの場所だ。校舎へと真っ直ぐに伸びる道は、右手側に折れればテニスコートと夜用の照明設備の併設された第五運動場(グラウンド)に出る。五番目の数字が冠されているのは、運動場が五つあるからではなく、四番目を忌み数として避けたための四つ目の運動場に当たるからだ。
 この場所は、離れたところに聳え立つ高等部校舎からも運動場からも、丸見えだ。帰宅通宅などは出していないのか、聞こえる声から察して、部活動にいそしむ生徒たちはたくさんいる。
「不審者だって突き出すなら、今ここでやりますよ。校門に非常用の警報装置が設置されているのは、ここの関係者なら誰だって知っています。でもそれは、刑事さんもお望みじゃあないでしょう?」
 不機嫌から、警戒に感情が移る。
 こんなに表情が読みやすくていいのか、とは皓は思わない。どうも皓は、ひっきりなしに寝込んでいた紅子の頃や感情の表出の薄い響に付き合っている間に、人の感情の小さな表れも見逃さない特技が身についたらしい。
「言ったでしょう、刑事さんを密告するつもりなんてありませんよ。僕は、梨木茜さんの同級生です。今回の失踪に関係している人、というのは生徒会長なのですが、彼と懇意にしていまして、話を聞いて駆けつけてきたんです。部外者は同じです。だから、身内を気遣って規則違反を承知で出てきた人を追い返すほど、僕に余裕はありません」
「・・・ガキと協力なんてできんぞ」
「刑事さん。そう思っていても、口に出さないのが賢明というものですよ。ただ頷いていれば、案内してもらえるのに」
「そこまで落ちぶれてない!」
 そういう問題かな、と首を傾げる。その反面、ここまで馬鹿正直だと生きにくそうだとも、おそらくは梨木の半分も生きていないだろう皓は思った。しかし、こういった人は嫌いではない。
 このまま梨木を引っ張っていくか、いっそ皓の身分を明かして協力を求めるか、どちらが得策かと考える。正式に捜査員が来れば、彼らには当然教えることになるだろうが。
 そこまで考え、ああ、と手を打つ。
「刑事さん、携帯電話持ってますか?」
「はあ?」
「常時、警察署と連絡を取れるようになっていますよね?」
「それがどうした」
「持っているなら、いいです。そうでないなら、すぐに署に戻るか正規の相棒の元に戻ることをおすすめします。では、どうぞ部外者はお帰りください」
「何?!」
「このまま居座ったら、不審者がいると通報しますよ? 現役の警官がストーカーなんて、ワイドショーで報道されたら厭ですね」
 激怒するだろうと思っていたら、意外にも、顔を真っ赤にはしたが背を向けた。
 皓のことを、疫病神とでも思っているに違いない。忠告も、捻って自ら戻らせるようにした方が良かったかと思うが、面倒なのでそのままにした。
 そうして皓も、ようやく校舎へと足を運ぶ。自転車ではすぐだが、何分もはかからないとはいえ、少し距離がある。そこをのんびりと歩きながら、皓は、勝手に笑い出す顔を抑えられなかった。
 ああいった人物にも、紅子のままでいれば会えなかっただろう。あのままでは、一年も命がもてばいい方だった。親戚たちも、順当に遺産の分配が終われば、紅子を親身になって救おうとはしなかっただろう。寝たきりの少女は、自分では家の外に出ることすらままならなかった。ただ、寝台の上で己の背に張りつく死に怯えるばかりだった。
 校舎に入ってすぐに階段を上がり、放送室や職員室とは階段部分を挟んで反対側にある生徒会室に行く前に、職員室前の公衆電話の受話器を取る。今や珍しくさえ思えるテレホンカードを差し込むと、覚えなれた番号を押した。
 コール音が鳴ったかどうかのところで、相手が出た。
『用か?』
 愛想のカケラもなく、単刀直入に過ぎる声に、つい文句を言いたくなる。出たのが皓以外だったらどうするんだと言っていた時期もあるが、判っているの一点張りで、もうその注意は諦めてしまった。
「至急、警察に連絡を取ってほしい。多分、担当は高坂所だと思うけど、今回の失踪事件に梨木巡査部長と彼と相性が良さそうで冷静な人物を割り当てるよう要請してくれないか」
『ナシキ、下の名は?』
「ケンゾウ、って読むので合ってると思う。まあ、ありふれた名字じゃないから、それだけで大丈夫だろう。頼んだよ」
 判った、との返事もなく、話は終わったとばかりに通話が切られる。
 慣れている皓は、やれやれと溜息を落とすと、受話器を置いて生徒会室に足を向けた。まずは、先生の対応だ。

2006 年 3 月 6 日 密かに詰まっている予定

 午前中に雨が降る中図書館に行ってきました。
 午後からも少し出掛けようとして、雨が止んでいたからやった、と思ったら服を着替えている間にまた降り出しました。え、何それ。

 午後から遊びに来るはずの友人がなかなか来なくて、約束をしたのが結構前だったこともあって、忘れられてる?と疑っていたらきました。歩いて(いつもは自転車)。・・・ごめん、疑って。
 日程が合えば漫画やら小説やらをどさっと交換する友人が何人かいるのですが、家に来てもらう比率が高く、ちょっと申し訳ない。私は紅茶を出すくらいのものです。
 今日会った友人に、大阪の洞窟のようになっている神社に行かないかとの誘いを受けて、結構乗り気になったり。微妙に一般的でなさそうな趣味が、合う友達がいると楽しいですねー。

 明日は、別の友人宅に行く予定。そして彼女とも、大阪に行こうと言っていたり(笑)。

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「失礼します」
 とりあえず無難な台詞を口にしながら引き戸を開けると、室内の人々の視線が集中した。
 生徒会担当の田中と美術部顧問の谷中、写真部顧問の西野に新聞部顧問の山脇、調理部顧問の畠中。教師人はこの五人と、出張中の校長の代理で教頭の笹谷の合計六人。生徒の方は、それぞれの部活や生徒会に関わる者が全員いるわけではないようで、以外に少ない。それでも、教師陣の三倍くらいはいた。
 教師は迷惑や困惑、心配といった感情がそれぞれの比率で混在し、生徒も同様だが、泣き腫らした顔も見られる。生徒会長の秋山だけが、うっすらと共犯者めいた表情を見せた。
 皓は、そうやって冷静に室内の顔ぶれを観察しながら、異様な雰囲気に戸惑う素振りをして見せた。秋山は情報と助言をくれたが、話を通しておくとは一言もいわなかった。
「え、と・・・?」
「君、何の用だ」
 田中教諭が、代表を買って出たと言いたげな態度で口を開く。基本的に、皓がこの学園の理事長であることは理事や中等部と高等部の校長以外は知らされていない。平穏な学園生活を送るためとして、学園長の名は亡くなった祖父からあえて変更していない部分が多いため、皓は学園関係者と知られていても学園長とまでは認識されていない。
 その上、直接教えたこともない教師では、いちいち名前も覚えていないだろう。それでも、どうにか経営者一族に取り入って権力向上を望むものなら別だろうが、田中はそこまではいかない。
 だから皓も、それに合わせて戸惑った一生徒を演じて見せる。
「忘れ物、取りに来たんですけど。あの、こんなに集まって何やってるんですか?」
 おずおずと、しかし明らかに好奇心を見せてみたが、教師の顔つきは晴れない。むしろ一層、怪訝そうになる。
「忘れ物? 一般の生徒が、生徒会室に何の用だ」
「定例会で忘れて、そのままだったんです。ここで保管してくれてるって聞いて・・・何かあったんですか?」
「何もない。用事を済ませてすぐに帰りなさい」
「はい・・・」
 納得がいかない調子をとって、知人の生徒会書記の一人に声をかけ、置いていた予備の筆箱を出してもらう。これは、生徒会長と親しくなって出入りするようになり、便利なので置かせてもらっていただけのものだ。生徒会役員であれば、忘れ物でない事は知っている。
 しかし誰もそのことを指摘はせず、敵意や反感なしに、探るような目を向けるに留まった。皓は、生徒会役員と仲がいい。
「あ、生徒会長、部室の壁の穴のことなんですけど――」
「見つかったなら、早く帰りなさい」
「あの、でも、対外試合とかもあるから、日程だとかちゃんと聞いておけって言われてるんですけど」
 いいから出なさい、とでも言おうとしたのか、息を吸い込んだそのときに、秋山が「ああそれ」と言って、皓が話しかけたのとは別の書記に言って、ガラス戸だなに収まっていたファイルを取らせる。
「小さい穴って言ってたから、とりあえず用務員さんに見てもらって、業者に頼まなくていいならそれで済ませようってことになってるんだ。都合は合わせてくれると思う。そのあたりは、また顧問の先生かコーチとでも話し合うことになるから、誰かに訊かれたらそうこたえておいてくれ」
「え。業者さんに頼むって聞いたんですけど、決まってないんですか?」
「確認もまだだぞ。誰だ、勝手にそんな話にした奴」
「だけどもう手配も済んで――」
「勝手な事しないでちょうだい!」
 日常些事を話し込む二人に何人かが呆気に取られ、何人かが興味をなくして自分の思想に向かい、あるいは怒りや苛立ちを募らせていた。それを、憤懣やる方ないといった女の声が断ち切った。
「警察に言うだなんて事を大きくして、どうせすぐ帰ってくるに決まってるのよ、馬鹿なことしないで!」
 若作りの窺える中年女性は、そう言って、ヒールの高い靴を鳴らして一番年配の教頭に歩み寄った。鶴のような教頭に対し、女はいくらも余分なものがついており、一種の対象図のようだった。
 だがそれを表立って笑うものはおらず、室内のほとんどが、茫然と女を見ていた。女は、とにかく警察への通報をなじり、プライベートの侵害だ、とがなり立てていた。プライバシーと間違えたのか、故意なのかは不明だ。
 皓は密かに、いいタイミングだとほくそ笑んでいた。生徒の失踪を警察に連絡するとなると、当然、保護者の許可なり通達なりが必要となる。時間を延ばせば誰か来て有耶無耶に居残れるだろうと踏んだのだが、狙ったように来てくれた。茜とクラスメイトだということは、話を聞いてから持ち出したほうがいいだろう。

2006 年 3 月 7 日 眠くて眠い。

 また図書館に行ってきました(どれだけ行ってるんだという突っ込みは却下します)。
 帰りに、母に頼まれた買い物をしに行ったらレジが込んでいてちょっとびびりました。そうか、昼までに少し余裕のある時間帯は込むのか・・・。
 家に帰ったら、黒スーツとTシャツの男の人たちがいて(近所に開店する食べ物屋さんのあいさつ回り)、え、何これ家入っていいのとちょっと迷いました。入ろうとしたら鍵がかかっていて、うそんと思いつつ、挨拶を受けて入りましたが。気まずいって、何か微妙に気まずいって!
 その後、等間隔くらいで(錯覚)他に二人来客があり、一体なんだよ、と思いましたよ。知らない人苦手なのにー。

 午後に友人宅にお邪魔して、話をしたり大阪行きの大雑把な計画を立てたり。
 結局唐突に明日行くことになったのだけど、粗方の道筋すら友人に任せ、細かいところも友人任せです。とりあえず私が把握しているのは、たくさんの服屋とハンズと古本や四軒に行くことだけ(爆)。
 誰かが決めてくれるなら、簡単に丸投げしますから。それなのに、中高の友人と会うと決めると、私が半分くらい幹事を務めている(常に適当だから「半分」)のが解せない。

 今日は早めにPCを開いたことだし、見直しも終わった「月を見上げて夜を渡る」でも載せようかと思ったのだけど、「台風の目」でも書くことにします。
 書く方に専念しないと時間足りないよな、ということで。「台風の目」、ちゃんと次発行できるのかいな。
 「旅の行方は誰も知らない」を、もうちょっとエースの性格が「借り物状態」ということを判りやすく書き直したいと思っているのですが、やる暇あるかな。まだ奴の言動は、真似事でしかないのですが。今の文だとあまりわからないよなぁ。これでも直したのに。
 「人を殺すことに躊躇いのない奴が気に入った人のために人殺しの才を潰そうとする」というのは結構好きな題材なので、なんとかもうちょっとちゃんとやりたいー。しかし物騒な題材だな。

 日記連載、一応の終わりどころは決めているけれど途中が抜けているというよくある状況なので、この先が物凄く不安だったりします。
 それにしても、正確や言動が、書けば書くほど他の手持ちキャラになってくる・・・あぁあ。

 あ。梨木刑事、「ジロウ」じゃないです、「ケンゾウ」(汗)。
 実のところ彼の名前に理由付けがしてあるわけではないので、どっちでもいいといってしまえばそれまでなのですが・・・。

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 羽山成の財力と権力に背を押されて警察官がやって来たときには、本人たちの基準による来られるだけの保護者は集まっていた。
 両親が揃っているのは森村家一組だけで、他は片親。もっともこれは、離婚や死別の家が三件あったためでもある。海外出張中で、来たくても来られなかった家もある。今、とりあえず母親が急いで戻るようにしているらしい。
 そんなことで十一人が増えて教室は狭くなったが、皓は、ちゃっかりと居残ることに成功していた。後日、皓が茜に気があるとの噂が流れることになるかもしれないが、それはそれだ。

2006 年 3 月 8 日 「遠出=歩く」のような

 友人と大阪に行って、ひたすら歩いて帰って来ました。
 歩くだけなら、問題のない距離なのですが。初めに行った古本屋で、中古ビデオ八本を購入して、持ち歩くのは面倒でしたよ・・・(馬鹿)。
 いやもう、古本屋を数件回ったから、本が増えていく。驚くほどの冊数を買ったわけではないけど、それでも十冊は超えたからなー。友人は友人で、過去の雑誌や本やを購入していて、重そうでした。二人で、「大阪まで来て何やってるんやろなー」と言い合ったり。
 歩き回りながら、終始「次どっち?」と、私はろくに地図を見ようとすらしませんでしたよ(爆)。ご、ごめん・・・。

 東急ハンズで見つけたポストカード(人物のイラスト)に、二人できゃーきゃー言いながら(?)見入っていました。
 シンプルな感じに、かわいい絵だったのですよー。かわいいというかかっこいい。
 サイトをお持ちのようで、http://www.graffiti-bunny.com/にあるので、興味があればどうぞ(別窓で開きます)。
 結構な種類が置いてあったのだけど、あれだな、お金がたくさんあったら全種類買い込んでいたのだろうな・・・(ただの馬鹿)。

 何かを物語るような、そこから物語が紡ぎ出せるような絵を見ると、何か無性にたまらなくなりますね。
 私は曲がりなりにも物語を書いているけれど、数行を費やしてそれでも描けない情景が、もしも描けたらそれだけで全部伝わるだろうなと思うと、無力というかやりきれないというか。
 焦燥感とでも言いましょうか。
 だけど逆に、それを見て駆り立てられるものもあるのですよね。絵を見て、喚起されて話をつくりたいと思ってしまうような。
 まぁとりあえず、何というか、わくわくする感じがありますねー。大好きだと思う絵を見ると。

 ・・・眠い。

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「二人しか来ないなんて、怠慢だな」
「秋山先輩でもそんなことを言うんですね」
 放送室を臨時に貸し切っての個別の聴取に切り替えた体制の、順番待ちの合間の会話だ。ありきたりの台詞だ、と暗に告げた皓に対し、和利は声をひそめた。
「聞かせるために言ってるからな」
「ああ成る程」
「大体、一人が見張りで一人が聞き込みって、二人一組の原則無視してるよな」
 大声を出しているわけではないが、授業中と休み時間の会話の合間のような声量では、憮然として、といっても多分大半の人には怒っているようにしか見えないだろう表情の見張り人、梨木にも聞こえてしまっただろう。
 皓は、いつ怒鳴り込んでくるかと様子を伺っていたが、無視を決め込んだようだった。
 どうします、と和利に視線で問いかけていると、そっと、美人の女性が近付いてきた。

2006 年 3 月 9 日 ぐだぐだ

 昨日買って来た漫画を読んだり、あまり読まない漫画を整理しようと本棚をのぞき込んだり。
 あれ、振り返ると漫画ばかりだ?

 のほのほとPCを使っていたら、姉(昨日は夜勤・今日は研究課題のために休日出勤で明日は日勤)に「毎日それ(PC)したり本読んだり?」と訊かれました。
 この頃は結構出歩いてるなと思いつつ頷くと、「代わって」と言われました。厭だ。
 やぁもう、あの人を見ていると本当に大変そうで、尚且つそれでよく遊びに行ったりする気力があると、ほとほと感心します。
 姉の仕事も父の仕事も母の仕事(?)も私のやるだろう仕事とはかなりなところで違うから、この先の想像がいまいちできないー・・・。まあ働き出せば厭でも判るから、いいといやいいのですが。
 あーあー、あと二十日ほどしかないですよ。しばらくはないだろう長期休みが〜。

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「はじめまして。あなたが、羽山成君?」
「はい?」
 高校生の娘がいるにしては、若く見える女性だ。警官らとの会話に耳をそばだてていた皓は、茜の母と気づいていたが、名乗った覚えもないのに言い当てられたことに、目を丸くしていた。
 貫禄めいたものが感じられ、何かしら職業のせいなのか元々の性格かと、考えたところで答えの出ないことを考える。
 秋山が、当然のように立ち上がって椅子を勧めた。そうして本人は、すぐ近くの壁に寄りかかって立つ。女性は、それを微笑で受けた。
「ありがとう。羽山成君、茜を心配してくれてありがとう。口実でも、あの子は喜ぶわ」
「・・・すみません」
「妨害しようと思っていないのだったら、謝る必要はないのよ」
 小声だが近くであればしっかりと聞き取れるくらいの声の大きさで、さらりと言ってのける。
「でも、人を挑発するのはやめておいたほうがいいでしょうね。・・・早く帰ってきて、こんな時間、無駄な笑い話にならないかしらね」
 語尾がかすかに震えていて、皓は無言で、肯いて同意を示した。
 叱られるよりも効いて、遊び半分だった自分に気付く。心配も、早く行方不明の生徒たちに帰ってきてほしいのも本心だ。だが、その過程で楽しめる事があるだろうかと思っていたのも本当だ。
 全てではないだろうが、見透かされていたような気分になる。
「先輩、後で連絡もらえますか?」
「うん? ああ」
「ではまた、後で。失礼します」
 秋山と茜の母とに軽く頭を下げ、立ち上がる。個別聴取に移る前の会話で、ある程度事情が把握できたのだから、別行動を取った方が得策だ。似たような経路は警察側も辿るのだろうが、こちらには響がいる分、違った視点で探れる。それに何より、早く動けるならそれにこしたことはない。
 戸口の梨木に、真っ直ぐに目線を合わせる。
「すみません、家に連絡を入れないといけないんですけど、ちょっと出ていいですか」
「ここでかければいいだろうが」
「携帯電話持ってませんから」
「・・・まあいい。戻って来いよ」
「はい」
 にこりと笑い、横をすり抜けるようにして教室を出た。厭そうに顔をしかめ、公務員のそういった態度は苦情が来ますと忠告でもしようかと思ったが、余計なこととの自覚はあるので、黙っていることにした。
 そのまま真っ直ぐに公衆電話に歩み寄って、ダイヤルを押す。
『何だ』
「あ、響。正門に迎えに来てくれるか」
『わかった』
 短いやり取りの後、このまま電話をかけなおして上層部を通じて羽山成皓の行動を黙認しろとでも告げさせてもいいかとも思ったが、そんなことをしても、梨木を怒らせるだけだろう。既に一つ、腹を立てられるだろう要素を抱えている以上、増やしたくはない。怒りを積み重ねられると、捜査情報を聞き出すときに不便だ。
 しかしどのみち、同じようなことになるのだろうが。
「刑事さん刑事さん」
「何だ」
「すみません、戻らなくちゃならなくなってしまったんです。いいですか?」
「・・・何を」
「あ、これ連絡先です。申し訳ありませんが、必要であれば後で家にでも来てください。呼び出しにも応じますから。すみません」
 いろいろな肩書きのついた名刺を押し付けて、小走りに駆け出した。後は、秋山が上手く丸め込んでくれることを願おう。無理だった場合でも、生徒数人と保護者数名に顰蹙を買うくらいのものだ。
 梨木の怒らせ具合はこの方がまだましだろうと思うが、さてどうだろうか。
 そのまま正門まで小走りを続けた皓は、既に止まっている車に無造作に近寄った。
「ありが――え」
 運転席に見知った顔はなく、それどころか、サングラスと口元をバンダナで覆った姿で顔を隠した男が座っていた。
 不意を突かれ、車の陰にいた別の男に後部座席に押し込まれる。口元に何かを押し付けられ、背を打つ衝撃を感じた。基本的に薬の類は利かない体質になったのだが、突然のことに驚いている間に、車が走り出してしまった。

2006 年 3 月 10 日 出費の続く日

 友人と遊んできました。
 カラオケ行って、服を見て古本屋に行って夕飯食べて。

 カラオケ。
 やはり、「ネオメロドラマティック」は私には無理だ・・・。口がついていかない。リズム感ないのかな、薄々気付いてはいたけど(没)。
 久しぶりにSMAPの「オリジナルスマイル」を歌ったら、いかにもアイドルという感じで楽しかったです(笑)。

 服は、春用のコートがほしくて買いに行ったのですが、数種あって、見ているうちに段々と面倒に(爆)。
 自分の服を見るのは苦手なのですよー。適当にあるもの買うから。服屋を見て歩くのは好きだけど、買う服を選ぶのは苦手ー。似合うか似合わないかを見るのが苦手・・・。
 まぁ結局買いましたが。手持ちのお金が足りなくて、カード払い。この間CDも買ったし、末の決算が恐いな・・・ちゃんと給料もらうようになるまでお金あるかな。

 そうして本屋と古本屋とに行って(またか)。

 ご飯を食べていたら、たのんだ一品に髪の毛が入っていて取り替えてもらい、友人と異物混入の話題で盛り上がりました(笑)。
 でもあれですねー、飲食店で働いていると(特に調理部に接していると)、飲食店は決して清潔じゃないとわかりますよねぇ。それでも平気で食べていますが、私。

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「寝たか?」
「う、うん多分」
「多分ってお前・・・ちゃんと手足を縛っておけよ」
「うん」
 厄介なことに、誘拐でも遭遇したようだ。親族関係なのかそれ以外なのか、今の状態では判断がつかない。
 このまま大人しくしていた方がいいのか、意識を失っていないことを知らせて抵抗した方がいいのか。犯人の狙いや背後関係がわからなければ、その判断すら難しい。
 少なくとも、「正門に迎えに」と言っているだけだから、この場を目撃していたところで、響の助けは望めない。こういうときだけは、携帯電話を持っていればよかったと思う。
 どうせ――二年前に一度終わった命だ。
「痛くしないからな、ちょっとの間だから我慢してくれよ」
「馬鹿、早くしろ」
「う、うん」
 おそらくは縄を持ち腕を掴んだ瞬間に、逆に掴み返して体を起こす。呆気なく、立場は反転して相手の体が倒れこんだ。そのまま、手首を捻り上げ、最小の力で相手の動きを封じる。見掛けよりもずっと、痛いはずだ。
「いッ、いだだだだだッ!」
「おい、何をしている!?」
「それは、僕の質問だ。君たちは何者で、何の目的でこんなことをした。遊びに付き合う余裕はないんだ、早く話せ」
「何やってんだ、そんなガキ、とっとと吊るしちまえ」
「そ、そんなこと言われ、痛ッ」
「話す気がないなら、車を止めろ」
「はぁ?」
 バックミラー越しに運転席の男と目が合った気がするが、サングラスを掛けているためはっきりとは判らない。しかし、苛立ちはしたようだ。
 皓は無言で、更につかんだ腕を捻り上げた。

2006 年 3 月 11 日 判ってたけど馬鹿だろう

 ネットで拾ったフリーのゲームで一日遊んでました。・・・他にやることあるだろ。

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「力の入れようでは腕が折れますが、どうします?」
 口調はあくまで柔らかく、にこやかに言い切る。驚いたのか躊躇か、反応には間があった。押さえ込んでいる方の男は、もはや半泣きの気配がある。
「そんな細腕で何ができる」
「てこの原理を知りませんか? 真っ向から押すだけが力の使いようではありませんよ。あ、衝撃があればうっかりと折れるかもしれませんからご注意を」
 慣れた請負業者であれば、それでも、車を寄せるふりをして衝撃を与えて形勢逆転を狙うだろう。そもそもそれ以前に、玄人(プロ)なら少し武術をかじった程度の皓には、隙を見せなかっただろうか。
 この時点で皓は、玄人筋の線はほぼ捨てていた。金に窮した遠縁の親戚か、無関係の金欠者あたりが妥当だろうかと考える。
 運転手は、舌打ちして車を路肩に止めた。
「ドアを開けてくれ。君は動かずそこにいてくれ。ああ、車の鍵を投げるように。心配しなくても、後で交番に届けておくよ」
 痛みに耐える青年にドアを開けさせ、そのまま外に出させる。出る前に、前座席から投げて寄越された鍵を青年に拾わせて、皓の上着のポケットに入れさせる。
 出たらタクシーをでも拾うかと思っていた。青年は解放して、走って逃げてタクシーを拾う。外に出たところでその馬鹿馬鹿しさに気づき、動きを止める。少し、考えた。
「お兄さん、僕を誘拐しようとしたんですよね?」
「そ、そうだ」
 応えなければ力を込められると思ったのか、案外素直に肯定する。体格の差を利用して反撃でも試みればいいのにと思わないでもないが、今は都合がいい。
「それは、お金が入用だったと判断して差し支えありませんか? もしそうであれば額によっては相談に乗りますが、少し、僕と話をしてみませんか」
「え?」
「当面の身の安全ともしかすると人手が必要になるので、早い話が、バイトをしないかというお誘いです」
「・・・兄貴」

2006 年 3 月 12 日 目に負担

 ぼちぼちと、「台風の目」を書いていっています。…凄く、変(不必要)に長くなる予感が。
 それにしても書きながら、それぞれの年齢が判らず、設定を。い、今更だな…!
早くこれを書き終えて、過去編を書きたいなー(というか他の未完の話は?)。

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「馬鹿、情けない声出すな」
 たしなめる声に考える気配を感じ取り、皓は、青年から手を離した。距離を置いて、ボンネットに軽く寄りかかる。
「相談するならご自由に。ついでに、話は手短にしてもらえると助かります。あ、それとこれは好奇心ですけど、あなたたちは、僕を何者だと思って誘拐したんですか?」
 梨園学園の生徒だから、ということはないだろう。あの学校に通う生徒は、裕福な家庭の者も多いが、一般家庭も多い。その辺りの比率は、私立としては目立ってどちらに偏っているというものでもなかったはずだ。
 皓を羽山成の、ある種の頂点と知らなければ、知らせたほうが交渉の余地が広がるかもしれない。
「…答える義理はない」
「そう? それなら、僕はこのまま逃走して交番にでも駆け込むことにします」
「まっ…」
 待てと、言いたかったのだろう。駆け出そうとしていた皓も動きを止め、止まっている車のすぐ後ろに停止した銀色の車を凝視していた。
 紙が数枚通せるだけの空間を空けて止まった車の運転席には、見慣れた顔があった。
「響? どうしてここに?」
「迎えに来いと言っただろう」
「ああ。なるほど、そこを切り抜いてくれたのか。ありがとう、助かる」
 皓の位置が判ること自体は知っているが、来てくれるとは思っていなかった。早速後部座席に座ろうとした皓は、ポケットの中の車の鍵に気づいて、ぽかんと立ち尽くしている青年に放り投げた。
 青年は、咄嗟に手を広げて受け止めたものの、鍵の端が当たりでもしたのか、痛さに呻いてしゃがみこむ。
「あー、すみません。では、僕も用事があるのでこれで失礼します。響、出して…何してるの?」
 見遣った運転席では、窓からナイフを持って飛びかかろうとしていた前の車の運転席にいたはずの男が、響の開け放ったドアにぶつかり、もんどり打って道路に転がっている。
 車が通るのに危ないなあと見ていると、さすがに気付いたのか、男はどうにか立ち上がり、車のある路肩に避難した。
「響?」
「向こうが来たんだ」
「いや、それは判るよ。何故こうなったのか、判る? あ、車はまだ出さないで」
 個人的に恨みを買っているとなれば、晴らせるものなら晴らした方がいい。悪魔である響がどのくらい人間らしいのかは知らないが、万が一にでも、ナイフで刺されて入院、という事態は避けたい。そんなことになれば、未成年の皓は、いいようにあしらわれかねない。
 自分の車に寄りかかる男に、弟分なのか実の弟なのか、青年がおろおろと近付く。
 皓は、溜息をついてドアを開けた。ナイフは車道に落ちたままだから、近付いても大丈夫だろう。
「大丈夫ですか?」
「く、車っ、110番!」
「救急車なら119番ですが。パトカーを呼んでしまっていいんですか?」
「え。あ。ちがっ、兄貴が死ぬ!」
「…勝手に殺すな」
 どうしようコントだ、という感想は、控えめな笑顔の下にしまっておく。憎めない性格だなと思っていると、男に、ぎろりと睨まれた。
「一つお伺いします。響を狙ったのは、運転手を足止めようとしたのか、恨みがあるのか、どちらですか? 答えていただけない場合、弟さんのご希望通り、警察でも呼びましょうか?」
「あ、兄貴ぃ」
 男は、胸の辺りを押さえている。窓の枠にでも当たったのかもしれない。
「余談ながら、もし恨みが羽山成に関わっている場合、彼を襲うのはお門違いだろうと思いますよ。総帥は僕で、彼はとりあえず秘書ですから」
「……お前、が?」
「だから、相談に乗るって言ったじゃないですか。無力なただの高校生にそんなことはできないだろうけど、僕は、ある程度は力がありますよ?」
「それなら…オヤジの会社を潰したのも、お前か」
「会社名は?」
 そこまで言っておきながら、男は口を閉ざしてしまう。皓は作戦を変え、青年の方を見た。
 青年は、それだけでびくついたようだが、男と皓を交互に見て、意を決したように皓を見つめる。
「何も言うな」
「立原ねじ。俺たちは、そこで働いてた」
「馬鹿ヤロウ!」
「響」
「……。昨年五月、質の低下を理由に取引を絶ったことになっている」
 正直なところ、皓が羽山成を統率しているといっても、細かいところは現場や、それそれの分野のものが行っている。皓は、その采配を振るうことすらろくにない。
 だから普通なら会社名を聞いたくらいでは判らないところだが、響の頭脳は、意識が加わっているだけにパソコンよりも優れている。記憶一つでそんな末端を引きずり出した響に、会社、特に大会社の社長秘書などは、仰天するに違いない。
 兄弟かもしれない二人はそのことに気付いた様子はなく、やはり知っていたのかとばかりに皓を睨む眼に力が加わった。
「低下なんて、してなかった! 俺たちは、ちゃんと仕事をしてた!」
「ただあんたらは、俺たちみたいな年少上がりの働くところとの取引がいやになったんだろ?!」
 どう思う、と響を見ると、首を振る。皓は、肩をすくめた。
「それでは、僕を誘拐しようとしたのは、取引の再開が目的ですか?」
「…」
「会社が…借金で、身動きが取れなくなったんだ。おやっさん、無理して倒れちゃうし…」
「ああ。それで、悪の元凶からなら掠め取ってもいいと思ったわけですか」
「どうせ、あんたらにははした金だろう」
「お兄さん方、日本での誘拐の成功率を知ってますか? 大体、下手をしたら僕を殺されて、その罪を被せられていましたよ」
 羽山成の内部事情など全く知らなかったらしい男たちは、訝しげに眉間にしわを寄せた。
 皓は、そんな様子に溜息をつき、考えをまとめる。
 それにしてもこの二人は、そんなことをすれば余計に立原ねじの社長に肩身の狭い思いをさせるとは思わなかったのだろうか。恩義の感情から犯罪者になられても、皓なら嬉しいとは思えない。
「話はわかりました。とりあえず、その借金は僕が肩代わりしておきます。取引を打ち切った件については調査をして、あなた方の言い分が正しければ、そちらが望まれるなら再開します。取引中止が正当だと判断した場合は、肩代わりの借金は、期限は切りませんが、何らかの方法で返してもらいます。それでいいですか?」
 二人は、信じられないというように皓を見つめていたかと思うと、ほぼ同じタイミングで、お互いの頬をつねった。またもや、コントだ。
 苦笑をかみ殺し、響に言ったような手続きを頼む。
「ついでに、気が向いたら連絡をください。先ほども言ったように、お願いしたいアルバイトがあります。響、名詞ちょうだい」
 渡された紙片をそのまま二人に手渡し、今度こそ、皓を乗せた車は走り出した。

2006 年 3 月 13 日 ううう

 青春十八きっぷを購入して、一挙に一万円以上がとびました。わ、私本当に、給料もらうまでの生活費あるだろうか(汗)。
 今更貯蓄は無理と諦めているので、それは仕事が始まってからにするつもりでいますが。それにしても、貯金が残り五万もない(カードで買った服とCD代を引いて)のは如何なものか。まだ、明日の小旅行と再度の京都旅行、神戸観光(笑)に飲みに行く約束が二つあるのですが。あ、本も買うのだった(五千円)。
 ……何か凄く不安です。

 友人からバトンが回ってきているのかいないのかよく判らないので、名前の似ている別の人なのだろうということにしておきます。
 実際そうだったら恥ずかしいしね!
 えーと、もし私宛だったら連絡(?)ください。というかここ見てるのか…?

 ところで、先日友人と遊んだ際に話していて気付いたのですが、社会人になると中高の友人たちと遊ぶ機会がぐっと減りそう…(ただでさえそんなに遊んでないのに)。
 就職の決まっている友人たちは、土日が休みというところが多いのです。対して私は、小売業。…週末なんてむしろ入れと言われそうだ。
 平日が休みだと、出かけたときに人が少なくていいのですが、友人と遊びに行けないのは淋しいなー。夜なら会えるかもだけど、夜なんてご飯食べるくらいしかないじゃないですか。しかも翌日も仕事と思うと、あまり。
 あー…いいな、自由業(何か間違った認識)。

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「お待ちしていました」
 にこりと、笑みを浮かべる。逆に客人は、不機嫌そのものといった表情になった。
「もうお一方はどうされたんですか? 二人一組の行動が原則ではないんですか?」
「お前には関係ない」
「いいんですか? 違法捜査だと訴えてしまいますよ」
 舌打ちが返され、皓は、顔をしかめて見せた。明らかなマナー違反だ。
 もっともそんなこと、皓に言えたものではないのだが。食後に淹れた紅茶のカップを抱え、来客に対して座ったままで立ってもいない。
「なんて、そんなことしませんけどね。僕には何の得もない。早く皆が見つかれば、それでいい」
「…まさか、お前が理事長だとはな」
「とりあえず、座られてはいかがです? 紅茶と珈琲、どちらがお好きですか」
「そんなこと聞いてねえ!」
 皓は、困ったように微笑した。梨木は、しばらくそんな皓を睨みつけていたかと思うと、どかりと、向かいのソファーに腰を落とした。
 夕食時も過ぎ、外では、空がいよいよ闇に染まっている。冬至は終わり、これからは徐々に日没が遅くなっていくはずだが、一月上旬とあっては、まだその実感もない。
 制服のジャケットの代わりに厚手のカーディガンを羽織った皓は、空調の利いた室内で、冷えていたせいで赤くなっている梨木の指先を見つめ、小さく首を傾げた。
「やはり、温まれた方が。珈琲でよろしいですか? 響、淹れて差し上げてくれ」
 無言は肯定と決めて、来客が判った時点で執事めいた役柄を決め込んでいた響に指示を出し、自分は湯気の立つ紅茶を一口飲んだ。
 この刑事が来るまでに、皓の誘拐を目論んだ二人が連絡を寄越し、行方知れずとなった生徒たちの直前の行動を調べてもらうよう頼んである。あの言動だからあまり期待はしていないが、既に借金返済を済ませたことに感謝したのか、やる気はあるようだった。
 ついでに、出張から戻ったばかりの高等部校長から連絡があり、明日の推薦入試をどうするかとの伺いの電話があった。遠方から時間を調整して足を運んでいる者も多いからと決行を促したが、事態が解決する前に外部に知られれば、問題視されることはほぼ確実だろう。そうなれば、責任を取って自認し、後は誰かに任せてしまおう。学園運営に、さして執着はない。
 そもそも皓には、財産や権力への執着が乏しい。羽山成の名を背負って一手に握っているのもいいが、全て失って親戚連中を混乱に陥れるのもいい。ただ後者は、真面目に働いている末端を思うと、そう実行にも移せない。上層部から羽山成の親戚連中だけが弾き出されるなら、望むところなのだが。
 響が珈琲を運んでくるまで、梨木は無言で皓を凝視していた。
「ところで、こちらに来られたご用件は何でしょう。捜査ではありませんね、単独行動を取られているようですから。時間外の個人活動と取って、間違いありませんか」
「だから何だってんだ」
「それなら、こちらも非公式の話が切り出せます。生徒の無事を願うのは、僕も同じです。失礼とは思いましたが、人を雇って調べさせています。つきましては、こちらで判ったことはお伝えしますので、そちらの情報もお聞かせ願えないでしょうか」
「な…」
「捜査本部も立っていない状況では、手は多いほうがいいでしょう?」
 できる限りの直球だ。笑顔は嫌味に写るだろうと、真顔で梨木の目を覗き込んだ。
 断られれば裏から手を回して、上司か相棒あたりから情報を回してもらうつもりではいるが、本人からの方が手っ取り早いのだが。
「…まさかとは思うが、俺が担当になるように仕向けたのは、お前か?」
「僕は、行方不明になった生徒が無事に戻ることを一番に考えています」
 怒鳴られるだろうかと、身構えた。
「っ……はあぁ」
「?」
 苦虫を噛み潰したような、というのはこういう表情かと思う。
 梨木はそのまま、上着の内ポケットから黒い手帳を取り出して開いた。

2006 年 3 月 14 日 寒さに打ち震えて笑っておりました(何)

 大阪にある神社に行くために、朝から出掛けていました。神社というか、岩窟めぐりをしたかったのですが(地面が濡れていたためできませんでした)。

 あまり下調べをせずに行ったら道が判らず、少し、うろうろと駅の近くをさまよっていました。観光マップをあてにしては駄目ですね! 縮尺とか位置とか凄いことになってるものね!
 どうにかこうにか星田妙見宮(北斗七星が祭神だったように思うけれどどうだっただろう)を見つけて、そこの社務所で道を訊いたら(訪れていた地元の人が)途中まで車に乗せてくれて、山を登って行ってきました。
 楽しかったです山のぼり。自然公園(?)になっているとかで、少し手を加えられた山道が。
 途中につり橋があって、アスレチックにあるようなのではなく本当の(?)つり橋ははじめて、やー、恐かったですよー(笑)。
 固定されている両端はそうでもないのだけど、吊るされていて下が固定されていないところがね。揺れて、友人と一緒に笑いながら歩きました。「笑うしかない状況ってあるもんやな!」などと言いながら。いやほんとに笑った。
 先日(今日行ったのと同じ友人と)行った京都の空中怪路と、どっちが恐いかという話になったり。私は、空中怪路の方が恐かった。だって足元、クリア盤ですよ? 下が見えるのだよ恐いよ! 
 友人は、今日のつり橋の方が怖かったらしいけど。
 帰りの山道で雪が降ったりもして、そこでも笑っていました。妙にテンションの高い山登りだった(笑)。

 その後、時間が余ったので元町で途中下車して、ガード下を(主に古本屋目当てで)歩いて、そのまま神戸で湊神社に。
 古本屋、前行ったときに見かけなかった店があったり、逆にあったはずの店がなくなっていたり(単に休店日だったかもしれないけど)。
 とりあえず一番の収穫は、『聊斎志異』でしょうか。岩波文庫で上下二巻。中国書籍が増えていくー(笑)。

 昨日寝たのが遅かったこともあり、眠いよーと呟きながらの道中でした(爆)。

 ところで、昨日書いた友人からのバトン、回ってきていたようです(苦笑)。
そんなわけで回答をば。SMバトン、古賀柚流嬢からです。


■あなたはS?M?
Mではないと思うけど…Sともいまいち思えませんが。

■いじめたい人いる?
うーん? いや別に。面倒だしね。

■いじめてもらいたい人は?
いやこれも。つかいじめられるなら、無関心でいいですよ? 私も無関心でいるから。

■愛故に人を殴ったことはある?
愛故にというか…ある程度以上親しくなると、手や足が出ますね(そうでない相手と半々くらいですが)。
とりあえず一番の被害者は、小中高と同じ学校で就職先まで一緒になった某友人。一度、鳩尾に冗談抜きで拳が決まったことも…よく友人やってるよね…(汗)。

■あなたは犬系?猫系?
猫っぽいと言われるしそう思うけど、根は犬のような気も。

■誰に飼われたい?
えーと、それはあれ? 男だったらヒモ状態?(女でもそう言うのかいな)
だったら、力ずくで遠慮しますとも。結婚すら想像できないー。

■誰を飼いたい?
え、他を養う余裕はないですよ。

■まわす5人は?
うーんー。稲やんと夜一さんあたり、暇と興味があったらお願いします。
残りの三人は永久欠番ということで(え)。

 毎度面白味のない回答で、せっかく回してくれたのに申し訳ない(汗)。

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「脅迫の電話や手紙の類は、今に至るまで皆無だ。もっともこれは、あればすぐに理事長にも知らされることだから、判っているだろうが」
 意外にも簡単に開いた貝の口に、否やを挟む必要もない。皓は、黙って拝聴することにした。
 そうして、行方不明の生徒らの親の職業、今日生徒会室に集まっていた生徒からの評判、親や生徒による日ごろの素行などが、完結に並べ立てられる。記憶は響に任せている皓は、それらの印象を頭の隅に書き留めておく。行方の知れなくなるまでの、学校での足取りも読み上げる。
 皓は素直に、見かけの印象よりも几帳面で要点を心得ている梨木の能力に感服していた。
「以上だ」
「わかりました。ありがとうございます」
「次はそっちだ。こういったことをやりそうな心当たりは」
 半ば本気で、驚いて瞬きを繰り返す。
「集団誘拐だとのお考えですか?」
「いいから答えろ」
 ちらりと響を見て、肩をすくめる。優秀な秘書にして保護者は、音も立てずに部屋を出た。すぐに、力ずくで事を運びかねない競争相手の一覧を持って戻るだろう。
「確かに、偶然にしては不自然だと思います」
「そんな意見は聞いてない」
「共通点は、現在見える限りでは、生徒会企画のバレンタインイベントに関わって昨日も休日返上で投稿していたという一点と、強いて挙げるなら世界のチョコレート・ショーに使うチョコレートの泉の試運転に立ち会ったということくらいですね。他は、登校時間も昼食を取った時間もばらばら、下校時間はほぼ同じではあるけれど、これは規定の下校時間を過ぎたから。生徒たちへの個人的な恨みというよりは、学園や羽山成に対したものととる方が納得できますね。事故や個人の恨み、本人たちの自由意志がたまたまこの日に集中したというには、八人は多すぎる」
 そんなことは訊いていない、という声を無視して、それまで考えていたことに梨木から聞いた話を織り込む。
 梨木が事実と思われるものを整理して羅列したのに対し、皓は、それを一部強調した形でまとめてみせた。営利誘拐か欲望に任せたものかは、現時点ではまだ断定できない。
 ぬるくなってきた紅茶を飲み干し、軽く腕を組む。
「付け加えるなら、他の女子生徒はチョコの泉の試運転には立ち会っていませんね。他に居合わせたのは、教諭の田中や生徒会長の秋山をはじめ、調理部では副部長の海藤、写真部と新聞部両方に籍を置く保住、生徒会役員の川奈、鈴木、田淵の合計七人。学外関係者では、企画のために協力をしていただいている菓子職人の助手が二人、それと、チョコの泉の装置を貸し出してくださったチョコレート専門店の事務員が一人。彼らは、全て男性ですね」
 怒りながらもそれなりには耳を傾けていた梨木だが、ここに至って、音を立てて堪忍袋の緒が切れたようだった。
 席を立ち、唾がとびかねない距離にある顔を、音もなく入室した響から渡されたA4のプラスチックファイルで遮る。
「チョコレートの臭いのした女子生徒だけを選んで、連れ去ったとでも言うつもりか、ぁあ? それなら、息抜きにチョコをかじった女性とがいれば、行方不明者の仲間入りをしていたんだな?!」
「どうぞ、ご希望の品です。上のファイルが学園に絡むもので、下のファイルが羽山成関連会社に関するものです。細かい質問があれば、この名井にどうぞ。彼が、僕の代理で羽山成をまとめてくれています。おかげで僕よりも詳しい。名刺も一緒に入っています」
 二つに分けられたファイルには、表紙に皓が言った通りの短文が打ち出されている。よくあれだけの時間で、これだけ用意できたものだ。悪魔というものは、それほどに人よりも優れているのだろうか。
 怒りを逸らされた形になった梨木は、ぽかんとしたかおで、渡したファイルを受け取った。
 そうしてはっと、我に帰る。
「ついでに、昨日は何をしていた」
「事情聴取ですか? 構いませんが、僕自身のものを調べたところで意味はありませんよ。もし僕が犯人であれば、直接するはずがありませんからね」
「…疑ってるわけじゃない」
「それなら、そういうことにしておきますが。昨日は、朝食を自宅でとってから七時頃には家を出て、えーと、どの会社に行ったんだったかな」
「貿易社で書類の決済、会議を済ませて昼食を三輪物産の専務らととり、午後からは海産部の新製品開発室に出向き、その後は海産部の書類決済。夕食を宝飾部のデザイナーら数人と共にとり、その後に宝石店の売り上げ報告を受け、帰宅が十時過ぎです」
 黒川の手帳を出して喋ってはいるが、皓は、それがほとんど格好だけのものだということを知っていた。何があるのかわかったものではないから、常にメモ書きを残すように言ってはいるが、実のところ、そんなものがなくても空で言えるはずだ。
 滔々と語られるそれを、梨木は反射に近い動作で書き留めていた。
「この家は、特別な用事がない限り使用人を九時には帰しています。昨日も、帰宅したときには誰もいなくて、十二時前後に高等部校長の桂川から生徒が一人行方不明で警察に通報したという報告を受けるまでとそれ以後は、僕と響は適当にくつろいでました」
 それも細々と書き記し、梨木は眉をひそめた。
「名井さん、あんたはここに住んでるのか?」
「はい」
「聞いてませんか? 彼は、僕の後見人でもあるんです。そのあたりの説明は少しややこしいのですが…簡単に言えば、家族のようなものです。だから残念ながら、証言は採用されないでしょうね」
 家族の証言は、証拠としては採用されない。さらりとそのことを肯定して、他にはと問かける。
「いいか。妙なことは考えるな。素人が下手に手を出しても、いいことなんて一つもない。どこに何を頼んだかは知らないが、即刻取り下げることだ。いいな」
「おや。協力体制を組めたと思っていましたが」
「大人しくしてるなら、少しくらいは話をしてやってもいい。どうせ、どこかから聞いてくるんだろう。だがな、勝手なことはするな」
「みんなに、早く無事に戻ってもらいたいだけなんですけどね」
 ひと睨みして、二札のファイルを持って部屋を出て行く。響が、礼儀正しく先導した。
 一人残された皓は、すっかり冷めてしまった手のつけられていない珈琲を眺めやり、天井を仰いで溜息をつく。熱心な愛すべき頑固者は、扱いにくさでは桂川など足元にも及ばないようだ。
「皓。今日の分の書類がたまっている」
「わかった」
 ぼんやりとしている間に戻ってきていた響に返事をして、立ち上がる。夕方から始めるつもりだった仕事を押しやっていたが、放置もできない。ちなみに、昼の梅谷姉妹との時間は予め予定していたものだから、その点では問題がなかった。
 忠実な部下はさっさとティーカップとコーヒーカップを片付けてしまい、皓は、父が書斎として使っていた部屋に足を運んだ。
 積まれた書類はうんざりとする枚数で、こんな仕事がしたいのなら熨斗をつけてくれてやるのにと、親戚連中の顔を思い出す。だがだからこそ、そんなもののために両親を殺した彼らを、皓――紅子は、絶対に赦さない。
「何か食べるか」
「頭脳労働には甘いものだね。適当に選んで持ってきて」
 相変わらず足音一つ立てない青年に、気軽に声を返す。たとえ最期を告げた途端に魂を連れ去る悪魔だとしても、皓にとっては、響は唯一の家族で頼れる相棒だった。

2006 年 3 月 15 日 洗濯日和


 先日、サイト持ちの友人が携帯電話で話を書いていると知って、ありえねぇと突っ込みました(そのとき一緒にいた別の友人と一緒に。ここまで直截ではなかったけど)。
 よく携帯電話で打ち込めるなー。私には確実にできない芸当だ。
 何しろ、隙あらば解約を目論んでいるもので。仕事でどう使うか見当がつかないので、しばらくは無理ですが。便利なのは判るし実感もあるけど基本的に嫌い。
 携帯電話で受信したメールを、PCで返信というのも日常(爆)。下手したら一日枕元に置きっ放しで、PCに来たメールよりも気付くのが遅くなるということさえあるという。携帯電話で返したメール、単語だけで返すときもありますしね(苦笑)。
 やぁ、凄いや。

 そういえば昨日、大学の友人がここを見ていることが発覚(笑)。
 元々私がサイトを持っていることは知っていたのだけど、小さな手がかりと私から連想されるキーワード(一体何だったのか気になる・笑)からここを探し当てたというその検索手腕には脱帽です。ネットの探し物、得意ではないので羨ましい。
 アドレスを教えなかったのは、友人が読んでいる小説のジャンルが違うから、私の話を読んで持つ感想がこわいなーというのがあったのですよね。ジャンル関係なしに面白いと思うようなやつが書けたらいいのですがね。それができたら作家になれそうだよ!(爆)
 まぁそんなわけで、批評してくれてもいいけどメールでお願いします〜(私信)。内容はともかく口頭で言われると気恥ずかしいから。

 感想もらうと嬉しいし、ここどうよ?という突っ込みも助かるのですが、顔を合わせて言われたら恥ずかしい…。
 や、どんな感想でも文面・口頭問わずもらえるだけで嬉しいのですけども。

 ところで話は変わりますが、青酸カリ。
 ドラマ(「相棒」スペシャル)を見ていてウィキペディアで調べたら、アーモンド臭がするという知られた一文が。そしてその後に「ここでいうアーモンド臭とは、収穫前のアーモンドの臭いである」と。
 えええええ、収穫前のアーモンドってどんな?! 通常見かけるのは炒られた後だから、大分臭い変わってるよね?!
 気になるー…(笑)。

 そんな友人たちの話でお茶を濁しつつ(?)、今日は布団を干して本を読んでました。
 
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 誘拐や誘拐未遂の体験はこれまでにもあるが、二日で二回という回数は記録的だ。
「小夜子さん、寒くないですか?」
「よく、落ち着いてられますね」
「褒め言葉と取っておきましょう」
 にこりと、笑顔を返す。もっとも、背中合わせに拘束されているから、見えはしないだろう。切り返す小夜子の声も、案外落ち着いている。
 事態は、数時間前に遡る。
 推薦合格者の報告を受けるために学園を訪れた皓は、帰り際に梅谷姉妹と顔を合わせ、前日の埋め合わせを口実にお茶に誘われた。断ってもよかったのだが、昨日の二人からの報告は夜になってから、梨木刑事が来るとしても夜のことで、その点での余裕はあった。うっかりと昼食を取り損ねていたこともあり、迷っていたところを捕獲された。
 はじめは真夜子と小夜子の姉妹と響と皓の四人で喫茶店のテーブルを囲んでいたのだが、途中、真夜子が友人との約束があると先に席を立ち、響が携帯電話で仕事上のやり取りを始め、皓が会計に立った。小夜子もそれに従い、店内から通りに出たわずかな時間だけは、皓と小夜子の二人きりだった。
 しかしだからといって、その瞬間を狙って誘拐されるとは思いもしなかった。
 それから揃って車で運ばれて、物置なのか倉庫なのか、放り込まれたまま今に至る。気を失っている間に目隠しと猿轡は外されたが、それが逆に人が来ない場所だと知らしめるようなもので厄介だ。
「小夜子さん」
「何?」
「都合よく、鏡やガラスの破片なんて落ちてませんか?」
「見当たらないわ」
「残念」
 もっとも、目が覚めたときには大分日が暮れていたから、陰に隠れていれば判らない。だがそれを探して動き回るためには、せめて足の戒めは解かないと難しい。
 そもそもが、衣料品の詰まったダンボールくらいしか見当たらず、尖ったものが落ちているというのは都合のよすぎる話だろう。
「多分、僕が巻き込みましたね。すみません」
「あなたのせいなの? 羽山成ではなくて?」
「僕が総帥に納まったから、僕が遺産を継いだから。内部犯という可能性が高くて、やる気の多さに涙が出るほどです。助かったら、改めて鄭重に謝ります」
 積み上げられたダンボールに四方を囲まれ、それぞれが足を伸ばすくらいの広さはあるものの、圧迫感は免れない。
 今度こそ、響は助けに来てはくれないだろう。秘書やその他の肩書きとして必要なだけの対応はしてくれるだろうが、位置を察知して駆けつけてくれることは期待するだけ無駄だろう。
「それなら、謝罪に婚約発表でもしてもらおうかしら」
「すみません独身貴族希望です」
 小夜子がその座を望むこと自体には、さして驚きはない。真夜子はそうでもないが、小夜子には、付加価値のある夫を適当に手玉に取ろうと目論んでいるところがあった。いわゆる、玉の輿狙い。
 それにしても、この場で口にする度胸には感心する。
「だけど、いつかは結婚するんでしょう?」
「僕が死んだ後で、山分けなり誰かが納まるなりすれば十分でしょう?」
「自分勝手なのね」
「自分本位と言ってください。血縁者だからというだけで魑魅魍魎に囲まれて成長するのも、厭ですしね」
「子供のこと? まるで体験したように言うのね。あなたは、羽山成とは関係なく育てられたのではなかったかしら」
「…紅子から話は聞いてますから」
 口が滑ったというよりも、小夜子が鋭いような気がする。
 こんな状況で何を呑気に話しているのかと思わないでもないが、拘束を解く手段が見つからず、犯人からの接触もないでは、話でもするか寝るくらいしかやれることはない。
 両手足の拘束が、血が止まる解きつくがないのがせめてもの救いだが、抜けるほどはゆるくない。
「紅ちゃんと、連絡を取り合っていたの?」
「少しだけ、内緒で」
 だからって私たちにまで隠すことはないのにと、独白めいた呟きが聞こえた。淋しそうで、胸を突かれる。本当は、そんな隠し事なんてしていなかったのに。
「……紅ちゃんがいなくなって、泣いた?」
 立ち会った自分の葬式で、姉妹は血の気の引いた顔を、毅然と上げていた。そうして、二人きりになったときに泣いたのだろう。
 皓は、笑劇(ファルス)を見ているような、今から舞台に上がるような気持ちでいたことを思い出す。
 両親の葬儀のときには、疲れて倒れてしまった。しばらくは、泣きすぎで頭が痛かった。紅子の葬式で感じたのは、淋しさと不安。それ以上の、自由だった。
「喪失感はあったけれど、涙は出ませんでしたね」
「そう」
 どうでもいいような返事があった。暗闇に、束の間の沈黙が降りる。
「名井さん、ちゃんと気付いて対応してくれるかしら。真夜ちゃんは、家に帰っていたらそろそろ気付いていると思うけど」

2006 年 3 月 16 日 頭痛い

 PCモニタ見すぎて頭いたいー。

 午前中と夕飯の後から。延々モニタと睨めっこ。そりゃあ痛いわ。
 でもだって、明後日までに「台風の目」くらいは書き上げたいのですよ。そうしたら学校で印刷できるかもだから(セコイ)。
 あー、書いても書いても終わらない。日記連載込みで。
無駄に長いのだよな基本的に…。

 ところでさっき、父と話をしていまして。
 父:「LD870枚。一千枚も夢じゃないって感じになってきたなあ」
 私:「夢にしといてむしろ」
 ……そうか、手持ちのキャラクターの会話は私の会話と変わらないのか。突っ込み具合が。
 当然といえば当然だけど、気付いた時点で何か腹立たしいです(没)。

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「僕が無断で行方知れずになることはないから、異常には気付いてるだろうと思うよ」
 だからといって何ができるわけでもないと思うのだが、そんなことを口に出してまで言う必要はない。
「身代金目的でちゃんと帰してくれるつもりだといいわね」
「ああ。悪いね、関節の外し方でも習っておけばよかった」
 さっきから試してはいるのだが、一向にそんな様子がない。縛られているのが一人ずつなら、片方の縄を歯で噛み切るなり転がって親指を打ちつけて脱臼を試みるなりできるのだが。
 小夜子が何か言おうとしたようだが、足音が聞こえた。ぴたりと口を閉じる。
 扉の開いた音がして、おそらくは足音の主が、入ってきた。一つだけ低くなったダンボールの向こうに、白い顔が覗く。それは、体つきから判断するに成年には達している男だろうが、白い狐の面をかぶっていた。
 京都旅行で見かけたなと、のんびりと考える。伏見稲荷へ行く途中で売られていた気がする。土産でもらったか買ったかしたのだろうか。
「外に出ろ」
 甲高い声に、変声器ではなくヘリウムガスだろうと見当をつける。
 こんな状況ながら、笑いそうになって困った。どうも、背後で小夜子も笑いをこらえている気配がある。
「出ろと言われても、立てません」
 段ボール箱を跨いだ狐面は、皓の言葉に反応してというよりは、当初の予定のように皓の足を縛ったローブを切り落とした。
「立て」
 一人だけ足を開放されてもどうやって、と言うよりも先に、狐面が小夜子を抱き上げた。繋がったままの腕を引き上げられ、無理やりに立たされる。小夜子も腕が傷んだはずだが、悲鳴を飲んだ。
 引きずられるようにして、ろくに足元も見えない状況で歩き出す。しかも、後ろ向きだ。いつ転んでもおかしくないのだが、そうなると小夜子に痛い目にあわせることになり、必死で体勢を保とうとする。
 先ほどの部屋同様に段ボール箱と埃の積み上げられた廊下を歩き、コンクリートの階段に突き当たったところで、忠告もなく止まる。
 危うくこけかけた。
「携帯電話?」
 小夜子の声が、疑問の形をとって状況を知らせる。電波の通じるところまで引っ張ってきたということだろう。そうなると、電話口に出されるのか。
 居場所のヒントくらい伝えたいと思うが、そもそもの現在地に見当がつかない以上、どうしようもない。車には、乗る込む前に気絶させられている。
「相談は済んだか。…替わる」
 いきなり突きつけられたプリペイド式の携帯電話に、大人しく耳をあてる。
『社長ですか?』
「ああ、僕だ。悪い、犯人たちに誘拐されたらしい」
「わかったな。指示を待て」
 響の声が聞こえたのも束の間で、すぐに耳元から離されてしまう。少しばかり飛躍した日本語で複数犯だとは告げたが、何の足しにもならない。代わりに、殴られでもするだろうか。
 狐面は、携帯電話をしまうと、無言で歩き出した。戻っていく。
 元の部屋に戻ると、新しい縄を出して、皓の足を縛り直し、簡単に背を向けた。
「交渉をするなら、僕を相手にした方が早いと思いますよ」
 狐面が振り返る。
「現場を支えたり統括しているのは僕ではありませんが、一応、それらの頂点ということになっていますから。最高責任者。解任された覚えもありませんし」
「大人しくしていろ」
「ああ。それとも、僕の解任が条件だったりしますか?」
 今度は、足を止めることなく去ってしまった。容疑者が多すぎるから、度胸と自信があれば誰かやりかねないと思ったのだが、何の手がかりもつかめなかった。
 溜息がこぼれる。
「とりあえず、無事に帰そうという気はあるみたいね」
「ああ…そうだね。腕、大丈夫?」
「指は動くから、たいしたことにはなっていないと思うわ。あまり、傷口を見たいとも思わないけど」
「それは良かった。ついでに、少し協力してもらいたいことがあるんだけど、いいかな?」
「内容によるわ」
 こんな状況でも、小夜子は落ち着いている。恐くないわけはないと思うのだが、それを押しやって平静でいられるところが凄い。
 一見、真夜子の方が気丈に見えるが、実際には小夜子の方が強い。
「少し、試してみたいことがあるんだ。何も起きないかもしれないし、君を危険にさらすことになるかもしれない。詳しいことは…信じてもらえないだろうから話さないけど、それを少し、試してみてもいいかな」
「随分と曖昧なのね。具体的には、何をするつもり?」
「さっき歩いて思い出したんだけど、ポケットに高等部の企画で使う液体のチョコレートの一部が入ってるんだ。薄い容器に入れていてね。これの中身を、出そうと思ってる」
「……そんなことして、何になるっていうの?」
 呆れの混じった声に、それはそうかと自分で苦笑する。皓も、こんな状況でそんなことを口走られれば、気でも狂ったかと思うだろう。
 だが推論は、他に打てる手がない以上、どれだけ馬鹿げていても試してみる価値はあるだろう。
「わからない。言っただろう、何かが起きるかもしれないけど、起きないかもしれない」
「好きにして」
「ありがとう。手が少し痛むと思う。ごめん」
 両手足を拘束されたまま、芋虫のように体をねじってポケットから容器を押し出す。滑る生地とポケットの上蓋が厄介で、思っていた以上に苦労させられた。それを更に、膝でつかんで固定して、口で蓋をかじってどうにか開けようとする。
 かなりの時間がかかったが、幸い、狐面が再び顔を見せることはなかった。
 蓋が開くと、少しは勢いが削がれているものの、香ばしく甘いチョコレートの香りが広がった。
 さてこれから、どうしよう。飲めばいいのか香りがあるだけでいいのか。しかし、女性限定だとすれば小夜子に飲んでもらう必要がある。
「ええと…飲む?」
「何を?」
「チョコレート」
「…………いただくわ」
 随分と長い間で、その間に一体何を考えていたのかは判らないが、さらに呆れられるなり不気味がられるなりしたことだろう。
 中身をこぼさないよう慎重に、薄い容器を立てて、声をかけてから尺取虫の要領で少し進む。そうすれば、容器が小夜子の届く範囲にくるはずだ。
 疲れているが、小夜子が背面に縛られている以上、体を前に倒して休むこともできない。待っていると、液体を飲む音が聞こえた。
 これで何も起こらなければ、何をどう小夜子に説明したものかと、そのことに頭を悩ませる。

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 上記の動作を書くために、学ランってポケットどうなってた?というのを父と話していました。
 中高とセーラー服の学校だったので、学ランを見て過ごしていたはずなのに意外に覚えていない。父の証言も、もう三十年やそこらも前のこととなると怪しいし(爆)。
 で、写真くらいあるよねとネット検索したところ、一番に出たのは「学ラン愛好家同盟」。あ、あるんだそんなの。
 イラストは置いていましたが、雰囲気だけで書く人が多いからあてにならない〜。結局、改造学ランを扱っているサイトの写真を見ました。そう言えばそんなだった。
 学ランのポケットの描写、どんなのかした方がいいのでしょうか?

2006 年 3 月 17 日 ねーむーいー

 父の仕事を手伝うべく、朝から一緒に出かけたら。
 車で約一時間かかる現場に行ったら、別件で今日中にいるという資料をまとめてくれと言われ、Uターン。せめて前日に言えと怒ってましたよ、父(そりゃな)。
 それとまたもう一つ別件とで時間を喰って、測量に取り掛かったのは三時。終わったのは八時すぎ。
 闇がー。日が暮れると暗くってもう。
 ところで私、測量の知識が(ほんの少しとはいえ)あっても、役立ちそうにないのですが(笑)。まぁいいか、知識は多くても困るものじゃない。

 そうして家に帰ったら、姉が私が京都に行ったときに買って帰ったワインを飲むべく待ち受けてまして。
 そんなに飲んでないのに、疲れてるからか眠いー。
 ワインのくせに、裂きイカとものごっつい相性が良かったです、プラムワイン。何故だ。紹興酒に似た味だからか(不思議)。

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 が、その必要もなかった。
「きゃあ!?」
 おそらくは小夜子に引っ張られる形で、皓は自分が別の場所へと連れて行かれるのを感じた。覚えのあるそれは、響と契約を交わす前の暗闇に似ていた。

2006 年 3 月 18 日 出かけたら大荷物の鉄則でもあるのだろうか(要らん)

 学校に行ってきました。いつ振りだ、卒論の発表以来だ。

 卒業式の事前ガイダンスと予行でした。なんで予行、大学にもなって?というのはもう方々で聞いたし言ったからいいや(言ってる言ってる)。
 友人たちと久しぶりに会えて楽しかったです。もう皆、卒業した後会うのかどうか(え)。いや会いたいですけども住む地域が違ったり色々。
 それにしても、制服のスカートが寒かった・・・。セーラーの長い丈の方がまだましだった気すらしてくるよ。
 実は、ガイダンスの前までズボンをはいていて、予行が終わったらすぐにはき直したから他の子に比べて寒くないはずなのですがね。普段はかないだけに、すーすーして気持ち悪い。

 学校に行く前に、ネットで見つけた古本屋に言ってきました。『太平広記』(全十巻)の取り置きをお願いしていたのですよ。
 電車を途中下車して、少し歩いて。カラト書房(別窓開きます)という、中国書の専門古書店です。
 まず、お店の外に百円の本がずらりとありまして。中国書が専門だからか、ちらほらと見かける小説があったりして、まずそれをざっと見る(笑)。数冊、迷いはしたものの、二冊を手に取って店内に。
 元々は通販が前提のような感じではあったのですが、いける範囲だしなーと行って来たのですが、十冊の重さをなめてましたね、私!
 正確には、全十巻+索引+購入を決めた二冊。
 おまけに天気予報通りに午後から雨で、ぬらさないかと冷や冷やしました。濡れなかったけど。良かったー。
 重いし紙袋破れそうだし濡れそうだしで大変だったけど、やっぱり通販にしとけば楽だったのにとも思ったけど、店頭での二冊のこともあり、足を運んでよかったです。通販購入は楽だけど味気ない。
 凄く感じのいい店主さんでした。次、何かほしいのがあったら注文しよう。

 学校帰りに駅周辺をぶらぶらとして来たり。学校行かなくなったら、神戸にも滅多に行かないだろうなー(地元就職)。
 前回、大阪に行ったときに購入した人のポストカードを購入〜。

 明日は、神戸観光して飲みに行ってきます。でも神戸観光て・・・どこ行くの?(え)

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「やあいらっしゃい。うん? 君は、魂と外見が違うな?」
 出たのは、上下のよく判らない空間だった。黒いや暗いというよりは、ただひたすらに闇が在る。
 待ち構えていたのは、人の良さそうな笑顔の割に、目つきの鋭い男だった。整いすぎた顔は笑っているのに、背筋の凍るものがある。
「それに、何だこの縄は」
 言葉を聞いて、その意味するところを理解したときには、皓と小夜子の拘束は解かれ、そうして皓は紅子の体に戻っていた。
「紅ちゃん…?」
「酷いな、こんな可愛らしい娘達を傷つけるなんて」
 小夜子の呟きを掻き消した言葉に続き、空間に鏡面めいた光景が浮かぶ。
 男たちがいた。三人、がっしりとした体つきの彼らの傍らに、一つの狐面があった。衣類の製造工場のような場所だが、機械は動いていない。うっすらと、埃さえ積もっていた。
 何かを話しているようだが、声は聞こえない。一人は背を向けており、一人は薄笑いを浮かべている。もう一人は険しい顔つきで、その男は狐面をつけていた者のように思えた。
 指を鳴らす音が聞こえた。
 三人が、急に苦しみだす。目を見開き、喉を掻き毟る。必死に呼吸をしようとしているかのようだった。
 小夜子が、怯えるように息を呑んだ。男が、上辺だけは優しげな笑みを貼り付ける。
「罰を受けるのは、当然のことだろう?」
「やめろ!」
「何故?」
「お前に罰を与えろと頼んだ覚えはない。彼らが死にかけるのに相応しいことをしたとは思わない」
「…ふぅん」
 不思議そうに興味深そうに声を漏らし、指を鳴らす。三人は疲れ果てて倒れ込んだ。そこで光景が揺らめき、闇に戻る。
 男は、すらりと伸びた指を伸ばし、皓――紅子のあごを持ち上げた。距離があったはずだが、気付けば、男は半ば紅子を抱きかかえていた。
「君がそれだけ落ち着いているのは、既に契約を交わしているからかな? だけどここからは、俺が肯かなければ出られない。どうだい、そいつを出し抜いて俺と契約をしないか? 大丈夫、そいつよりもいい夢を見せてあげよう。君の魂は、随分ときれいだ。それが堕ちる様を、是非とも見たいね」
 手はあえてそのままで、男の目を見返す。体が変わったときに髪の長さも変わったらしく、長い髪が背まで垂れていた。
「僕は、彼以外と契約を結ぶつもりはない」
「……それはそれは」
「十人もの人間をどうするつもりだ。それだけの数の契約が、一度にこなせるとも思えないな。それとも、そう思い込むほどの余程のうつけか」
 睨みつけるが、男は笑う。
 覗き込むように不躾な視線を、紅子は表情を消したままで受け止めた。不自然なほどに均整の取れた男の顔は、見れば見るほど人間とは思えなかった。
 響に出合ったときは、底知れぬ恐ろしさは感じたが、こんな人離れした狂気は感じなかった。
「気に入った。君に決めよう」
 ぱちりと、指を鳴らす音がした。同時に、解放される。
「どういう意味だ」
「戯れに契約相手を探すのもいいと思ったが、実に見事な拾い物があった。そういうことだよ。他の九人に、もう用はない」
 その言葉に、弾かれたように小夜子がいたはずの場所を見た。姿はなく、男を見ると、笑顔で再び映像を映し出した。
 二人のいたダンボールの積み上げられた部屋に、今は小夜子が一人で立っていた。縛めはなく、男三人が弱っていることを思い出せば、無事に逃げ出せるかもしれない。まず大丈夫だとは思うが、人里離れた場所などでなければいいと思う。
 食い入るように見つめる先で、映像は掻き消えた。
「サービスはここまで。さあ、契約条件の話に移ろうか」
「その気はないと言ったはずだ」
「そんなことをすれば、君は一生ここから出られないよ?」
「だがお前も、僕の魂とやらを手に入れることはない」

2006 年 3 月 19 日  それでも書くのか

 友人たちと遊んできました。観光するつもりだった(多分)のだけど、風が冷たくって中華街に行ってご飯食べてカラオケ行って。

 中華街、適当に食べ歩きしつつ、チャイナドレスを見たり。
 神戸空港の開港に乗っかってイベントをやるとかで、その一端の獅子舞が見られました。凄いなー、凄いなーと見入って。近くに子供がいたから、そこに来た獅子舞に一緒に頭を掠められていったり(笑)。
 食べ歩きが楽しいー。冷静に考えると、安めの食事くらい食べられる分の料金は払っていることになるのですが(苦笑)。

 この頃寝るのが遅くて、布団にもぐったらすぐに眠れるくらいの状況だったりするのですが、でも時間ないし。
 つらつらと書いていくことにしましょう。あ…メールとかいろいろ、明日以降になります(汗)。今書いてもぐてんぐてんになりそうだし…。

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 男は、呆れたというよりも感心したように息を吐いた。そうして、くすりと笑う。
「まあ、それも一興。所詮は、暇潰しだからね」
 睨み付けると、男は、大きな見栄えのする動作で肩をすくめた。まるで、アメリカあたりの俳優のように。
 紅子は、他の八人も戻れたのかと、小夜子は脱出できただろうかと考える。皆が無事なら、問題は皓の行方不明だけになるはずだ。それも、小夜子が響に正確な事態を伝えてくれたら、どうにか誤魔化してこの一件は原因不明のまま落着するだろう。
 それなら後は、紅子――皓が戻るだけだ。
 だが、小夜子は逃げられただろうか。話してくれるだろうか。そもそも、男が見せたものや言ったことを、信用していいのだろうか。
「暇潰し?」
「ああ。生きて死ぬまでの、暇潰しだろう? 食事はどこでもできる。面白そうなものがあれば、逃す手はない」
 あまり好きな考え方ではない。言葉にすれば紅子の考えも似たようなものだろうが、確実に違う。
 芸術に携わる者なら是非とも題材に使いたいと思いそうな顔も体も、紅子には、何ら魅力のあるようには映らなかった。
「それでは、梨園学園の女子生徒を連れ去ったのも、さっきの連れ去りも、暇潰しだったわけか? 特定のチョコレートに拘った理由は何だ」
「ふむ、つながりに気付いていたわけだ。これは益々興味深い。ところで君、辛気臭い格好をしているね。似合わないとは言わないが、君には烏色の服よりももっと柔らかなものが似合いそうだ」
 反論する間もなく指が鳴らされ、紅子の服が変わる。学ランから布地のたっぷりとしたイギリス絵本の挿絵にでも出てきそうな白のワンピースに、一瞬で変化した。神まで、ゆるくリボンを絡められている。
 いよいよ、どうしようもなく好きになれない。
「勝手に人の格好を変えるな。変態」

2006 年 3 月 20 日 最後の最後で

 朝。
 自転車で約三十分の駐輪場についた時に気付きました。え。靴白い…?(卒業式はスーツ状の制服着用)
 あー吃驚したー、寝坊しかけたから、慌てていつもはいてる靴を履いてきてしまったのですよねー。ローファー出してたのに。何も最後に素ボケかまさなくてもいいよと自分で思いました。はい。
 仕方がないから、事情を話すべくなるべく多くに言いふらしたり(爆)。趣味ってわけじゃあないんだよー? ズボンだとそうでもないけど、タイトスカートにそれは微妙だった。

 卒業式でして。
 どうやら、学長高学院長だかがいい話をされていたようなのですが…寝てた(爆)。友人たちも同様。何その連帯。

 式は午前中だったので、友人たちとご飯を食べて帰りました。
 ご飯って言っても、もう二時半だったけどー。
 バイキングに行って、ケーキバイキングに行ったはずがむしろ、パスタや加薬ご飯やを食べていました。実際問題、甘味系よりご飯物の方がおいしかったですよ。
 食べるの遅いけどたくさん食べるから、時間制限なしのバイキングがあったら居座りそうで厭ですね私。
 次はいつ会えるのかなー。

 ところで「西遊記」、最終回でしたねー。
 何あれ、最後の最後で何あれ! え、もうめっちゃ好きですよ。あざとい感はしないでもないけど、でもそれを上回って好き。うーわー、DVDが出たらBOX買いしてそうでやだな!(笑)
 ああもうあれですね。ドラマのノベライズ書きたいくらいに好きですね!(二次創作…?) ああでもあれは、映像でこその部分があるよなあ。殺陣のとことか今回会った役者を重ねる(新旧の孫悟空競演)とかは。
 ええと…何、次特番? 楽しみだけど、蛇足にならないといいなあ(願)。

 そろそろ猫屋本印刷しないと、本当に時間がなくなってしまうな(汗)。

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 説得など、はじめから期待していない。
「強がりも、ほどほどにした方がいい。僕は度量が広いけれど、それにも限りがある」
「自分でそう言う奴に限って、実は狭量なのはどうしてだろうな?」
「いい加減にしろと、言っている」
 首を絞めようとでもするかのように伸ばされた手を無視して、そのまま男を見る。
 その瞳に、怒りよりも恐れが見えた。
「何だ。ただの馬鹿かと思ったら、怯えているだけか。どうせなら精一杯足掻けば、もう少しは楽になるだろうのに。――わたしは、そうしていたよ」
 終わってしまうことを恐れて、怯えて、それにも倦んで、この世界をくだらないものとでも思いたかった。だがそうしても、何も変わらなかった。ただ余計に、恐くなった。
 紅子は、一歩退いた。男は、腕を落として、妙なものを見るような目で見ている。
「君の好きにすればいい。だが、僕が君と契約を結ばないということは、自信を持って言えるよ」
 そこでようやく、縛り上げられて傷む手首をさする。縄でできた擦り傷は手首をぐるりと囲い、酸化して黒ずんだ血が滲んでいる。足首の方は、靴下のおかげでいくらかましのようだった。
 座り込んだ紅子は、胡坐をかいた後にスカートだったことを思い出し、丈が長くてよかったと苦笑いした。紅子として過ごした時間の方が長かったはずなのに、すっかり皓としての振る舞いが身についている。
 実際に紅子がここで死んでしまった場合、響はどうするのだろうか。魂――という呼び方で正しいのかどうか判らないのだが、それは、ちゃんと彼の元に届くのだろうか。
 約束――いや、契約か。破るつもりは、全くないのだが。
「君は」
 呼びかけたきり黙りこんでしまった男を見て、首を傾げる。戸惑いが読み取れて、揺らいだかと思う。思ったほどには馬鹿でも、思考を停止してもいないのかもしれない。
 続きを促そうとしたが、それよりも先に、風が吹いた。
「皓」
「!」
 響、と名を呼びかけて、男に知られていいものかと咄嗟に考えて口をつむぐ。しかし名を呼ぼうと呼ぶまいと、そこには確かに響がいた。
「お前は…!」
「帰るぞ」
 男が明らかに響を知っているような反応を見せたが、響の方は一瞥したきりだ。
 紅子は、そんな彼らを見比べて眉根を寄せた。先ほどの呼びかけの続きも男が響の何を知っているのかも、気になるところだ。だが響は、それを取るのが当然のように、手を差し伸べている。掴めば、すぐにも戻れるだろう。
「ちょっと待って。このままじゃ中途半端だ。二度と僕の周りでこんなことをしないと約束してもらわない限り、問題が解決できない」
「命令か?」
「そう取りたいなら」
 溜息でもつきそうな響の手を取り、立ち上がる。ふわりとスカートの裾がひるがえり、そういえば学ランはどうなったのかと思う。まだあと二年ほど、着るつもりでいるのだが。
 男を見る。
「と、いうことだけど。あなたの考えは?」
 ふっと、男は笑みを浮かべた。薄い笑みが、誰もいないのところに向けられた。
「判った。今回の暇潰しは断念するよ。暇潰しを君の周りの人間に対して仕掛けるのもやめよう。それでいいかな?」
「よろしく」
 男にそう言ってから響を見ると、仏頂面で世界を変えた。闇も男も姿を消し、見慣れた部屋になった。自宅の自分の寝室だと判る。
 今や慣れてしまったが、魔法なのか魔術なのか魔力なのか、とにかく鮮やかだ。種の全く判らない手品のようで、少しわくわくする。
「ありがとう。ところで、さっきの彼は知り合い?」
「…どうだろうな」
「そこまで忘れてると気の毒なんだけど。小夜ちゃんは?」
「梅谷小夜子なら、見つかった他の八人と一緒に警察で事情聴取を受けている。真夜子も付き添って行った」
「そう」
 小夜子は、紅子が皓だと知ってしまっただろう。夢だと思ってくれれば一番だが、とりあえず話をする必要はあるだろう。荒唐無稽な絵空事と一生に付されるのがせいぜいだろうが、真夜子は小夜子が事実と言うなら最終的には信じるだろうし、避けられるなら厄介事は避けたい。最後の手段は、響に頼んで記憶を改竄してもらおう。
 それまでに、誰かに話さなければいいのだが。
 一時は始終寝ていて厭になるほど馴染んでいるベッドに腰を下ろすと、深く息を吐いた。
「ねえ、響。もし僕が不慮の事故で命を落としたら、そのときはどうなる?」
「皓が最期を覚悟したなら、俺のものになるかもしれない」
「あやふやだな。ルールブックなんかはないの?」
「ない」
 軽口に生真面目に応える必要もないだろうにと思うが、そういう性格なのだろう。紅子は、微笑した。
「それなら、来てくれてよかった」
 そこではたと気づく。
「あ。そうだ、体。勝手に変えられて。戻してくれる? できるなら、服も」
「ああ」
 頭に手が載せられ、一瞬で姿が変わる。こんな事実を知ったら、性転換希望者の悪魔との契約が殺到しそうだ。
「悪いね。どうせ相手にするなら、絶世の美女の方が良かっただろうのに」
「俺たちには、外見はあまり関係ない」
「でも、さっきの人――人じゃないのか。あの彼は、わざわざ僕の姿を変えたよ?」
「好き好きだろう」
 ふうん、と曖昧に頷く。好みの問題なのだろうか。
 不意打ちで腕をつかまれて、驚いて目を瞠るが、相手は相変わらずの無表情だった。
「手当てをしよう」
 擦り傷の存在を忘れていた。
 響ならこんな傷くらいは簡単に治せてしまうのだが、以前に、その誘いは断っている。便利ではあるが、あまりに不自然だ。だから、誰にも知られていない大きなものくらいでしか頼まない。
 素直に立ち上がった皓は、律儀な悪魔だと心中で呟いた。

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 段々、何書いてるのやら判らなくなりますねー…。

2006 年 3 月 21 日 何とかなりそうです(私生活編)

 うん、日記連載が。終わりが見えてきたよーやったー(内容無茶苦茶だけど)。あと二章分くらい書けば終わりだ多分。
 会社の勉強、してないのですが。薬の名前覚えないと…!(汗)

 今日は、朝から友人といろいろ巡ってきました。
 美術館(特別展示「デルフォーとマグリット」)と水族館(特別展示「魚の顔」)と平和記念館と植物園(特別展示「オーストラリアの植物」)。まあなんてアカデミック(棒読み)。
 平和記念館は、植物園に行く途中だったので。千人針の鉢巻(?)などがありましたが、あれを実際に使っていた人がいたのだと思っても実感に乏しくて、正直なところそれが恐い。
 植物園は、行くのが久々すぎて少し道に迷いました。おかげでちょっと遠回り。

 そう言えば今日、地元駅近くの商店街(?)でラジメニアの公開録画をしていました。
 人だかりで、友人と「何?」「語感からしてアニメ系やんな?」、「そこそこの年齢の男の人が多いね」と言いつつ、その斜め前のファーストフード店に入って、二階の通りに面したところで昼食をとっていたら。
 途切れ途切れに聞こえるトークと、野太い男の人たちの感性。一体何だろうと思っていたら。
 曲が。
 明らかに、プリキュアのオープニングと思われる歌が。
 ……何故姫路で。

 ところで、マグリットの絵を見て、あー恩田陸作品のイメージだよなと思ったのでした。
 描写がしっかりとしていて現実味があるのに、全体を見るとあまりに非日常。というか、常識外れの不可思議世界。恐ろしかったりグロテスクだったりするのにきれい。

 明日は(また)京都です。え、雨って嘘ーっ!

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 目を開けてようやく、自分が寝ていたことに気付いた。夢を見ていたと――遅れて思い出す。幼年時の体験をたどったそれを、もはやおぼろになってはいるが思い出して、溜息を落とした。
「起きたか」
「うん。どのくらい眠ってた?」
 ソファーで転寝(うたたね)をしていたらしく、少し首が痛い。机に向かっている響は、こちらを振り返ることもなくペンをはしらせている。書類の整理でもしているのだろう。
「三十分くらいだ。紅林が、そろそろ呼びに来る」
「ああ…そんなものか。あの二人か、刑事さんから連絡は? あ――刑事さんはそれどころじゃないか。小夜ちゃんあたりからは?」
「小夜子からは、今日は自宅に帰るとの電話があった。後日改めて話したい、と言っていた」
「了解」
 そういう切り出し方をしたということは、真夜子はともかく、口外していないのだろう。
 遅い昼食をとってから大分時間が経ったような気がするが、まだ日付を超えてもいないのか。それどころか、これから夕飯だという。妙な感じだ。
「ぼっちゃん、若造、飯やぞー」
「すぐに行きます。今日は何?」
「鍋や鍋」
 この家で鍋をするときには、希望者は使用人も机を囲む。今日は、皓と響の他には紅林と林の二人が同席した。他の者は既に帰宅しているらしい。
 和やかな食事が雑炊で締められると、林は、片付けを手伝えないことを謝って帰路に着いた。
「ごちそうさま」
「いやいや。毎回、いい食べっぷりで嬉しいな。それに比べて、このガキときたら」
 手早く食器をまとめながら、じろりと響を睨みつける。響の設定よりも幾つか年長なだけのはずだが、この料理人は、何かと響を邪険にする。それなのに、ずっと年下の皓に対しては優しい。
 雇い人と同僚の違いかなと話の種にするが、実際のところはよく判らない。紅林は、秘密主義ではないがあまり自分のことを話したりはしない。
 睨まれた響は無反応で、ガスコンロからボンベを外している。
「上手いんだかまずいんだか、辛気臭く食べやがって。旦那に離婚を叩き付ける嫁さんの気持ちがわかるってもんや」
「離婚の原因ってそんなに簡単?」
「あれや。こう、積年の恨みってやつが積もり積もってやな。事細かにばらしてみると、大体そんなもんやぞ。ってまあ、俺も独身男やから想像やけどな」
「そうか、僕も将来気をつけるよ」
 心にもないことを言って、笑い飛ばす。
 実際、無言でただ詰め込むだけの食事というものは、作った側にとっては気が重いだろうとは思う。しかも響は、憂さ晴らしに挑発したところで、のってきてはくれない。
「って俺、ぼっちゃんが結婚したらクビですか?」
「あ、そうか。うーん、じゃあ僕に突きつけられる離婚理由は、別か」
 話しながら、手伝って食器を運ぶ。来客があれば繕うが、仕事さえしてくれればそれ以上の区別をしようとは思わない。
「別べつ。仕事とあたしどっちが大切なの、とかそういうの?」
「あー、なるほど」

2006 年 3 月 22 日 グラッツェって何語だ

 帰りの電車で聞こえた外国語の中で、そこだけ聞き取れたのですが何語。
 調べればすぐに判るだろうけど、それすらしないこの手抜きっぷり。そんな興味具合です。調べるまでもなくご存知の方がいたら是非一報を。

 今日は、友人と伏見稲荷・伏見と番外で長岡京に。

 伏見稲荷、以前行ったときには時間と私の荷物の関係で山まで登れなかったので、再挑戦。よもや、一月で二度足を運ぶことになるとは思いませんでした(自分で)。
 赤鳥居が続いて、段々と感覚麻痺してきますねあれ。やぁ楽しい。
 そういえば神道は、仏教で信者が死後仏様になるように、神様になるのですよね? そんな個人の神々がわんさかといて、なにやら一歩ごとに神様を踏み潰してそうでした(ないから)。
 現世利益が身上(?)のお稲荷さんだけあって、鳥居の奉納者に会社や会社の経営者が多かったです。私の就職先もありそうだ。他の神社でそれらしきものを既に見たけど。

 神社、二拝二拍子一拝が正式なお参りの仕方だ、と書いたサイトがあったもので、友人とそうやってお参りをしていたら。
 どうやら間違えたらしい友人が、「今のなし!」と言ってやり直してました。り、律儀…(笑)。

 あと伏見稲荷の山で印象に残っているのは、道なりにある売店(?)の一つできつねうどんを食べていたら、通りがかりの観光客に「奥のあれって男二人?」と呟かれたことでしょうか。
 というか呟きにしては大きかったよ。丸聞こえだよ。
 友人と二人で、どう反応したものかと顔を合わせてしまいました。
 友達といて間違われるのは初めてだなー。いや、面と向かってというだけのことかもしれないけど。しかし驚いた。

 伏見地区は、竜馬通りというものがあったからそこをちゃんと見たいなと思ったのだけど。前回見た限りの商店街(?)でちょっとがっかり。
 新撰組(というか幕末人物というか)のピンバッジのガチャガチャ(で通じる?)があったので、前回の近藤勇と西郷隆盛以外を手に入れるべく二回やったら、続けて土方歳三でした。惜しい、坂本竜馬がきたら写真の模写は全部揃ったのに。
 つーか、何故イラストのやつが出ないのでしょうね(写真の模写が四つにイラストが四つか五つ)…そんな定め?

 その後、時間が余ったので帰路途中の長岡京で降りて、長岡天満宮に。思ったよりも大きかったです。
 ところで天満宮って、全部菅原道真公を祀ってる? 道真公を祀ってるのを天満宮と呼ぶのですか??

 ついでに、西宮でも途中下車して、古本屋に(爆)。
 雨の中歩いたさ…着き合わせて悪かったなー(苦笑)。

 あの友人と出かけると、なんだか歩いてばかりのような気がします。楽しいけど、続くと「あれ?」という気分に(笑)。
 そんなことを今日話していて、「そのうち、次の日筋肉痛になった思い出だけ残って厭な記憶になったりな」という笑い話をしたり。歩くのは嫌いではないので、付き合って苦にならない友人がいると頼もしいですね〜。
 こうなると、先にどちらが「乗り物に乗ろう」と言い出すかが、ちょっとした見もののような気にすらなりますね。何年後だ。

 ところで日記連載、もう少しで終わると思ったら微妙に行き詰まり。紅林の扱いに困ります。適当に書いてるけど、見直すときにばっさり削るかな…。

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 あまり思い描けない未来予想図に適当に相槌を返し、皓は冷蔵を開け、落胆の声を上げた。
 考えて適度に食材の詰められた冷気の箱の中には、夜食に食べられそうな甘味系統がない。コンビニエンスストアに買いに行ってもいいが、それも面倒だ。しかも、響の舌に適うものを探すのは結構骨が折れる。
 反応が見えないと紅林は言うが、実のところ、微細に反応はしている。
「あー、泣くな泣くな。棚にチョコレートが残ってるやろ」
「完食済み」
「はぁ?」
 泣いてはいない皓が返すと、紅林は、置いておけば明日には別の者が片付けるだろう食器を洗いかけていた手を止め、呆れた視線を寄越した。
 山ほどあったもらい物のチョコレートは昨夜、響が地味に平らげてしまっている。
「……お節介かも知らんけどな、あの秘書にいつか身代食い尽くされんか?」
「それは大丈夫だと思うけど。何かあったかな、食べるもの。甘いものがいいんだけど」
「つまみぐらいなら作ったるけど。時間外労働で」
「無料奉仕で? それはありがとう。いい料理人が雇えたなあ、僕は」
「酷い雇い主や」
 泣く素振りを見せながら、笑っている。
「でもどうして、甘いものは作らないの?」
「んー? 姉ができたての焼き菓子の側で死んでてなあ。それ以来、どうにも臭いがあかん」
 あまりにもからりと語られて、どう反応したものか判らなかった。また冗談を、と言うには、今までの紅林に似合わず悪趣味だ。
 紅林は、そんな皓に状態に気付き、大仰に肩をすくめた。
「で、つまみ作るか?」
 人のいい笑みの裏に自嘲が透けて見えるようで、視線を逸らす。
「サンドウィッチか何か、夜食を。来客があって少し出かけるかもしれないから、多めに頼めるかな」
「来客分も?」
「うん、とりあえず。余ったら明日の朝に食べるよ」
「そんなことされたら、俺の腕の振るい所がない。余ったら置いといて。俺の朝食な」
「わかった。ここに置いておいてくれたら、取りに来るから。よろしく」
 そう言って、調理室を出る。雇用者として終わったら帰っていいとでも告げるべきなのかもしれないが、この家でそのあたりの裁量は、紅林に関しては本人に任せてある。
 廊下に出ると、響がいた。
「あの二人、来た?」
「無理はするな」
「ちょっとくらいの無茶をしても大丈夫な体にしてくれたのは、君だろう? ――ごめんありがとう、わかってる。ちょっと、不用意だったから」
 中途半端な想像力はどうしようもないなと、呟いて目を閉じる。
 一つ深呼吸をして、目蓋を上げる。
 先に立って歩き出し、背伸びをするように手を伸ばした。
「頭でも冷やしに散歩に行きたいところだけど、まだ誘拐犯が跋扈してるんだろうしねえ。二人が来るなら、ここを空けるわけにもいかないし」
「紅林がいるだろう」
「彼の仕事は、食事作り。客の対応も任せるのは、ちょっと虫が良すぎやしないか?」
 それ以前に、なんとなく対面は避けたほうがいいと思うのだが、それが何故なのかはよく判らない。勝手に、天敵とでも判断したのだろうか。
 気鬱に陥った原因――あやふやな情報に基づく想像とそれに対する自己嫌悪――を意識の隅に追いやり、皓は思考を切り替えた。
 立て続けの誘拐となれば、示唆する者くらいいるだろう。偶然で方がつけば、それはそれでいい。
 あの二人だけなら放っておくつもりだったが、続き、他の者まで巻き込んでしまえば事情は変わる。二人は調べたことの途中報告に来るつもりだろうが、そこのところを聞く必要がある。
 そうして本当に黒幕がいるなら、早急に叩き潰すまでだ。
「まあ、そろそろ来るだろう。それまで大人しく、書類の整理でもしようか」
「いや。来たらしい」
 鳴る前のインタフォンに繋がった受話器を取り上げて、響が言った。

2006 年 3 月 23 日  グラッツェとチャオはイタリア語

 ひっそりと(?)頂いた回答(?)と、友人からの報告とにちょっと感動。
 わー、私こんなに人をあてにして日々生活してていいのか私(主語だぶってる)。

図 「ガチバカ」の最終回が微妙で、さして面白くない(私にとって)方向で予想外の展開に突っ走られてしまって、がっかり。
 前回と前々回は結構好きだったのだけどなー。最期の落ち(?)の、再就職のお誘いはまあ好きなのですが。それまでの流れとかありえねー・・・。
 ところで私、このドラマに出てくる生徒たちの見分けがいまいちできません。制服着崩して個性を出すのはいいけど、似たように崩したら結局同じだよと思うのは私だけでしょうか。「ごくせん」の方がまだ見分けられた。
 ドラマの学園ものは、生徒役が上手いかどうかで変わりますねー。それと、クラスの皆に台詞振るとかしちゃ駄目だよ・・・。
 最近の学園ものは、「ドラゴン桜」が好きでした。生徒数絞った方がいいよ。

 今日は父の仕事の手伝いをしていて、立ったり座ったりだったので明日あたり筋肉痛になりそうな厭な予感。
 写真は、父の仕事の成果(?)の一部。前回手伝った分の、測量図です。
 舗装部分が真っ直ぐだと長方形の面積を出せばいいのだけど、歪んでいたり出張っていると、ひたすら三角形を取っていって三辺を測ります。ヘロンさんの登場です(ヘロンの公式を遣って面積を出す)。
 いやもう、いいってくらい三角形取りました、前回。距離はさほどなかったのに、時間食う時間食う。
 そして私の仕事は、メジャーの端を持っているだけ(爆)。

 ところで、明日から四国の祖父母宅に二泊してきます。仕事が始まると夏休みに顔を出せなくなるかもということで(でも普通に行きそうな気もする)。
 ないと思うけど、その間に急ぎの連絡がある場合は、携帯電話のほうにお願いします(ここを見ている友人宛)。日曜の夜にはどうせ、メールチェックしますが。

 ああそれとごめんなさい、こんなところですが私信。時実月夜さま。
 (以下反転)
 メールと許可と、ありがとうございました。返信返信、と思いつつ、微妙に忘れていました(汗)。
 ごめんなさい!
 イラストは、とりあえず日記連載と「台風の目」が終わり次第載せさせていただきます。闘志を失っていない顔つきが大好きです、もう。
 ま、またそのうち、企画の短編と前後してくらいでメールを・・・送りたいです(希望)。


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 短い通話を側で聞き、受話器を置いた響に首を傾げる。
「お茶の用意と出迎え、どっちがいい?」
「行って来る」
 直接の返事ではなく玄関の方へと歩くことで回答を示した響の背を見送って、皓は出てきたばかりの調理室へと身を翻した。
 調理室には別の出口もあるが、さすがにまだ調理中で、再び紅林と顔を合わせることになった。だが、予め判っていたことだから、動揺もない。
 食パンのミミを落としていた手を止めて、紅林が振り返る。
「どうした?」
「お客さん。お茶の用意していい?」
「どうぞどうぞ。卵、茹でるのは時間がかかるから卵焼きにしたけど、よかったか?」
「わあ、おいしそう」
 薄く焼かれた卵焼きと瑞々しいレタス、輪切りのトマト、スライスチーズにハムが並べられている。まだ湯気の立っている卵焼きに歓声を上げると、紅林の頬が緩んだ。
 夜食にしてはカロリーが高そうだが、皓も響も、さして気にはしない。食べても太らないのは、どうやら燃費の悪い体質をしているようだ。
「ミミはどうするの?」
 慣れた動きで、定位置からアルミのやかんを出して水を入れる。
「食べる前に軽く焼いて、海苔と明太子とチーズに醤油を垂らしたやつと、ツナとパセリをオリーブオイルで和えたやつとでディップを作る」
「楽しみだな」
「ああ、期待してくれ。できたら持って行こうか?」
「うーん、お茶の用意してる間に出来上がらないかな。それは無理?」
「いっちょやってみましょ」
 気軽に応えて、作業を再開する。
 一旦客間に行こうかと思っていたが、椅子に腰を落とし、紅林の鮮やかな手並みに見入ってしまう。具を挟み、それを食べやすいように切り分けるというだけの単純作業なのだが、一瞬の迷いも見られない動作に、魔術師の手並みを連想する。
 具の種類を微妙に変えたサンドウィッチを作り終えると、並べた皿の上にクッキングペーパーを乗せて軽い押さえと乾燥を防止して、次はディップ作りに取り掛かる。明太子の皮を剥いてばらし、クリームチーズに混ぜて塩なのか調味料をふりかける。
 それをぼうっと見ていると、湯が沸きそうな気配がして、慌ててカップや受け皿、砂糖にミルクピッチャーといったものを用意する。紅茶はティーパックではなく葉から、コーヒーは豆からひく、というのは、皓のこだわりというよりも響のこだわりだ。豆の扱い方がよく判らないため、皓が淹れるのはもっぱら紅茶だ。
 葉に合ったおいしいものが淹れられる自信はないが、一応、手間は惜しまない。沸いた湯でポットやカップを温め、ミルクは手を抜いてレンジで短く加熱し、ティーポットのカバーも用意する。
 手際は響や料理をする紅林には到底敵わないが、それでも大分ましになってきた。
「ぼっちゃん、すぐに食べるか?」
「うん」
 確認してからトースターにパンのミミを入れ、その間に小皿やミミ用の皿を出し、ディップの小鉢と盛り付けた一口大のサンドウィッチを銀盆に並べて置く。
「その小さいのは?」
 四人分を一度に入れたポットの横に並ぶ、一人用の小さなティーポットを指し示す。皓が一人で飲むときに使っているものだ。
「紅林さんに。あ、飲むかどうか訊いてなかったけど。いる?」
「喜んで。優しいご主人で、感涙ものだわ」
「大げさだな」
 出来上がったところで、どう運んだものかと今更になって気付く。片手に盆を一枚ずつで夜食と紅茶を一緒に運べないこともないが、そのためには扉が全て開いている必要がある。
 あの二人と紅林を会わせていいものか迷ったが、頼んで一緒に運んでもらおうかと思ったところで、響が姿を見せた。
「じゃあ俺、飲んだら帰るから。おやすみ」
「うん。おやすみ、また明日」
 調理室の扉を閉める。半ば無責任な別れの挨拶に、響が加わることはなかった。その必要性が感じられないと、訊いたら答えるだろう。
 一日ぶりで顔を合わせた二人は、どこか窮屈そうにソファーに納まっていた。
「こんばんは。お待たせしてすみません。よかったら、つまんでください」
 銀盆を置きながら笑いかける。紅茶は、それぞれの前にカップを置いて注いだ。
 兄なのか兄貴分なのかの方は、緊張を隠そうとしてか裏を疑っているのか、睨みつけるような視線を向けた。弟か弟分なのかは、戸惑いながらも、サンドウィッチに気を取られているようだ。
 皓が対面のソファーに座り、響はその後ろに控えるようにして立つ。座るように促してようやく、皓の隣に腰を落とした。
「まず、今日までにわかったことを聞かせてもらえますか? その後で、質問があればします。そちらも、あればどうぞ」
 長い夜になりそうだと、思った。

2006 年 3 月 26 日 南に行って風邪っぴき

 向こうで屋内で薄着をしていたせいか、風邪っぽいです。具体的には喉が痛くて少しだるい。
 やあもう今朝、喋りたくないのに祖父母はばんばん話しかけてくるしね! そりゃそうだろうけど。

 愛媛に行ってきて、一番の収穫が手頃サイズのカバンの購入と百円でちびちびと集めてきたジャンプのバスケ漫画(『スラムダンク』ではありません)が前巻揃ったことだっていう。
 何しに行って来たの私。
 ・・・・・・祖父母に会えてよかったですよ?

 向こうに以前の日記連載分を印字したものを持っていっていたのですが、読み直してみて、どうしても二箇所書き加えないといけないところが。
 うあー、面倒。しかも一箇所は、書けないからと飛ばしたところでした。でもそれがないとあまりに不自然だし、もう一箇所を加えるならそこに線を張っておいたほうがいいし。
 あ。前の日記連載って、珍しく寡黙野郎がいませんねー。長い話で男の子が主人公というのも珍しいなそう言えば。

 つか喉、違和感ありすぎで咳で蹴散らそうとしたら、うっかり吐きそうになります。だ、誰かはちみつとハーブたっぷりのレモネード作って・・・!(効くのか)

微妙にスプラッタ表記出ます、ご注意を
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 ふうわりと、響は着地した。音は全くしない。片腕で抱え上げられている皓は、毎度のことながら、この細い腕でよくと感心した。
 敷地面積の無駄に大きな家だが、張り巡らされている警報装置は反応しない。
「あそこ」
 尋ねるような視線を向けた響に応じて、二階のほぼ中央の窓を指差す。そこが、この家のとりあえず主人の寝室だ。
 月明かりで照らされた皓の指先を見て、応じる言葉もなく跳躍する。囲いめぐらされた塀を飛び越えたときのように、平均台から跳び下りるような気安さで飛び上がる。
 洋風のバルコニーに着地して、ガラス扉を開ける。
 洋館の似合わない純和風の外観の持ち主は、今日は珍しく自宅に帰ってきているということだ。
「なっ・・・?」
「あ。どうも、お邪魔してます」
 開ける音でか目覚めた男に、にこりと微笑みかける。もっとも、闇が優勢の上に月を背負っているせいで、ろくに見えてはいないだろうが。
「誰だ・・・!?」
「えーっと、三日ぶり、四日ぶりでしたか? 羽山成皓です、叔父上」
 実際のところはもっと遠縁なのだが、面倒なのでそう呼んでいる。男の表情は、面白いように凍りついた。
「こんな時間にすみませんね、お休みのところ失礼します。あなたが、僕の誘拐を示唆したんですか?」
「な、何、を・・・っ」
「再契約や身代金という餌をぶら下げさせて、誘導した。あなたですよね?」
「ち、違うっ」
「響」
 後方を顧みると、端正な顔の青年は面倒そうに首を振った。
「あっそ」
 こちらも面白くもなさそうに応じると、細身のジャケットに鞘ごと据えつけていた短刀を抜く。
 月光を浴びてきらめいた刀身に、男はひぃっとかすれた声を上げた。そのまま逃げれば良さそうなものだが、腰でも抜けているのだろう。
「先に忠告しておきますが、警報装置は役に立ちませんよ。電源、落としてますから」
 男の反応を待たずに、皓は無造作にナイフを持ったのとは反対の腕に切っ先を突き立てた。骨に当てず血管を浅く切り開く。
 無様に飲み込んだ男の悲鳴が尾を引くが、耳障りなそれからは意識を逸らし、血の滴る腕を響きに向けた。
 響は丁寧に血を舐め取り、瞳が徐々に赤く染まっていった。やがて、皓の傷口が塞がる。
「悪夢を」
「ああ」
 身を引いて扉の縁に寄りかかった皓に対し、響は男へと歩み寄った。
 炯々と光る瞳に見つめられ、みっともなく逃げ道を捜そうとした男はしかし、腕を掴まれて身動きが取れなくなる。
 響は、片手を男の方におき、もう片方でそのまま腕を引っ張った。人形の腕のように、しかしそれではありえない血肉を振り撒いて、男の片腕が落ちた。次いで、反対の腕も。順に、両足も続く。
 獣めいたくぐもった悲鳴が上がるが、皓が鬱陶しげに顔をしかめただけで、誰も頓着しない。
「両手足の指を折らなかっただけ、ましな処置なんですけどね。って、聞こえてないか」
 皓が呟くような言葉を吐いている間に、響は、男の目玉を抉り出していた。悲鳴は、かすれていた。
「そのくらいでいいよ、響」
「わかった」
 短い応答に、血だらけの手が引き上げられた。濡れた手を男の夜着で拭うと、抜き出した目玉と引き抜いた両手足の切断面を無表情に舐め、元の位置に戻す。ただそれだけで、流れ出した血液だけはそのままに、肉体が元に戻る。
 男は声も出せずに、大量の冷や汗をかきながら響を見ていた。
「へえ。まだ意識を保っていられるなんて、叔父上は案外丈夫だったんですね。知りませんでした」
 虚ろに怯えの混ざった瞳を受け、皓は冷やかに微笑んだ。
「今回は忠告です。二度目はありませんよ、叔父上」
「忘れろ」
 逸れていた視線を無理やり向けさせ、響は男の瞳を覗き込んだ。
 それだけで、男の頭が沈む。自分の血で濡れたベッドに倒れ込み、寝息を立てている。
 これで、男は今あったことを覚えてはいない。ただ、迷信めいた響きや皓への怯えと痛みは残っていることだろう。
「帰るか?」
「うん」
 振り返った瞳は黒く戻り、皓は、壁に体重のほとんどを預けたまま手を伸ばした。大量の出血ではないが、一時で失ったためにすこしばかりだるい。
 行き同様に体を預けて、もたれかかる。響はそのまま、バルコニーから一気に敷地外まで飛び降りた。
「っ・・・ぅ」
 呻いて、顔を伏せた。
「無重力と急降下が気持ち悪い・・・」
「大丈夫か」
「いやあんまり。腕痛かったし。麻酔でも打った方がいいのかなー。痛いの好きじゃないんだけど」
 力を余計に使うときには、臨時で血を与える。それでなくても周に一度程度は与えるから、食べ物に気をつけなければすぐに貧血になる。それ以前に、血を出すために切り付けるのが、傷は治るとしても痛い。
 嬉しくはないが条件のうちで、皓は常に短刀を持ち歩いている。契約者の血でなければならないようで、代用も利かない。
「殺せば簡単だろう」
「あんまりあっさりといなくなられても。苦しんでもらわないと、意味がない。あー、お腹すいた」
「・・・さっき山ほど食べただろう」
「そう? あ、ラーメン食べて帰ろ。まだやってるよ、財布も持ってきたし」

2006 年 3 月 27 日 やはり微熱が

 計ったら出てました。それでも図書館と本屋に行ってきたけど。明日(多分)奈良旅行だけど。←と思ったけど延期できたから延期

 今朝、二度寝(?)したら夢を見ました。日記連載中のキャラで。・・・何故。
 何かこー、出版されているものが夢に出てくると驚くけど、自分のって恥ずかしい。うん恥ずかしい。

 皓(だったか紅子だったか。紅子?)が、実は脅されていて響を名で縛って捕えるのだけど、脅迫者の隙を突いて響の閉じ込められている部屋に飛び込んで、裏切られたとの思いで怒りに我を忘れている響に、笑いかけるという。
「あたしを食べれば、呪縛は解けるよ」
「何故」
 というような(もっと映画みたいだったのだけど表現不可)。もう独りでいるのは厭だから、というのが回答。
 細々と設定は変わっているのに、核のところは同じだなーとなんだか感心してしまいました(何)。そうして起きて一番、「(設定が書いているものと違うから)使えないな」でした。何ソレー。

 昨日のところに注釈を入れようと思っていて忘れて、今日になって付け加えました。遅。

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 するりと響の手を抜けて、横に並ぶ。降りたときに思ったよりも高さがあって、毎度ながら驚いた。まさか、成長期ではないだろうが。
 街頭に照らし出された住宅地を抜けて、それでもまだ路地裏の煌々と灯りのともった看板を目指す。
「真崎さんがバイトしてるって聞いたんだ。今日もいるかな?」
 真崎は、皓を誘拐し損ねた弟分の方だ。兄貴分は、鈴木だった。兄弟でも血縁関係者でもないらしい。
 響の呆れた視線を受けながら、皓は一足先に引き戸を開けた。
 ラーメン屋特有の臭いに、頬を緩めてカウンター席に陣取る。十数人程度しか入れなさそうな狭い店内には、二人の店員がいた。生憎と真崎はいなかったが――皓の家に来るために休みを取ったのかも、たまたま休みや違う時間帯のシフトだったのかもしれない。
 代わりに、一度顔を合わせたきりの男がいた。
「こんばんは、刑事さん」
「・・・何してんだ、こんなとこで」
「夜食を食べに。刑事さんも?」
「夕飯だ」
 不機嫌そうに、ラーメンを啜る。
 しおとしょうゆをたのむと、右側に身を乗り出した。左側では、響が無言で水を舐めていた。
「事情聴取まだだし、ここでしますか?」
「馬鹿言うな」
 スープを飲み干し、代金をきっちり小銭で置いて立ち上がる。勤務先が近くというわけではなかったから、家が近いのだろうか。
「羽山機械の笹谷専務を調べることをお勧めします」
 何、と言うように振り返る。皓は、肩をすくめた。
「どうにも、その気配が濃厚なんですよね。動機までは判りませんが、僕の評判でも落としたかったのでしょうか」
「・・・・・・参考にだけ聞いておく」
「お願いします。違っていれば、僕も嬉しいのですがね」
 再度向けられた背に、思ってもいないことを告げる。梨木が出て行くのとほぼ同時に、湯気の上がったどんぶりが二つ出された。喜んで、手を伸ばす。
「わー、ありがとう。――と、いうことだよ」
「わかった」
 わずかにひそめた声で、梨木に告げた方向に証拠を設置するように指示した。

2006 年 3 月 28 日 言い方の問題

 この間、ぼろぼろになったマフラーを「これもそろそろお払い箱やな」と言いたかったところを、言葉が出てこなくて「暇出さな」と言ったことをついさっき思い出しました。わあ、擬人化だ。

 それと全く関係ありませんが、今朝見たテレビ番組で、今や米は「研ぐ」ものではなく「洗う」ものだと知って愕然としました。
 精米技術が発達して、力を込めて洗う必要もなくなったから、らしいのですが。
 うーんー、違和感というか気持ち悪いというか。「研ぐ」のがかっこよくないですか?(そういう問題じゃない)

 喉の調子がまだよくないです。つーか、声変わりかよと突っ込みたい感じの調子です。何、私性別的にこんな急激な変声期は来ないと思うのだけど?

 体調不良と雨天を理由に奈良行きを延期してもらったのに、(この辺りでは)あまり雨も降らず、なんだよそれーと思いました。体調はようやく回復しだした頃だから、延期で間違ってはいないと思うのだけど。

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 言い逃れができないように捏造してしまえば、厄介者はとりあえず片付いて生徒たちの失踪も追及されず、一石二鳥だ。具体的にどういったことをするのかは知らないが、皓という人間を出現させたときも完璧だったのだから、問題はないだろう。
 食べ終えて外に出ると、駅のコイン駐車場に止めていた車に乗り込む。
「バイクの免許でも、取ろうかな」
「そんな時間があったか」
「そこはどうにか。大体、僕がいなくても問題ないんだし。部活の時間でも減らせばなんとかなるよねー。取ろうかな」
 今のところ、皓に乗れるのは(機会があれば)三輪車くらいのものだろう。自転車すら怪しい。自由に使える足がないのは不便だ。
 鮮やかな手つきでギアチェンジを行う響の動作を見て、そんなことを考える。
「やめておけ」
「どうして?」
「事故を揉み消すのは面倒だ」
「勝手にそれ前提で話を進めないでほしいな。…うん?」
 シートベルトで軽く押し付けられた体を起こし、響の横顔をまじまじと見つめる。
 隣の座席で危なげなくハンドルを操る青年(に見える)は、表情の変化に乏しく、顔のつくりがいくらか整いすぎていること、虹彩が混じり気のない漆黒ということくらいしか、一般的な日本人との区別はつかないだろう。
 しかし、先刻の跳躍力や見せた力を忘れるはずもなく、人でないのは明らかだ。いや、もしかすると知られていないだけでホモ=サピエンスやそれに類した一種なのかもしれないが、自他共に表すのにちょうどいい言葉がある。
 名井響と名乗っている男は、悪魔だ。
「普通悪魔って、いかに雇い主を早く殺すかに頭を捻ってない? いいの?」
 黙ってしまった運転手の隣で、腕を組んで首を傾げる。
「死にたいわけじゃないから僕はいいけど、響、実は密かに損してない? そんな性格?」
 物語に出てくる悪魔との差異を感じるのは今までに何度もあったが、これでいいのだろうか。命を担保にしている張本人が気にするのもおかしなものだが、気になるものは気になる。
 だが、返答はなかった。
「他を知らないから気にしないようにしてたけど、もしかして悪魔の中でも変わり者?」
「皓も十分に変わっている」
「も、ってことは、認めてるんだ。まあ僕は、おかげで大助かりだけど」
「…そこまで恐れないのは、問題があると思うが」
「二度と独りぼっちにならないかと思うと、恐いものなんてないとさえ言えそうだ」
 生まれるときと死ぬときは誰しも一人だと、言う。それでも紅子は、独りきりでこの世から消え去ってしまうことが恐ろしかった。両親や祖父母が迎えに来てくれるとでも思えればよかったのだが、どうにも信じられなかった。
 だから、恐れていた。
 今は、そんなことはない。皓が死ねば響がその魂をとっていくというなら、最期にも側にいてくれる。独りきりになることは、ない。
 再び黙り込んでしまった響を視界の隅に留め、車のヘッドライトに照らし出される路面を見るともなく見ていた。あと五分もすれば、家に着くだろうか。
「ところで響、悪魔との約束ってどの程度信用ができると思う?」
「誘拐魔のことか」
「そう。もっとも、誘拐が目的というわけじゃなさそうだったけど」
「似たような事態が起こることを心配しているなら、おそらくはないだろう」
「でも、暇潰しじゃない契約とかただ出没するだけはあるんだろうなあ」
 この解釈は間違っているかと問いかけると、あっさりと首肯されてしまった。あまり嬉しくはない。
「まあいい、それは後にしよう。明日は、学校と小夜ちゃんとの顔合わせか。あ、そろそろ立原ねじの調査書も上がってくるか。刑事さんの方は、もっと地固めにかかるかな。ええと、視察や商談は入ってた?」
「夜に一件。その前に、空手部がある」
「あー、そうか。仕方ない、授業中に適当に寝よう」
 甚だ不真面目なことを言って、皓は大きなあくびをした。人工灯(すいぎんとう)と天然光(げっこう)照らし出された自宅が、正面に見えている。

2006 年 3 月 29 日 ぼんやりと

 まだ体調が微妙で、高校時代の部活の集まりを欠席して家でごろごろとしていました。でも明日には奈良に行くという。何それ(しかも雨天になりそうで延期したのに結局雨かよと自己突っ込み)。

 未だ、就職先から渡された薬品名リスト(よく出るものや有名なものをとりあえず約二百挙げた一覧)を覚えていなくて、ソウミン(催眠鎮静剤)やトメルミン(睡眠防止剤)止まりなのですがどうしよう。
 もう一週間も切っているというのに、他はせいぜいが養命酒(薬用酒)や救心(強心剤)くらいしか、という。あ、のびのびサロンシップ(パップ剤)も覚えてるけど。
 もう、総合感冒剤なんて風邪薬でいいしパップ剤は湿布でいいよつか覚えらんないよ!ともんどりうっております。目薬が点眼剤て何さ。覚える努力をしていないので、そもそも苦情が無効の臭いがしますが。
 こんな現状で(余程のことがなければ)一月後には店頭に立っているなんて嘘っぽいです。誰かに担がれてないか私(被害妄想)。

 今、Gyao(別窓開きます)というところで「シティーハンター」を配信しているので、なんとなく見ています。
 懐かしー。といっても、リアルタイムでは見ていないような気がするのだけど。
 見ていた当時は「遼(だったかな漢字?)かっこいいなー」と思っていたけど、今見るとそうでもないような…いやかっこ悪いとかそういうのとは違うのだけど。後半と前半だとちょっと感じが違ったのだったかなー? 

 奈良に行く前に『まひるの月を追いかけて』を読み返したかったのですが、ちょっと無理そう。他を読まずにこれから読んでればよかった。
 前に読んだときに、奈良を歩いて観光する(飛鳥や山辺の道といった現在のものではなく過去の観光地)といった情景に恩田陸お得意の心理戦(?)だったと思うのですが、内容(もはやうろ覚え)。読んで、無性に奈良観光に行きたくなった覚えがあります(笑)。
 まぁ私が明日行くのは、奈良駅から近いから現在の観光地だろうと思うのですが。

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 ステージの上に密かに設置されていた巨大薬玉が割られ、中に詰め込まれていた小さな紙片や風船に花びら、ミニチョコなどが盛大に降り注いだ。その横からは、垂れ幕が勢いよく滑り降りる。
『田中先生・藤原先生 ご婚約おめでとう!!』
 大布に墨痕鮮やかな垂れ幕の下では、当の本人たちが立ち尽くしていた。田中史時は顔を真っ赤にし、藤原鈴は幸せそうに笑っている。
 体育館に集まっていた多くの生徒たちは、盛大に拍手をしていた。冷やかすような口笛や、野次も聞こえてくる。
「なるほど、これを企んでたのか」
 壁にもたれて成り行きを見守っていた皓は、呟いて、飛んできた薬玉の中身のチョコレートの銀紙をはいだ。口に放り込むと、体温でゆるりと溶ける。
「羽山成」
「梨木さん。記事、書けそう?」
「書けそうじゃなくても書きます。…ありがとね」
 突き出された小箱に、目を丸くする。え、と茜を見ると、照れたように目線を逸らされた。
 推測するに、まず間違いなくチョコレートだろう。かわいらしいラッピングで、包装紙にはSt.ValentineDayの字が躍っている。これで文具セットだったりすると、かなり意表を突かれる。
「随分経ったけど、お礼。あの時、心配してくれたらしいから」
「あ」
 半月ほども前になる、女生徒の集団失踪のことを言っているらしい。母親か叔父に聞いたのだろう。実のところは打算や好奇心で茜を口実にしたようなものなのだが。
 しかもあれは、ハヤマグループの内部反乱の産物ということで方がついた。つまりはその観点から見ると、皓は、礼を言ってもらうどころか謝る立場にある。しかし、素性を明らかにしていない以上は口にできない。
 皓は、壁に預けていた重心を取り返して、芝居がかった恭しさで箱を受け取った。
「ありがたく頂かせていただきます」
「うん」
「今年はちゃんと、ホワイトデーの存在を覚えておくよ」
「あれだけもらっておいて、今更」
 二月の十四日に設けられた生徒会のバレンタイン企画の仕上げイベントは、荷物は教室なり部室なりに置いてくることを原則としている。そうしなければ、広い体育館で全生徒が集まらないとしても、それまでは家庭科室内にあったチョコの泉や試食自由の世界のチョコの並べられた折りたたみテーブルや好き勝手に動き回る生徒に対して、場所が狭苦しくなってしまう。
 教室に置いている皓のカバンには、今日の収穫のチョコレートが詰まっている。高等部内のベストスリーには及ばなかったが、もしかするとベストテンには入るかもしれない。
「だってあれ、ほとんど匿名希望だよ」
「でも、クラスの子たちも渡してたでしょ?」
「ホワイトデー忘れてるかもしれないって言ったら笑って納得してくれた」
「……案外酷いわね、羽山成」
「僕もそう思う」
 あははと笑うと、頭をはたかれた。
 痛いなと頭を撫でていると、茜が皓の隣に並んで舞台を見遣った。つられて見上げる。そうすると丁度、生徒会長の秋山がマイクを持ち、生徒会役員が花を絡ませたティアラと腕輪を持って登場したところだった。ちなみに、秋山がチョコレート獲得のナンバーワンだったらしい。
「今から、指輪交換ならぬ腕輪と冠の交換をしたいと思います! 立会人は、ここにいる皆様ということで! さあ先生方、どうぞ!」
 おろおろと怒ったような視線を向ける田中に対し、藤本が何か言ったようで、明らかに渋々といった体でティアラを持ち上げ、そっと藤原の頭に載せた。
 秋山はその近くで笑いの入った実況中継を行い、生徒たちは、またもや大きく拍手をする。
「秋山先輩も、大した手腕ね。全部とは言わないけど、このお膳立てでしょ?」
「だろうね」
 バレンタインに乗じて企画を実行し、どこからかぎつけたのか、二人の教師が付き合っているということを探り当てた上でプロポーズ間近だということまで知った上で、バレンタインチョコ獲得数の上位三名は好きな人を告白、などと決めて煽って生徒の前で一歩を踏み出させる。
 よくも、そんなことをやってのけたものだ。
 多少のチョコの数の操作はやっているのではないかと思うが、別段、文句を言うものもないだろう。
 ちなみに、二位が田中で三位は元野球部員の桂川だった。桂川からの告白だったが、彼には既に恋人がいるということで、体育会のノリで宣告していた。
「あの人に見込まれたら終わりだと思うよ、正直。まあ、決定的に悪いことはやらないだろうけど」
「見てると楽しいけど、張本人になるのはちょっと勘弁してほしいね。後からするといい思い出になるかもしれないけど」
「そうそう。一の規模で済むことを、わざわざ十に広げるんだから」
 皓が茜と適当に雑談をしている間に、舞台から教師二人は退場し、ステージ中央で秋山が仁王立ちをしていた。まだだった秋山の告白を始めるらしい。
「皆が好きだーッ! ただし女子限定!」
 予想通りといえば予想通りの回等に、会場が沸く。調子に乗って喋り続ける会長を役員が回収して、あとは、終了時刻や注意事項などが告げられ、ステージは無人になる。
 皓は、茜を見た。
「梨木さんは、これから部活?」
「そうねー。明日の朝一で刷るし。羽山成は?」
「親戚が来るから、帰るよ。また明日。記事、楽しみにしてる」
「うん、ばいばい。きっと羽山成、写真入で載るから」
 立ち去りかけた皓の足が止まる。
「は? え? 何、どうして!?」
「生徒会及び新聞部の調査によると、惜しくも五位だからね、羽山成。基本的にトップテンは写真を入れるけど、上位五人は扱いが違うのよ」
「…できれば平穏な日常を送りたいんだけど…」
「無理よ」
 あっさりと宣言され、苦笑いを浮かべた。それ以外に、表情の選択のしようがなかった。
 とりあえず改めて別れを告げて体育館を後にすると、教室に寄った後は真っ直ぐに家に向かった。今朝は雨が降っていたせいで、徒歩で来た。
「皓さん、乗りますか?」
「小夜子さん。どうしてここに?」
 少し歩いただけで車中から呼び止められ、目を瞠った。
 彼女と直接会うのは、一緒に誘拐されて以来だ。あの後、小夜子側の事情や皓側の事情で日程が合わず、今日まで延びてしまっていた。
 微笑む少女の誘いに乗って、車に乗り込んだ。運転手は、どうやら梅谷で雇っている者のようだった。
 そのまま、軽い雑談で家に着く。そうして、テーブルに紅茶とケーキを並べると、他の者を締め出した。
「本当のことを、話してもらえますね?」
 どうはぐらかそうか、と直前までは考えていたのだが、本人を目の前にしてもみると無駄だと判ってしまった。
 溜息を一つ、こぼす。
「どの、本当のことですか? 僕が羽山成の当主だということも本当のことだし、梨園学園の理事長に就きながら生徒として通っているのも、本当のことです。どの事実をお望みで?」
「ふざけないで。あなたは、紅ちゃんでしょう? 一体どうして、こんなことになってるの。私も真夜ちゃんも、どんなに……」
 声を詰まらせる小夜子に、天井を仰ぎ見る。
 小夜子が泣き真似が得意なのは知っているが、だからといっていっていることが嘘だとは限らない。
 とりあえず、皓が紅子だと確信していることだけは確からしい。
「騙し通すつもりだったんだけどな」
「…何よ」
「だって、僕は紅子に戻るつもりはない。それなら、はじめから皓だと思っている方がいいだろう? 僕が紅子だと知られると、正直困るしね」
「だけど…誰もいないところなら」
 にこやかに微笑んで、皓はざらりと盗聴器をテーブルに置いた。
「今日、念のため響に調べてもらっていた分。あちこちに盗聴器が仕掛けられてるんだよ」
 小夜子が、驚いて目を瞠るのが判った。肩をすくめて、ティーカップに手を伸ばす。指先が温まった。
「それらも込みで、悪いけど、細かい事情は話せない。ついでに、黙っていてもらえると助かる。まあ、誰に話したところで信じられないと思うけど。僕の体は、完全に紅子のものとは違うからね」
「…それでも、私が話したら?」
「非合法な手段に訴える。大丈夫、傷つけることはしないよ。ちょっと忘れてもらうだけ」
「何をするの?」
「この間のこと、覚えてる? 一瞬で場所が移動した」
 紅茶を、一口。小夜子は、全く手をつけていないようだった。
「ああいった、多分今の技術では判らない分野の力を使って」
 長い沈黙が降りた。
 その間に、皓はケーキを食べていた。響が買っておいてくれたそれは、ガトーショコラだった。

2006 年 3 月 30 日 まだらな天気でした

 雨が降った後に晴れるのはいい。晴れた後に雨が降ったりも、いい。・・・みぞれはやめてー・・・。
 三月末じゃなくて二月末だろ実は、と、とっても思いました。ある程度厚着はして行ったけど病み上がり(微妙に継続中)の身には厳しかったですよ。つか、完全健康体でも寒かっただろうけどさ。

 行ってきました、奈良。
 しかし、大仏見たとか法隆寺に行ったとか城門跡を見てきたとかはないです(爆)。やー、だって一度行ってるし、修学旅行で(小学校)。もうろくに覚えていないですけどね。城門跡はちょっと行きたかったけど・・・またそのうち行こう。
 奈良駅(JR・近鉄とも)近辺の「奈良町」を歩いてきました。二年前や三年前の観光本を見て行ったら、ないやつもあってちょっと残念。「時の資料館」は休館だったし・・・(没)。
 「奈良町資料館」が一番楽しかったような。
 (今はどうなのか知らないけど)個人の集めた昔の生活用品がたくさんあって、ちょこちょことつけられた説明文が面白かったり。千両箱の重さの箱を持ち上げられて、面白かったです。一両が、約二十グラムだとか。盗難にあったけど無事に見つかった、なんて報告(記事と手書きの文)もあったり。良かったよかったと、人事ながらに喜びました(笑)。

 商店街の途中で古本屋を見つけて、いそいそと本を探し始めたり。「奈良まで来て何やってんだろねー」と言っていましたが、私それ、大阪行っても京都行っても言ってた気がする(爆)。
 でも、旅先(?)で古本屋があれば入ってみるのは当たり前ですよね? 荷物が増えて困ることが目に見えていても、ほしい本があれば買いますよね?
 『漢字読み書きばなし』という文庫本を購入しました。中国文学者の、辛口(予想)エッセイ。

 ところで、観光案内所があったのですが、そこに展示されたみやげ物品の中に「愛の木簡」というお菓子が。・・・愛の木簡?
 名前に惹かれ、友人が販売店舗を職員の人に訊いて、言ってきました。買いました(笑)。
 店の名前と名前から(?)てっきり和菓子と思い込んでいたのですが、洋菓子。ケーキ屋さんで売っていました。通りからケーキのガラスケースが見えて。
「え? ここ?」
「他ないよな?」
 などと言いながら発見。早速食べた父曰く、マドレーヌのようなお菓子ということです。名前にやられました。考えた人、いい仕事をしたね(笑)。

 今朝、何の疑問もなく「ホワイト・ペッパー」と口にして、直後に今何を言った自分、と驚きました(爆)。
 正しくは、「ホット・ペッパー」。白胡椒かよ。

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 嫌いではないが、カバンの中に詰まっているチョコレートを思うと少々妙な気分になる。とりあえず、しばらく甘いお菓子は買わなくても良さそうだ。それとも、響がすぐに平らげてしまうだろうか。
 不意に小夜子が動いて、黙々とケーキを食べ始めた。落ち着いた様子でフォークを動かし、紅茶まで、ゆっくりと飲み干す。そうして、皓を見据えた。
「ひとつ、条件があるの」
「何の?」
「黙っている代わりに、私を婚約者と認めてくれない?」
「え?」
 まじまじと見つめるが、日本人形にもたとえられる少女は、にこりと笑みを返した。
「紅ちゃんなら、ある意味、願ってもない相手よね」
「え――と。僕、生殖能力はないよ?」
「セイショク?」
「子供が作れない。それにそもそも、結婚するつもりもないし」
「いいわよ、それで。極端なことを言えば、生活を保障してくれる人がほしいだけだし」
 知ってはいたが、思い切った物言いをする。確かにそう考えれば、皓は理想の結婚相手なのかもしれない。
 しかしと、反論しようとして何を言ったものかと言葉に詰まった。
「それに、私がいる方がしのぎやすいと思わない? 摂政役を買って出たがっている人たちはともかく、それ以外の結婚話はやり込める必要がなくなるでしょう?」
「いや、でも」
「誘拐されたのが私だけだったって言い張って、あの人たちや黒幕に罪を擦り付けられて、少しは役に立たなかったかしら?」
「・・・・・・小夜ちゃん」
 ぐったりと、肩を落とす。できれば記憶をいじりたくないということまで、あっさりと見抜かれている。
 しかしふと、それもいいかもしれないとも思ってしまった。皓――紅子は、友人に再び接せるのだから。それも、あってもいいかもしれないと。
「約束をしてほしい。僕が紅子だったと、誰にも話さないこと。真夜ちゃんには、言ってしまっているなら同じように言わないように言ってほしい」
「わかったわ」
「それと、もし好きな人ができたら言うこと。いつでも、解消は可能だよ」
 小夜子は肯いて、少し他の話をして帰って行った。
 突然に決まった婚約者を送り出して元の部屋に戻ってみると、既に食器は下げられていた。代わりにとでも言えばいいのか、響が立っていた。わずかに咎めるような表情に、苦笑する。
「響、コーヒーを淹れてくれないか。できるうちに、書類仕事を片付けてしまおう。いつ何が、起きるかわかったものじゃない」
「ああ。そうだな」
「頼んだよ、相棒」
 言い置いて、自室へと足を運んだ。退屈かもしれない日常も、皓は、失う前にその大切さを知っていた。

2006 年 3 月 31 日 穴だらけの包囲網しか張れません

 昨日思い立って、高校の友人連中に会えないかと連絡を取っておりました。
 当たり前といえば当たり前ですが、声をかけた皆が集まれるわけではなく(一人、こっちにいないだろうとそもそも連絡していない人もいたりしますが)。しかしそれ以前に。友人に連絡を頼んだと思って頼んでいなかった事実を今日知ったり。慌てて、頼みました。
 そして急展開に(でもない)明日ということに。ばたばたです。

 ばたばたと言えば、昨日から「たこ焼きが食べたい」と言っていて、思い出して今朝母に「明日か明後日の昼に」と言っていたら、たまたま家にいた姉が、今日の昼は家で食べるから今日がいいと言い.
 急遽、たことちくわを買いに行ってきて、もう何年も使ってないたこ焼きプレートを引っ張り出してきました。
 関西の家には、たこ焼きプレートが常備されているというのは、あながち嘘ではないと思いますよ私は。
 久々すぎて焦がしたり、油を敷く用の道具(?)がなかったりで、ちょっと手間取りましたがまあ。昨日の残りの肉じゃがを具にしたり、色々と。
 あー、楽しかった。

 月曜に入社式なのですが、未だ覚えないといけない諸々を覚えてません(爆)。
 そしてあと二日かー、働くの面倒だなーなどと思っていますが(仕事自体よりも人間関係が厭)、二日あるよ二連休だよ、と思ったところで、何故に自分が無駄に前向きなのかわからなくなりました(笑)。自棄なのか、これは自棄になってるのか?(開き直りとも言う)
 ・・・四人のメールとメッセとが交錯して、何か間違えたり飛ばしたりしそうだ(汗)。・・・だから幹事向いてないのに、何故やってるの私ー。

 とりあえず、日記連載終わってよかったー。これまた見直しに物凄く時間がかかりそうだけど。
 あとは、月曜までに何とか「台風の目」を。・・・やりたいこと、ほとんど終えられない長い春休みでした(爆)。

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「そう言えば。ねえ、あなた名前は?」
 契約を終え、紅子は男を見つめた。このまま寝てしまえば、この体は死ぬ。そうして紅子は、別の少年になる。
「これからずっと、一緒にいてくれるんでしょう? 名前を知らなければ不便だし不自然だわ」
「……名はない」
「え?」
 きょとんと、首を傾げる。そうして、それならと手を打った。
「ねえ、それならわたしがつけてもいい? うーん。響、なんてどうかしら。漢字一文字で」 
 あ、と少しだけ焦ったような表情になったのを見て、あ、と紅子も呟いた。
 悪魔にとって、名は大切なものではなかっただろうか。悪魔に限らずだが、とりわけ、今までに紅子が読んだ書物では、名を知られると力を失ったり好きに使役されてしまったりしている。名をつけるのは、名を知るのと同等だ。
 そんなつもりではなかったのだが。
 男の白い顔を見つめて、慌てて打開策を探す。やめた、と言えばそれでなかったことになるだろうか。
「今のなし!」
「…」
「えーと。名字は、あなたが自分でつけたらいいのよ。それで、わたしの名前をつけて。そうすれば、お相子には…ならない?」
「………コウ」
「え?」
「紅に対して、白の意味を持つ皓。気に入らないか」
 それが新しい己の名だと気付くまで、少しかかった。漢字をよく知っていたことが意外だったが、それも何だか嬉しい。
「気に入ったわ。ありがとう」
 もう、紅子でなくなることが恐くはなかった。
 今のこの体を捨てて、新しい姿を手に入れることへの躊躇いが、これでなくなった。いっそ晴れやかな気持ちで、男を見る。
「名井とでもしよう」
「ナイ?」
「名に井戸の井。名井響が、お前の側にいる間の俺の名だ」
 微笑みもせずに、淡々と口にする。
 紅子――皓は、何故かそれが嬉しくてたまらなかった。彼は、しっかりと皓に向き合っていてくれている。言葉を、聞いてくれている。紅子の周りには、そんな人は少なかった。
「それなら、名井さんと呼べばいい?」
「響でいい」
 無愛想とも呼べないほどに感情のない調子で、そう告げる。この人――人ではないのだが、彼は、笑うことがあるのだろうかと思った。
「響さん」
「何だ」
「眠るから、手を握っていてくれない? わたしが――わたしでなくなるまで、ここにいて」
「…それは命令か」
 変化のない一本調子の声に、笑みがこぼれる。
「そうね。はじめての命令ということにしてちょうだい。いいかしら?」
「ああ」
 最期のときまで、彼は皓に従ってくれるのだろう。先ほど騙されたばかりなのに、皓はそう確信していた。 
 
 きっと、大丈夫。
 わたしはこのまま、前を向いて歩いていける。
 たとえ進む道が曲がっていると、初めから知っていても。



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