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「うっわ…肉、付いてきたな…」

 ふとした瞬間に気付き、意外なくらいに呆然としてしまった。――うん、掴める。腹肉掴めるってどうだ。

 成人病、違った今は生活習慣病? メタボリック症候群? まあとにかくそのあたりもこわいから、運動するとか間食減らすとか、何かした方がいいのかもしれない。

 でも――

「面倒、やなあ…」

『そんなあなたに! 朗報です!』

「ん?」

 あまりにもぴったりなタイミングで聞こえた声に、思わずテレビを見る。こたつでみかん、の幸せのひと時の、ひとコマ。

 画面には、子どものような(でもスーツを着た)男が、鼻の穴を膨らませて、画面いっぱいに映っている。CMにしても、明らかにセンスがない。

『今回見事! 開発に成功いたしましたこの商品、その名も、瘤取り爺さんの鬼の手!』

「…はぁ?」

『ご存知でしょうか、瘤取り爺さん! 邪魔だったほっぺたの瘤を鬼が取ってくれて小さく幸せになったあのおじいさんです!』

 んー…何か色々と間違ってる気がするけど、でもそうも言い切れない気がするのが難しい。あれ、そう言えば正確にはどんな話だったか。隣の爺さんが酷い目にあったのは覚えてるんやけど。

 画面の中の男は、少しだけ身を引いて、節くれ立った気味の悪い腕を見せ付けた。男の腕と比べると、太さは倍ほど、長さだってひと関節分ほどあるくらいに違う。

 鬼の手、を模してるんやろうけど、凝りすぎてこわい。子どもが見たら泣きそう。子どもじゃなくても、こんなものが家にあったりしたら、下手したら泣く。

「こっわ」

『そ、そんなことはありません! これはとっても便利アイテムなんですよ!』

「いやでもこわいってそれ。どんな効能があったって手元にゃ置きたくないな」

『でもですよ!? この手さえあれば、体の好きな部分を痛みもなく取れちゃうんですよ! ほーらこの通り!』

「…うそ?」

 画面の中で男は、言いながら、鬼の指を自分の指で押さえ、空いている手で頬を少し摘み、鬼の指で掴みやすくして見せた。

 鬼の手で掴んだ頬は、ポロリ、と、餅のようなまん丸な形で、あるべき場所を離れた。

「…や、いやいやいやいやいや。ないない。ないって。うん、特殊技術やな、FFXとか言うの」

『SFXなんかじゃありません! 実際、取れるんです! ほーら、戻すのもこれこの通り!』

 男は、肉色の玉を鬼の指でつまみ、先ほど摘んだ頬にあてる。…戻った。

『如何でしょう、この、瘤取り爺さんの鬼の手!』

「長いし」

 ちょっとパニックに陥って、関係のないことに突っ込む。

 急に男は、がっくりと肩を落とした。それまで張り付いていた嘘臭い笑顔が、泣きそうに変わる。うわ、より一層子どもっぽい。妙に罪悪感に襲われる。

『駄目ですかあ…苦労したんですよ、すっごく』

 そりゃそうだ、こんな風に好き勝手に体の肉を取れるのが本当なら、とんでもない大発明だ。医学界がバク転する。

『瘤取り手、ってしたら瘤限定じゃ売れねえよって足蹴にされて、瘤取り爺さんってしたら、爺さん売ってると思われたらどうするって頭突き喰らって、鬼の手にしたら、どの鬼だ桃太郎に財宝奪われる奴か縁起悪いだろぼけなす、ってラリアット喰らって…』

「名前かよ!」

『…ううっ、すみませんすみませんごめんなさいぃっ』

 男の泣き顔を画面いっぱいに映し、ぷちん、と切れた。 

 真っ黒な画面。…そう言えば。テレビ、つけてたっけ…?

 それに。

「今…テレビと会話してなかったか…?」

 あり得ない。あり得なすぎる。て言うか。

「いらんなんて言ってないしーっ! その無駄すぎる技術なんやーっ!」


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