朝起きると、世界が一変していた。
見慣れたあたしの部屋、ベッド、布団。――なのに、開けた窓の向こうには、数え切れないほどの魚。その一匹が、大きな目であたしを見た。
「っわあああっっ」
「美里!?」
階下から、聞き慣れた母の声が聞こえた。
* * *
「全く。朝から大声出して、何かと思ったじゃないの。鰯注意報が出てるって、昨日言ってたでしょ」
「・・・鰯って・・・もっと小さくなかった・・・?」
「そりゃあ、小さいのもいるわよ」
「・・・空なんて、飛ばなかったと思うんだけど」
「何ばかなこと言ってるの」
陶器と木のぶつかる音がして、ミルクティーがたっぷりと入ったマグカップが置かれる。湯気付きで。
呆れるほどに、いつもの光景だった。さっきのあれは、夢だったのだと思いたくなるくらいに。
「魚に気をつけなさいよ。あんた、ぼんやりしてるんだから」
「・・・・・行って来ます」
歩き出したあたしの視界の片隅では、大きな網を持った大人達が、祭の櫓のような所に登っていた。漁でもするのだろうか。空で?
溜息を、一つ。
空には、悠然と泳ぐ巨大魚たち。
「・・ま、いっか」
こういう世界もありかもしれない。
足を速める。早くしないと、学校に遅れてしまう。どうせなら、学校のない世界がよかった。
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