うそつき

 本当に、うそばかりついていた。

 虹のふもとの宝箱や陸地と間違えてしまうほどの大亀、いつの間にか一人増えているけれど誰が増えたのか判らない子ども、子どもにそっとプレゼントを与えてくれるおじいさん、頬かむりをして踊る尻尾の裂けた猫、七つの海を泳ぎ回る巨大魚。

 活き活きと語られたそれらは、母でさえうっかり信じそうになった、と言うほど真に迫っていた。お陰で私は、それらの全てを本当と信じて、結構な年齢まで「変わった子」扱いをされた。

 実体験として語られたそれらは、今であれば出典さえたどろうと思えば見つけられるような、うそ、だった。

 でも――全部、楽しかった。

 たのしくて、やさしいうそつき。

「でもさ。最後まで、うそつかなくたって、よかったのに」

 すぐに治ると言って繰り返していた入退院。お陰で私は、覚悟がし切れなかった。――いや、本当は気付いていた。ただ、そのうそを心底信じたかっただけで。

 ああ。やっぱり私も、うそつきだったんだ。

 舞い散る桜を眺めて、少し、笑った。それはそうだ。あの大うそつきの娘なんだから。

 桜の花が、お墓につもる。

 桜の木下に死体が埋まっているのも、桜林に鬼が棲んでいるのも、全てうそ。でもこの幻想のような風景には、うっかりと信じてしまいそうになる。

 だから――

「ごめんうそだよ、って。出て来ないかなぁ」

 もちろんそんなこと、絶対に起こるはずのないうそで。でもそれを、信じられたらどんなにいいだろう。

 ああ――うそつきに会いたい。

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