奇妙なセカイへ

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 その日、楢木里美は当初計画していた外出を取りやめて、家でじりじりと時計の針を睨んでいた。

 今日がバイト初日なので、その心構え――というほど仰々しくはないが――をしているのだった。というよりは、下手に外出したら遅刻しそうな気がして怖いのだ。朝八時に起きて、四時半すぎに家を出るまでずっと。

 自分でも馬鹿らしいとの自覚はあるが、人見知りの激しい性格の上に、ようやくの初バイト。

 こわい。はっきり言わなくても、こわい。今から断りの電話を入れてしまいそうになるくらいにはこわい。

 何しろ、初夏頃にバイト探しを始めて役半年。その間何度面接を受けて何枚履歴書を書いたか。・・・コピーじゃだめなのか、どうせ変化はないのに。通勤時間だとかを変えたら同じなのに使い回せないなんて資源が無駄だッ、と何度呟いたか。

 しかもその間に、採用との電話に店に行ったら、訝しげに見られて「あ、ごめん、間違えたみたい」と不採用を言い渡され――ちょっと待てオマエ。それはないだろう、それは。そっちが間違えたんだから責任とってとりあえず様子見に採用位してくれてもいいじゃないか。そういうのは仕事に慣れて冗談でも言い合えるくらいになったときに笑い話として披露するか最悪こっちが立ち聞きしちゃったようわーとかだろなあ!? ・・・と、言いたかったが言えずに「あ、そうですかー」といって引き下がったという体験が入る。

 それなのに今回は、求人広告の出たその日に電話して翌日面接で翌々日には出勤ともなれば。

 多少、不安にもなる。騙されてない? と疑いたくもなる。

 バイト運がないのかよっぽど人当たりが悪いのかそれとも高望みかと考え出した里美だが、始めの頃はともかく、今は高望みをしているつもりはない。

 それとも、学校に行きながら自転車で通える範囲内で週何日か、日付を越えない時間帯に働きたいというのは高望みなのだろうか。それとも、家の近くにあるチェーン店(なかなかバイトの募集をしない)と同じところだと、少し遠いと近くにあるのになあ、と思ってしまったのが敗因か? しかし、他のファーストフードでも拒否されたぞ?

 ・・・と、ふつふつと考えてみたりもした。しかし、今はとにかく。

 ――ああ、ユウウツが重い。

 そんなことを思いながら、集中できず先に進めないまま文庫本を抱える里美だった。   


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