雪を歩く


 さくり さく さく

 雪に包まれた朝だった。
 珍しく積もった雪に、音が吸い込まれる。さくりさくさくと、それを踏みしめる音が、小さく耳に届いた。白い息が、弾む。
 目覚めたばかりの町を、歩いていた。

「こんなにさむいのに、雪見大福がたべたいなんて、かわった人だね」
「それを買いにいく僕らも、十分に酔狂だと思うよ、萌黄」
「ああ。うん、そうだね、浅葱」
「酔狂だよ」

 さくり さく さく

「だけど、まにあうのかな」
「さあ、どうだろう」
「どうだろうって、浅葱、必ず持って来るって約束してたじゃない。嘘ついたの?」
「嘘だったら、こんなところ歩いてないよ」
「だけど」
「結果的には、嘘になるかもしれない。でも、あの人が信じるなら、本当だよ」

 さくり さく さく

「うそなのに、ほんとうなの?」
「そうだよ。本当も嘘も偽物も、全部、その人次第なんだよ、萌黄」
「ふうん?」
「急ごう。あの人が、生きてるうちに間に合うように」

 珍しく積もった雪を、子どもたちが踏みしめる。さくりさくさくと、子どもたちは、足を速める。白い息が、弾む。
 目を閉じようとしている、薄汚れた老人のために。

 さくり さく さく 



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