許してくれ、と誰かが呟いた。若い研究員だったかもしれない。壮年の一兵だったかもしれない。
ベッドに拘束された少年たちは、それに対して何の反応も示さなかった。ただ冷たく、引きつった表情をしている「大人」たちを、見る。それは、人によっては告発、威圧、嘲笑、憐憫、非難――。
少年たちは、ただ見ているだけなのに。
『馬鹿げてるわよね』
生活必需品どころか、外では滅多にお目に見られない娯楽品さえもが揃った部屋で、恵里華はソファーに体を投げ出した。恵里華の育った施設では、到底お目にかかれない代物だ。
『まあまあ。いつだって、科学書は夢想家だから』
十六夜が、読みかけの本から顔を上げて、曖昧な笑みを浮かべた。
『一生懸命だしね。この方法しかないんでしょう?』
『素直すぎるわよ、キサラ。大体、一生懸命なら何してもいいわけ? だったらあたし、今から一生懸命ここ壊して回るわよ』
のんびりとした口調の希砂麗に、呆れるように、恵里華は言った。
職員や研究員にここでの会話が筒抜けなのは知っている。だが、彼等が壁の向こうでどんな感情を抱こうと、知ったことではない。
少年たちは、自分が今は何も出来ないことも、『彼等』がその事を知っていることも、彼等にとって自分たちが必要である事も知っていた。
『全く、馬鹿げてるわ』
『馬鹿なんだろう』
「馬鹿げてる」ではなくて。皆。ここにいる四人も含めて。
極端に省略した矢羽根の言葉は、だが、他の三人にはしっかりと伝わった。
『やるんだろう』
全てを終らせるために。
恵里華はクッションに寄りかかり、十六夜は本を閉じる。希砂麗は、あみかけの自分の髪を持ったまま、動きを止めた。始めから片膝を抱えて座っていた矢羽根だけが変わらない。
四人は眼を合わせ、口を歪めた。自嘲、苦笑、微笑、嘲笑。それぞれの感情を映し出す。
『まあね』
今は。まだなにも出来ないけれど。
「人」を無機物に移行させるという、一種の不老不死の方法を発見したのは、誰だったろうか。
その際、使用するエネルギー以上に発生するエネルギーに気付いたのは、誰だったろうか。
それを、兵器利用に思い至ったのは、誰だったろうか。
だが、その発生したエネルギーに意志が介在すると気付いたのは、まだ「大人」と言いきるのは躊躇うような、少年たちだった。多くの候補者から、適正の高さ故に選ばれた少年たちは、本能的に気付いていた。
昔から、生贄には霊的能力の高いものが多いというからそれだろうか、と笑い合ったこともあった。
不完全な技術。不完全な法則。高い危険性。
それに頼るほどに、この国は追い詰められている。そう、思い詰めている。
許してくれ、という呟きは、誰に許しを求めたものだったのだろう。
少年たちが死に、同時に不老不死を得た、その瞬間。敵国どころか、世界の大半が滅んだ事に気付いたものは、少なかった。
――神話の世界は、近くに迫っていた。
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