復讐の方法

 復讐しよう。

 誰か一人だけに会えると聞いて、真っ先に思い浮かんだのはそれだった。酷い目に遭わされたのだから、当然だ。効き目のないおまじないじゃなくて、本当の幽霊の復讐。

「・・・まあ、好きにしたら」

「気のない言い方ね」

「いや、だって・・・人事だし」

「失敬な人ね」

 そう言って睨みつけると、その人は、少し困ったようなかおをした。悪気はないようだから、今回は許して上げることにしよう。

 多分高校生くらいの、ひょろりとした男の子は、頼りなさそうではあるけど、いい人のオーラがあった。あの世に連れて行ってくれるという人が恐い人でなかったのは、きっと、いいことだ。

「ねえ、普通、祟って出るときってどんな感じ?」

「え? うーん、さあ」

「さあって何よ。他にもいるでしょ、祟った人」

「あー・・・俺、まだ新人だから、見てないんだ。映画やテレビを参考にしたら?」

「俗っぽいわね」

 それにしても、こういった人もテレビなんて見るものなのだろうか。

 とりあえず、この間見たばかりの、有名な呪いのビデオのものを思い出してみる。ああ、駄目だ。髪が短いから様にならない。それなら、血でも滴らせてみようか。・・・どうやって?

「ねえ。どうしたら、血糊を出せるの?」

「念じたらいいと思うけど。ああ、出てるよ」

 言われて、額に触れると、ぬるりとした赤いものが手についた。本当だ。でも鉄臭さはない。鼻が利かなくなっているのか、本当は血ではないのか。

 まあ、丁度殴られた部分だし、これで準備は整った。

 時刻も夜。幽霊にはおあつらえ向きだ。

「さあ、あの子はどこにいるのかしら」

「言っておくけど、直接殺したら、あんたはこのまま消滅するからな」

「殺す・・・」

「相手が心臓麻痺で勝手にとか、喋って追い詰めるのはいいけど」

 案外、幽霊というものも不便なようだ。しかも一度きり。テレビドラマの幽霊は、何度だって現れるのに。

 案内してと言うと、拘置所だと、素っ気無く言った。

 それもそうか。私が殺されたのは、昨日のことだ。

「あのさ」

「何?」

「その格好で行っても、ちょっと判らないんじゃないか? あんた、たしかもう八十はこえてたよな?」

「どうだけど?」

「小学生だぞ、それじゃあ」

 そこではじめて、気付く。小さな手、低い視線。どうして今まで気付かなかったのだろう。

 そう思っていると、視線の位置が高くなった。手も大きくて、でも、まだ若い。八十のおばあちゃんの手ではない。

「何歳に見える?」

 うーん、と、青年は首をかしげた。

「三十・・・四十・・・四十手前くらいに見える」

「そう」

 それなら、あの子が小学生くらいだろうか。

 そんな子供が、今ではもう、十分な大人だなんて。お酒を飲んで、暴力を振るう、ろくでなしになるなんて。早々に死んでしまったあの人も、私も、予想してなかった。

 ああ、しんみりしてしまった。これから、呪いに行くというのに。

 ふと、青年が見ているのに気付いた。

「何?」

「記憶に残る最後の姿が、それでいいのかなと、思って」

「若作りだって言いたいの?」

「いや、血」

「あ」

 そうか。おどろおどろしい姿で出れば、それが最後になる。そうか。

「消えたけど、いいの?」

 聞きながら、それが初めから判っていたかのようで、少し口惜しい。見透かされていたかのようだ。

「いいのよ。それよりあなた、ずっと年下なのにその口の利き方、生意気よ」

「あ、ごめん。はじめの姿が子供だったし、可愛かったから」

 ・・・話に聞くホストは、こんな感じだろうか。

 八つ当たりもできなくなって、行くわよと、そう言って先に行く。だけど、立ち止まってしまう。

「心臓麻痺、起こすかしら」

「心臓弱い?」

「いいえ」

「じゃあ、話しかけたらないかも」

 かもって、と呆れて見つめると、肩をすくめる。

 そこはもう、賭けになるのかもしれない。それでも何故か、彼を見ていると大丈夫のような気がしてきた。

 何故だろう。彼が、一貫して落ち着いているからかもしれない。

「ねえ。はじめから知ってたの?」

「何を?」

「私が、本当は復讐するつもりがなかったこと」

 彼は、少しだけ困ったようなかおをした。

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