「ただいまー」
髪の短い少年、いや少女が元気良く扉を押すと、扉につけられた鈴が盛大に鳴り響いた。店の中にいた青年は、音に顔をしかめ、何か言ってやろうとして唖然とした。
そこには本来あるはずの、彰――少女の名だの顔――はなく、代わりに、色とりどりの花のかたまりが浮かんでいた。一瞬何か判らなかったものの、すぐに彰が花を抱えているのだと気付いたセイギ――元々は、正義という名だった――は、しかし、その色のかたまりが移動したときには大きくのけぞった。
その花が、喋った。
「ロクダイ、花瓶どこ?」
「ロクダイならさっき出かけ・・・って、なんで居るんだよっ?」
出かけたはずが、何事もなく店の奥から幾つもの花瓶を抱えて出てきた着流しの青年、ロクダイ――本名を、セイギは知らない――に目を見開く。一方ロクダイは、端正な唇の端に、人の悪い笑みを浮かべた。
「わしは先刻から帰っておる。お主がぼんやりしておっただけじゃろう」
「とか言って、裏口から入っただけなんだよね」
「なんじゃ、ばれておったか」
「判るよ、それくらい」
明るく笑いながら言う、彰。
二人が仲良く花を仕分けている様は、ほのぼのと明るい上、ドラマかのようにはまっている。そんな光景を一人離れて見ながら、セイギは疑念が湧いてくるのを抑えられなかった。
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