お題:『次の文章を読んで、このお話にふさわしい終章(オチ)をつけてください』

序章


 私がこれからお話しする物語の舞台は、私達の住む世界とは全く別の世界……
 いわゆる剣と魔法で食っていける人々が存在する、私達にとっては実に摩訶不思議で夢に溢れた世界である。――私達にとっては。
 そして主人公となるのは、いかにもその辺に居そうな普通っぽい一人の青年男児。――と後々その仲間になるあまり普通っぽくない人達とやっぱり普通っぽい人々。
 だが、あくまで【っぽい】だけなのである……故に、全員正常だといえば正常であるし、変人だといえばそうとも言える。
 彼らは決して勇者や英雄といった伝説の人になるべくして生まれてきたわけではなかった。怖くなって逃げ出す事もしばしばあったし、頭も冴えなかった。それに、彼らはあまりにも弱過ぎた。しかしどういう巡り合わせか、偶然が偶然を呼びそれは運命になった。
 お互いに求め合い、そして巡りあい、常日頃人々が心の奥底で問いかけ続ける「自分は何者なんだ?」という永久の課題に、ある一つの答えの形をしめしたのだ。それは人並みに悩み続けた彼らの冒険が、一つの終わりを迎えた時だった。これから再び始まる冒険の序章に過ぎない、長く苦しく何度も死にそうになったその冒険を、今ここに伝えよう―― 


終章


「あー、もう。ほんっと、冗談じゃないわ。姉弟ってだけで全責任持てなんて。姉弟なんて言ったって、たかが血がつながってて一緒に育っただけなのに!」

 勢いよく不満を言い立てる金髪の美人に、他の面々はおののくようにして、一定の距離を保っていた。自分にまで火種が飛んできてはたまらない。

 と、突然立ち止まり、探るように一人一人の顔を睨み付ける。

 まだ十歳前後の人形のような少女、奇抜な格好をした年齢不詳の男、細身の刀を下げた二十歳ほどの青年とポケットだらけの服を着た十代半ばの少女、神殿の巫女装束の二十歳前後の女、頭に布を巻いた十代後半の青年。

 最後の青年で視線を止め、顔を額がぶつかるかと思うほど近付ける。恐ろしい視線の通り過ぎていった人々は、生贄の羊は自分じゃなかった、と安堵の息を吐く。

 しかし青年には、それは許されない。

「あんたは腹が立たないわけ? 幼馴染ってだけで引っ張ってこられて?」

「・・・引っ張ってきたの、リタさんだったと思うんだけど」

 ああ、馬鹿。

 五人が、一斉に溜息をつく。ここでそんな事実を言っても、事態は好転しないどころか悪化するだけだというのに。なぜこいつは、生まれる以前からの付き合いのはずなのに、うまく対処できないのか。

 案の定、リタは怒りにこめかみを引きつらせた。無言で、右腕一本で引き摺[ず]っていた青年男子の体を投げつける。補足するなら、その物体は気絶している彼女の弟である。

「行くわよっ」

 勢いよく吹っ飛ばされた青年と、武器として使われた青年は、そろって意識を失っている。もっとも、武器の方は元から意識がなかったのだが。

「迷わず神の御元[みもと]へ行かれますよう、冥福をお祈りします」

「こらこらミーファ、勝手に殺したるなよ」

 短く祈る巫女に、薬師が半ば反射的に突っ込んだ。



 宿を確保すると、一行は即座に酒宴に突入した。「今日くらいは好きに飲ませろ」というオーラでも発していたのか、気付くと店は貸切になっていた。

 ちなみに、借りているのは二部屋のみ。八人で二部屋。酒くらい飲みたくなる。しかし、飲食代のほうが高くつくのではないだろうか。酒を控えれば、せめてもう一部屋とるくらいの余裕は生まれそうなものだが・・・。

「シア、だった? やめといた方がいいよ。・・・ああなりたくないだろう」

 酒宴が始まって大分経ってから、唯一まったく酒を飲んでいないアレンが、まだ幼い少女に忠告した。軽いものを何杯か飲んでいたシアだが、今手にしているのは火をつけたら燃えかねないきついものだった。

 アレンの指差す先には、酔いつぶれていたり、完全に酔っ払って眠ったいたり奇妙な行動をとっていたりする一群がいた。

 シアは、アレンと一群とを見比べ、溜息をついてコップを下ろした。

「わかった。やめとく」

「そう。じゃあ、どうする? まだ起きてるなら、少し片付けるのを手伝ってほしいんだけど」

 寝たほうが得だけどね、と付け加えて笑う。シアも微笑み返した。

「手伝う。少し、あなたと話してみたかったし。食器片付けるの?」

「うん。あっちに持っていってくれる?」

 うなずいて、シアは食器を運び出した。人形のような顔が、酒のせいか少し火照っている。

 アレンは、それを見て小さく自分に喝を入れる。・・・それでも、これからこの酔った人たちを二階に運ぶのかと思うと気が重いのだが。とりあえず女性陣から。

 まずは、巫女装束の女性。ミーファといったか。思っていたよりも軽く、楽に運べた。無理を言って床にも敷いてもらった布団に寝かせる。

 ついで、薬師の少女。リャンと名乗った。たくさんついているポケットには薬品の壜もあるので、割らないかと少し冷や冷やした。まだ完全には眠っておらず、右頬を引っかかれた。

 最後に、姉のリタ。運ぶ途中で怒鳴られ、泣かれ、最終的に抱きつくように腕を回されてしまい、起こさないように外すのに苦労した。

 それから、シアにふきんの場所を訊かれ、おかみさんに聞いた通りの場所を教えてから男性陣に取り掛かる。こちらは、女性陣と違って抱きかかえることは断念して、支えるか引きずることにする。

 まず、抜いてしまった刀を手放さない青年。びっくりさせると刀を振り回し、物騒際まりない。しかしまだ意識があるにはあるので、ササラ、と小声で呼び、肩を貸して階段を上る。

 次に、奇妙な格好の男、ジョネス。細身で一見軽そうなのだが、骨太なのか重かった。その上、完全に泥酔。三度ほど転びかけた。しかし魔法使いだというから、酔って変な魔法を使わないだけましかもしれない。

 そして、こんなときでも頭の布をはずさない青年。アレンの幼馴染、ジオだった。揺すっても呼んでも起きず、背負う羽目になった。

 六人を運び終えてさすがに疲れていると、シアが茶をくれた。

「ありがとう」

「私も飲むから。すごいのね、全員運んじゃって、ええと・・・・」

「リュカ」

「リュカ。すごいね。私、運びきるなんて思ってなかった」

 姉と同じ金の髪に白い肌、筋肉のつかない体質から自分が弱く見えることを知っているリュカは、苦笑した。そんなに強いわけではないのに、人並みの動きをすると感心されるのだから、なんとも奇妙な奴だと思う。

 少しの間、二人は静かに茶をすすっていた。

 沈黙を破ったのは二人同時だった。慌てて、二人ともが譲り合う。

「・・・じゃあ、僕から。ありがとう、助けてくれて」

「私は・・・ほとんど何もしてないの。むしろ、こっちが助けてもらったようなものだわ。私、化け物って呼ばれてたの。そんなところから連れ出してくれて、感謝したいくらい」

「それは、僕に言うべきじゃないよ」

 本人は意識していなかったが、その笑顔は消え入りそうだった。

 シアが、急いで首を振る。

「そんなことない。だって、あなたがリグドゥにならなかったら、私はずっとあのままだったもの。化け物って呼ばれて、力の使い方も知らないで。だからいいの。あなたに言うべきなの、ありがとうって」

 驚いたように目を見張って、ふっと、リュカは笑った。柔らかい、やさしい笑みだった。

「わ、私、寝るわ!」

 突然の大声にあっけにとられたリュカを置き去って、シアは寝部屋に飛び込んだ。戸を閉めて、外からの侵入を阻むようにそれに背を押し付ける。

「・・・・・・・・・サギよ、こんなの」

 呟く。リュカと同じ年齢だというジオだとただの「お兄さん」でしかないのに、と胸を押さえる。



 一人取り残されて、リュカは中身の残っている酒瓶に目をやった。飲みたい気分だが、飲んだ途端に眠ってしまうのでそうもいかない。おまけにこの疲れでは、絶対に部屋にたどり着けないに違いないのだから。

「ありがとう、みんな」

 リグドゥ。

 恐るべき炎の悪魔。

 一時、リュカに生[な]っていたもの。

 その退治のためにリタとジオは村を追い出され、国を巡る旅に出ることになった。そして、死闘を終え、不可能だったはずのことを――自分を連れ戻してくれた。

 未だリグドゥの力が残り、自分でさえ得体が知れないのに、叱り飛ばして受け入れてくれた。・・・そのとき殴られた頭がまだ痛むのだが。 

「・・・寝よう」

 静かに立ち上がって、リュカは部屋に入っていった。

* * *


 翌朝、一行は国外脱出を図った。そして見事隣国に抜け、その後、各国で様々な逸話を残し・・・同時に厄災の種と厄介がられることになるが、それはまた別の話である。 



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