暮れゆく公園

 久しぶりに実家に帰ると、途中の公園で子供が遊んでいた。

 最近の少子化のせいなのか外で遊ばないだけなのか、こんな都市とは言えないところでも、その数は少なかった。ほんの、二、三人だけ。こんなだったかなあ、と、佑子は小さく見える公園の、少ない子供たちを、見るともなしに見ていた。

 旅行カバンがずしりと重いのは、ただ思いからだけでは無くて。教師になるかならないかで母と揉めているからでもあった。大学に入ってから周りに合わせて買った大人びたコートとロングブーツも、少し窮屈だった。

 不意に、子供たちが佑子を見た。その顔は三つ子かと思うほどに似ていたが、男の子が一人と女の子が二人なのは判った。

 怪しまれたかな、と苦笑して、佑子は踵を返した。その途端に、コートから出ているスカートの裾を引っ張られる感じがした。

「え?」

 いやな予感を感じながら振り向くと、三人の子供がそれぞれ、そう長くもない佑子のスカートを掴んでいた。

「あそぼ」

 無邪気なのか何なのか。不審者扱いとどっちがましだろうと、少し考える。

「あ・・・あのね、お姉ちゃん、これから行くところがあるの。ね? だから、離してくれる?」

「あそぼ」

「いや、だからね・・・わかったわよ」

 元々、子供は嫌いではない。そうであれば、今、こんなにも悩んで、母に口を挟まれたことで苛立つこともなかった。

 早々に白旗を上げた佑子は、カバンを近くのベンチに置いた。

 それから、高オニ、だるまさんがころんだ、影踏みと、懐かしい遊びが繰り広げられた。今でもやってるんだと、意外に思う。久々の単純な遊びは新鮮で、そのうちに、コートを脱ぐくらいに熱中していた。無軌道に動き回る子供たちには、目を見張るものがあった。

 長い一日にようやく訪れた夕暮れに、締めくくりだと言って子供たちは、ブランコに乗った。二つしかないので、佑子は女の子のうちの一人と一緒に順番を待った。ブランコの天辺にも、軽く手が届くくらいになっていた。

 男の子と女の子は、どんどんブランコを加速させていく。そして、つい危ないと言いそうになるほどに高く上がったところで、片方の靴を脱ぎ捨てる。高く、高く、前に。

 その一瞬は、驚くほどに鮮明に、記憶に焼きついた。夕日に、影を負って上がる小さな靴。まるで、印象的な映画のワンシーンかのように。

「どれだけ遠くまでとばせるかをくらべるんだよ。やろう、ゆうちゃん」

 女の子に呼ばれて、夢見るように一歩踏み出した佑子は、そのまま足を止めてしまった。六つの瞳が、それに気付いて不思議そうに見つめる。

「ごめん。無理」

「どうして?」

「ブーツだもん。できないよ」

 踵に重みのある、ロングブーツ。当たり前だが、靴飛ばしを想定して作られてはいない。そもそも、脱ぎにくいと評判の一品だ。

 「貸そうか?」という片足立ちの男の子の申し出を断って、佑子はカバンとコートを取りにその場を離れた。

 ――いいトシして何してたんだろう、アタシ。

 自嘲めいた笑みを口の端に浮かべながら、佑子は三人を振り返った。最後に謝って、楽しかったと、ありがとうと言うつもりだった。ところが振り向くと、二人は飛ばした靴を拾いに行き、残った一人がすぐ近くに立っていた。

「明日は、大丈夫な靴はいてきてね」

「え?」

「バイバイ、明日」

「ばいばーいっ」

「じゃーね」

 小走りに、走っていく子供たち。もう、三人の顔が似ているとは思わなかった。

 顔を上げると、足音を立てて佑子は、帰途についた。



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